飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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ついにお外に出られます
脱獄です


第四話 解放、外へ!

俺の純粋な問いにクリスは素直に話してくれた。それは夜が更けてもなお俺の飽きることのない質問で、夜を明かすほど不思議な話だった。クリス曰く、空を飛んではいけない理由は昔話にあるらしい。その昔話と言うのは、かつてこの国を空の怪物が襲った。それは何日も、何カ月も続き、果ては国土のほとんどは焼け野原になったらしい。伝承では、その怪物は銀翼の鯨ほどもある大きさだったと言う。王国はこの国の労働階級の全ての男性を根こそぎ徴兵してようやくその災厄を退けたと言う。その際、その銀翼の怪物はこう言い残したされる。

 

 

 

 

 

『空に上がることは許さぬ。空にもし上がることがあれば、地上の災厄と共に今度こそこの世界を滅ぼす』

 

 

 

 

 

地上の災厄とは、王国にはいくつかの地域があるらしいのだが、その方々に100m以上にも届くほどの巨木で構成された深い森が点在するのだと言う。その森の中には古代より姿を変えることのない獣たちが未だに人類の侵入を防いでいるのだという。俺はまるでジブリの世界観のようであるとワクワクしてしまった。しかし、それにしても空を飛べないと言うのは困った。俺はどうしても空を飛びたいのだ。俺は伝承はどれくらい前の話なのかを聞いてみた。

 

 

 

 

 

「そうですね、私も祖母から伝え聞いたのですが、400年ほど前のこととか」

「そんなに昔の話なのか? 本当のことなのか?」

「私も実際に見たわけではないのですが、森には想像を絶する大きさの主がいるとか。その主を筆頭に言葉を介する獣や神獣の類の存在は現在でもいくつか確認されています」

 

 

 

 

 

俺はクリスの回答にまるで子ども時代に戻ったかのような、いや実際今は子どもであるのだが、それはさておきこの冒険心の高まりをどうしてくれようか。俺はすでに夢中になっていた。それからの俺は腕を骨折しているため外で遊ぶことは許されず、本の虫となっていた。もちろんクリスにマナーが悪いと叱られてもご飯お時間ですら読み耽った。さらに、いつ外に出て冒険してもいいように、常に筋トレを欠かさなかった。もちろんけが人の筋トレをクリスに叱られながらではあったが。そして腕が回復した時、ついに館の外に出ることを許されたのだ。俺はそこら中から本をかき集めてカバンに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

「そんなに持っていくのですか?」

「これでも足りないくらいだ」

「重いでしょう。私が持ちますから坊ちゃまは・・・・・・」

「いい」

 

 

 

 

 

俺はクリスの申し出を断る。少しぶっきらぼうだったかもしれないが、今はそれどころではない。人生で初めて、いやこの異世界に生を受けておよそ7年近く、晴れて館から出ることができるのだ。興奮を止めることの方が難しい。クリスをちらりと見ると、まるで成長を微笑ましく見守る母のように少し嬉しそうにしている。かわいい。そして、重いカバンも重力を感じさせずに駆けだすと、門の外に出る。ようやく、ようやく外である。まさに籠の中の鳥とでもいうべき存在だった俺は今、放たれたのだ。スキップで外に出ると目の前に広がっていたのは雄大な自然だった。近くにはそこまで険しくない小山、目の前には広大な農地とその先に街が見えた。俺はまず駆けださずに周囲を散策することにする。

 

 

 

 

 

 

「坊ちゃま、案外と申しますか近場を散策されるのですね」

「まずは近場から知らずしてどうする。それよりクリス見てくれ!この花は何と言うのだろうな!」

 

 

 

 

 

目を輝かせる俺を目にクリスはにこりと微笑んで花の名前を答えてくれる。

 

 

 

 

 

「そちらは庭に私どもが植えておりますダナンの近縁種である、モライエという花です」

 

 

 

 

 

庭に咲いているダナンの花と言うのは赤い花で、観賞用に綺麗だからメイドたちが植えている綺麗な花だ。他にも庭にはバラに似た花も植えてある。そして、この館の外で見つけた初めての花ですら感動を覚える俺をクリスは微笑ましく見守ってくれるようだ。花の名前の由来を教えてくれた。

 

 

 

 

 

「モライエの由来はモラという、昔この近くに住んでいたとされる人間のお話が由来なのだそうです」

「ほう、どんな話なんだ?」

「モラは貧しい農民でした。ある時、モラの母親が病で臥せってしまい、どうしても森へ入らなければならなかったそうです」

 

 

 

 

 

森と言うのは以前も聞いた、神聖な森のことだろう。当時から危険な場所であることは変わりないのだなと納得しながら俺はクリスに先を促した。

 

 

 

 

「森で薬草を摘んでいたモラは、そこで森の主に出会ってしまい怒りを買ってしまいます」

「そりゃ大変だ」

「はい、モラは逃げるのに必死でついには森で迷子になってしまいます。力も尽き、家までの道も分からず母へ薬を届けられないことを嘆いたモラはそこで眠ってしまいます」

 

 

 

 

 

俺はもしかしてこれはよく古典などにある親孝行の話に似ていると思った。どこの世界でも親を想う孝行の気持ちが美談として伝わるのは良いことだと感心していると、クリスの話が異世界じみた話を続ける。

 

 

 

 

 

「ふと目を覚ましたモラの目の前では、綺麗な光に満ちて揺れる薬草が光の胞子を飛ばしていたそうです。モラは自分の取った先ほどの薬草を見てみると、その薬草たちも光だし、その宙を舞う光の胞子を籠に集めるとふわりと浮き上がり、無事に家に帰ることができた、というお話です」

「え、まさかモラの家に帰ることができたから『モライエ』なのか?」

「そうです」

 

 

 

 

 

これまでの感動を返してほしい。そこは不思議な力を持つ薬草なんだからもっといいネーミングがあっただろう。この世界の住人はネーミングセンスが乏しいのかもしれない。少し変な感情を抱きつつ、それでもなお異世界にピッタリの話に興奮が冷めなかった。そして、ふと疑問に思ったことがある。モラは空を飛んでいるではないか、と言うことだ。早速クリスに聞いてみる。

 

 

 

 

 

「モラは空を飛んでしまったのだな」

「はい、禁忌を冒してまで母の下へ帰ろうとする心優しいモラのお話は、私の大好きなお話です」

「さいですか・・・・・・」

 

 

 

 

少し都合の良いような気がするが、俺は伝承にケチを付けるほど狭量な人間ではないのだ。それにしても、花が薬草になるとは驚いた。持って来た本で調べてみると、効能としては打ち身や擦り傷などに効くのだと言う。薬学は覚えていて損はないだろうと、俺は速やかに脳内に知識として保存した。そして、俺はやってみたかったことを実行する。それは雑草の名を尋ねてドやるやつだ。さっそく実行に移す。

 

 

 

 

 

「クリス、この草は何と言うんだ?」

「それは雑草です」

 

 

 

 

 

完璧の回答だ、と俺は脳内で歓喜の舞を踊る。俺はあらかじめ本でこの草の名前を知っている。俺は満を持してクリスに自慢しようとしたところで、ふと我に返る。聞いておいて名前を知っていたなんて意地が悪くないだろうか、と。意地が悪いキャラを確立してもいいが、クリスに意地悪をするのは心が痛む。俺は咄嗟に披露しようとした知識を少し我慢した。代わりに今感じたことを素直に言ってみることにした。

 

 

 

 

 

「この草は『ザッソウ』と言うのか」

 

 

 

 

 

俺の言葉にクリスはハッとしたのか、俺の傍に寄って目線を合わせてくる。真剣な目で俺と向き合う凛々しいクリスは、目線で謝意を伝えて訂正する。

 

 

 

 

「申し訳ございません。どこにでも生えている草でしたので、名前を知らないのです。無学な私を許してください」

 

 

 

 

俺はきちんと対等に謝ることのできるクリスに好感を持てた。やはり、こういったところは変に威張る必要はないのだ、と先ほどの自慢しようとした自分を恥じた。クリスが真剣に向き合ったのだ、俺も真剣に向き合わねばなるまい。そう考えた俺はクリスの目を見て許しを与える。

 

 

 

 

「雑草なんてこの世にはないんだね。じゃあ、一緒に調べよう」

「はい!」

 

 

 

 

素直な心が一番だと本を開き、草の名前を調べると本にはこう注釈がついていた。

 

 

 

 

『クサ』:その辺に生えているどこにでもある草。どこにでも生える為、農業従事者においては駆除すべき草である。雑草全般を指す。

 

 

 

 

あまりにもあまりな説明に思わず二人して顔を見合わせてしまった。その瞬間、吹き出したのは言うまでもない。

そうこうして俺は粗方周囲を散策し終えると、小山を目指し始める。まあ、1000メートルもない山だ。見晴らしのいい場所まで行くことにした。

 

 

 

 

 

「ここには森の主はいないよな」

「はい・・・・・・ここは館の近くですから・・・・・・獣は・・・・・・いません」

 

 

 

 

ずんずんと突き進んできてしまったが、クリスをすっかり忘れていた。クリスはメイド服と言う軽装で山登りを強いられているのだ。完全対策をしている俺とは違い、さすがに疲労の色が滲むクリスに俺は手を差し伸べる。

 

 

 

 

 

「クリス、もう少し先に丘がある。そこまで行って休憩にしよう」

「はい・・・・・・申し訳ございませ・・・・・・っ!?」

 

 

 

 

靴が斜面に突き出た木の根に引っ掛かり、クリスが体勢を崩す。俺はすかさず左手を木に掛けてクリスの手を握る。間一髪、クリスが転ぶ前に救うことができ、俺はほっと一息を吐く。その瞬間、俺の木を掴んだ左手首辺りがズキリと痛んだが、今はそれどころではない。手を差し伸べたクリスの安否を気遣う為、クリスを見ると目を一杯に広げて頬を赤らめている。俺はまずいと思い急いでクリスを引き寄せる。

 

 

 

 

「きゃっ」

 

 

 

 

 

クリスの可愛らしい声が漏れ出たが、俺は急いでクリスに謝る。

 

 

 

 

 

「すまない! 俺がお前のことも考えずに連れ回してしまった! どこか怪我はしていないか?」

 

 

 

 

 

そう急いで詫びを入れ、容体を見る。クリスは少し間をおいて慌てて俺から離れるも、足をくじいたのかまた体勢を崩してしまう。すかさず俺はクリスの裾をめくり、足の様子を確認しようとするとクリスが急いで足を隠そうとする。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま! お戯れを・・・・・・」

「バカっ! 言ってる場合か!」

 

 

 

 

そう言って強引に裾を捲る。クリスは恥ずかしそうに可愛い顔を手で覆うが、俺はそれに構わず足の様子を確認する。足の様子は色の変化はないものの、足首が腫れており捻挫が疑われた。俺は先ほどの花のことを思い出し、急いで探しに出かけようとする。クリスを安定した場所に休ませると、水を渡して動かないように言いつける。まだ顔を赤らめるクリスはコクコクと頷いて了承した。俺は役に立たないクリスを残してモライエの花を探しに駆けだす。ああ、それはもうかっこよく颯爽と駆けだしたさ。ただ、一つ嘘をついた。

 

 

 

 

 

「クリスの脚、色っぽいなあ・・・・・・」

 

 

 

 

俺はモライエの花を集めると沢の水に浸し簡易的な薬を作成する。クリスの足にその薬を充ててハンカチで縛ると、クリスは少し痛そうにしたが我慢してもらうしかない。痛みと疲労で汗を滲ませたクリスを見て俺は決断する。クリスにここから自力で下山させるのは無理だ。そう判断した俺は、本を詰め込んだカバンを置き捨てるとクリスを背負うことにした。

 

 

 

 

「クリス、すまないが麓まで我慢してくれ」

「坊ちゃま?! いけません! 私は歩けます!」

「嘘を言え、その足じゃこの斜面はまともに下れないだろ!」

 

 

 

 

そう強く言ってもクリスは必死に抵抗しようとした。それでも俺は疲労の色が濃いクリスを強引に背負うと、木を伝って降りることを決心する。疲れもあるだろうが、怪我をしてあまり動けないクリスを背負うこと自体は容易かった。しかし、問題は俺はまだ子どもだと言うことだ。筋トレを欠かさずしているとはいえ、さすがに子どもの体で成人女性を背負うことはかなり不安定だった。それを見かねたクリスが何度も降りようとする。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま、いけません! 坊ちゃままで怪我をしてしまいます!」

 

 

 

 

 

心配されているが、俺は心配される度にクリスを強く抱えた。反抗期だろうか。俺は絶対にどんなに苦しかろうと、クリスを下ろす気はなくなっていた。それどころか、徐々にクリスを支えていると言う行為そのものが俺に力を与えてくれているような気がした。一つ余計なことを言えば、クリスの胸の感触と後ろから汗と共に香るいい匂いのせいだとは言うまい。これは役得である。しかし、あまりにもクリスが言うので、俺は奮起してクリスに言い返す。

 

 

 

 

「俺はお前の主人なんだろう?だったらお前の面倒を見る責任があるじゃないか!」

「それは・・・・・・私が坊ちゃまのお世話をすることが使命であって・・・・・・」

「クリスは使命で俺の面倒を見てるのか?」

「え・・・・・・」

 

 

 

 

 

まあ仕事なのだから仕方ないだろうが、俺は見てもらう側だ。あまり文句は言いたくないが、ただの仕事としては割り切れない、クリスは家族のような大切な存在であると思っている。それだけに、クリスには仕事だからと言われてしまうのは少しばかり悲しかったのだ。言うなれば嫉妬だ。個性を身に着けることを目標とする俺からすれば情けない話だが、仕事だからと言われてしまったら多分一週間は落ち込む自身がある。いや、半年かもしれない。だから、俺はクリスを畳みかける。

 

 

 

 

 

「俺はクリスを家族のように信頼してる。だから、お前の心配をして何が悪い!」

「坊ちゃま・・・・・・」

「こんな時くらい黙って心配されていろ!」

 

 

 

 

 

言ってやったぜ、男らしいところをアピールできただろうか。嫉妬しているとはバレなかっただろうかと、モヤモヤしているとクリスはようやく俺の背中にピタリとその豊かな胸を預けてくれた。そして、俺の耳元で囁いたのだ。

 

 

 

 

「・・・・・・はい、心優しい坊ちゃま」

「ふん!」

 

 

 

 

 

今の「ふん!」は決してあれだからね、耳元で可愛いボイスで囁かれたから気持ちが昂っちゃったわけじゃないからね。意地っ張り男子を演出してみたんだからね。それにしても、役得だな。

 

 

その後、無事に奮起して下山できた俺とクリスは館から駆けつけた執事とメイドに抱えられると急いで持ち帰られた。もちろん抵抗しましたとも。足が疲労でガクブルだったけど。

 

 

 

 

 

「俺は自分の足で来た!だから、この足で帰・・・・・・ってああ!俺の決め台詞がああああああ!!!!」

 

 

 

 




いろいろパロディ入ってますが、楽しみながらやらせてください

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