飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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今回は名場面多数ですよ
頑張りました


第二十九話 決戦の気持ち

そこには既に殺気立ったヨイチたち戦闘員が整列していた。こいつらはシャルロッテのいるオワリ領から俺が引き抜いてきた銃の達人たちだ。俺の領地に来てからはあまり活躍の場がなく、暇を持て余していただけに、今回の大抜擢に居ても立っても居られない様子だ。俺はそんな七人に感謝をしつつ、作戦内容について話す。

 

 

 

 

 

「さて諸君、聞いての通り戦局は我らの劣勢だ。だが、ここは我らの土地・・・・・・地の利は我らにあることを忘れてはならない」

「分かっております。我ら警備隊全員、身命を賭してこの街と殿下をお守りいたします!」

 

 

 

 

 

俺は頼もしいヨイチの言葉だが、首を振って否定する。たとえ戦闘員であっても貴重な明日を築く人材だ。一人たりとも欠けてほしくない。俺は理想であるとは理解しているが、誰にも死んでほしくないのだ。そのための作戦でもある。俺はヨイチたちに忠告する。

 

 

 

 

 

「今度の作戦では死者を出すことは許さん。俺が死なない作戦を考える。だから、お前らは仲間が死なないよう全力で働け」

「分かりました!」

 

 

 

 

 

俺は最も大事な注意事項を伝えたため、作戦構想を伝達する。俺の作戦はこうだ。街に続く街道は全部で4本ある。この内2本は王都やオワリ領に向かう方面であるため、防衛範囲外となる。残る場所は二つの街道である。一つはリーゼロッテのいるブルボン領に続く街道であり、盗賊はおそらくここに主力を割いて来る。もう一つは山道であり、道は悪いが隠れ場所が多い。そのため伏兵や遊撃部隊あたりが攻めてくることが予想される。この敵戦力分布の理解の下、俺は戦力を分配していく。

 

 

 

 

「まずは第一小隊にムラタ!」

「はっ!」

「第二小隊にヤエ!」

「はっ!」

 

 

 

 

この二人には主戦力が来るであろうブルボン街道の守備に就いてもらう。どちらも部隊掌握術に長けており、さらに第二小隊長に抜擢したヤエは女性である。男顔負けの力自慢で近接戦闘も熟せる優秀な人材だ。もちろん第一小隊長のムラタも負けていない。ムラタはここぞと言う時に明るく、苦しいときに重宝するムードメーカーである。この二人には街から参戦を願い出た農民を14人を任せた。農民と言っても農作業で鍛えられ、隆起した筋肉を持つ強者である。しかし、ムラタとヤエは農民の武装について苦言を呈す。

 

 

 

 

 

「主武装が竹やりと鋤や鍬では・・・・・・」

「大丈夫だ」

 

 

 

 

 

俺の言葉に全員が注目する。盗賊の主武装は剣や単発銃であると証言が取れている。数に物を言わせた戦法である。だからこそ、俺は俺らなりの戦い方をするのだ。

 

 

 

 

 

「第一、二小隊は主力を迎え撃つことになるが、あくまで蓋の役だ」

「「?」」

 

 

 

 

 

 

俺の作戦にいまいちピンと来ていないようであるので、説明を付け加える。俺の作戦は第一、二小隊で敵主力を迎え撃ってもらう。だがここでは敢えて力推ししてくる敵を少数だけ通すのだ。あとの主力が通る頃には竹やりなど棒きれで蓋をしてしまい、戦力を分散させるのだ。ようやく納得がいった二人だが、ここで一人が疑問を投げかける。それはこれから第三小隊長に任命する予定だったナオイエである。ナオイエの特徴として全体の俯瞰役でいられると言うことだ。作戦の参謀役と言ったところだろうか。彼の指摘はいつも鋭く、だから俺もこれからナオイエに指示するのだった。

 

 

 

 

「敢えて分散させたのは後方に陣を構えるからですかな?」

「よくぞ聞いてくれた。第三小隊長にはナオイエ、君を選抜する」

「はっ、して私の役目は?」

「ナオイエは第一、二小隊が通し、街の大通りにのこのこ出て来た少数の敵の殲滅を頼む」

「御意」

 

 

 

 

 

取り逃がしたと錯覚させた敵は街の中枢まで入り込む。だがそこには万全の状態で待ち構えるナオイエがいるのだ。さぞ驚くことだろう。逃げ場所の無い街の至る所からナオイエ率いる第三小隊が襲い掛かり、ナオイエが狙撃していくのだ。たった少数で意気揚々と乗り込んできた敵はあえなく御用である。さらに、俺は万全を期すために第四小隊長にヒデキヨを任命する。

 

 

 

 

 

「第四小隊長、ヒデキヨ」

「へいっ!」

「君はナオイエと連携し市街戦を展開せよ。敵を攪乱し、こちらに被害を出させるな」

「了解でさっ!」

 

 

 

 

ヒデキヨは調子のいいやつだが協調性に富み、かつ気が利くのだ。それは敵の嫌な所や連携の不備を的確に見抜く能力に置換でき、ヒデキヨには市街戦が持って来いの戦場なのだ。そもそも普段の巡回も、街の良き警察官のように振る舞ってくれているため、街の隅々まで知り尽くしているのも大きい。こういう時のために巡回警備をさせていてつくづくよかったと実感している。そして、次なる戦場である山道ルートの作戦を伝える。

 

 

 

 

 

 

「第五、六小隊長にカイル、ヘイヘを起用する」

「イエッサー!」

「セルヴァエ!」

 

 

 

 

 

なにやらどこぞの大国の返事や小国だが悪魔と恐れられた国の独特な返事が聞こえるがまあいいだろう。順に紹介すると、第五小隊のカイル、第六小隊のヘイヘはともに狙撃兵である。腕は命中率が6割が普通と言われるこの世界において、脅威の9割を叩き出す化け物級のスナイパーだ。独自に銃の改造を行っており、他の者の銃より若干銃身が長く、狙撃向きになっている。俺はこの二人に10人の住民を付けた。この住民は炭屋や炭鉱夫のような、山を知り尽くし、夜目が利く人物たちである。山では基本明かりはなく、木々に囲まれた戦場である。俺はそんな過酷な戦場に秘密兵器を放出する。

 

 

 

 

「カイル、ヘイヘにはこれを渡そう。閃光弾だ」

「「おお!」」

 

 

 

 

二人は俺の渡した非殺傷兵器である閃光弾に興味津々である。俺はあらかじめハーバードとボッシュに書かせておいた説明書を手渡す。まじまじと見つめる二人はこの兵器について議論し合っている。これなら使用場所を説明しなくとも自分たちで適切に扱ってくれるだろう。実に頼もしい。これでおおよその布陣が整った。俺はこの6人に頷くと、六人はそれぞれの持ち場に駆けだす。しかし、その場にソワソワとした人物が残っていた。それはヨイチであった。

 

 

 

 

 

「殿下?! 私は? 私は戦えないのですか?!」

「まあ落ち着きなよ」

「これが落ち着いていられますか!」

 

 

 

 

 

俺はいきり立つヨイチを宥め、席に座らせる。俺は別に意地悪をしているつもりはないし、予備戦力を捻出するほど余裕があるわけでもない。俺はヨイチだからこそ託したい任務があったのだ。俺は既に目を血走らせるヨイチに作戦を伝え、第七小隊長に任命する。俺の作戦を聞いたヨイチは目をそれはもう輝かせて頷き、敬礼をしては飛び出していく。

 

 

 

 

 

「殿下っ! このヨイチにお任せください!」

「うん、頼んだよ」

 

 

 

 

 

ヨイチならばやり遂げてくれることだろう。俺は良き仲間に恵まれたものだ。恵まれた俺はこの街にどんなことを返せるだろうか。子どもで王族で左手が使えないただの夢見るバカ。前世で何もしてこなかった俺の初めての決断は、あまりにも重く、しかしながらこの街を守ると言う最高のものだと感じていた。俺はこの作戦の行く末をただ見守るだけになったのだ。だが、この街を誰よ入りも愛し、誰よりも守りたいと思うのは俺なのだ。俺は自分にできることをする。俺は覚悟を決め、ヨイチたちが待つ場に足を向ける。

 

 

 

 

 

街の中央広場である場所にヨイチとそれに従う志願兵が集っていた。皆見知った顔ばかりである。俺はそんな俺の愛する仲間の前に立ち、息を吸う。後ろにはクリスが付いていてくれる。頼もしい仲間がいるのだ。もう何も怖くはない。俺は目を閉じてからゆっくりと開ける。そして、俺は静かに話し始める。

 

 

 

 

 

「諸君・・・・・・俺はこの街が好きだ」

 

 

 

 

 

俺の静かな声が広場に木霊する。この場に集う全員が俺の言葉に集中している。中には学校に所属する教師の姿まである。あれはダンブルドアだ。あれも一端の貴族だ。基礎剣術を習得した覚悟のある人物だ。他には子供である俺がなぜここに立っているか分からずにいる者もいる。だが、そんな人たちにも伝わるように俺は語り掛ける。

 

 

 

 

 

 

「諸君、俺は君たちが大事だ。君たちがいてくれてこそ、俺は今日まで楽しく過ごしてこれた。だが、その楽しい日常がぶち壊されようとしている。我らは一体何をしたと言うのか。答えは何も・・・・・・我らは何もしていないのだ」

 

 

 

 

 

俺の言葉の一つ一つがここに集まる人間の心に染み込んでいくようだった。住民も最初は俺の登場に疑心を抱いていたが、それももう既にと言った様子だ。俺が例え子どもだろうと、俺の語る言葉に嘘偽りはないのだ。その真実の気持ちに気づいた住民は、俺の言葉にのめり込んでいく。

 

 

 

 

 

「今夜、この街で君たちは初めての戦闘を行うことになる。我らはこの戦いで何を得るのだろうか・・・・・・その答えを俺は先に答えておこう。それは・・・・・・明日だ! 領地や身分を乗り越えて、一つの目的のために結束する。この街を愛し、この街に愛された諸君と、明日を獲得するために戦うのだ! より良い明日を獲得するために! 自らの愛するものを守るために! 明日を、勝利を手にしたいのなら、今日と言うこの日を、やつら盗賊に見せつけてやろう! 我々は戦わずに明日を迎えたりはしない! 我々は生き残り、明日を生きていく!」

 

 

 

 

 

俺の言葉に徐々に住民やヨイチたちがムズムズしているのがよくわかる。しかし、それ以上に誰かの前に立って、自分の意思を伝えているという、俺の人生史上初ともいえる行為に、俺自身が一番燃え上がっていた。俺はこのセリフが大好きだ。前世で観たことのあるエイリアンと戦う大統領の言葉だ。俺は最後に引用を用いて引き締める。

 

 

 

 

「理不尽な略奪者に抵抗し、明日を生き抜くために全員が立ち上がった今日この日が、我々が成し遂げ、後世にまで語り継がれるであろう、我らの独立記念日だっ!!!」

 

 

 

 

 

少しこっぱずかしい台詞だっただろうか。俺は少しやり過ぎたかと、反応を待つ。すると、地を震わせんばかりの咆哮が辺り一面に鳴り響く。兵士たちは拳を上げ、咆哮を上げて応えてくれた。俺は心からこの街が好きになった。この街を守り抜く。この街と一つになって戦うのだ。俺の勢いに乗り、住民たちは結束した。そして、俺は忘れないうちにヨイチたち七人を集まる。皆、住民たちとは対照的に案外落ち着いている。俺は緊張しているのかと思い解してあげることにした。

 

 

 

 

 

「鉄砲集よ。君たちにはこの街を守ってもらう。だが、決して死んではいけない。君たちがこの街や住民を守りたいように、俺も君たちに生きていてほしい。こんな我儘だが、これだけは約束してもらいたい」

 

 

 

 

 

俺の言葉に感動してくれるかと思ったが、聞こえてくるのは笑い声だった。それは実に心地よいと言った感じの温かい笑い声だった。俺はどうしたものかとヨイチたちを見る。すると、涙を拭いてヨイチが答えてくれる。

 

 

 

 

 

「なにを今更・・・・・・私たちはあの時あの場所で言われた言葉を忘れたことはありません」

 

 

 

 

 

ヨイチらは皆頷いて同意見であることを示してくれる。俺は確かに我儘にも警察的な武力が欲しいと思ってヨイチらを引き抜いた。彼らの居場所を曲がりなりにも変えてしまったのだ。俺はその後も彼らに満足できる仕事を与えられはしなかった。今思えばとんだ詐欺師である。だが、そんな俺についてきてくれたヨイチたちは俺を認めた上で、過去に俺が言った言葉を繰り返す。

 

 

 

 

 

「『俺はここの兵に輝いてほしい、我が領地でその腕を存分に発揮させてやろう』・・・・・・そして、あなたはこうも仰った。私があなたの下に下ると決心した時、『俺がお前たちを導くのではない。君が導くんだ』と・・・・・・そうあのお言葉は今この時のためにあったのだと。我らは今、心から感謝しております。仕えるべき主君を頂き、活躍できる戦場を得た。これほどの喜びを与えて下さる殿下に、我らは一生の忠義を尽くしたく思うのであります」

 

 

 

 

 

俺は過去のカッコつけた発言に顔を赤くするところだったが、ヨイチたちの真剣な表情にそれは失礼にあたると、俺は精一杯背伸びをしてヨイチたちの主人であることを誇らせてやる。俺が彼らにできることは鼓舞すること。これくらいしかできないのだ。

 

 

 

 

「そう言ってくれてありがとう」

「殿下、ご命令を」

「ではくれてやろう・・・・・・殲滅だ。殲滅しろ! 鎧袖一触だ! お前ら七人の兵が、これから三千世界の先駆けであると知らしめるのだ! そして、俺に示せ! お前たち番犬が優秀であると言うことを! 見返してやれ! お前たちを見くびった連中を! お前たちが、この世界の番人だ!」

 

 

 

 

 

 

俺の号令がヨイチたちを駆り立てた。今夜、この時、この街は立ち上がったのだ。もしくはこうとも言えるだろう。この街が俺たちを立ち上がらせたのだと。

 

 

 

 

 




さあどうなる!?

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