爆発で生まれた隙。
そこを狙い、ノノミのガトリング砲とホシノのショットガンが火を噴く。
向かって左側の敵は容赦の無い連射を受け吹き飛び、右側の敵は素早く動くホシノを捉えることが出来ない。
「ホシノ、そこの影に2人。 右側から回り込んで」
「おっけー」
シッテムの箱と自分の目。 この2つの視野があれば、全ての敵の位置を把握することは容易い。
小柄なホシノは遮蔽物を上手く利用し、身を隠しながら死角から散弾を撃ち込んでいく。
「先生」
「うん、見えてるよ」
ホログラムの左上に顔を出すアロナ。
俺のいる位置からじゃ見えない。 だけど、俯瞰的な視点のホログラムには、姿を隠して反撃しようとする2人のヘルメット団が映し出されている。
圧倒的な火力を誇るノノミのガトリングも、銃である以上は必ずリロードを挟まなければならない。 そこを狙うつもりなのだろう。
「シロコ、手榴弾はあと幾つ?」
「2つ。 どこに投げればいい?」
「シロコから見て30mくらい先にある、トラテープの入ったブロックに。 出てきたところを狙って」
「ん、分かった」
ガトリング砲が止まる前に、再び投擲される手榴弾。
指示した場所ぴったりに飛来したそれを見て、隠れていた2人組が慌てたように陰から飛び出す。
そうして姿を現した2人に、狙いをつけていたシロコの銃弾が襲いかかった。
「1度リロードに入りますね」
「了解。 アヤネはドローンで弾薬の運搬、シロコとセリカは指示する通りに牽制して」
「任せて!」
「すぐにドローンを飛ばします。 少し待っていてください」
巨大な機関銃から吐き出されていた銃弾の雨が止まる。
相対していたヘルメット団は多くが倒れ、射線上にあったコンクリートブロックは粉々。
この場において最強と言っても過言では無い攻撃が遂に止まり、残ったヘルメット団達は一転攻勢とばかりに反撃を狙い始める。
……その動きも全て、シッテムの箱で見えている訳だが。
「2秒後にそこを通るよ」
セリカとシロコに指示する牽制を偏らせれば、相手は自ずと空いている場所に集まってくる。
本物には遠く及ばないが、誘い込んで一網打尽にする手法は何度も見てきた。
「今!」
「よいしょー!」
屈んだ状態で移動していたヘルメット団。 その先頭に居た生徒の頭に、隠れていたホシノが銃床を叩きつける。
一撃で気を失う生徒。 その体を後ろにいた集団へと投げつけ、ホシノはショットガンを乱射する。
「リロード終わりました! いつでも行けます☆」
「じゃあ、このまま一気に片をつけようか」
道路に散乱する瓦礫を飛び越え、ホシノの元に対策委員会が集っていく。
「ホシノ、盾!」
「はいはい、みんな集まって〜」
慣れた手つきでホシノがカバン型の盾を展開。
盾の中へと滑り込んだセリカと共に、銃弾から身を守りながら2人で距離を詰める。
「アヤネ、撹乱できる?」
「やってみます!」
「敵の意識が逸れたらシロコとノノミが攻撃。 ホシノとセリカは圧をかけ続けて」
着々と近づいてくる盾を警戒するヘルメット団の元に、大きな音を立てながらドローンが接近。
緻密に操縦されるドローンは視界の端を動き、嫌でもその存在を意識させる。
「っ、クソ!」
迫ってくる敵と飛び回るドローンのプレッシャーに耐えきれなかった1人が、銃口をドローンへと向ける。
その瞬間、その体を何発もの弾丸が撃ち抜いた。
完全な意識外からの攻撃を受け、全員の意識が逸れる。
その一瞬は、重い機関銃を構えるのには充分だった。
★★★
「カタカタヘルメット団、撤退していきました」
「まさしく大勝利です☆」
「持ってた装備も奪ってやったし、なんだか凄くスカッとした!」
校舎から見下ろす先で、起き上がったカタカタヘルメット団が逃げ去っていく。
こちらは殆ど損害無しでの完全勝利に、教室内は賑やかな空気が流れていた。
初めて使ったシッテムの箱の戦闘補助も、指示を出す上でこれ以上無いくらいに有用だった。
起動してすぐだけは、慣れない目での情報確保に不安も感じたけど、それもこの1戦でとっくに解消済み。 次からは味方の補給を気にする余裕もできるはずだ。
パイプ椅子に身を預けて喜ぶ皆を眺めていると、同じく脱力して様子を見ていたホシノと目が合った。
何となく嫌な予感を感じる。
「みんな浮かれてるとこ悪いんだけどさ、おじさん、ちょっと先生に言いたいことがあるんだよね〜」
全員に聞こえるような声量で発せられた言葉。
談笑していた4人の視線が俺へと向けられ、そしてハッとした顔になる。
「ん、私も、先生に言うことがあった」
「私もです! きっとみんなもありますよね?」
「当然!」
「全員言いたいことは同じでしょうから、代表としてホシノ先輩、お願いします」
座っていた椅子から立ち上がり、ゆっくりと近づいてくるホシノ。
無言のまま目の前までやって来て、座っている俺の膝へと腰を下ろす。
「それじゃあ先生」
伸びてきた両手が俺の頬を引っ張る。
膝の上から見上げるホシノが、にっこりと笑顔を浮かべた。
「あんな無茶な作戦の弁明、聞こうか?」
見た目はいつものホシノと変わらないのに、ひしひしと感じる威圧感。
戦闘をしている間は何も言われなかったけど、やっぱり俺のやり方には不満だったらしい。
ユウカ達にも不評だったし、あまり受け入れられるものじゃないみたいだ。
体重を預けるホシノと、俺を囲むように座る4人からは、逃がさないという意志が伝わってくる。
隠すようなことでも無いので、キャリーバッグの上に置いておいたシッテムの箱を持ち上げる。
「このタブレットはシッテムの箱って言って、見た目からは分からないけど凄い技術で作られたものらしいんだ」
シッテムの箱の機能をかいつまんでみんなに説明する。
一通りの事を話し終えると、教室中を大きなため息が満たした。
「……つまり、先生はそのタブレットの機能で安全だったと」
「うん。 先に教えておかなかった私が100%悪いから、みんなに怒られるのは仕方無いと思ってる」
「当たり前じゃない! こっちは先生が死んじゃうと思って気が気じゃなかったんだから!」
耳を立てて吠えるセリカ。
こうして目の前で怒る生徒を見て、改めて自分の生死観の歪みを実感した。
今は生きると死ぬの2極じゃない。 そう理解はしていても、体に染み付いた動きや思考はそう簡単に変わってくれない。
「ごめん、次からは気を付ける」
「本当だよ。 これでも先生には感謝してるんだからさ?」
ぐりぐりと押し付けられる後頭部。
覗き込むような青と黄の瞳からは、確かに優しさが感じられた。
「ホシノ先輩、そろそろ降りて」
「え〜? でも先生、結構座り心地良いからなぁ。 座られ慣れてる感じ?」
「シロコ先輩の言う通り、話したいこともあるので自分の席にお願いします、ホシノ先輩。 先生がいるとはいえ、次の襲撃の事も考えないといけません」
アヤネに促され、ホシノが渋々自分の椅子へと戻っていく。
そこまで気に入られたのは、椅子として喜んでいいのだろうか。
襲撃を受ける前のように、俺も含めた対策委員会で机を囲む。
「今少しだけ話しましたが、恐らくヘルメット団はまた襲撃をしてくるはずです」
「そうだね。 負けたからといって諦める連中なら、とっくの昔に攻撃は終わってる」
「その通りです。 なので、これからの対応をこのタイミングで話しておこうと思いまして」
アヤネの言うことも頷ける。
俺の居る戦闘を終え、ヘルメット団を退けて安全な今なら、今後の話し合いを行うのに最適だ。
1度戦闘を済ませたなら、それを元に色んな事を考えることも出来る。
「そういう事なら、ちょっと計画を練ってみたんだ〜。 本当はさっき言おうとしてたんだけど」
「えっ!? ホシノ先輩が!?」
「言われてみれば。 ヘルメット団が来る直前、何か言いかけてましたね?」
「そもそも今日集まったのがホシノの提案だったね」
「そうそう。 元々この話をするつもりだったんだ」
そう話すホシノは、特有のふにゃふにゃとした雰囲気も少し収まっているように見える。
「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃してくる。 だから、このタイミングでこっちから仕掛けて襲撃しようかなって。 今なら先生も居るしさ」
語られるホシノの練った作戦。
確かに、襲撃を行ったばかりの上、所持していた装備も奪っている。 今なら、ヘルメット団の守りはきっと手薄になっている。
「良いと思います。 あちらも、まさか今から反撃されるなんて、夢にも思っていないでしょうし」
「相手を攻撃するなら今が良いね」
「ヘルメット団の前哨基地はここから30kmくらいだし、すぐに出発しよう」
この場でホシノの計画に反対する者は居ない。
防戦一方だとこちらが不利だし、どのみち現状を変える必要がある。 攻めることが出来るなら、すぐにやるべきだ。
「おー、みんな乗り気だ。 さっきのダメージもほとんど無いし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー」
「はい〜それでは、しゅっぱーつ!」
ノノミの号令に、全員の掛け声が重なった。
「あ、次からはああいう作戦はナシでね」
ホシノに念押しをされた。
今回の√分岐
・弁明に失敗したら全員の好感度が下がる
・襲撃に反対したら防戦が続き、いずれ道場行きになる可能性