飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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長らく空いてしまい申し訳ありません!
お詫びに少し長めの投稿します!


第二十四話 組織作りと起業

いろいろ得たものもあれば全部財産を失うことになったりもして波乱万丈だったブルボン旅行も無事に?終わり、俺は故郷である街に帰ってきた。ああ、落ち着くなあ。そう思っている頃だった。俺が館に着いたのを見計らってか、玄関から慌ただしい声がする。どうやら来客らしい。ああ、せっかくのアルフレッドと遊ぶ時間が。俺は少し憂鬱になりながら応対することにする。

 

 

 

 

 

「殿下ぁ!!! ビスマルク殿下ぁぁああ!!!」

「うわあ! なんだよヨイチ!!」

 

 

 

 

俺の下に縋りついてきたのはオワリ領で仲間になってくれたヨイチだった。ヨイチは少し身体が豊満になったのか、顎のラインが丸くなっている。たくさん食べてくれているようでなによりだ。それよりどうしてこの男は泣き顔なのだろうか。俺が不思議に思っていると、ヨイチは泣きながら窮状を訴えて来た。もちろん、俺は給料払ってるよ?無賃労働とかしてないからね?

 

 

 

 

 

「殿下ぁ! 仕事を! 我らに仕事を下さいぃ!!!」

 

 

 

 

 

ああ、逆のパターンね。え、逆の?! 俺が驚きながらヨイチの現状について思考を巡らせてみる。俺はきちんと給料を払って飯も福利厚生もしっかりとしているつもりだ。何不自由ない生活をしてもらっているが、何が不満なのだろう。確かに今は館の警備しかしてもらってないけれども。

 

 

 

 

 

「何が問題だって言うんだい?」

「銃を・・・・・・銃を撃っていません!」

 

 

 

 

 

わお、ヨイチってばそんなにバカスカ銃を撃つウォーモンガーだったっけ。俺はそんな人を見る目がないわけではないはずだ。俺が困惑していると、ヨイチは銃について語ってくれた。なんでも一定期間銃を扱わないと腕が鈍ってしまい、それは武人としての誇りに係るとのことだった。なにしろ俺が銃の腕を見込んで雇ったのだ、その成果を主である俺に見せたいとのことだった。俺は納得したが、残念なことに今できる戦はない。俺が困っているとクリスがあることを提案してくれる。

 

 

 

 

 

「ここ最近、街が活発化したことで付近に野党や盗賊が出て被害が出ているとのことです」

「野党に盗賊とな?」

「はい、王国の法によれば非法には厳罰が処されるのが通例です」

「ほう?」

 

 

 

 

 

俺はクリスの意図がよくわかってしまった。俺の街が荒らされるなんてまっぴらだ。ましてや自分で稼ぐこともせず、他人から奪うとは。働かざる者食うべからずと教えられてきた俺としては許すまじ行為だ。俺は不安そうなユキチにピッタリの仕事を思いつく。

 

 

 

 

「ヨイチ、出番だ!」

「はっ! なんなりと!」

「警察を組織せよ!」

「・・・・・・ケイサツ?」

 

 

 

 

俺は警察についてヨイチに説明した。俺の説明にヨイチは歓喜しながら肯定を示してくれた。よほど仕事がしたかったらしい。ワーカーホリックってやつだろう。だが俺は喜ぶヨイチに一つ釘をさしておく。

 

 

 

 

 

「だが、極力殺さないでもらいたい」

「なんですって!?」

 

 

 

 

ヨイチの顔が大げさに盛り下がる。そんなに血に飢えてんのかよ。でもすぐに殺すなんて、人的価値を何だと思っているのだろうか。きちんと法で裁き、贖罪の機会を与えてこその近代国家というものだろう。もし、見つけ次第殺しまくっていたら冤罪があった際にこちらが非を被ってしまう。そんなことにならないように俺はきちんとヨイチに説明しておいた。さらに、俺はリーゼロッテの領から連れて来たハーバードとボッシュに連絡を取り、ある物の製造を依頼する。

 

 

 

 

「殿下、これをワシらに作れと?」

「ああ」

「これは何と言いますか・・・・・・爆弾では?」

 

 

 

 

 

ハーバードとボッシュが恐々としながら目にしている紙は、俺が提案した爆弾の手配書だった。ハーバードは俺について来る条件として、民のためになることと、平和のためならばと言い、俺はそれを承諾して仲間になってもらったのだ。それが早速爆弾を作れと言われたのだから怪訝な顔をするのも無理はないだろう。だが、俺はそんな凶暴な性格ではないのだ。これはあくまでもヨイチたちに仕事をしやすくしてもらうための、むしろ自衛手段用の物なのだ。その名も『催涙弾』と『閃光弾』である。

 

 

 

 

 

「いいや、一見爆弾に見えるだろうがこれは人を殺さない」

「では、これらの武器は何を為すのですか?」

 

 

 

 

 

尤もな質問だろう。俺は前世でたくさんの警察が活躍する映画などを観てきている。その中でも活躍するのは突入シーンなどに使われる制圧用に用いられるこれらの非致死性兵器である。盗賊や野党などの野蛮な者と戦うともなればヨイチたちに怪我をされてしまう可能性がゼロではない。俺は仲間を大切にする性分なのだ。俺はヨイチたちに怪我をしてほしくない一心でハーバードたちにこれらを依頼することにした。

 

 

 

 

「そう言うことであるならば・・・・・・」

「よろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

俺はなけなしのお金をハーバードとボッシュに渡し、開発費用とする。ただでさえ文無しなのだ。これ以上の出費はまずい。節約せねば。俺は金がない苦しみにこれからの期間耐えなければならなくなった。なにせ、俺が雇っている人間の給料を捻出せねばならず、少しばかりリーゼロッテから猶予を得たとはいえ、払ってしまえば本当に文無しになってしまうのだ。俺はなんとかして金策を考えなければいけなくなったわけだ。

 

 

 

 

 

「どうすれば今後のみんなの給料と研究費を稼げるか・・・・・・」

 

 

 

 

 

今まで細々と稼いではいるが、これまでの蓄積によって莫大な資産が形成できていたが、あくまでこの資産は学校の建設費や運営費、その他雇っている人の給料に宛てがわれていた。それがリーゼロッテによって全て巻き上げられてしまうのだ。俺は倉庫にしまっていたリーゼロッテの領地で買った石ころをに手を付けることにした。

 

 

 

 

 

「仕方ない、君たちを変身させてあげることにするか!」

 

 

 

 

俺は石ころを片手に街へ出かけることにした。もちろん付き添いにクリスを連れてきているが、クリスも俺の持つ石ころに怪訝な顔をしている。俺がクリスと訪れたのは焼物商人の場所だった。陶器などを扱う店であり、主に花瓶や器などを作成している。俺はここにリーゼロッテの領地で買ってきた石ころを見せる。

 

 

 

 

「坊ちゃん、この石ころは何だ?」

「これは陶石と言って、茶わんや壺と言った陶磁器の原料です」

「トウセキ?」

 

 

 

 

 

俺は焼物屋の主人に石ころを渡して説明する。店主は興味深そうに俺の話しを聞いてくれたが、相変わらずクリスは石ころ如きという固定観念を捨てきれていないようだ。俺はとりあえず物は試しだと好きに作らせることにした。前世日本でも有田焼に代表されるように、各地の焼物は人の心を打って来た。俺はそんな風情を日常に取り入れてほしいと考えている。まあぶっちゃけ本当の目的は織田信長や豊臣秀吉の行った来たことを踏襲するつもりでいる。そう、茶器で一国が買えると言われるほど付加価値を創るのだ。

 

 

 

 

 

「他の焼物商人にも同じく作ってもらうつもりです。そして、その中で特に優秀な作品を提出してください」

「何をするってんだ?」

「もちろん・・・・・・国宝を作るんですよ。それであなたたちも人間国宝です」

 

 

 

 

 

俺の言葉に焼物職人である店主の目の色が変わる。俺はあとは素人が介入すべきではないと店を立ち去る。クリスは未だによくわかっていないのか、俺に説明を求めることを目で訴えている。なかなか想像しにくいものだし無理もない。俺はクリスに前世日本での歴史を説明してやる。

 

 

 

 

「あの石は陶石といって焼物としてとても味のある作品に早変わりする石なんだ」

「そこら辺の石と変わらないように思えるのですが?」

「まあそうだろうね。でも、職人の手であの石は原石から宝石にも劣らぬ価値を生み出すんだ」

 

 

 

 

まだ信じられないのか、俺はにやりと続けてこれからの作戦を披露する。織田信長や秀吉もこんな気持ちだったのだろうか。俺は今彼らの気持ちがなんとなく分かった気がして少し嬉しくなった。

 

 

 

 

「芸術作品は高額で取引されるが、あれはなぜ高いのだと思う?」

「世に一つとない貴重なものだからです」

「そうだね、それと同じように茶器とかを芸術作品として、もしくはなにかの褒美として授与するのはどうかな?」

 

 

 

 

俺の言葉にクリスは目をハッとさせて気づいてくれる。こういう反応は新鮮味があるし、なにより話してて楽しい。さすが俺のことを分かっているクリスだ。

 

 

 

 

「優秀な作品は俺が買い取る。その作品の流出を俺が一手に引き受ければ・・・・・・」

「一個の価値は跳ね上がり、希少ゆえにだれもが欲しくなる!」

「その通り、もちろん職人の腕次第ではあるけど、徐々に、だが着実に良さが分かってしまう。画とは違って使う物だからこそ欲しくなる。豊富な種類で誰もが欲しくなる逸品を作り出せるんだ!」

 

 

 

 

 

俺はただ物の価値を跳ね上げてやるだけ。物の素材が良いからできることではあるけど、俺は簡単に複製できる物なんて作ってやらない。服や財布と言ったブランド品の模造品が出回るのはなぜか。それはもちろん複製が簡単だからである。逆に高級品の時計と言うのは簡単に複製はできない。それは内部構造が複雑だったり、そもそも材料が高価だからだ。俺はそういった時間と腕を注いだ温かみのある価値を生み出したい。俺は職人に呼びかけ陶石を譲り、各々の最高傑作を持ってくるよう伝えた。それと同時に優秀作品に選出された者は金一封を約束したのだった。

 

 

 

 

「坊ちゃま、金一封なんてよろしいのですか?」

「ああ、これからボルドー君と会議をして、新たな試みをしてみるつもりだから」

「新たな試み・・・・・・ですか?」

 

 

 

 

クリスが首を傾げるのも仕方がないことだ。俺は予てより計画していた製紙産業の工場建設及び、それに伴う会社を設立するつもりだった。ユキチからの報告で、雑草であるクサを使用した紙の生産にようやく目途が立ちそうだったからである。現物を見た時の正直な感想は粗悪な紙もいいところであった。しかし、紙は紙である。俺はその紙を筆で書ける代物であることを確認し、量産の認可を与えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ユキチ、クサ紙の研究開発ご苦労だった」

「いえ、これでようやく学校での自由な勉学を保障できると思えば今までの苦労など・・・・・・」

 

 

 

 

 

ユキチは今までの数カ月という、短くない試行錯誤の日々を振り返ると自然と込み上げてくるものがあるらしい。昼夜を問わない研究と、俺からにダメ出し、職人との技術交換など実に様々なことがあった。その日々がようやく実を結び、ようやく日の目を見ることができたのだ。俺はそんなユキチ達研究者たちを褒め称えてあげた。ここからは俺の仕事である。まずは、当分の間は学校に紙を卸すことを目標に生産を続けてもらう。そして、その規模を拡大するために会社を立ち上げることにしたのだ。

 

 

 

 

 

「ボルドー君、製紙会社の設立よろしく!」

「ええ!? もう無理です! 情報産業と販路拡大の取り纏めだけでどれだけ私が苦労して・・・・・・」

「クリスが見てるよ?」

「やらせていただきます」

 

 

 

 

単純なインテリは嫌いじゃない。俺は心から逞しくなったボルドー君をとても心の底から嬉しく思う。涙がちょちょぎれんばかりだよ。あとで靴の中に小石入れといてやろう。俺はそんなことを考えていると、最近強かさも手に入れ始めたボルドー君から初めての反撃を食らうことになる。

 

 

 

 

「では会社の長・・・・・・社長を選定しませんと。マクシミリアン殿でよろしいですね?」

「え、俺?」

「マクシミリアン殿以外に誰がいますか」

 

 

 

 

 

これは困った。俺は会社の社長なんてさらさらやる気がないのだ。俺が困っていると意外な人物が名乗りを上げてくれた。その人物とは、クサから紙を開発してくれた主任研究員のユキチだった。

 

 

 

 

「学校の業務と併行でもよろしければ。これでも少しクサ紙に親心が湧いてしまって」

「ではユキチ、君に決めた!」

 

 

 

 

俺はまるで某国民的アニメのトレーナーのようにユキチを指名した。俺的にはこのままユキチには成長してほしいと考えているため、この提案は思ってもみない幸運だった。持つべきものは優秀な人材だよね。俺は会社の設立と株式の発行の手続きをボルドー君に一任し、次のやるべきことに着手する。その内容はリーゼロッテに当てて送る、俺の資産の送付だった。俺は輸送業者を選定し、俺の倉庫にある金銭に一切をリーゼロッテに運んでもらうよう指示した。その様子を見ていたのがクリスだった。

 

 

 

 

「坊ちゃま!? あれは一体どういうことですか?!」

「え?俺の財産をリーゼロッテに譲るんだけど?」

「聞いていません!」

 

 

 

 

おおっと、確かにクリスはあのリーゼロッテとの取引のことを知らないのだ。ハーバードとボッシュをこちらに引き入れる交換条件として俺の持てる金銭の財産の一切をリーゼロッテに渡すことに同意したのだったが、確かにクリスをあのリーゼロッテの父親である下衆なゴールデン公爵の毒牙にかからないよう同行していなかったのである。俺はまあ仕方のないことだと割り切っていたので、このことをクリスに話すのをすっかり忘れていたのである。俺は落ち着いてクリスに説明した。

 

 

 

 

 

「・・・・・・というわけで、化学者のハーバードとボッシュを引き入れる交換条件として資産の一切を」

「どうして私にご相談して下さらなかったのですか?!」

「まあ、でも資産はこれからまた増やせるから」

「そう言うことではありませんっ!!」

 

 

 

 

 

俺はこんなに怒るクリスを見たことがない。いつも俺を叱るときはとても怖いが愛のある説教なのだ。だがこれはいつもと違う。確かに勝手に資産を全部譲ってしまったことは悪かったが、俺は元々王族として金銭を持ってはいけない身分なのだ。これでいい厄介払いができたと、むしろ俺は晴れ晴れしているのだ。しかし、クリスはそうではないようだった。

 

 

 

 

「ああ、なんてことを・・・・・・」

「クリス、お前に相談しなかったことは悪かったよ。これからは相談するからさ」

「・・・・・・・坊ちゃまはなにも分かっておりません」

 

 

 

 

 

頭を抱えてまるで絶望している、いや本気で絶望している。俺はこんなクリスの態度を初めて見る。どこしれぬやってしまった感の漂う空気間の中、俺は素直に土下座を敢行する。資産を勝手に譲ったことも、相談しなかったことも確かに俺が悪いのである。俺は心からクリスを信頼していたが、信頼も相手の尊重の姿勢があってこそである。俺はまた間違えてしまったと、この時自分を恥じた。だからこそ、真摯な土下座をクリスに捧げる。

 

 

 

 

 

「クリス、相談もせずに勝手に資産を譲ってしまってごめんなさい! これからはなんでもクリス相談する!」

「・・・・・・坊ちゃま」

 

 

 

 

俺は顔を数秒の時間を置いて顔を上げる。しかし、そこにあったのはいつもの仕方ないな、という諦めと赦しの混ざったいつものクリスの顔ではなかった。そこには、ただただ悲嘆にくれるクリスの顔があった。俺の頭の中は混乱していた。どうしてこうなったのだ。なぜクリスが泣いているのだ。俺は何を間違えた。必死に頭を働かせるが答えは一向に出ることはなかった。その間に、クリスはキッと口を結び、目を引き締めると涙を止め、俺に向き直った。

 

 

 

 

「・・・・・・取り乱しました。申し訳ございません。私は普段の業務に戻らせていただきます」

「あ、ああ・・・・・・」

 

 

 

 

 

俺はあまりに一瞬のクリスの切り替えに、未だに脳の処理が追い付いていなかった。ただ、あの瞬間に見せたクリスの表情は過去に見た気がしたのだ。そのことを思い出せないが、俺の胸の中は焼け付いてただれた気持ち悪さが残っていた。俺が知らないクリスがそこにいるようで、心の中をドロドロと流れるヘドロのような気持悪さが拭えないままその日は過ぎて行ってしまった。

 

 

 

あの日以来クリスを気にして見ているが、クリスに変わった所はなく、むしろ俺が気を散らせるあまり説教される始末だった。そんなことで俺も違和感が残りるまま日常を過ごしていた時、インテリボルドー君から製紙会社の設立準備が完了したとの知らせを受ける。俺はインテリボルドー君から株式会社としての設立の経緯を聞き満足していた。

 

 

 

 

「これほどの株が売れるとは私も思いませんでした」

「案外紙の需要と言うのは大きいのかもな。市場調査を継続し、その分野で開発も行ってくれ」

「それは社長のユキチ殿に」

「ああそれもそうか」

 

 

 

 

俺は待機していたユキチを呼び出し、固く握手を交わす。ユキチはまだ緊張しているようだったが、これからこの世界の中で初の株式会社としてスタートする会社の社長になるのだ。ユキチにはぜひとも頑張ってもらわねばならない。この会社が軌道に乗るかどうかで、今後のこの世界での大きな変革を迎えられるかどうかが決まるのだ。小さいように思えて実に大きな一歩である。だからこそ、俺はユキチにとある提案をする。

 

 

 

 

「会社の名前を決めよう」

「名前ですか?」

「ああ、ユキチに任せるよ。中継ぎかもしれないけど表向きは君の会社なんだから」

 

 

 

 

俺がそう言うとユキチは少し考えを巡らせた後、あたかも今閃いたかのように俺に会社名を伝える。俺はその言葉に耳を疑うことになる。だって、その名は前世日本に存在したからだった。

 

 

 

 

「王子製紙ぃ?!」

「ダメでしたでしょうか?」

「いや、ダメってことはないけど・・・・・・ちなみに由来は?」

 

 

 

 

俺はもしかするとの悪い勘が当たらないように祈りながらユキチの回答を待つ。すると、ユキチは目を輝かせながら堂々と会社目の由来を俺を目の前にして紹介する。

 

 

 

 

 

「だって、ビスマルク殿下の、この王国の王子であるあなた様から生まれた会社なのですから!」

「あちゃ~」

 

 

 

 

本当にあちゃ~だよ。めちゃめちゃ恥ずかしいじゃん。このまま行くと、もし電化製品ができたらその会社名を『ビスマルクデンカ』とかにしそうだ。実に恥ずかしい。止めてもらおうと俺はユキチに否定を伝えようとするとなにやらユキチが同僚から手渡されているのが見えた。どうやら木の板のようである。まさかまさかだよね? ユキチが自慢げに俺に見せつけるそれは看板だった。それもでかでかと『王子製紙』と書かれてある。俺は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

「殿下、そんなにお喜びになられるとは!我々一同で考えた甲斐がありました!」

「うん・・・・・・もうそれでいいよ」

 

 

 

 

 

俺の否定の言葉はどこかに霧散してしまった。だって、この状況でダメとか言える? あたかもみんなで一生懸命考えて、みんなが納得しちゃってる名前を。俺はこういう同調圧力が嫌いだ。今からでも間に合うかと思い、ユキチ達を見てみると、そこには看板を掲げて恍惚とした表情で、今後の会社の将来について語り合う、青春真っ只中といった感じのユキチ達がいた。

 

 

 

 

「これから俺たちがこの王国を良くするんだ!」

「そうだ! 殿下が拾ってくれなければ、私たちは一生オワリで浪人だったんだ!」

「殿下に感謝を示し続けることこそが、我々のせめてもの恩返しだ!」

 

 

 

 

ああ、やめちくり。背中がムズムズして今すぐ服を脱ぎ捨てて叫び倒れたい気分だよこっちは。俺は顔を真っ赤にさせられながら、ユキチ達の推しまくる会社名に採用のサインを出す。大喜びで勇み帰るユキチ達を見送り、俺の恥ずかしく激しい一日がこうして終わった。

 

 

 

 

 

 

 




いろいろ盛りだくさんの内容になってしましました。
自分の名前を世に出すって結構恥ずかしいですよね

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