砂埃が舞い、銃弾が飛び交う戦場。
コンクリート製のブロックから顔を覗かせながら、ユウカは敵の様子を伺う。
「多いですね」
「だね。 どうやって切り抜けようか」
リンが言っていた不良生徒は見える範囲でも十数人。 その上、この先にもまだ控えているのは想像に難くない。
ため息をつくユウカの隣で、未だ体感したことの無いタイプの戦闘に緊張しながら俺は作戦を練る。
銃と銃の戦闘は全くと言っていいほど経験が無い。
最低限の知識をユウカやチナツ達に教えては貰ったが、付け焼き刃の知識では中々上手い考えが浮かばない。
後方で待機するハスミや近くの物陰に隠れているチナツ、スズミを含めて、味方は4人。
戦力差が多い今、下手に動くのは下策だ。
なるべく被害を抑える形で戦闘を終わらせたいが……。
「……先生?」
横で周囲の状況を伝えてくれていたユウカが急に此方を振り向く。
何か気付きがあったのかもしれない。
「どうしたのユウカ? 何か気になることでも……」
「先生!? なんでここにいるんですか!!」
慌てたようなユウカの叫びが戦場に響き渡る。
「なんでって、ユウカが守ってくれたから?」
「そうですけど! 自然に着いてくるから気づきませんでしたけど! 先生は銃弾1発で死んでしまうかもしれないんですよ! 指揮は任せますけど、後ろに下がっててください!」
「そう言われても……」
不良たちにはとっくの昔に存在がバレていて、今もまばらに銃弾が飛来している。 この中を帰るのは俺には難しい。
俺の視線を見て言いたい事を理解したのか、ユウカは言葉を詰まらせる。
「だったらせめて、戦闘は他のメンバーに任せて私とここで待機していてください。 跳弾の危険がありますから、何かあったら私がシールドを展開します」
「シールド?」
「えぇ、私の
ユウカの言葉を頭の中で反芻する。
当然のように不良生徒の制圧を考えていたけど、そもそも戦う必要はあるのか?
ゆっくりと思考を巡らせる。
「キヴォトスの外の人が銃弾で死ぬのは共通認識?」
「そうですよ。 知らない人は居ないと思います」
「なら、一つ良い作戦を思いついた」
俺の考えた作戦を聞き、ユウカはキレた。
『それが作戦なら分かりましたけど……。 充分気を付けてくださいね』
『私は万が一に備えていればいいのですね?』
「うん。 お願い、ハスミ」
チナツとハスミに通信機器で作戦を伝える。 呆れとも驚きとも取れる反応を頂いたのは予想通り。
みんなに心配されているのは分かるけど、そこまで危険は無いはずだ。
「スズミも、ありがとう」
「いえ。 私としても、先生の身に危険があるのではと思っていたので」
受け取った閃光弾を服のポケットに仕舞う。 これは上手くいかなかった時用の最終手段。 生徒達を近くに置く訳にもいかないので、最低限の自衛道具として貸してもらった。
狙われている中ここまで来てくれたスズミには感謝してもしきれない。
「本当にやるんですね?」
不満げなユウカが、腕を組みながらジト目を向けてくる。
余程今回の作戦がお気に召さなかったらしい。
「当然です。 けど、初めに従うと言ったのも事実ですから。 私が危険だと判断したら、即座に戦闘を開始します」
「うん、それでいいよ」
最悪盾に出来るキャリーバッグの持ち手を掴む。
隣で相手の動きを観察していたユウカが小さく頷いたのに合わせ、通信機器に向けて開始の合図。
「ユウカ、お願い!」
「行きます!」
デバイスを操作したユウカが立ち上がると、その周りに青色のシールドが出現。 待ってましたとばかりに不良たちが放つ銃弾の尽くを弾く。
そして俺はユウカの傍に出来る限り寄り添って、そのシールドの中で大きく手を振る。
「ごめん! 1回撃つの止めてくれないかな! 俺、キヴォトスの外から来たから、銃弾受けると死んじゃうんだ!」
発砲音に負けないくらいの声量で聞こえてきた言葉に、不良たちが顔を見合わせる。
よく見ると男の方にはヘイローが無い。
「ど、どうする?」
「どうするって、止めるしかないだろ……。 人殺しになんてなりたくないぞ、私」
「あたしも」
話を聞いてくれたのか俺とユウカに向けての銃撃が止まる。 聞こえなかったり無視されたりする事も考えていたけど、それは杞憂だったようだ。
ユウカの傍を離れ、先頭に居た不良たちへと近づく。
近寄ってくる俺を警戒した様子ではあるけど、すぐに攻撃されることは無さそうだ。
「聞いてくれてありがとう。 優しいんだね、みんな」
「それで、何が目的だ」
苦笑が漏れる。
敵意剥き出しで威圧をされてはいるけど、俺の言う事を聞いてくれたあたり本当に悪い人は居なさそうだ。
とりあえず集まるように呼びかけると訝しげに集まってくる不良のみんな。
「俺達シャーレに行きたいんだ。 通してくれないかな」
「なら私達をぶちのめして行けばよかっただろ!」
「話し合いで解決出来るなら、やっぱりそっちの方が良いでしょ?」
俺の考えた作戦とはつまり、交渉。
会話が出来て積極的に攻撃もされないのなら、無理に戦闘をする必要は無い。 やむを得ない状況という訳でもないし、実力行使は交渉が失敗してからでも遅くないだろう。
ユウカのシールドは、対話に持ち込むためのきっかけとして最適だった。
「みんなの目的は何?」
「連邦生徒会への嫌がらせだよ。 私は捕まって矯正局に入れられたし、もともと嫌いな奴もいる。 だからこうやって暴れて、ついでに連邦生徒会が大事にしてる物を壊してやるんだ」
「嫌がらせかぁ……」
具体的な目的があるなら話もしやすいのだけれど、そう上手くはいかないか。
何か対価を払えれば良いけど、キヴォトスに来たばかりの俺には手札もあまり無いし……。
「そもそも何の場所かは知ってるの?」
「知らない。 私達はとにかく連邦生徒会を困らせたいの」
頑として譲らないみんなは、どうやら相当連邦生徒会を嫌っているらしい。
どうしたものかと頭を悩ませながら何気なく後ろを振り向くと、ユウカが心配そうに此方を伺っている。 その隣には俺のキャリーバッグが……。
………………あ。
「……実は、君たちが占拠してる場所って俺の新しい家なんだ」
「……は?」
唐突な宣言に困惑したような声が上がる。 無理も無い。
だけど、あまりおかしい話でも無いはずだ。
「連邦生徒会が気にしてたのも、俺の家とか私物があるから。 新しい先生が早速ホームレスとかアレだし」
「つまり、連邦生徒会が大事にしてるものって……」
「今日から新任する俺の家具とか日用品だね。 だから暴れるのを辞めて貰えると助かるんだけど」
背中にチロチロと熱を感じながらそう言い切ると、不良の皆は互いに顔を見合せながら小声で話し始める。
筋は通っているし嘘もついてはいないはず。 上手く連邦生徒会との関連を遠ざけただけだ。
暫しの間返答を待っていると数人が通信機器を使って話し始める。 そして、投げやり気味に警戒を解いた。
「アンタは連邦生徒会所属じゃないんだな?」
「うん。 俺はただの先生」
「アンタの言う通りアタシらは全員手を引く。 代わりに、ここは見逃してもらうからね」
「……わかった」
勝手に受け入れていいのか少し悩んだけど、リンには制圧しろと言われた訳でもない。 最悪俺が怒られれば済むだろう。
行政制御権さえ戻ればこういう事もそう簡単には出来なくなるだろうし。
「あんまり悪い事しちゃダメだよ」
「あたしらに言うのか、それ」
一斉に何処かへと移動し始める生徒達。
騒ぎを起こした子達が捕まらないのは問題かもしれないけど、今のところ人的被害も出ていないし結果的には上手くいった。
「先生! お怪我はありませんか?」
「心配してたんですよ!」
「ごめん、でも上手くいったよ」
不良の皆が居なくなるとユウカ達が駆け寄ってくる。
ユウカに預けていたキャリーバッグを受け取り、スズミに借りていた閃光弾を返す。
「いえ、それは先生が持っていてください。 私はまだありますから」
「そう? じゃあ貰っておくね。 ありがとうスズミ」
差し出していた閃光弾をポケットの中に戻す。 そのうち使う時が来るかもしれない。
最初こそ戦うつもりだったけど、理想を言うなら誰も傷つかないのが最良だ。
とはいえ、今回は運が良かったということも分かっている。
そういう時に役に立ってくれるだろう。
「私たち何もしてませんけど……。 これで解散ですか?」
「うん、ありがとう皆。 良かったらシャーレに遊びに来てね」
「先生こそ、今日はお疲れ様でした」
★★★
『御館様、この先に何者かが。 恐らくは不良の残党かと』
「ありがとう。 魔力少ないのにごめんね」
『お気になさらず。 くれぐれもお気を付けを……』
跪いていた千代女の姿が消える。
《アタシらは全員手を引く》。 話し合いの際に抱いた違和感からビルの中を探ってみれば、案の定誰かが侵入しているらしい。
先に攻撃をすることも提案されたが、まだ敵と決まった訳では無いので却下。
護身用に貰ったばかりの閃光弾を握りしめ、地下へと足を踏み入れる。
視界に広がる、以前使っていた部屋に似た近代的な室内。 機械の僅かな明かりだけが光源の薄暗いそこに、着物姿の人影がひとつ。
「……あら?」
狐の面を付けた少女が、朧気な光を浴びながら佇んでいた。
遅刻すみません
次も数時間遅刻するかもです
次の短編(プロローグ編終了後に投稿予定)
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ホシノ
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カヨコ
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ノア
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ワカモ
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フウカ
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サオリ