飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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今回はついに皇国の重鎮が登場です!


第二十七話 ヒンブルム皇国皇女マリエ

クリスの下に戻ると、クリスが心配そうに出迎えてくれる。俺はクリスの心配を振りほどくように手を引いてヒンブルム皇国の散策に出かけることを提案する。俺はまだこの国をこの目で見なければならないのだ。このヒンブルム皇国はフェルディナンド王国よりも国土人口は少ないが、それでも余りある魅力を持っていた。所々に見られる機械の片鱗や、フェルディナンド王国では見られない農産物。中には見慣れたフェルディナンド王国と同じ農産物も多く見られた。それに動物の売買に溢れる、見る者の目を楽しませるのに十分な特色を兼ね備えていた。俺は見たことのない農産物の交易を脳内で考えながら、とある店に立ち止まる。そこは動物や毛皮、そして何かの卵を販売していた。

 

 

 

 

 

「クリス、ここには動物がたくさんいるんだな」

「ええ、いずれもフェルディナンド王国では動物の売買は禁止されておりますが」

「へえ」

 

 

 

 

 

俺は確かに神話級の神獣の話を聞かされたりしたからか、この世界で動物を飼うことはタブーなのかと想像していたが、国を超えれば常識も異なるのだと感心を寄せていた。俺は店を物色していると、その中でも不思議な色をした卵を発見する。

 

 

 

 

 

「この卵はなんだろう? 食用か? それとも孵化する前なのか? 飼育方法は周知されているのだろうか」

「坊ちゃん、それ買うのかい?」

 

 

 

 

 

俺が卵を見ていると店主が話しかけて来た。少しごつくて目つきが怖い。俺は買うつもりはないため、冷やかしだと思われるもまずいので早々に退散しようとする。だが、店主は商売根性逞しく、俺に卵の良さについて語り始めてしまう。挙句の果てに卵を俺に持たせる始末だ。俺は顔に嫌がる様子を出さないように配慮していると、卵を持つ手に違和感が走る。

 

 

 

 

 

「この卵は小さいが肌質がいい!孵化させても良し、料理にするのも良しの優れもんだ! ん? どうした坊ちゃん?」

「いや、何か心臓が一瞬熱くなったというか・・・・・・」

 

 

 

 

 

確かに卵を持った瞬間、俺の心臓が熱くなり、心臓が跳ねたのだ。授業中寝かけた時指名されて飛び起きるあの感覚に近いかもしれない。と言っても一瞬で、びっくりしたと言うよりかはなにか身体に異物が侵入しかけた感じかもしれない。俺にもよく分からない反応に少し困惑していると、卵にヒビが入っていた。俺がそれに気づくと店主は目を向いて困った顔をする。

 

 

 

 

 

「坊ちゃん困るよ! 商品を雑に扱われちゃ敵わん! それはもうあんたが買ってくれ」

「え、でも・・・・・・」

「ああん? 商品傷物にしたのあんただろ?」

 

 

 

 

 

強面の店主に恐喝されて俺は縮み上がってしまう。こういうところはまだまだ成長していない。やはりこういう時にも動じない心を見に付けなければと、俺は心に決めつつ財布を出していた。財布を見た瞬間、店主のおじさんは怖い顔を引っ込めて値段を高らかに宣言する。

 

 

 

 

 

「一個7万マソね」

「え、高くないですか?」

「なんだって?」

「あ・・・・・・お買い得ですね」

 

 

 

 

 

俺は決して負けてない。このヒンブルム皇国とフェルディナンド王国の為替レートはフェルディナンド王国のダル通貨の方がレートが高い。よってマソ安で実際より安く仕入れることができるのだ、と俺は心に言い聞かせた。実際、7万マソはダル換算で6万5千ダルくらいの感覚だ。俺がダル硬貨で支払い、ホクホク顔で受け取る店主の憎たらしい顔よ。俺は本当に得をしたということにして、要りもしない卵を押し付けられた。でも、不思議と卵は先ほどより大きくなっているような気がした。

 

 

 

 

 

「まあそいつは売れ残りだし、見たことない形だから食べてもおいしくないだろうけどな」

「え・・・・・・」

 

 

 

 

 

俺は完全に下に見られたわけだ。これでも身分を隠しているとはいえ王族よ? 俺はしょんぼりしながら店を立ち去る。クリスが優しく肩に手を掛けて同情してくれたのが唯一の救いだった。さて、気持ちを切り替えて俺は散策を続行する。父であるヴィルヘルム国王の宿題で、きな臭いと言われるヒンブルム皇国だが、俺の感覚ではそんな気配はあまり感じられない。それどころか国民は皆顔を輝かせているほどだ。俺は拍子抜けしてヴィルヘルム国王の勘違いを嘲笑う。碌に見もせず噂に踊らされるとは滑稽だと、俺は俺なりにこの国を楽しんで宿題を片付ける気でいた。すると、進行方向の方からなにやら喧騒が聞こえてくる。俺は野次馬をするべく近づいてみる。

 

 

 

 

 

「どうしたんですか?」

「ああ? 何って、皇女様だよ! 皇女のマリエ様がいらっしゃったんだ!」

 

 

 

 

 

群集の注目は突如として街に現れた皇女とされる人物に向けられていた。俺はこの国の俺と同じ身分に当たる人物に少し興味が湧いた。クリスによればこの国、ヒンブルム皇国の皇帝エドワード家には一人娘がいるらしく、それが今見えている皇女と称されるマリエらしい。外見は気品あふれる、けど活発な黒髪に少し赤が混じった瞳を持つ少女だった。年は俺より上だろうか。丁寧な所作を振りまき、群集の敬愛を一身に受ける皇女マリエは、従者を数人連れただけで視察をしているようだった。

 

 

 

 

 

「マリエ様!」

「ああ、我らがマリエ様っ!」

 

 

 

 

 

群集はそれはもうウットリと言った感じで心酔しているご様子だ。俺にはきっと縁がない光景だ。俺はクリスを見て反応を確かめる。こういう仕事は俺じゃなくてクリスの方が適任だ。俺はクリスの表情を伺うべく振り返ると、そこにはがっかりした表情のクリスがいる。俺はどうしたものかとクリスに聞いてみる。

 

 

 

 

 

「どうした?」

「いえ、もう少し坊ちゃまが落ち着いてくだされば、あれくらい慕われているのに、と思いまして」

 

 

 

 

 

ガーンと内心、いや表にも出ているだろう感情はクリスの更なる呆れを生んでしまう。気づいてなかったのかとでも言わんばかりの顔に俺はがっかりする。だってこれでも王国の発展にために奔走してきたつもりなのだが、こんな憐れまれることがあるだろうか。俺は痛く自尊心が傷つけられたため必死に自己アピールをして繕っておくことにした。

 

 

 

 

 

「ま、まあ、俺は慕われることが目標なわけじゃないからね」

「はい、分かっております」

「分かってるならよしっ!」

 

 

 

 

 

この話はお終いだと、俺はこの居た堪れない雰囲気を消すべく列の前に出る。小さな体は力に押し負けてしまうが、その分隙間を縫うことができる為、俺は案外すんなりと列の最前列に出ることに成功する。目の前を通り過ぎる皇女マリエが手のひらを広げない気品ある振り方で国民の声に応えている。中には老人に気を遣い、話しかける徹底ぶりだ。俺には出来そうもない芸当に負けた気がして眉間に皺を寄せてしまう。すると、それに気が付いたのか皇女マリエの視線が俺に向いた気がした。

 

 

 

 

 

 

「もし、あなたお名前は?」

「え、俺?」

 

 

 

 

 

唐突に話しかけられること等想像していなかった俺は思いっきり緊張してしまう。だが、ここはクリスの前だ。各個割るところは見せられない。俺は緊張する心臓を落ち着かせ、皇女マリエに優しい営業スマイルで対応してみせる。

 

 

 

 

 

「私はマクシミリアンと申します。公女殿下とこうしてお会いでき光栄に存じます」

「・・・・・・これはご丁寧に、まだお若いのにしっかりなされていますね。あなたのような子どもが皇国の誇りとなる日も近いでしょう」

 

 

 

 

 

一瞬皇女マリエの笑顔が引いた気がしたが、すぐに皇女は笑顔を取り戻し、俺の頭を撫でた。これは一本取られた、俺はそう感じた。完璧に子ども扱いされている。まあ、俺は子どもだけど。周りは皇女に話しかけられて俺を羨ましそうに見ているが、俺はたまったものではない。ここでフェルディナンド王国の王子だとバラしてしまおうかと思うくらいには立つ瀬がなかった。しかし、そういうわけにもいかず、俺はただ頭を撫でられる、身分を隠した子どもを演じなければいけなかった。これは屈辱である。だって頭を撫でられるなんてクリスにもされたことがないのだ。

 

 

 

 

 

「おお、なんとお優しいのだ! 皇女様万歳!!」

「「「万歳!!!」」」

 

 

 

 

 

俺への行為がどうしてこうも賛美されるのか分からないが、熱狂的な指示を得る皇女マリエは万歳三唱を延々と浴びながら俺の下を離れていく。ただし、俺の下を去る間際にウィンクをしていったのは高得点だと思った。いやもちろんクリスへの浮気ではないよ。クリスの方が可愛いもん。でもクリスの表情はいつもより若干冷たい気がした。

 

 

 

 

 

「何ですか、坊ちゃま?」

「い、いや~なんでも、ありません」

 

 

 

 

 

なぜか俺は敬語になったが、とりあえずこの場は逃げ切ることに成功した。ここで俺は気持ちを切り替えるためにもこのヒンブルム皇国の特徴について考えることにした。国民の結束は今見た通り高く、きな臭いと言われる事象もあまり感じられない。きな臭いと言われるからには、内戦のような内輪揉めのパターンと、フェルディナンド王国を敵国として見ている敵対視するかのような熱気があるものに大別されるだろうか。俺はそんなことを考えていると、国民の誰かが叫んだ。

 

 

 

 

 

「皇女様に全てを!!」

 

 

 

 

 

一人の声はやがて大きくなっていき、それはいつしか大きな一つの合唱として重なっていく。俺はそんな異常とも思えるほど熱狂を集める皇女を見つめる。皇女はそんな声にたじろぐことなく、先ほどと同様の笑みを浮かべて切れる海を神の如く闊歩するのだった。俺はそんな皇女の姿に確かな心のざわめきを覚えた。人はこれをきな臭いと言うのだろうか。

 

 

 

 

 

「皇女、いやマリエと言ったか・・・・・・何か企んでるのか?」

 

 

 

 

 

 

俺の独り言はクリスにしか聞こえなかったが、そのクリスも何かを感じ取ったのか、妙な違和感は深まるばかりだった。俺はこの違和感を確かめるべくなるべく目立たないように人に尋ねることにした。もちろん身分を隠すために子どもアピールは欠かせない。俺は異世界で某探偵漫画の真似をするとは思わず、苦笑いを堪えるのに必死だった。

 

 

 

 

 

 

「ねえおばさん、皇女様について教えてよ」

「お姉さんね!」

「おば」

「お姉さん!」

「・・・・・・お姉さん」

 

 

 

 

 

某探偵君、君はよくやっているよ。俺には子ども役は務まりそうにない。しかし、俺は皇女の情報を得るためなんとかおばさん改めお姉さんに話を聞いてみる。

 

 

 

 

 

「皇女様はね、窮地に立たされたこの皇国の救世主なのさ」

「救世主?」

 

 

 

 

 

おばさ、お姉さんは話したがりなのか、質問した俺にそれはもう全て話してくれた。いつの間にか世間話も混じっていたが、俺は子どもだからきちんと笑顔を張り付けて対応したとも。でも、もう二度とやらないと心に決めた。まあ要約するとこうだ。その昔、フェルディナンド王国と戦争をしたヒンブルム皇国は、辛うじてその攻撃を撃退したが、その栄光は長くは続かず、大国となったフェルディナンド王国との貿易を止めたため食糧危機に陥ってしまったという。現皇帝のエドワード7世は未だにフェルディナンド王国との貿易に忌避感があるらしく、最近まで国民の大半は飢えている状態にあったと言う。しかし、とおばさ、お姉さんは目を輝かせて言う。

 

 

 

 

 

「民の窮状を嘆いた皇女様は秘密裏にフェルディナンド王国との貿易を開始されたのさ」

 

 

 

 

 

これは皇女マリエまさかの有能説浮上である。俺自身、フェルディナンド王国のヴィルヘルム国王に対して民の竈について啖呵切った身故、俺の行動と似通っている部分を見つけて少し親近感を覚えてしまった。俺の顔が喜色になったのを喜んだのか、おば、お姉さんはさらに気合を入れて話し始めてしまう。落ち着いてほしい。

 

 

 

 

 

「皇女様は私財を投げ打ってまで私たちの食糧を準備してくださった。かつて敵だったフェルディナンド王国に頭を下げてまでだ。この素晴らしさがあんたにわかるかい?」

 

 

 

 

 

かつてという言葉に戦後の敵対感は薄れたのかと俺は感じていた。それにしてもなんとも清廉潔白な皇女様だ。でも、フェルディナンド王国のどこがそんな貿易をしているのだろうか。俺は過分にして耳にしたことがない。俺はそれをフェルディナンド王国へのイメージとして、ヒンブルム皇国の国民であるおばお姉さんに聞いてみる。

 

 

 

 

 

「フェルディナンド王国のどこと貿易してるか分かる?」

「ああ、その商人たちが名乗るの一つだからね。その名も・・・・・・マクシミリアン商会さ!」

「ふ~ん、マクシミリアン商会かぁ~ああああ???!!!」

 

 

 

 

 

俺は耳を疑った。俺のいるフェルディナンド王国において、マクシミリアンと名乗る商会なんて一つしかない。そもそもこれは俺のミドルネームを使った俺の偽名なのだ。俺はまさかの事態に冷や汗を禁じえない。恐る恐る俺はおばお姉さんにその商人の名前も聞いてみる。

 

 

 

 

 

「そ、その商人って~もしかしてボルドー・・・・・・とか言ったりしてぇ?」

「おおよく知ってるね! マクシミリアン商会の代表代理とかいう役職で、皇女様と取引を行ったのはボルドーとか言ってたね」

 

 

 

 

 

まさかああああああ!!! 何してんだあのクソインテリボルドー君んんんんん!!! 俺は内心のボルドー君人形をボコボコにしながら平静を装った。収まらない怒りで荒れ狂う中、俺はボルドー君をあらん限りの罵詈雑言を掛ける。誰だよただの鼻の下を伸ばすしか能がなかったインテリをこんな優秀にしたの! こんな販路拡大しちゃうなんて俺聞いてないよ! え、待って。販路拡大を指示したのって誰だっけ? あ、これ、しくじったのって・・・・・・・俺は急いでクリスを見る。

 

 

 

 

 

 

「クリス・・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

クリスはそれは見事なまでに頭を抱えてらっしゃった。要するにだ、フェルディナンド王国とヒンブルム皇国の仲を繋いだのって、間接的にも、曲がりなりにも、俺ってことにならない。てか、ボルドー君に任せた商会の名前、勝手に俺の名前にしてやがったのかやっべ。俺は混乱する頭を冷やそうと努力する。しかし、思い出してみてほしい。先ほど俺が皇女に名乗った名前を。

 

 

 

 

 

『もし、あなたのお名前は?』

『私はマクシミリアンと申します。公女殿下とこうしてお会いでき光栄に存じます』

 

 

 

 

 

存じてんじゃねえ!!! 思いっきりの嘘つきか、ものほんのボスだとバラしてるようなもんじゃないかあああ!

俺は罪の上塗りに頭を抱えた。クリスも同じことを考えているのだろう。俺はなんてことをしてしまったんだ。俺が絶望していると、そんな俺にも気づかずにまだ恍惚とした表情で皇女賛美を続けるおばお姉さんが話を続ける。

 

 

 

 

 

 

「でもまあ、皇女様は身を削って貿易したおかげでこうして私たち国民は飢えずに生きてられるわけだけど、皇女様が可哀そうでね・・・・・・」

「どうして?」

「そりゃ、皇帝陛下の意向に逆らったわけだからね。これからどうなるか」

 

 

 

 

 

なるほど、そういった意味できな臭いのか。これでは確かに敵を敵として認識しておきたい皇帝側と、民のために敵に頭を下げてでも飢えを救った皇女側で内戦が起きかねないわけか。俺としては無用な争いはまっぴらだ。こんなお国騒動に首を突っ込むほど野暮ではないし、そもそもそんなことをして俺にメリットなんかない。でも一部の貴族にはこういう甘い蜜を吸おうとする連中がフェルディナンド王国にもいるだろうな、と下衆な勘ぐりをしなくてはならない自分に辟易した。俺は大分事情が掴めたため、引き上げることにした。ぶっちゃけこれ以上の長話は飽きたのだ。俺は一度宿に戻り脳内を整理することにした。

 

 

 

 

 

 




なんだかんだ世間は狭いものですな

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