フシギナセンセイ   作:聖剣エクスカリ棒

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プロローグ最終話にして、実質2話目のユウカ短編です


先生としての物語

激動の初日から数日。

 

無事に行政権を取り戻した連邦生徒会は、驚く程の手腕で、動乱の中にあったキヴォトスを纏め上げてみせた。

 

だが、それに代わるように浮上した問題がひとつ。

藤丸立香は書類仕事をこなせない。

 

「困ったな……」

 

椅子にもたれ掛かり、天井を見上げながらボヤく。

 

教師としての知識は何とかなっている。 これまでの3年間は、ただ世界中を見て回ったわけじゃない。

本来学ぶべきだったことは勉強したし、更に踏み込んだ知識も備えた。 それに加えて巡った国々での経験もある。

 

しかし、デスクワークに関しては、経験もなければ教えてくれる先生も居ない。

サーヴァントの皆も、ここまでしっかりした事務作業は管轄外だ。

 

『先生……』

 

「心配かけてごめんね、アロナ」

 

端末の中で不安そうな声を上げるアロナ。

行政権を取り戻す際に助けてもらったというのに、俺は教師生活の危機。

リン達に助けてもらいながら、何とか手探りで進めているが、効率の面で見ればそれは酷いものだ。

 

「よし、頑張るか」

 

兎に角やるしかない。

椅子に座り直し、珈琲を飲んで机に向かう。

 

真っ先に必要な申請書を作り始めたタイミングで、不意に扉がノックされた。

 

「先生、いらっしゃいますか?」

 

扉越しに聞こたのは聞き覚えのある声。

誰かは分からないけど、絶対に会ったことがあるのは確か。

 

「どうぞー」

 

「失礼します」

 

オフィスに入ってきたのは青髪の生徒。 その姿を見て、パズルのピースが合ったような感覚があった。

 

確かに知っているはずだ。 何せ、初日の騒動で1番振り回したと言っても過言では無い生徒だ。

 

「いらっしゃい、ユウカ」

 

「こんにちは、先生。 お元気そう……ではありませんね」

 

顔を合わせて早々、ユウカの眉が八の字に歪む。

それほどかと思い鏡を確認すると、目の下にくっきりと隈が浮いていた。

 

「この間お話した請求書のひな型を持ってきたのですが、そこまで手は回りますか?」

 

「……頑張るよ」

 

机に乱雑に積まれた紙の山から目を逸らしながら答える。

出来ないで片付けられないし、ネットで勉強をしながらコツコツと進める他無い。

 

1番近くにあった書類を手元に寄せ、作業の行い方をパソコンで検索する。

 

「それはその辺に積んでおいて。 優先度高めでやっておくから」

 

視線で紙の山を示す。 ユウカは俺の顔と多くの書類を順番に見て、大きなため息をついた。

 

「えっと、ユウカ?」

 

「私もお手伝いします」

 

向かい側に腰を下ろしたユウカが1番上に積まれた書類を手に取る。

予想外の事に視線を外せずにいると、視線に気づいたユウカは少し頬を赤くした。

 

「そこまで見つめなくても、重要そうなものには触れませんから」

 

質問をしたり、作ったことのある書類をみたりしながらテキパキと書類の山を片付けていくユウカ。

手伝う義理は無いというのに、ここまで積極的に手を貸してくれるあたり、優しくて面倒見がいいのが見て取れる。

 

「全く。 どうしてこれ程まで溜め込んだんですか」

 

「実は、こういう事務仕事って初めてで……。 色んな人に聞いたり、自分で調べたりしてたら、どうしても遅くなっちゃって」

 

「でしたら、次に仕事から遅くなった時は私を呼んでください。 その方が先生も助かりますよね?」

 

「助かるけど、いいの?」

 

「問題ありません。 結果的には私達にもプラスになりますし」

 

会話をしながら、次々に仕事をこなしていく姿は驚嘆に値する。

手間をかけさせるのは申し訳なく思いつつ、分からないところを聞けば、想像以上に理解しやすい答えが返ってきた。

 

ユウカの方が先生に向いているのではないだろうか。

 

「徹夜は良くないですよ。 ご飯はきちんと食べてますか?」

 

「うん。 せめて栄養はちゃんと取らなきゃと思って」

 

「今日はしっかり寝てくださいね。 ……これは先生がお願いします」

 

何倍にも跳ね上がった効率により、山が次第に崩れていく。

朝には終わりが見えなかった作業も、昼過ぎには大半が終了していた。

 

 

 

★★★

 

 

 

湯気の立つホワイトソースから、お腹の空くような匂いが漂う。

 

「おまたせ。 熱いから気をつけてね」

 

「ありがとうございます」

 

出来たてのカルボナーラをユウカと自分の前に置く。

 

お礼は要らないと言うユウカを何とか説得して、お昼ご飯を振る舞うことになった。

元々料理は苦手じゃないし、3年間の旅で何度も経験したから自信はある。 教えてくれる先生達にも恵まれた。

 

今日も、記憶に残るカルボナーラにはまだまだ及ばないけど、自分でも満足のいく出来だ。

 

「これ、本当に先生が?」

 

「うん、そうだよ」

 

「このカルボナーラ、凄く美味しいです……。 元々料理人を目指されていたとかも?」

 

「そういう訳でもないよ。 趣味の範囲」

 

目を輝かせながらパスタを口に運ぶユウカは、年相応に子供らしい。

体が強く、普通の高校とは段違いの仕事をこなしていても、中身までは変わらないみたいだ。

 

趣味……と呟くユウカを横目に、ソースを絡めたパスタを口に運ぶ。

 

 

「こうして一緒に食事をしていると、藤丸先生は先生じゃないみたいですね。 歳も近いですし」

 

「んんっ」

 

にこやかな何気ない一言が突き刺さる。

悪い意味じゃないことは分かっているのだけど、気にしていたことを言われて動揺してしまった。

 

リンにも言われたし、そこまで先生らしくないかなぁ。

 

なるべく平然を装って、ユウカに問いかける。

 

「ユウカは、どうやったら先生らしく見えると思う?」

 

「え? あ、別に先生らしくないと言っているわけでは……」

 

「分かってるけど、何かあるなら知りたいなって」

 

「そ、そうですね……」

 

正面に座る先生をじっと見つめる。

先生は、そもそも幼さの残る顔だちな上、常に柔らかい表情を浮かべている。 子供っぽくは見えないが、先生というには随分優しい雰囲気だ。 どちらかと言えば保育士だろう。

 

かといって、無理に厳しい表情で過ごしてもらうのも気が引けるし……。

 

「あ!」

 

パッと脳裏に閃く。

 

「一人称を変えてみるのはどうでしょう。 『俺』だと幼稚な印象をもたれるかもしれないですし」

 

「一人称か。 じゃあ『僕』とか『私』とか?」

 

「『私』の方が先生らしいと思います」

 

考えてみると、孔明もライネスも一人称は『私』だ。 確かに先生らしくなるかもしれない。

なんとなく上手くいく気がして、ちょっとだけ頑張ろうという気持ちが強くなった。

 

「今日は色んな事をユウカに助けて貰ってるなぁ」

 

「気にしなくても大丈夫です。 私もシャーレに所属する身ですから、先生を助けるのは当然です」

 

「……あれ、ユウカってシャーレに入ったっけ?」

 

初めて出会った初日と今日。 思い返してみても、ユウカがシャーレに所属するという話をした記憶はない。

 

首を傾げる俺に、ユウカが顔を赤くして叫ぶ。

 

「言い間違いですっ! 所属しようと、と言うつもりだっただけです!」

 

「そっか。 じゃあ、シャーレにようこそ」

 

ユウカがシャーレに入ってくれるのならとても心強い。 ずっとオフィスに釘付けだったこともあって、所属する生徒は1人だけだったのだ。

ユウカのおかげで時間的余裕もできたし、これからは、生徒もより増えていくだろう。

 

「ご馳走様でした」

 

「ご馳走様でした。 食器の片付け、手伝います」

 

「ありがとう」

 

シンクで食器を洗い、ユウカが水気を拭き取る。

使った食器も少ないので、あっという間に洗い終わった。

 

「ユウカ、午後は空いてる?」

 

「空いていますけど、何か予定でも?」

 

「うん。 ユウカのおかげで午後は予定が空いたから、買い物に付き合って欲しい」

 

必要な備品や日用品を挙げていく。

まだ俺もシャーレに来たばかりなので、必要なものが多い。

 

掻い摘んで説明をすると、ユウカも快く頷いてくれた。 ついでに何か、お礼のプレゼントを買うとしよう。

 

オフィスに戻り、財布やキャリーバッグを持ってエレベーターに乗り込む。

シャーレの外は快晴だった。

 

「まずは何処に向かいますか、先生?」

 

陽の光を浴びながら振り返るユウカを見て、不思議と『先生』の生活が始まった事を実感した。




魔王になったアリス「先生を誘惑して堕落させます!!」

次の短編(プロローグ編終了後に投稿予定)

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