飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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ようやく戻ったと思ったら・・・
今回から戦闘編です


第二十八話 危険

翌日もヒンブルム皇国を散策し、情報収集をしつつ食事や機械などについて観察していった。そうすると時間は早いもので、あっという間に帰国の日になっていた。俺は少ない手持ちの金銭をやりくりし、どうにか自分のお眼鏡に適う品を手に入れることができた。それはまたしても石だった。

 

 

 

 

 

 

「坊ちゃま、またこのような石を」

「これは違うんだよ! これはすごいやつなの!」

 

 

 

 

俺の興奮した声をまるで無価値な物でも見るかのような目で見てくるのは止めてほしい。だってこの石はすごいのだ。なんたってあのレースでも使用されていた機械の心臓部である部品資源なのだ。その名も『浮遊石』。原料は人の手で生産することは出来ないらしく、狩猟によって狩った動物、特に大きな獣からのみ採取することができる貴重な逸品だ。なんでも、この浮遊石を利用することにより物質を浮遊させることができるのだ。俺はこの異世界に来てから初めて目にする、異世界らしい物質に目と胸を輝かせていた。

 

 

 

 

 

「これであんなことやこんなことを・・・・・・ぐへへ」

「坊ちゃま、それで空を飛ぶようなことは・・・・・・」

「いや、これで空は飛べないよ」

 

 

 

 

 

クリスが危惧することをあっさりと否定する俺にクリスは少々驚いたようだ。だってそうだろう。科学的に考えて浮遊することができる石なんて意味わからないし、そもそも飛行できるほどの出力があれば獣はだれでも空を飛んでいる。俺はこの世界の神獣と呼ばれる存在の定義について少しばかりの回答を得た気がしていた。

 

 

 

 

 

「おそらく神獣が大きくなる理由はこの浮遊石だ」

「どういうことですか?」

 

 

 

 

 

クリスが目を丸くして聞いて来るので、俺は自分の考えをなるべく分かりやすく説明してみる。ヒンブルム皇国に来る途中でも考えたことだが、神獣と呼ばれる動物が従来の動物と比較して大きくなるのは限界があるはずだと、俺はそう考えていた。しかし、それは体重を支える骨格の増大と、それに伴う骨量、つまりカルシウム需要の逼迫が生物の大きさの限界をかたどっている。牙や角が大きい動物などは常に自分のカルシウム不足と戦っているのだ。骨粗鬆症ともいうべき症状になんとか打ち勝って生存競争を有利にしている。中には立派な物を持ちすぎて骨粗鬆症で絶滅した動物もいたほどだ。しかし、この浮遊石があればどうだろうか。

 

 

 

 

 

 

「浮遊石があれば骨格に回すカルシウムを抑えられる・・・・・・と言うことですか?」

「ご名答」

 

 

 

 

 

クイズに正解したクリスにはご褒美をあげたいところだ。しかし、俺は取り急ぎ話を進めることを優先する。動物の成長限界を超えた大きさになることが可能なのはこの浮遊石に依るところが大きいのだろう。例えば、前世の事例で考えると、重力がない宇宙空間では人の身長が伸びるらしい。もちろん地球の重力下に戻れば身長も戻ってしまうが。このような仮説が成り立つのなら、神獣が大きくなる理由は説明がつくだろう。そんな仮説を紹介し終えると俺は一息を付ける。クリスはお伽噺の存在の理由を考えることができ、先ほどから頻りに頷いている。とても可愛い。そんな俺の和んだ表情に気づいたクリスは、咳ばらいをして頬を赤らめると俺に出発を促す。

 

 

 

 

 

「ごほん・・・・・・坊ちゃま、そろそろお時間です」

「ああ・・・・・・」

 

 

 

 

 

俺がそう言われて躊躇うのには理由があった。それはこのヒンブルム皇国に来て最初に感動した、あの人物の姿が見えなかったからだ。クリスとしては彼、ライトには来てほしくはないのだろう。それもそうだ。俺と喧嘩をしてまで空を飛ぶことを否定したのだ、空を飛ぶことを夢見る少年なんて来てほしくないに決まっている。しかし、俺はそれでも彼に期待しているのだ。声を掛けてから数週間、彼は俺のところに顔を出さなかった。そしてついに最終日である。俺はトラックの荷が積まれ切るのを切実に遅くしてほしいと考えていた。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま、残念ですが」

「ああ、今回は俺の負けかな」

 

 

 

 

 

今回は上手く釣ることができなかったのだ。むしろこれまでが上手く行き過ぎたのだ。俺は少しホッとした顔のクリスに降参のポーズを取る。残念だが、今回は諦めよう。もしかしたらまたヒンブルムに繰る機会が巡ってくるかもしれないし、自分で勝手に飛行機を作ってしまえばいいのだ。俺はそんな夢の先延ばしに妥協点を見出した。俺は今回の旅で見つけたよく分からない卵と浮遊石という戦利品を眺めて、動き出すトラックに揺られる。そんな諦めの空の下、俺は故郷であるフェルディナンド王国の自分の街に帰るのだった。卵について観察すると、なんだか一回りくらい大きくなっているような気がする。まあ、生まれてきてからのお楽しみだ。お楽しみと言えば、弟ともしばらく会っていない。帰ったらたくさん遊んでやるのだ。主に俺が。そんな期待を胸に俺は館に向かった。

 

 

 

 

 

「きゃっほうただいまぁ! アルフレッッッドぅ~♡」

 

 

 

 

 

俺の讃美歌のようにも聞こえるであろうアルフレッドを呼ぶ声は、玄関を開けたところでアルフレッドのメイドであるミザリーの顔の出現によって枯れ果てることとなる。なんとアルフレッドはこの館に居ないと言うのだ。俺はアルフレッドが不在なことに酷く取り乱した。

 

 

 

 

 

「えっ?! なんで?! どうして?!」

「落ち着いてくださいませ」

「無理っ!? やだっ! 嫌っ!」

 

 

 

 

 

俺の動揺ぶりは凄まじかった。駄々をこねる子どもが床を虫のように転げまわるように、俺は無様に拗ねた。しかし、それと同時に話に割り込んでくる人物が二人、俺の前に出て緊張した面持ちで話し始める。先に話し始めたのは、先日警察組織的な物に任命したヨイチだった。ヨイチは俺の醜態にも動揺せず、落ち着いた声音で緊急事態を伝える。

 

 

 

 

 

「殿下、緊急事態です」

「むう・・・・・・何だってんだよこんな時に」

「盗賊集団の襲撃予想です」

「何だって?!」

 

 

 

 

 

俺はまさに寝耳に水の状態で急いで起き上がる。確かにヨイチたちには街周辺の警備に当たってもらっていたが、まさかこんなにも早く危機的状況が訪れるだなんて予期していなかった。俺は急いでヨイチから報告を聞く。

 

 

 

 

 

「先日、殿下がリーゼロッテ公爵令嬢にお送りになった金銭が狙われました」

「被害は?」

「運搬業者が数人負傷しましたが、潔く撤退したため死者は出なかったとのことです」

「大金を狙ったからそれどころじゃなかったか」

 

 

 

 

 

俺は自分の送った大金で人が怪我をする状況になってしまったことに歯噛みする。しかし、死者が出なかったことは不幸中の幸いだ。その業者の弁によると現金輸送の大元であるここ、俺のいる街に狙いを定めているとのことだった。そりゃあ、こんな大金が流れてくるのだ。大元を狙えば一攫千金だろう。しかし、俺はそう甘くない。人を怪我させた挙句、ここまで汚い毒手を伸ばしてくるなど腸が煮えくり返る思いだ。俺はすぐにヨイチと対策に映る。その時、待機していた俺と話したい人間がおずおずと出てくる。

 

 

 

 

 

「あのう・・・・・・お取込み中のところすみません」

「え・・・・・・君は?!」

 

 

 

 

 

俺の前に恐る恐る現れたのは、なんとまさかのライト少年だった。完璧にタイミングを間違えたけどね。俺はライトを歓迎するべく、なるべく手短に俺の感謝を最大限伝える。

 

 

 

 

 

「来てくれてありがとう!でもどうして?」

「はあ、あなたに言われたことを考えてまして・・・・・・僕も空を飛びたい」

「そうか、そうか!」

 

 

 

 

 

俺はライトと固く握手を交わす。ここに同じ志を持つ二人が集ったのだ。これからの夢への実現に希望が見えて来た。だからこそ、俺はこの街を、この生活を守らなければならない。俺は感動の再会もそこそこにライトをミザリーに紹介し、匿ってもらえるよう手配させる。そして、ヨイチと盗賊への対策を練るのだった。

 

 

 

 

 

「して殿下、盗賊にはどう対応しますか? 撃退、または交渉の余地があると考えられ・・・・・・」

「もちろん、殲滅あるのみだ」

「へっ?!」

 

 

 

 

 

俺の提案にヨイチは変な声を上げる。俺はどうして変な声を出すのか不思議に思っていると、ヨイチが言い出しずらそうに現状を教えてくれる。

 

 

 

 

 

「その、戦力差があり過ぎます」

「え、どの位?」

「我が方、私含め警備隊7人に対し・・・・・・盗賊の数、30人です。それに襲撃予想は・・・・・・」

「予想は?」

「今夜です」

「おうふ」

 

 

 

 

 

まさかの戦力不足の上に時間がないのである。確かにこれは殲滅なんて発想は蛮勇もいいところである。だがである、大金をせしめただけでは飽き足らず、仮にも街に攻め込む盗賊だ。我々の交渉に乗ってくれるとは考えにくい。さらに言えば、30人という戦力に対して彼我の戦力差が大きい現状、撃退するといっても街を守れなければそれでは勝負に勝って試合に負けたようなものだ。これはまずいことになった。俺は頭を悩ませていると、そこに化学者のハーバードとボッシュがやって来る。

 

 

 

 

 

「殿下、大変なことになりましたな」

「ああ、ハーバードとボッシュ。巻き込んでしまってすまない」

「いいえ、これも殿下に仕えるワシらの義務ですじゃ」

 

 

 

 

 

そう言って笑うハーバードには安心させられる。やはりこういう時に感覚が狂っているおじさんは心強い。普段からこれくらい頼れるといいのに。俺がそう思っていると、ボッシュが俺にある物を手渡す。それは以前俺が生産を指示したものだった。

 

 

 

 

 

「殿下、ご用命通りの品を作成しました」

「こ、これは!?」

「はい、実証実験までは間に合いませんでしたが、『閃光弾』です!」

 

 

 

 

 

俺はこの二つを見比べてからハーバードとボッシュを見つめる。二人とも寝不足なのか目の下にクマをこしらえている。ここまで短期間でこの重大事に間に合わせてくれた二人には感謝するしかない。俺は二人の手を取り礼を尽くす。

 

 

 

 

 

「ハーバード、ボッシュ・・・・・・大儀であった」

「「ありがたき幸せ!!」」

 

 

 

 

普段仲の悪い二人だが、こんな時は息がピッタリだ。俺はそんな二人の素晴らしい化学者に感謝をし、こんな自分についてきてくれた人間の顔を思い出す。思えば非道の限りを味わさせて来たインテリボルドー君や学校で活躍するダンブルドア、クサ紙を実用化させてくれたユキチ達、今身命を賭してこの街を守ろうとしてくれているヨイチたち、自分の身上を曲げてついてきてくれたハーバードとボッシュ。先ほど俺と共に夢を追いかけてくれると宣言してくれたライト。そして、俺の愛するクリスやアルフレッド。俺はこんなにもたくさんの人間に支えられて来たのだ。そして、そんな人間が俺の庇護の下で暮らしているのだ。俺は絶対にこの街を守りたくなった。いや、守らなくてはならないのだ。俺は決断する。それはこの異世界に来てから初めての大きな決断だった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・めつだ」

「殿下?」

「殲滅だ!」

 

 

 

 

俺の再度発せられた殲滅宣言にヨイチは目を見開いて再考を願い出る。だが、俺の心に敗北の二文字は許されなかった。

 

 

 

 

 

「ヨイチ・・・・・・俺はこの街が、お前たちがなによりも大切だ」

「は、はあ」

「俺は大切なものを絶対に見捨てたりはしない」

「!」

 

 

 

 

 

俺の言葉にヨイチは違う意味で目を見開いた。ヨイチの手はブルブルと力が籠められ、今にも俺の言葉に身体を震わせんと待っていた。俺はもう一度この場にいる人間の顔を見る。心配そうにしているミザリー、訳が分からなそうなライト、ニヤリとしたり顔をするハーバードとボッシュ、涙を堪えんばかりのヨイチ。そして、覚悟を決めたようにしつつも胸の前で握られた手が震えてしまっているクリス。俺は満足して言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

「この俺、フェルディナンド王国第一王子であるビスマルク・マクシミリアン・デ・メ・フェルディナンドが命じる! この街を害そうとする不届きな盗賊連中を殲滅せよ!!!」

「ははっ!」

 

 

 

 

 

ヨイチは頭をこれでもかと言うほど下げている。涙というか興奮した顔を隠しきれないのだろう。俺は今にも盗賊を皆殺しにしそうなヨイチの漏れる殺気を嬉しくかつ頼もしく感じていた。そして、俺はクリスにも命令を出す。

 

 

 

 

 

「クリス、頼みがある」

「はい、何なりと」

 

 

 

 

さすがは俺のメイドを務めて来ただけはある。肝の据わり方が素晴らしい。俺は安全なうちに街に非常事態宣言を出すよう下達する。住民の避難場所としてこの館の地下なども開放する旨を伝える。クリスは心得たとばかりに早速館のメイドや執事たちに分担して仕事を割り振っていく。さすがは俺の愛しのクリスだ。そして、ミザリーにはアルフレッドの安全を最優先してもらうことを伝える。こちらも端からそのつもりであり、ミザリー自身も戦う覚悟だったらしいことには苦笑いだ。俺は非戦闘員を選り分け、純粋な戦闘員のみを選抜する。

 

 

 

 

 

「ヨイチ、配下を集めろ。作戦を伝える」

「もし、住民の中に戦闘に加わりたい者がいたらいかがしますか?」

「ヨイチたち七人がそれぞれ掌握できる人数・・・・・・一人当たり7人を上限に許可しよう」

 

 

 

 

 

俺の言葉にヨイチはニッと口角を上げて戦闘員を集める。クリスたちメイド連中のおかげでスムーズに住民の避難ができ初めようとしていた。以前から直接顔を出して住民と関りを持っていたおかげであるのと、説得に参加してくれたボルドー君のおかげで住民の素早い理解を得ることができたのだ。こればかりは日頃のコミュニケーションに感謝だと思った。さて、そんな中ポツンと残されたと感じたハーバードとボッシュが駄々をこね始めた。

 

 

 

 

 

「ワシらも盗賊に一泡吹かせたいですじゃ」

「俺も!!」

 

 

 

 

 

この変人は戦闘ってものを理解しているのだろうか。マッドなサイエンティストにはご遠慮頂きたいところだ。俺は今回の功績を称えて今後の研究開発資金の増額を約束した。すると二人はよほど嬉しかったのか、普段仲が悪い二人が抱き合って踊っていた。俺はやれやれと作戦指導に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 




世の中平和が一番、だけど中世の世の中そう簡単には参りませんな

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