フシギナセンセイ   作:聖剣エクスカリ棒

11 / 14
はじまりのおわり

倉庫に積まれた補給物資の数々。

大量の弾薬や保存用の食料に医薬品、更には酸素ボンベや水筒なども含まれている。

 

ほんの数時間前とは比較にならない程のそれらを前に、アビドスの生徒達は呆気に取られている。

 

「何が、起きたの……?」

 

猫耳の少女こと、セリカが混乱しているのも無理は無い。 何せ、ついさっきまで、ここにあった物資は底をつきかけていたのだ。

それなのに、ものの数十秒で溢れんばかりの物の山が出来ていては、誰でも目を回すだろう。

 

「うへ〜、先生、こんな量をどこから持ってきたの? これに入ってたとか?」

 

隣によってきたオッドアイの少女──ホシノが、俺の握るキャリーバッグをつつく。

実際、このキャリーバッグ以外は倉庫に持ち込んでいない以上、それくらいしか可能性は残されていない訳だが。

 

「このキャリーバッグは私用だよ。 物資は知り合いに力を借りたんだ」

 

「へぇ、すごい人だねぇ。 こんな荷物を一瞬で運ぶなんて」

 

感心したような声でゆったりと話すホシノ。

ずっとのんびりしているようで常に俺を見ているあたり、余程警戒しているみたいだ。

 

「これなら、いつヘルメット団がやってきても安心です☆」

 

ふんわりとした笑顔のノノミが両手を胸の前で握る。

 

ヘルメット団というのは、現在アビドスに襲撃を繰り返している組織。 正式名をカタカタヘルメット団。

その辺もアヤネが分かりやすく説明してくれている。

 

「仕分けはしなきゃだけど……、うん。 これなら、2ヶ月は弾薬に困らない」

 

「うわ、よく見たら化粧品とかまで入ってる……。 ここまで来たら補給品の域超えてない……?」

 

セリカと、銀髪の少女ことシロコが、2人で積まれた物資を仕分け始める。

どれくらい必要か分からなかったけど、充分な量はあるみたいだ。

 

俺も手伝おうかと思っていると、隣にアヤネがやってきた。

 

「お礼ばかりですが、本当にありがとうございます、先生。

来てくださったことと、これだけの物資を持ってきてくださったこと。 それだけでも、私たちにはとても心強いです」

 

「それは私のおかげなんかじゃなくて、皆が諦めなかった結果だよ」

 

皆が諦めずに手を尽くしたからこそ、俺はアビドスのことを知れた。

努力に結果が付いてきただけだ。

 

「手伝えることがあったら言ってほしい。 出来る限りは手を貸すからさ」

 

「はい。 先生に来て頂けて良かったです」

 

笑顔を見せるアヤネ。

まだ来たばかりだけど、こうして力になれているのを見ると、それだけでも来て良かったと思える。

 

「それじゃ、私たちも仕分けをしましょう!」

 

両手を合わせるノノミに、アヤネも頷く。

 

「そうですね。 6人なら、遅くなる前には終わると思います」

 

「うへ〜、おじさん、座り仕事はキツいなぁ」

 

「私たちと年齢変わらないでしょ、先輩」

 

皆で床に座り込み、積まれた物資の山を崩して仕分けをしていく。

 

弾薬類を見た経験が少ないため手間取る俺に対し、アビドスのみんなは手際よく分別を進めていく。

始めてすぐは頑張っていたものの、毎回並べられた弾薬と見比べるのは効率が悪く、最終的に日用品の仕分けをメインで行った。

 

アビドスに到着したのが昼時で、倉庫に来たのが14時頃。

仕分け作業が終わった時には日も大きく傾き、茜色が空を満たしていた。

 

「終わったわね……」

 

「まだですよ、セリカちゃん。 弾や装備はここに置いておいても良いですけど、食料な日用品は校舎に運ばないと」

 

「安心して欲しい、私が居る」

 

「おじさん、シロコちゃんがこんなに頼もしく見えたのは初めてだよ」

 

「シロコさんばかりに任せず、全員で手分けして運びましょう」

 

張り切るシロコを先頭に、全員で日用品類や保存食を抱えて歩く。

暗くなりかけた静かな校舎に、6人分の足音が響き渡る。

 

「さすがに嵩張りますね……」

 

「部室に紙袋が何枚かあったから、それを使いましょ」

 

「ん、私は必要ない。 先に行く」

 

「走ると危ないよ、シロコ……聞こえてないか」

 

缶詰などの重いものを担当しているとは思えない速度で、1人加速して離れていくシロコ。

注意の言葉をかけるも、既に曲がり角を曲がって姿は見えない。

 

残った皆で苦笑しながら先に進んでいると、つい数秒前に走り去ったばかりのシロコが隣をすれ違い、後方へと消えていった。

 

「凄い速さだね」

 

「あはは……。 シロコ先輩は、この中でも特に身体能力は高いので」

 

空き教室の1つの扉を開け、ティッシュペーパーや洗剤を棚に置く。

長いことそういう目的でしか使われていないのであろう教室は、対策委員会の部室ほど掃除が行き届いていない。

 

「あ、先生」

 

「シロコ。 もう持ってきたの?」

 

「ん。 まだ体があったまってきたくらい」

 

行ってくる、と言って再び走り出すシロコ。

結局シロコは、荷物の半分を1人で運びきった。

 

 

 

★★★

 

 

 

「これで、今度こそ……終わりっ!」

 

「うへ〜、おじさんはもうだめだ〜」

 

セリカが紙袋を机に置き、ホシノが床に寝転ぶ。

倉庫と教室を3往復してようやく荷物を全て運び終えることが出来た。

 

胸を抑え、変になる呼吸を深呼吸で誤魔化す。

 

「皆はもっと鍛えるべき。 明日から、私とランニングに行こう」

 

「さすがシロコちゃん、まだ元気ですね☆」

 

ひと仕事を終え、机や椅子に思い思いに座る対策委員会の面々。

俺の知る人間とはやはり違うのだろう、シロコ以外もさほど疲れた様子は見えない。

 

「もうすぐ日も落ちちゃいますね。 今日はこのまま帰りますか?」

 

「そうだね。 じゃあ今日は解散、また明日ね〜」

 

ホシノの号令で全員が空き教室を出ていく。

壁にもたれてそれを見送っていると、ノノミだけが教室内へと戻ってくる。

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

「……っ、ん」

 

返事をしようとするも、上手く言葉が出ない。 咳き込みそうになるのを堪え、首を縦に振る。

 

当然、今更それを信じてもらえることは無い。

 

「さっきから様子がおかしかったので。 ホシノ先輩も気づいていたと思いますよ?」

 

「そ……っか」

 

「無理に話さないでください。 今日は私が送りますね」

 

体を支えられながら1歩ずつ教室の外に出る。

ちょっとずつではあるけど、動悸も治まってきている。

 

「ノノミ……皆には、秘密でね」

 

「それは……」

 

「お願い」

 

翠色の瞳見つめ、添えられた手を握る。

俺の事を知られる分には構わない。 だけど、それでアビドスの負担になるのは望んでいない。

 

「……わかりました。 でも、ホシノ先輩にだけはお話します」

 

「ごめんね」

 

不満や心配が伺える表情は、出会ったばかりの俺の事でも真剣に考えているからこそ。

純粋な優しさを無下にするのは、やっぱり胸が痛んだ。

 

 

 


 

 

 

「そっか。 態々ごめんね、ノノミちゃん」

 

『大丈夫です。 ……ホシノ先輩』

 

「なぁに?」

 

『先生はきっと、悪い人じゃないと思います』

 

「……そっか」

 

『それじゃあ、おやすみなさい』

 

浮かび上がっていたホログラムが消え、通話が途切れる。

 

驚くほどの早さでやってきたシャーレの先生。

私たちとさほど年齢も変わらず、人に好かれるような温和な雰囲気の大人の事を、ノノミちゃんは信じたいと言った。

 

確かに、今日1日観察していて、怪しい人物には見えなかった。

手紙が届いて直ぐにアビドスに来てくれたし、アビドスの事を少しでも多く知ろうとしてくれた。

ノノミちゃんへのお願いも、私たちに心配をかけなせない為だと考えれば説明もつく。

そもそも、シャーレの先生が私たちを騙す理由が無い。

 

「だけど……ッ」

 

膝に顔を埋める。

 

どれだけ優しそうに見えても、裏の顔を想像してしまう。 騙しているのではないかと疑ってしまう。

 

早く来たのは、予め手紙を出すと知っていたからでは無いのか。

アヤネちゃんの話をよく聞いていたのは、情報を探るためでは無いのか。

何か良くないことを隠すための口封じでは無いのか。

……本当にシャーレの先生は味方なのか。

 

そんな自分が酷く惨めだ。

 

 




今回の√分岐
・キャリーバッグの中身を見せればホシノの好感度が上がる
・荷物を運ぶ際に無理をして大量の物を持つと、階段から落ちて道場行き
・走るシロコの前に立つと撥ねられて道場行き
・帰宅の際、最初に出会ったのがホシノの場合のみ、ホシノに送って貰える
・口止めをしない場合、ホシノからの好感度が上がる

物資を運んだ方法を話す分岐は存在しない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。