倉庫に積まれた補給物資の数々。
大量の弾薬や保存用の食料に医薬品、更には酸素ボンベや水筒なども含まれている。
ほんの数時間前とは比較にならない程のそれらを前に、アビドスの生徒達は呆気に取られている。
「何が、起きたの……?」
猫耳の少女こと、セリカが混乱しているのも無理は無い。 何せ、ついさっきまで、ここにあった物資は底をつきかけていたのだ。
それなのに、ものの数十秒で溢れんばかりの物の山が出来ていては、誰でも目を回すだろう。
「うへ〜、先生、こんな量をどこから持ってきたの? これに入ってたとか?」
隣によってきたオッドアイの少女──ホシノが、俺の握るキャリーバッグをつつく。
実際、このキャリーバッグ以外は倉庫に持ち込んでいない以上、それくらいしか可能性は残されていない訳だが。
「このキャリーバッグは私用だよ。 物資は知り合いに力を借りたんだ」
「へぇ、すごい人だねぇ。 こんな荷物を一瞬で運ぶなんて」
感心したような声でゆったりと話すホシノ。
ずっとのんびりしているようで常に俺を見ているあたり、余程警戒しているみたいだ。
「これなら、いつヘルメット団がやってきても安心です☆」
ふんわりとした笑顔のノノミが両手を胸の前で握る。
ヘルメット団というのは、現在アビドスに襲撃を繰り返している組織。 正式名をカタカタヘルメット団。
その辺もアヤネが分かりやすく説明してくれている。
「仕分けはしなきゃだけど……、うん。 これなら、2ヶ月は弾薬に困らない」
「うわ、よく見たら化粧品とかまで入ってる……。 ここまで来たら補給品の域超えてない……?」
セリカと、銀髪の少女ことシロコが、2人で積まれた物資を仕分け始める。
どれくらい必要か分からなかったけど、充分な量はあるみたいだ。
俺も手伝おうかと思っていると、隣にアヤネがやってきた。
「お礼ばかりですが、本当にありがとうございます、先生。
来てくださったことと、これだけの物資を持ってきてくださったこと。 それだけでも、私たちにはとても心強いです」
「それは私のおかげなんかじゃなくて、皆が諦めなかった結果だよ」
皆が諦めずに手を尽くしたからこそ、俺はアビドスのことを知れた。
努力に結果が付いてきただけだ。
「手伝えることがあったら言ってほしい。 出来る限りは手を貸すからさ」
「はい。 先生に来て頂けて良かったです」
笑顔を見せるアヤネ。
まだ来たばかりだけど、こうして力になれているのを見ると、それだけでも来て良かったと思える。
「それじゃ、私たちも仕分けをしましょう!」
両手を合わせるノノミに、アヤネも頷く。
「そうですね。 6人なら、遅くなる前には終わると思います」
「うへ〜、おじさん、座り仕事はキツいなぁ」
「私たちと年齢変わらないでしょ、先輩」
皆で床に座り込み、積まれた物資の山を崩して仕分けをしていく。
弾薬類を見た経験が少ないため手間取る俺に対し、アビドスのみんなは手際よく分別を進めていく。
始めてすぐは頑張っていたものの、毎回並べられた弾薬と見比べるのは効率が悪く、最終的に日用品の仕分けをメインで行った。
アビドスに到着したのが昼時で、倉庫に来たのが14時頃。
仕分け作業が終わった時には日も大きく傾き、茜色が空を満たしていた。
「終わったわね……」
「まだですよ、セリカちゃん。 弾や装備はここに置いておいても良いですけど、食料な日用品は校舎に運ばないと」
「安心して欲しい、私が居る」
「おじさん、シロコちゃんがこんなに頼もしく見えたのは初めてだよ」
「シロコさんばかりに任せず、全員で手分けして運びましょう」
張り切るシロコを先頭に、全員で日用品類や保存食を抱えて歩く。
暗くなりかけた静かな校舎に、6人分の足音が響き渡る。
「さすがに嵩張りますね……」
「部室に紙袋が何枚かあったから、それを使いましょ」
「ん、私は必要ない。 先に行く」
「走ると危ないよ、シロコ……聞こえてないか」
缶詰などの重いものを担当しているとは思えない速度で、1人加速して離れていくシロコ。
注意の言葉をかけるも、既に曲がり角を曲がって姿は見えない。
残った皆で苦笑しながら先に進んでいると、つい数秒前に走り去ったばかりのシロコが隣をすれ違い、後方へと消えていった。
「凄い速さだね」
「あはは……。 シロコ先輩は、この中でも特に身体能力は高いので」
空き教室の1つの扉を開け、ティッシュペーパーや洗剤を棚に置く。
長いことそういう目的でしか使われていないのであろう教室は、対策委員会の部室ほど掃除が行き届いていない。
「あ、先生」
「シロコ。 もう持ってきたの?」
「ん。 まだ体があったまってきたくらい」
行ってくる、と言って再び走り出すシロコ。
結局シロコは、荷物の半分を1人で運びきった。
★★★
「これで、今度こそ……終わりっ!」
「うへ〜、おじさんはもうだめだ〜」
セリカが紙袋を机に置き、ホシノが床に寝転ぶ。
倉庫と教室を3往復してようやく荷物を全て運び終えることが出来た。
胸を抑え、変になる呼吸を深呼吸で誤魔化す。
「皆はもっと鍛えるべき。 明日から、私とランニングに行こう」
「さすがシロコちゃん、まだ元気ですね☆」
ひと仕事を終え、机や椅子に思い思いに座る対策委員会の面々。
俺の知る人間とはやはり違うのだろう、シロコ以外もさほど疲れた様子は見えない。
「もうすぐ日も落ちちゃいますね。 今日はこのまま帰りますか?」
「そうだね。 じゃあ今日は解散、また明日ね〜」
ホシノの号令で全員が空き教室を出ていく。
壁にもたれてそれを見送っていると、ノノミだけが教室内へと戻ってくる。
「先生、大丈夫ですか?」
「……っ、ん」
返事をしようとするも、上手く言葉が出ない。 咳き込みそうになるのを堪え、首を縦に振る。
当然、今更それを信じてもらえることは無い。
「さっきから様子がおかしかったので。 ホシノ先輩も気づいていたと思いますよ?」
「そ……っか」
「無理に話さないでください。 今日は私が送りますね」
体を支えられながら1歩ずつ教室の外に出る。
ちょっとずつではあるけど、動悸も治まってきている。
「ノノミ……皆には、秘密でね」
「それは……」
「お願い」
翠色の瞳見つめ、添えられた手を握る。
俺の事を知られる分には構わない。 だけど、それでアビドスの負担になるのは望んでいない。
「……わかりました。 でも、ホシノ先輩にだけはお話します」
「ごめんね」
不満や心配が伺える表情は、出会ったばかりの俺の事でも真剣に考えているからこそ。
純粋な優しさを無下にするのは、やっぱり胸が痛んだ。
「そっか。 態々ごめんね、ノノミちゃん」
『大丈夫です。 ……ホシノ先輩』
「なぁに?」
『先生はきっと、悪い人じゃないと思います』
「……そっか」
『それじゃあ、おやすみなさい』
浮かび上がっていたホログラムが消え、通話が途切れる。
驚くほどの早さでやってきたシャーレの先生。
私たちとさほど年齢も変わらず、人に好かれるような温和な雰囲気の大人の事を、ノノミちゃんは信じたいと言った。
確かに、今日1日観察していて、怪しい人物には見えなかった。
手紙が届いて直ぐにアビドスに来てくれたし、アビドスの事を少しでも多く知ろうとしてくれた。
ノノミちゃんへのお願いも、私たちに心配をかけなせない為だと考えれば説明もつく。
そもそも、シャーレの先生が私たちを騙す理由が無い。
「だけど……ッ」
膝に顔を埋める。
どれだけ優しそうに見えても、裏の顔を想像してしまう。 騙しているのではないかと疑ってしまう。
早く来たのは、予め手紙を出すと知っていたからでは無いのか。
アヤネちゃんの話をよく聞いていたのは、情報を探るためでは無いのか。
何か良くないことを隠すための口封じでは無いのか。
……本当にシャーレの先生は味方なのか。
そんな自分が酷く惨めだ。
今回の√分岐
・キャリーバッグの中身を見せればホシノの好感度が上がる
・荷物を運ぶ際に無理をして大量の物を持つと、階段から落ちて道場行き
・走るシロコの前に立つと撥ねられて道場行き
・帰宅の際、最初に出会ったのがホシノの場合のみ、ホシノに送って貰える
・口止めをしない場合、ホシノからの好感度が上がる
物資を運んだ方法を話す分岐は存在しない