フシギナセンセイ   作:聖剣エクスカリ棒

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3日に1回くらいのペースで投稿していきます


先生の手作り朝ごはん

シャーレへと向かう足取りは軽く、自分でも分かるくらいに気持ちが浮ついている。

 

今日は待ちに待った当番の日。

当番以外でも先生と顔を合わせる事はあるが、1日の大半を共に過ごせる日はやはり特別だ。

 

肩を並べ、談笑し、同じ作業を行い、共に食卓を囲む。

そんな1日を期待しながら、シャーレへと足を踏み入れ──

 

「おはよう、ハルナ」

 

朝の陽射しにも負けない、柔らかで暖かい笑顔。

エプロンを着た先生の出迎えを受け、自然と頬が緩んだ。

 

「ええ、おはようございます、先生」

 

今日はきっと素晴らしい1日になる、と。

この一瞬で、不思議と直感した。

 

 

★★★

 

 

シャーレ居住区の一角にある食堂。

先生に促されるがままにそこへ入ると、ふわりと朝餉の良い匂いが鼻をくすぐる。

食堂のキッチンに、誰かが用意したと思しき料理が準備されていた。

 

「これは先生が?」

 

「うん。 教わりながら作ってみたんだ」

 

「なるほど。 それは、先生に言われた通り、お腹を空かせてきた甲斐がありましたわ」

 

昨晩モモトークに届いた、先生からのメッセージ。

『明日の朝に食べて欲しいものがあるから、少しお腹を空かせて来てくれないかな?』

 

受け取った時から期待はしていたけれど、先生の手料理とは想定外。

 

先生の手料理は、未だに一部の生徒しか食べたことの無い都市伝説の様なもの。 噂によると、美味しすぎて記憶に刻まれるほどとの事。

それを、あろうことか先生と共に食べる機会が訪れたのだ。 嬉しくないわけが無い。

 

「座って待ってて。 直ぐに持っていくから」

 

「いいえ、私も手伝いますわ。 先生ばかりに任せきりと云うのも気が引けますから」

 

「そっか。 じゃあ、お願いしようかな」

 

ただ貰ってばかりというのも申し訳無く思い、協力を申し出る。

私の言葉に、先生は嬉しそうに微笑んだ。

先生は、本当によく笑う。 笑い慣れているとでも表せばいいのか、ことある事に、見る人も幸せにするような笑顔を浮かべるのだ。

 

先生の笑顔は、楽しさや喜び以上に、日常そのものを幸せだと感じているようで。

私は、先生のそのようなところが──。

 

「ハルナ、配膳してくれる?」

 

「お任せください」

 

先生の頼みに答える声は、自分で思ったよりも力強く。

 

先生がよそったご飯やお味噌汁をお盆に乗せて、ゆっくりと身近なテーブルに運ぶ。

次いで食器類を並べていると、先生がおかずの品を持って自分の隣へとやってきた。

 

「焼き鮭、それに、ほうれん草ともやしの和え物ですわね」

 

「栄養が偏らないように考えたんだけど、あんまり自信はないかな」

 

そっとテーブルに置かれる平皿と小鉢。

いかにも和を感じさせるような朝食は、不思議と自分が普段食べるものの何倍も美味しそうに見えた。

 

エプロンを外す先生とテーブルを挟むように腰を下ろし、目の前に並ぶ出来たての料理に向かって、手を合わせる。

 

「いただきます」

 

美食を探求する者として、最低限のマナーを守るのは当然のこと。

 

温かい料理が冷めてしまうのは勿体ないので、早速頂こうとお椀を手に取る。 お味噌汁の香りが空の胃袋を刺激した。

そのまま一口お味噌汁を啜ると、しっかりした出汁の風味と味噌の味が喉を流れ、身体中を暖めていく。

 

ほっと一息ついて、ふと顔を上げる。 すると、先生が此方を見つめていた。

 

「ど、どうされました? 私に何か……」

 

「あ、いや、そういうんじゃなくて。 ハルナの口に合ってたかなって」

 

気恥しそうに頬を掻く先生。

だけど、先生が私の為に作ってくださったのだ。 美味しくない筈が無い。

 

「大丈夫ですわ。 とても……ええ、とても美味しいです」

 

出来たての熱と優しい味付け、そして何より、先生が1品1品を作っている姿を想像するだけで、充分満足出来るというもの。

真の美食とは、ただ美味しいだけでは無いのだ。

 

私の答えに、先生は安心したように脱力して、椅子に座り直す。

 

「じゃあ、お……じゃなくて、私も食べようかな」

 

「ええ。 先生がお作りになったのですから」

 

「そうだね。 ハルナのお墨付きも貰ったし。 いただきます」

 

しっかりと手を合わせ、食事を始める先生。 その所作は、どこかで習ったのか、丁寧で美しい。

私も食事を再開し、会話を混じえながら朝食を味わう。

 

「それにしても、本当に美味しいですわね。 先生は料理の経験がおありですの?」

 

「経験自体は無くはないけど、今日は先生役に教えて貰いながらだよ」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

先生が料理の手解きを受けている人物。 一体何処の生徒なのか、とても気になる。

 

身近で心当たりのある人物と言えば、給食部のフウカさんですが……。

 

ここへ訪れる途中、シャーレの付近でフウカは見ていない。 別の道を通ったりした可能性も無くは無いが、どちらかと言えば別の生徒の可能性の方が高いだろう。

 

「その先生役の方にも、いつか会ってみたいですわね」

 

「あはは……。 まぁ、そのうちね」

 

そうして、話題が移り変わる。

 

会話の内容は様々で、今日の予定や、ここ最近の出来事。

先生は、私が話す事柄の全てに反応を返してくれる為、つい色んなことを話してしまう。

少し口が滑り、騒動を起こしてしまった事を話した時も、先生は考えを否定することなく、行動の行き過ぎた部分だけを窘められた。

 

楽しみながら半分ほどを食べ終えた頃、正面に座る先生を見て、ふと前々からの疑問を思い出した。

 

「先生はいつも手袋を付けていらっしゃいますわね。 外されたりはしませんの?」

 

先生は常に、白い手袋を付けて生活している。 それは食事の時も例外ではなく、他のマナーは守る先生だけに、特に目立っている。

そんな私の疑問に、先生は困ったような笑顔を見せる。

 

「ちょっと色々あってね。 タトゥーみたいなものがあるから、人にあまり見せたくないというか……」

 

「タトゥー、ですか?」

 

予想外の理由に驚く。

勿論、人の趣味は様々だと理解している。 しかし、普段の先生を知っていると、タトゥーを彫るような人物には思えない。

 

「似たようなものだけど、それを見られるのが恥ずかしいから、手袋はあまり外したくないんだ」

 

「そうだったのですね。 なんと言うか、意外ですわ」

 

無意識か、右手の甲を摩る先生。

 

先生の知らない一面を知り、箸を動かす手が遅くなる。

そんな私を見て、先生がそう言えば、と何かを思い出したように口を開く。

 

「私も、ハルナがカップ麺を食べるのは意外だったよ。 そういう安い物を食べるイメージが無かった」

 

「私も、カップ麺くらい食べますわ。 美食の研究の為には、多くの物を食べる事も必要ですから」

 

「なるほど、流石だね」

 

 

 

 

 

朝の澄んだ空気の中で、先生を相手に、途切れない会話と美味しい食事を楽しむ。

それは、今までの食事の中でも類を見ない程、素晴らしい時間で。

 

「ご馳走様でした」

 

「お粗末さまでした」

 

一緒に手を合わせて、頭を下げる。

時間にして30分程。 名残惜しくはあるが、今日はまだ始まったばかりだ。

 

すっかり空になってしまった食器を重ね、シンクの方へ持っていこうと椅子から立ち上がる。

 

「あ、ハルナ。 食器は後で洗っておくから、シンクに置いておくだけでいいよ」

 

「ですが、先生にだけ負担を強いるわけにもいきませんし……」

 

「ううん。 それよりも、ハルナには手伝って欲しいことが幾つかあるから」

 

そう言って、先生は自分の分の食器をシンクの端へ降ろす。

私としては片付けの手伝いもしたかったけれど、シャーレの仕事の方が重要だというのも理解出来るため、同じように食器をシンクの端に置いた。

 

「じゃあ、まずは歯を磨こうか」

 

「ええ、そうですわね」

 

先生の隣を歩き、2人で休憩室へと向かう。

まだ当番は始まったばかり。 だというのに、私は充分に満ち足りた気持ちになっていた。

 

 

 


 

 

 

シャーレに備え付けられたコンビニを後にする。

作業中にコピー用紙が無くなってしまったので、他の必要なものも含めて私が買いに来たのだ。

 

綺麗に保たれているシャーレの廊下を歩いて、エレベーターへと向かっていると、廊下の奥に食堂が見えた。

 

朝食を終えて以降、先生はまだ置かれた食器を洗っていない。

このまま時間が経つと汚れが落としにくくなってしまう。

 

「……やっぱり、私が洗っておきましょうか」

 

先生はまだ手が離せないだろうし、買い出し中ではあるが、手が空いている私の方が洗った方が良いだろう。

 

そうして、食堂の中に入って。

 

「…………あら?」

 

シンクに置かれていた食器の全てが、乾燥機の中に入っていた。

 

先生のはずは無い。 殆ど一緒に居たのだから。

ならば他の生徒?

 

頭を悩ませても、答えは見つからない。

 

 




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メインストーリーに触れるとしても、丸々そのままではなく1部を切り取っていくつもりです。

今後

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