飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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今回はクリスの魅力を叩きつけました
大戦よろしくお願いいたします。


第八話 株式とデート

弟はミザリーを伴って週に四回サリマンの下へ向かうこととなった。最初は嫌がっていたが、俺が頑張って見つけたことを知っているからか、俺の前では努めて明るく出ていくのだが、窓から見送るその足元は全然早くないことを見るにやはり人と会うのは好きではないのだろう。だが、それも最初の一カ月ほどで、それからはミザリーも見違えるほど前向きに外へ出ることができるようになっていた。俺は弟の成長を温かく見守るのと同時に、これまでに見つけた店の情報を地図にまとめ掲示板へ掲載することとした。

 

 

 

 

「ついに全ての店に顔を出すことができたな」

「はい、坊ちゃまの努力の賜物ですね」

 

 

 

 

クリスも真剣に褒めてくれるほどこれはかなりの力作だった。誰が見ても一目でわかる所在地に加え、どの店がどのような特徴があるか、どれくらいおすすめかを示すマップは俺の貯金を使って至る所に設置する手はずだ。あとは待てば勝手に人から人へ伝播する。そうすればこの街は一気に活性化するだろう。俺は宿屋など宿泊施設に対して、店を宣伝する代わりに宿泊料金を割引させる約束も行っていた。先行投資ではあるが、信じられない宿には俺が投資を行い、もしこれまで以上に儲かればその投資分を返してもらう契約である。また、情報の交換と最新情報の受付窓口も開いた。貯金は短期間でほとんどが散財してしまったが、この投資により情報センターなるものも併設する情報産業を立ち上げた。全てバックアップというか金ずるを俺が行ったのだ。これにはクリスやミザリーまでもいい顔はしなかったが。

 

 

 

 

「坊ちゃま、王族は金銭を・・・・・・」

「分かっている。だが、持ってはいないぞ? 俺は今もきちんと文無しだ!」

 

 

 

 

威張れることではないが、水面下で動くお金の量は貯金していた金額を遥かに上回っていた。さらに言えば、やはり農家の馬糞を肥料化するあの事業もかなり大当たりしてしまい、俺の予想をかなる上回るスピードで俺の貯金が増えてきて実はやばいのである。俺は何とか使用方法はないかと思案しなければならなかった。そこである妙案を思いついたので、思い付きで口に出してみることにした。

 

 

 

 

「よし、飛行機を作ろう!」

 

 

 

 

俺はこの言葉を口走っただけでクリスに睨まれることとなった。怖いが可愛い。俺は前言撤回をし、試案を続ける。俺は金のことでこんなに首が回らなくなることが初めてだった。きっと宝くじが当たったら使い道に悩むのだろう。だが、使うのは絶対だ。どうしよう、そう考えた時俺の前世が輝いた。首が回らない、この言葉にピンと来てしまったのだ。これで俺も某ウシジマくんの仲間入りである。俺は急いでクリスに提案を持ちかける。この興奮を一刻も早くクリスに伝えなければ。

 

 

 

 

 

「クリス!」

「はい、なんでしょう坊ちゃま」

「投資だ! 金を貸して丸儲け!」

 

 

 

 

今度こそ俺はクリスに叩かれるかと思った。説明を省きすぎるのは良くないのか。俺は短気な人間にはならないぞと心に決めた。しかし、金を使わなければいけないのなら誰かに使ってもらおうではないか。これぞ他人任せである。俺はクリス投資について説明をする。

 

 

 

 

 

「そ、それで『カブシキ』とやらを分配してどうするのです?」

「だから、金銭面を支援してやる代わりに経営にちょこ~っとだけ口を出す権利を貰うだけだって!」

 

 

 

 

クリスは完全に俺を信頼していないようで警戒していたが、システムとしては納得しているらしい。俺は王族だから金を持てない。でも継続して入る貯金を誰かが使うならば、王族が使用したことにはならずお手々は真っ白なままである。クリスは腑に落ちないように俺を見ながら今後の方針を聞いて来る。

 

 

 

 

 

「ではどのようにしてそのカブシキを公開するのですか?」

「そんなの情報誌で情報をばら撒けばいいだろう。出入りの早い店が多いのならきっと金をせびりに来るぞ」

 

 

 

 

俺の予感は当たっていた。連日たくさんの商人が株式を求めて情報誌片手にやってくるのだった。俺の予想が外れた点はその規模である。外を見ると街の住人の半分近くがいるのではないだろうかと言うほどの人垣ができていた。まるで一揆かと家のメイドや執事が大慌てになったほどだ。まあそれでクリスに叱られたことは言うまい。俺は身分を隠さなければいけない身だ。誰かに任せなければ。実は、俺は心辺りがあった。それは前に会った彼である。

 

 

 

 

「やあインテリ・・・・・・ボルドーさん!」

「・・・・・・マクシミリアン、殿。私がカブシキを主導してよろしいのですか?」

 

 

 

 

 

この彼こそ株式について学ぶかつての好敵手である、インテリ非人道おバカグレートスケベ改め、ボルドー・ルクシック君だ。俺がインテリ・・・・・・ボルドー君に給料を払って雇い、ボルドー君は俺の教えたように株式を公開すると言う流れだ。だから、ボルドー君の銀行役が俺と言うわけだ。だから、インテリボルドー君は俺の部下と言うことになった。

 

 

 

 

 

「これからよろしく頼むよ、インテリ・・・・・・ボルドー君!」

「あまりいい呼ばれ方ではないような・・・・・・」

「私からもよろしくお願いします。ボルドー様」

 

 

 

 

 

クリスも丁寧にあいさつをすると態度が急変するインテリ非人道おバカグレートスケベであるボルドー君は、相変わらずである。俺は痔になるように冷たく固い椅子を貸してやった。

 

 

 

 

 

「クリスティーナ様っ! こちらこそよろしくお願いしまっぐへ!」

「よしよしインテリボルドー君は仕事をしようか!!!」

 

 

 

 

鼻の下を伸ばしている暇があれば労働だ。俺は容赦せず浣腸してやった。ざまあみろ。尻を押さえて出ていくボルドー君を見送る俺に、クリスはニコリと笑いかけてくれる。これだから天使のような微笑み攻撃は効果抜群だ。俺は敵を追い払ったことで満足していたが、大事なことをクリスが思い出させてくれた。

 

 

 

 

「坊ちゃま、まもなく誕生会でございますね」

「あっ! そうだった!」

 

 

 

 

俺はもうすぐ9歳になってしまうのだ。なんでも10歳からはお披露目会をするそうで、正当な王位継承権を持つ者として貴族の間で紹介し合うのだそうだ。となれば、俺の王族デビュー前最後の誕生会となるのだ。俺はどうしてもしてみたいことがあった。それはクリスには秘密のことである。俺は密かに計画を立てている傍ら、ボルドー君が株式のことで泣きついて来るためあしらうのに忙しい日々を送っていた。そして、俺は誕生会前日に作戦を決行する。

 

 

 

 

「クリス、街へ行くぞ」

「今日はどのようなご用向きですか?」

「今日は街の情報をこの目で確かめる」

 

 

 

 

俺はクリスと二人で街へ出かけた。かつてより賑わいを見せるこの街では、周辺の街からも商人が流入し始め、以前と比べほどもないほど物が溢れていた。俺は街の変遷を見ながら改善事項を脳内にメモしつつ、お目当ての店に到着する。クリスと一緒に入店すると、そこに広がるのは女性向けのアクセサリー店だった。俺はやはりここは気後れするのだ。前世でも彼女らしい彼女はおらず、デートも数えるほどしか経験していない。そんな俺とボルドー君もそうだが、女性物の商品の取り扱いに困っていた。その視察と言うことで来店したのだ。俺はクリスに店の品について聞いてみる。

 

 

 

 

「クリス、どうだろうか。俺はあまり女性物のアクセサリーについては疎くてな。クリスの意見を聞きたい」

「私でよろしければ・・・・・・」

 

 

 

 

クリスは冷静に商品について教えてくれ、俺はバレないようにメモしつつクリスの様子を窺っていた。煌びやかな、時にちょっと大人向けな品など、我慢しているのだろうか少し頬を赤らめるクリスを眺めながら聞き取るこの仕事はまさに至福の時間だった。そんなこんなで粗方商品の把握を行っていると、いつのまにか店員まで話に混ざり始め、クリスと深く話し込んでしまった。女性の買い物が長いのはこういったこだわりが強いからなのだろうか。俺はへとへとになりながら必死にメモをしまくる。そして、ようやく解放された俺は一度クリスを外で待たせることにする。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま、なにかお忘れ物でも?」

「いいや、店主とこの情報について打ち合わせをしてくる。少しで済むから待っていてくれ」

「承りました」

 

 

 

 

クリスは俺の言いつけを守り待っていてくれた。ここで懺悔しておくが少しというのは語弊があった。待ってくれといって一時間、俺は店から出てこなかった。すっかり日が落ちかけてしまった頃、俺は慌てて店を出た。怒られるか呆れられてしまえば大変だと、俺は店を出てすぐに謝罪の姿勢に入った。なんならジャンピングスライディング土下座までなら披露できるほどだった。しかし、そこには雪を頭の帽子に積もらせたクリスが先ほどの場から少しも動かずに待っていていくれた。俺は急いでクリスの頭に積もった雪を払ってやる。

 

 

 

 

「すまない! 寒い中待たせ過ぎてしまった!」

「いえ、たったの一時間です」

「寒い中のな! 酷い主もいたものだな・・・・・・ごめん」

 

 

 

 

俺がすっかりしょんぼりしていると、クリスはそんな俺を優しく撫でてくれた。俺はそんな優しく可愛いクリスにこれまで時間がかかった原因を手渡す。紙袋をクリスは不思議そうに見ているので、俺は急いで中から一つの品を取り出してみせる。

 

 

 

 

「これは・・・・・・」

「かんざしだ。俺はお金を持てないからな。使ってしまうに限るんだ」

「私にですか?」

 

 

 

 

俺はなんとも気恥ずかしくて早口で話し、目も合わせることができずにいた。だが、クリスはあまりにも寒いところにい過ぎたのか、言葉数が少なく、俺はむしろさらに困惑することになった。

 

 

 

 

「俺は女性物には疎いと言っただろ。それに商品を実際に使う人がいないと分からない・・・・・・だから!実際にクリスが使ってみて感想を教えてく・・・・・・れたら・・・・・・なあ~って・・・・・・」

 

 

 

 

どんどんと自信がなくなっていく。初めて異性にプレゼントを贈るわけだが、こんなにも気恥ずかしくてそわそわするものなのか。世の男性は偉大だぜ。俺は今すぐにでも逃げ出したくなり、思わずクリスを見てしまう。ここでは見てしまったという方が正しいだろう。なぜなら、そこで見てしまったのは女神だったからだ。暗くなりかけた道すがらに落ちている女神をどこぞのだれかが安売りしているのかと思うほどに、それは周りが明るく色づくくらいにといっても過言じゃない。それほどにクリスの顔が弾けていたのだ。喜びって200種類あんねんな。俺には言い表せないほど幸せそうなクリスがそこにいた。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま、大切にします」

「お、おう」

「大切にします!」

「お、おおう」

 

 

 

 

ぎこちないやり取りが交わさせるも、ここで俺がギブアップを迎えてしまった。だって心臓が痛いのよ?俺はまだ十歳にもなってないけどあれかな、心臓を患ったかなと思うほど血圧が上昇していた。そして、俺は照れ隠しに袋の中身を出していく。

 

 

 

 

「そ、それから寒そうだからマフラーと手袋も! ついでだ!」

「はい・・・・・・ついで、ですね?」

「うるさい笑うな!」

 

 

 

 

俺を嘲笑うような、いやいつもと違った笑い方に俺はムズムズしてしまい、その場から早歩きで歩き始める。しっかりと付いてくるクリスは今しがた渡してやったマフラーと手袋、そしてかんざしを付けながら歩いているようだ。雪がちらつく夕暮れに、クリスの俺を呼ぶ声が響く。

 

 

 

 

「坊ちゃま」

「なんだ」

「どうですか?」

 

 

 

 

その姿はまるで艶やかなとでも表現すればよいだろうか、女性耐性のない俺からすればクリティカルヒットそのものだった。どうして俺は男に生まれてしまったんだ、神様ありがとうございます。クリスの手袋マフラーからのかんざし姿アピールはまるで雪の妖精そのものだ。赤い髪にひらりと舞うかんざしと、喜色満面の赤い瞳はこれから白み始めるだろう冬の中でも、一際淡く輝くのだ。俺は言葉を奪われる感覚を初めて味わったわけだが、個性を求める男たるもの何か言わなければ。しかし、俺はありきたりな言葉しか思いつかなかった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・暖かいなら十分だ」

 

 

 

 

 

俺は簡単に可愛いなどと人に言いたくない性分なのだ。前世ではたくさん言ってほしいと女性は言っていたが(そもそも言う相手がいなかったんですけどね)、残念ながら俺はあまり言いたくないのだ。本当にそう思った時にしか言いたくなんだ。自然と口をついて出る本物の言葉、それが可愛いってもんだろう。あ、でも弟のアルフレッドは別よ?あれは特別だから。それにしてもクリスは本当に嬉しそうに俺の後をついて来るもんだ。少し積もった雪を踏みしめる音が、先ほどから軽い。俺は早く帰るため帰路を急ぐ。その後ろでクリスが囁いた気がしたが、気のせいと言うことにしとこうと思う。

 

 

 

 

「とても、温かいです」

 

 

 

 

 

そして、俺は誕生会を迎えた。クリスはかんざしをさりげなくつけてくれているが、俺が指摘してやるまでもないだろう。さらに嬉しいことと言えば、誕生会の最後に弟のアルフレッドが俺に手紙を書いてくれたことだった。そこには感謝の言葉がつづられており、俺は涙を止めることがギリギリできていた。いや、クリスがハンカチで拭いてくれました。びしょびしょになるくらい。弟のアルフレッドも少しずつではあるが、言語能力に成長が見られ、俺を祝う歌をなんと他のみんなと一緒に歌ってくれたのだ。俺は王族デビュー前最後の誕生日を最高の形で迎えることができたのである。

 

 

 

 

 




ボルドー君がいい味を出してくれて助かります
クリスはかわいい

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