飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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ついにヒンブルム皇国へ!
大陸唯一の王国以外の国の登場です!


第二十五話 ヒンブルム皇国へ!

そうこうしているうちに俺は国王であるヴィルヘルム国王の宿題とやらに着手しなければならないことを思い出す。王国の南に存在すると言う、ヒンブルム皇国の調査の件だ。曇りなき目で見極めなければならない。結構な距離があるが俺は重い腰を上げて行くことにした。今回は距離が距離のため移動手段として車が用意された。俺はこの世界で乗る車の存在にときめきが止まらなかった。

 

 

 

 

 

「おお!! これが車か! なんだかとても古臭いけどそこがまたいい!」

「なにを仰います。これは帝都でも最新型なんですよ?」

 

 

 

 

 

クリスが車について教えてくれた。どうやらこの戦時中の黒塗りの車のようなデザインは、この異世界では最新式のものらしい。この中世のような時代にそぐわないギャップが俺の好奇心をくすぐって止まなかった。俺はクリスに説明を求めるが、クリスもあまり車の情報は知らないらしく、俺の満足いく回答を得ることは出来なかった。しかし、窓から見える景色で一つ気になることがあった。

 

 

 

 

「あの深い森は?」

「あれはこの街の一番外れにあります、マリシテンの森です」

「マリシテン?」

 

 

 

 

俺は知らぬ名に首を傾げてクリスに説明の続きを促す。クリスの説明では、この森では猪が主となって治める森であり、その大きさは並みの動物の大きさではないらしい。その中でもマリシテンと呼ばれる神獣はこの地でも山神として崇められる存在であり、決してこの森には近づかないのが暗黙のルールになっているようだった。俺はそんな森を見ていると、なにやら暗くなっている森の奥が一瞬光った気がした。

 

 

 

 

「クリス、森の中が光っていないか?」

「え・・・・・・ああ、もしかしたらモライエの花かもしれません」

「モライエ?あの初めて見た花のことか?」

 

 

 

 

 

モライエとは俺が初めて館から出た際に発見した花の名前だ。モラという主人公が森に迷った際に積んでいた薬草で、その鼻から出た光を集めて飛ぶことが出きたという、摩訶不思議なお伽噺のモチーフになった花だ。どうやらその花の輝きではないかとクリは言うわけだ。しかし、俺はいまいち納得いっていないのだ。花がそんな輝きを放つのか、はたまたどうしてこの異世界の動物は大きくなることができるのか。暗い森の中で輝くほどの可視光を放つ物質を放つ花の正体、そして、生物の限界を超えた成長の謎を俺は解き明かしたくてたまらなかった。

 

 

 

 

「なあ、森へ行っちゃ・・・・・・」

「なりません」

 

 

 

 

 

ですよね。分かってました。俺は華麗に窓を眺めてクリスの視線を交わすことにした。俺はこういう謎について考えるのが大好きだ。普通、動物と言うのはその進化上自分の大きさなどにはきちんと意味があり、古代に生きていた恐竜などはその大きさや骨格などから様々なことが分かってきている。例えば大きさだが、あの有名なティラノサウルスなんかは生物としてあの大きさが限界だったのだ。前足があの小ささだった理由として、立ち上がるためだけにあったのではないかと考えられることもあり、実際にティラノサウルスの化石には異常に前足の鎖骨部分が骨折しているものが多いらしい。立ち上がる時に骨折したのだろうが、要は骨粗鬆症である。今回の猪で考えれば、猪に特徴的な牙はカルシウムでできており、その大きさが相手を見つけるのに役立つ場合がある。しかし、あまりに大きいとティラノサウルスの件同様に骨粗鬆症になりかねないのだ。つまり、通常の猪よりも大きいと言うのはそれだけで生物上の限界を迎えているわけだ。俺はそんな神獣をこの目で見てみたいな、そう思いを馳せながら目的地であるヒンブルム皇国の旅路を急ぐ。

 

 

 

 

 

「おお、着いたね」

「はい、ここがヒンブルム皇国です」

 

 

 

 

 

俺の目の間に広がる景色をぜひともみんなにも見てみてほしい。ここはまさに産業革命前夜と言った感じだ。活気があり、まだ幼くはあるが機械の端くれが転がっている。一般人にまで普及した工作機械というのを売る小売店がそこかしこに広がっている。これはこれで賑やかなものだ。俺はあたりを興味津々に見て回っているとクリスから忠告が入る。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま、ここはどうかお控えください。あくまでここはヒンブルム皇国内です。フェルディナンド王国ではないのですよ」

「そうか、それもそうだね。慎重に気を引き締めないとね」

 

 

 

 

 

確かに俺は気を引き締めないといけない。ここは一応他国であり、どんな犯罪に巻き込まれるか分からないし、俺がフェルディナンド王国の王族であるなんてバレたら、それはそれで大惨事になりかねない。俺は一層気を引き締めてヒンブルム皇国を視察することを固く心に決めた。

 

 

 

 

「坊ちゃま・・・・・・目が動き過ぎです」

 

 

 

 

 

だってだってぇ。なんか産業革命前って前世を知る俺からすればまさに時代の転換点なわけだ。そんなビックイベント見逃すわけにはいかないでしょ。どの国だってこれから隆盛をするっていう時は、国民が輝くのだ。明日のために、より良くなる明日を信じ、確実に良くなる今日に希望を見ているのだ。俺はこんな国のどこがきな臭いのかと疑いを持てなくなっていた。まああの変態国王が言うことだ。端から信じてはいなかったけどね。俺はあたりを見ていると目を奪われるものが行われていた。

 

 

 

 

 

「クリス・・・・・・あそこなんだろう気になるな行ってくる!」

「坊ちゃま!」

 

 

 

 

 

俺の早口による許可申請をクリスが承認する前に俺は駆けだしてしまう。だって仕方ない。俺の目の前には夢が広がっていたのだから。それは、へんてこな物に跨って地上数センチのところをフヨフヨと浮かぶ機械のレースだった。速度は原付のバイクより少しだけ早いくらいだろうか。それでも確かに僅かだが浮いているのだ。競馬場のような広い場所で、何機かが競っている。俺はその光景に釘付けになっていると、焦って追いついてきたクリスに引き留められる。

 

 

 

 

「勝手な行動をされては困ります!」

「ごめんクリス・・・・・・でも、ここには・・・・・・俺の夢があるんだ」

 

 

 

 

 

俺はクリスの制止を振りほどいても目の前の光景から目を離すことができなかった。夢にまで見た人が空を飛ぶ光景、俺はこの空を飛ぶという行為に恋焦がれてこの異世界に来たと言っても過言ではないのだ。その道筋が今、俺の目の前で行われている。興奮するなと言う方が無理な話である。俺はたった今、目の前で繰り広げられているレースに目を輝かせていた。

 

 

 

 

 

『第三コーナーを曲がりいよいよ最終コーナーに差し掛かりましたっ! 依然トップを走るのは本大会のレジェンド、ウィリアムだぁ!』

 

 

 

 

 

会場の解説がマイクを握って現状を解説してくれる。どうやら先頭は歴戦のエースらしい。確かに乗り物の扱いが上手い。他の人の二枚上手を行っているような感じだ。俺が感心しながらレースを見ていると、後方集団の一人の挙動がおかしいことに気が付いた。見れば非常に若い選手が埋もれながらも、機会を伺っているようだった。若い選手が乗る機械はバイクのような形状とは少し毛色が違い、新幹線のような流線形のフォルムに小さな補助翼みたいなものが付いている。俺はその若い選手を自然と目で追っていた。

 

 

 

 

 

『第四コーナーを曲がり、あとはゴールまで一直線だっ! おおっと、ここでレジェンドに十八番を奪われまいと飛び出してきたのは赤い彗星こと、シャア選手だっ!』

 

 

 

 

 

赤い彗星とか、久しぶりに聞いたあだ名だ。俺はクスリとしていると周囲のざわめきが一層激しくなった。賭け事が行われているのか、必死に、血眼になって自分の応援している選手の名を叫んでいる。俺は若い選手を応援したかったが、名前も分からず、まだ後方集団に埋もれていた。やはり戦闘の二人、レジェンドと赤い彗星を推す声が多いようだ。しかし、そんな時だった。後方から凄まじい土煙を上げた若い選手が、乗り物を一気に加速させる。

 

 

 

 

 

『ここで後方集団からの刺客が追い上げを見せる! あの古めかしいゴーグルをかけた少年は・・・・・・彼です! ライトだっ! ライト選手が追い上げている!』

 

 

 

 

 

ライトと紹介される少年は一気に加速するも、前方にはまだ後方集団が道を塞いでおり、前に出られる状況ではない。しかし、加速を止めることなく一挙に突っ込んで行く姿に会場は騒然となる。しかし、少年はまるで速度を緩めることなく突っ込み、会場の人たちが目を覆う瞬間、彼はまさしく俺の夢の希望の星となっていた。

 

 

 

 

 

『と、飛んだぁぁぁぁあああ!!! ライト選手が今、後方集団の真上を通過して一気に先頭の二人に追いついていく! まだだ! まだ止まらない!』

 

 

 

 

解説員も興奮冷めやらぬ感情の篭った声で熱弁する。会場の目は既に先頭の二人とライトの三人に釘付けだった。見る見るうちに先頭の二人に迫り、その鬼気迫る速さにレジェンドと赤い彗星も無我夢中でゴールを目指し続ける。間もなくゴールのゲートが差し迫る。先頭の二人が横並びになり、それに追いつき、追い抜こうと迫るライトの構図。観客席はすでに熱狂的な雰囲気ではなく、固唾を飲んで結果を見逃すまいと目を見開くしかできなかった。もちろん俺もその一人である。

 

 

 

 

 

『ライト選手の猛追にレジェンドと赤い彗星は逃げ切ることができるのかぁ! 依然高さを保持したままライト選手が二人の真上に達する! ゴールの行く末は!! どうなるっ!!』

 

 

 

 

 

レジェンドと赤い彗星は横並び、その真上に若き星のライトがゴールに向かう。俺はもちろん夢を追う少年を応援していたが、そんなことは忘れて一心に行く末を見守っていた。そして、ついにその瞬間が訪れる。

 

 

 

 

 

『来るか!? 来るぞ! 栄冠は誰の手にぃ!!!』

 

 

 

 

 

 




ガンダムとかスターウォーズのあの疾走感はなかなか真似できませんね

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