田舎の駄菓子屋にいる一般元プロデュエリストと少年 作:ハム山公男
気が向いたら続きを書きます。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ……!」
息が荒い。心臓が早鐘を打っているのが嫌と言うほど分かる。
残りライフは100。対して相手は8000。絶望的な差だが、そこに意味はない。そもそも私が辿り着いたのは、ライフを否定する戦い。
だから意味があるのは、ボードと手札のアドバンテージ。ドローフェイズ。このドローに、全てがかかっている。
「ドロー!! ッッ!!」
――来た。
私は引いたカードをデュエルディスクの魔法・罠ゾーンに勢いよく差し込む。
起死回生の一手。これで『負けはない』。
「速攻魔法、≪黄金の雫の神碑≫発動! 効果により、お前はデッキから一枚ドローし――」
「チェーンする。リバースカードオープン――≪コズミック・サイクロン≫」
その、はずだった。
「ライフを1000支払い、お前のフィールド魔法≪神碑の泉≫を除外する」
「あっ……!!」
死んだ。
本気で、そう思った。
ソリッドビジョンとは思えない星々の暴風が、私のフィールドを粉々に引き裂き、次元の彼方へと吸い込んでいく。
唯一の手札は相手に利するカードであり、デッキの心臓は場から取り除かれた。回復するはずだった手札は、0へ。壁となるモンスターすら残せず、盤面には発動済みの永続罠が残るのみ。
正真正銘のリソース切れ。ここから動ける方法は、なかった。
『いいぞー! キング!!』
『神碑使いなんざやっちまえ!! 殺せェ!!』
嫌な声が、耳に入ってしまった。
努めて聞かないようにしてきた言葉。勝つために切り捨てたはずの感情が、観客席からの悪意によって揺り動かされる。
折れそうになる心をそれでも奮い立たせ、私は悲鳴を上げる。
「っだけど、だけど! お前にもモンスターは残っていない!! 万別と割拠のロックも残っている!! そうだ、まだ私は――」
「逆順処理により、俺はカードを1枚ドローし、デッキの上から4枚を除外する。……チェーン処理完了。やることがないのなら、エンドしろ」
「っ……ターン、エンド」
男の冷たい声に、思わずそのまま従ってしまった。
事実、私にやれる事はなく、永続罠による召喚制限も関係なかった。私のライフは、100しかないのだから。
奴が攻撃力を持つ下級モンスターを引けば、引いていれば、私は終わりなのだ。
「俺のターン、ドロー! 出でよ、≪スプライト・ブルー≫!!」
「……………………」
祈りに意味などない。それを私は、その時既に嫌と言うほど知っていた。
だから、声など出なかった。ストンと己の敗北を受け入れた。
何かが砕けたり、重くなったり、そんな劇的な事はなかった。
だた、現実などこんなものだという諦めがあるだけだった。
ふと、笑う。
なにが『負けはない』だ。勝つ事を考えられていないデュエリストが、勝てるものか。
青い雷光が、伸びた。
「バトル! ダイレクトアタック!」
「……私の、負けだ」
そして、私は夢破れた。
ありふれた、よくある話だった。
☆
努力で夢が叶うなんていうのはまやかしだ。
努力しているのは最低条件。その先にあるのは、才能の世界。
一瞬、指先を夢に届かせる事はできるかもしれない。けれど、夢は叶えば日常になる。
その先にあるのは、自分より努力していて、自分より才能のある人間と、対等な土俵で戦わされる地獄である。
楽しいという感情が擦り切れて、敗北に何も感じなくなって、勝利の瞬間以外に己の価値はなくなっていく。
――だから、私は逃げた。
魂が擦り切れたから、と言えば格好はつくかもしれない。
だがその実体は、人生をかけて努力してきた事を投げ捨てただけの話だ。
心の弱さ故に。才能の差などという、ただの感覚の話に耐えきれず。人生を投げ出してでも、私は逃げたかった。
そうでなければ、きっと私は命を投げ捨てていたから。
だけど同時に、私は思う。
無様にも生きながらえて、虚無を噛みしめる人生に、なんの意味があったのか。
所詮はその程度の人間であったと思い知らされる日々を、生きる理由はなんなのか。
いっその事、命を投げ捨ててしまえればよかったのに――。