飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~ 作:桜子道 晴幸
今日は二本投稿します
冬が過ぎ、寒さがようやく和らいだ頃、ついに俺の街では学校がその入学式を迎える。全校生徒は初年度のためまだ200人に過ぎないが、貴族・平民双方100人ずつの入学を受け入れることができた。希望を胸に晴れやかな顔で入学してくる新入生の顔ぶれに、俺は校長として立ち会えたことを誇りに思う日が来てくれるだろうか。まあ、俺は王族だし、まだ11歳だし表立ったことは何もしないけどね。代わりに教頭を務めるダンブルドア君が新入生を迎える代表役となってくれる。さらに、この冬にやってきたユキチ率いるオワリ領の知識人も加え、教育体制はとりあえず間に合わせることができたのも僥倖だった。
「いやあ、これでなんの憂いもなくリーゼロッテのところに・・・・・・」
「ビスマルク殿下ぁぁぁあああ!!!」
先ほどまでの穏やかな気持ちを返してほしい。せっかくの門出の日となりそうだったのに。俺は血相を変えてやってくるダンブルドア君とユキチの二人にやるせなく応対する。
「大変です!!!」
「だろうね」
「紙が、紙が足りません!!!」
はて、カミとは。神、髪はたまた紙だろうか。同音異義語は止めなさい。仮にも教育者ともあろうものが。俺が混乱しちゃうでしょうが。なんだって紙なんかが足りなくなるんだか。俺は全く危機感を持てずになあなあで話を聞く。
「足りないなら買えばいいじゃん」
「もう買いました!」
もう買った? それでも足りないならまた買えばいいのに、マリーアントワネットみたいなことを言ってしまったが、紙なんて買い足せば事足りること。しかし、それでもダンブルドア君が焦るほどだ。よほど在庫がないと見える。俺も重い腰を上げて資金を貸すことを視野に入れる。
「じゃあ、予算を組むから必要分を報告してね」
「予算は余っております!」
今度はユキチ君だ。なら何が困っていると言うのか。もう一度考え直そう、紙が足りない? 予算は余っていて、既に不足分を買い足してもまだ足りず、どこからも買うことができていないという現状だろう。もしくは紙そのものがどこにもないか、だ。後者だと考えると・・・・・・あれ、これ詰んでね?
「も、もしかして・・・・・・この街のどこにも紙がないの?」
「おそれながら・・・・・・この街どころか、周辺の取引先も軒並み在庫が払底したとのことです」
オーマイガー、俺の素晴らしい学校計画、初っ端から頓挫ですよ。これはまずい、何がまずいって教育として用いる資材がない学校なんて終わっている。学問には最高の環境を、が売りの我が校にはあるまじき失態である。俺は急いで原因と対策を考える。
「ど、どうして紙が足りなくなった?」
「はい、貴族の入学試験及び教科書の策定、生徒名簿の作成、配布資料に使用した結果、生徒用ノートが全くと言っていいほど足り得ません!」
事務屋の仕事と言えば紙との戦争だ。紙に埋もれる仕事なだけに、紙を暴力的なまでに使用することを俺はすっかり忘れていた。加えて、我が校には文字を教えるのに多くの紙を割り当ててある。その紙がないとなると教えるどころではない。俺は今ここで教育の電子媒体化を強く切望した。よくよく考えると、この異世界には紙を作る製紙業界が圧倒的に足りていないのだ。俺は急いで対策を考える。
「いかがいたしましょうか?!」
「紙を生産する拠点を確保しろ!」
「生産拠点ですか?紙の製造業者ではなく?」
俺はこんなことで時間を取られたくはなかったが、ダンブルドア君を含めまだ基本的な仕組みを理解できていないだろう二人に説明を施すことにした。こういうのは現物をただ与えても無駄なのだ。一歩ずつでも初歩から教えないと人は同じ過ちを犯してしまうものである。
「このまま在庫が少ない業者とやり取りをしても生産数の増大なんて見込めない! このままではジリ貧だ。ならば、俺らで製紙産業を立ち上げるぞ!」
俺は自分の学校で扱う紙が大量に欲しい。例え安く粗い作りだろうと、量が無くては教育の基本は成り立たない。ならば、自分で作ってしまう方が長期的スパンで考えれば圧倒的にコストパフォーマンスが良くなる。俺はユキチに一時的に教育者の内、研究色の強い人物を選定してもらうことにした。
「どのような人材を選定基準にしましょうか?」
「過酷なまでの暴力的試行回数をこなせることを苦と思わない人物にしてくれ」
俺の言葉に若干顔が引きつった気がするが、こんなことになることを想定できなかった俺を含め教職員も悪いのだ。ここは一緒に地獄に落ちるほかない。俺が覚悟を決めたのが分かったのか、ユキチは自分が立候補しつつ、あと4人を選定して製紙に使える素材を探しに出る。まさか素材探しからしなくてはならないとは、途方もない作業である。
学校では急場で凌いでもらい、なんとか紙の消費を抑えてもらう方針を取ってもらうことにした。その間、ユキチ率いる紙製造の研究チームの第一次報告書に俺は目を通していた。
「既存の製紙職人からの情報はあまり引き出せずか・・・・・・新規の素材を自分たちで見つけるしかないか」
「はい、申し訳ございません」
がっかりとするユキチだが、彼も相当苦労したのだろう。確かに紙を作る職人は存在するが彼らも自分の技術をおいそれとは手放したがらないだろう。だからこそ、紙の材料などは秘匿され、手を焼いているわけだが。俺も頭を抱えしまい、行き詰ってしまう。そんな時、俺は何の気なしに外を見てみる。外には庭の手入れをする庭師の姿があった。庭師は雑草であるクサを刈っていた。その瞬間、俺の頭に閃くものがあった。
「これだああああああ!!!!」
「ああああ!!! 紙がぁぁぁああ!!!」
俺は思わずユキチが持参した報告書を破いてしまい、涙目のユキチ君に泣かれてしまった。とりあえず平謝りをし、俺は急いで自分の考えを落ち込むユキチに話す。
「紙の原料は動物性の革と植物だったな!」
「はい、そうですが」
俺はユキチたち研究メンバーを引き連れ庭に出る。そこには庭師が刈り集めた雑草であるクサが山盛りになっていた。それらの多くは若い草であったが、中には大きく育ちすぎてしまい、木質化したものがあった。俺はそれを手に取りユキチたちに見せる。
「この植物ならいくらでも取れるじゃないか!」
本来、紙の原料は針葉樹や広葉樹であり、ユーカリ、アカシア、スギ、マツなどである。そのような木材の間伐材を細かく砕いたチップを用いるのが一般的ではあるが、要は木材であればいいのだ。前世日本でも明治時代には稲わらからわら半紙を生産していたように、植物ならおおよそ紙自体は生産可能なのである。高価な羊皮紙などは学校現場では使うのは憚れる。さらに、今は量が必要なのだ。そこら辺にある物ならなんでも使うほかない。曲がりなりにも駆除対象ともなればなおさらだ。俺は直ぐにクサを用いた紙生産をユキチに命令する。俺は研究に励むユキチには悪いが出かけなければいけない用事があるのだ。心苦しいがここは彼らに任せることにした。向かう先は予てよりの約束であるリーゼロッテの領地である。
ようやく異世界無双始まるか!?
始まらないんだなあ