フシギナセンセイ   作:聖剣エクスカリ棒

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なんと今回はサーヴァント登場しません


居心地の良い

 

「先生、出来ました」

 

完成したプリントを隣に座る先生へと手渡す。

受け取った先生はそのプリントを隅々まで確認し、小さく頷く。

 

「ありがとう、ハナコ。 それはホワイトボードに貼り付けておいて、今度はこっちの資料をグラフにして欲しいんだけど……」

 

「お任せ下さい」

 

言われた通りに、作成したプリントをホワイトボードに貼り付ける。

それが終わったら、椅子に戻って資料を元にグラフを作る。

 

オフィスに響くキーボードを打つ音。

 

私が来てからずっと先生はお仕事中。 いつも通り忙しそうで、やるべき仕事もまだまだ多い。

当番として私も出来る仕事は最大限サポートするつもりだ。

 

だけど、それはそれとして。

 

私にはどうしても気になることがあった。

 

それは本来であれば私から問いかけることは中々無いもの。 それを聞きたくなるくらい、先生の行動は不可解だった。

 

とはいえ。 とはいえ、だ。 先生は今もお仕事中。 難しそうな顔でキーボードを打つ先生を見ると、少しだけしり込みしてしまうのも事実。

 

一度だけ深呼吸。

覚悟を決めて、口を開く。

 

「先生。 私、今、水着なのですけど」

 

静かだったオフィスに、私の声が不自然な程木霊する。

 

隣でパソコンと睨み合っていた先生が、私の方へと頭を向ける。

改めて私の姿を見つめる先生。 私の顔から足の先まで観察し、再び視線を私の顔へと向ける。

そして、不思議そうに首を傾けた。

 

「えっと、うん。 分かってるけど……?」

 

……わからない。

先生は何故、私が水着を着ていることを当然のように受け入れているのか。

まさか下心かと思ったが、それにしては、全く視線を向けられない。 かといって、無関心かと言われるとそうでも無い。

思考を巡らせながらも、先生に頼まれた仕事をきっちりこなす。

 

すると、先生がパソコンに視線を落としたまま口を開いた。

 

「ハナコがしたい事なら、自由にすればいいと思って。 他の人がいる場所ならともかく、シャーレの中ではとやかく言うつもりは無いよ」

 

まず驚いたのは、私の考えを読まれていたこと。

 

表情は普段通りだったはずだし、特に何かを口から漏らしたりもしていない。 そもそも先生はこちらを見ていない。

つまり、先生は、私からの質問ひとつにそこまで答えを出したということ。

それは頭の回転というより、豊富な対人経験によるものだろう。

 

次に驚いたのは、先生の発言。

 

水着姿の生徒と一緒にいるのは、先生として都合は良くないはず。

例えシャーレの中だけだとしても、誰かに見られる可能性は決して消えない。 その上で先生は、私の意思を汲むと言った。

今まで言われてきた言葉のどれとも違う、無条件の肯定。

私にとって、それは大きな衝撃だった。

 

「先生は、私が何をしようと気にしない……いえ、何をしても受け入れると?」

 

「そうだね。 大半は許容するつもりだよ」

 

「理由をお伺いしても?」

 

「んん……理由、か」

 

椅子の背もたれに体を預け考え込む先生。

顎に手を当てながら目を閉じ、待つこと数十秒。

 

困ったように頬に手を当てながら、先生は瞼を開ける。

 

「んーーーー……。 難しい、けど。 慣れてるからかな」

 

「慣れてる、ですか?」

 

「うん。 お、んんっ。 私が前に居た場所では、結構な人達が自由に過ごしてたんだ。 だから、私の中でそれが『普通』になってるんだと思う」

 

水着と遜色ない姿の人も沢山居たからね、と話す先生。

 

様々な人達が自由に過ごし、互いが互いを許容している空間。 それを想像してみると、不思議と口角が上がるのが分かる。

 

「それは、とても良い所ですね」

 

「うん。 だから、シャーレもそういう場所にしたいんだ」

 

椅子を後ろに下げ、ゆったりとした姿勢でオフィスを眺める先生。

生徒達の私物で彩られたオフィスを嬉しそうに見つめる。

 

変なしがらみや同調圧力に縛られることなく、自由であれる場所。 その存在がどれ程心の支えになるのか、補習授業部を通して私は知った。

 

「シャーレが皆にとって、何も気にせず過ごせる場所の一つになれたらって思ってさ」

 

無意識なのか普段よりも砕けた口調の先生。 それが本心からの言葉ということは、優しい表情を見れば明らかで。

特に考えることも無く、本心をそのまま声に出す。

 

「先生になら、きっとできます」

 

端的な私の答え。 シャーレが既に素を出せる場所になっていると聞いて、先生はふにゃりと笑った。

 

「……そうだと、嬉しいな」

 

暫しの無言。

ふっと息を吐いた先生は、大きく伸びをして仕事へと戻る。

 

とりあえず、シャーレの中ではどんな事をしても良いと言われた訳だし。

 

「それでは、水着を脱いできます♡」

 

「それはちょっと待とうね」

 

流石に止められた。

 

 

 

 

 

 

先生の描くシャーレの理想像を聞いてから数十分。

裸になるのを阻止されたので、水着で手伝いを続けているのだが。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あんまり……」

 

唸り声を上げながら机に突っ伏す先生。

横目で様子を見ていた限り、同じ箇所で長いこと苦戦しているようだった。

 

「先生は、こういう事務作業はあまりお得意では無いのですか?」

 

「え? うん、まぁ……。 報告書は作り慣れてるんだけど、その他はあんまりやった事無くて」

 

「なるほど。 もうすぐこのお仕事も終わりますから、そうしたら()()お手伝いしますね♡」

 

「ありがとう、ごめんね」

 

のっそりと体を起こして再び格闘を始める先生からは、普段飛んでくるツッコミも飛んでこない。 余程苦しんでいるようだ。

 

パソコンの画面を覗き込んでみると、確かに、連邦生徒会への報告書はしっかりと作成されていた。 今は他の学園へ渡す資料作りに詰まっているらしい。

 

時間をかけて資料作りを進める先生を見守りつつ、私も自分の作業を進める。

 

そのまま数分間、並んでパソコンを見ていると、ふらりと先生が立ち上がった。

 

「少し休憩しよう。 疲れちゃった」

 

そう言って、コーヒーを2人分準備し始める先生。

多少の会話を挟んでいたとはいえ、数時間ずっと座りっぱなしだったのだ。 集中力も切れかけていたし、先生が持ちかけなければ私から提案していただろう。

 

一度作業の手を止めて、先生の後ろ姿を眺める。

私の視線の先でコーヒーを2人分注いでいた先生は、何故か近くにあったにキャビネットの棚を開けた。

 

「先生……?」

 

「みんなには内緒でね」

 

ファイルなどが入っているキャビネットをガサゴソと探っていた先生は、やがて大きめのブリキ缶を奥から引っ張り出した。

その中から小分けされた小さい袋を幾つか取り出すと、コーヒーの入ったマグカップと一緒に持ってくる。

 

「お待たせ。 好きなの選んでいいよ」

 

「これは……和菓子ですか?」

 

机に並んだ、個包装された和菓子。

早速つまみ出す先生に習って、手近にあった最中を食べてみると、皮のサクサクとした食感と共に甘い餡子の味が口の中に広がった。

 

「昔、尊敬してる人がサボりながら食べてたんだ。 一緒に食べてるうちに、休憩といったらコレになっちゃって」

 

そう言って、先生はどら焼きを口に放り込む。

優しい餡子の甘さは、なるほど。 確かに息抜きに丁度良い。

 

美味しいお菓子を食べながら、さっきの先生の言葉を思い出す。

 

「このお菓子の事は、他の子には内緒なんですか?」

 

「うん。 みんなに知られちゃうと、私の分が無くなりそうだから」

 

「ふふっ、確かに。 それは大変ですね」

 

時間が経つにつれ、中身を失った包装袋が増えていく。

 

コーヒーが4割ほどになった頃、先生が机の上の資料を見て小さく息を吐いた。

 

「今日はずっと手伝わせちゃってごめんね。 今度お礼はするから」

 

「ふふっ、期待してます」

 

全身から申し訳なさそうな雰囲気を漂わせる先生を見て、思わず笑いそうになるのを堪える。

全く気にしていなかったが、お礼をしてもらえるのなら有難く受け取るとしよう。

 

休憩時間というのんびりした時間の中、好きな姿をして、先生と2人でコーヒーと秘密のお菓子を楽しむ。

作業を再開するまでの間、この自由で居心地の良い空気を満喫した。




アンケートの回答ありがとうございました
短編も時々上げつつ、メインストーリーを少しずつ切り取っていきたいと思います
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