「――!――!!」
………。
…………。
何か音が聞こえると思って、目を開けると、知らない天井が見えた。
「……………あぁ、そっか。職員寮だったっけ?」
しばらくベッドの上で何もせずにただ横になっていると、段々と昨日の事を思い出してくる。確か4時になったら、迎えの人が来て、また学園長室に行くことになっていたんだっけ。
「――!―――!」
さっきからなんかドアを叩いている音が聞こえているけど、この部屋に用がある人なんて限られているから、部屋間違っているんじゃないのかな。なんて思いながら寝返りをうつ。このベッドフカフカで気持ちいいんだよなぁ。
そういや、今何時だ?壁に設置されている時計を見て確認する。時計が表示している時間は午後4時5分だった。
「…………うそぉ。」
さっきドアを叩いているのは部屋間違っているとか言っていたけど、そんなことはなかった。絶対俺を迎えに来た人たちだ。ヤバい、さっきからずっと音がなっていたから、ずっと待たせてしまったことになる。慌ててドアに向かい、引き開ける。
「すみません!遅くなってしまって………あれ?」
「もしもーし!辰連さ……。」
急いでドアを開けて、相手に向かって謝ると、そこには佐倉ちゃんと、もう一人同じ制服を着た生徒がいた。
「やっと出てくれましたね、辰連さん。さっきからずっと呼んでいたのに反応がなかったので……。」
「ゴメン、さっきまで寝ていてさ。佐倉ちゃんがドアを叩いている音で目が覚めた。」
「半日以上寝ていたんですね。」
佐倉ちゃんは驚きつつ、ちょっと呆れた感じの顔をしていた。俺は「ちょっと待ってて。」
と言って一度部屋に戻り、寝癖と服装を直して部屋を出る。
「ゴメンね、お待たせしちゃって。」
「まぁ、そんなに遅れるわけじゃないから大丈夫だと思いますよ。」
佐倉ちゃんと話しながら職員寮を後にする。学園長室のある女子中等部までの道順は覚えているし、案内役がいるから迷う事は無い。時間は大体十分程だったと思った。歩きながら隣の佐倉ちゃんに尋ねる。
「佐倉ちゃん、君と一緒に来た彼女はなんていう子なんだい?」
俺の問いで、自分と一緒に来た人を、紹介していなかったことに気付いた彼女は慌てて、自分の後ろを歩いていた少女を俺の隣にして、紹介をし始めた。
「えっと、この人は私と同じまh……違う違う。クラスは違うんですけど、知り合いの桜咲刹那さんです。」
「桜咲刹那です。話は佐倉さんから聞いています。」
佐倉ちゃんと一緒に来ていた生徒・桜咲刹那はそう言って俺に向かってペコリと頭を下げた。この子は確か結構物語の中心にいた生徒だった気がする。しかし、この二人はそんなに仲の良い関係だったっけ?
「桜咲さんも佐倉ちゃんと同じ………その……。」
周りに人がいるので、「魔法生徒なの?」とストレートに聞くことが出来ないが、桜咲さんは俺の言いたいことを分かってくれたようで、頷いた。
「ええ、私も佐倉さんと同じです。異なる部分もありますが、同じと考えてください。今後、ご一緒することもあると思いますので、その時はよろしくお願いします。」
「あ、はい。こちらこそお願いします。」
丁寧に頭を下げてきたので、こちらもそれにつられて畏まって返してしまう。そんな俺たちの姿を道を歩いていたほかの生徒たちが「何やってんだろう?」という感じの顔をしながら通り過ぎる。
「ほら、二人とも早くいきましょう。」
佐倉ちゃんに促されて学園長室へ急ぐ、なるべく早く着いた方がいいしね。それにしても、桜咲さんとは夜の防衛の仕事くらいでしか会う機会がなさそうだけど、うまくやっていけるといいな。なんて思ったりした。
………。
…………。
「辰連君、昨日に引き続き悪いの。」
学園長室につくと、佐倉ちゃんと桜咲さんは帰っていった。学園長室まで連れてくるのが二人の役目だったらしい。二人に別れを告げて部屋に入ると、昨日と同じように学園長が目の前の机にいて、その隣に高畑先生が立っていた。
「いえ、遅れてすみません。」
「いや、遅れてはおらんよ。思っていたより早く来てくれたので、話し合いが早く終わりそうじゃ。」
学園長は笑いながら話してくる。
「さて、昨日も言った通り、まずは君の立ち位置などを決めておこうかの。」
「そうですね。それで、俺はここで何をやればいいんですか?まさか先生とか?」
「いや、教師はやめておこう。この後、一人教師として麻帆良に来る予定の者がいての。もう一人増やすとなると、ちと面倒での。」
学園長が言う。その教師として来る人物って恐らくネギ君の事なんだろうなぁ。ここで名前を言うと面倒なことになると思うので、そんなことは言わない。
「そうなんですか。なら俺は何をすれば?」
「もっと自由度の高い職の方がいいじゃろう。その方が君も動きやすいじゃろ?」
「それはそうですけど………そう言えば、魔法関係の仕事って、給料出るんですよね?」
「まぁ、それは出るか。それがどうかしたかの?」
「別に職に就かなくてもその給料があるのなら俺は構わないんですけど。」
「君がそれでいいのならこちらとしては構わないのじゃが。」
「スイマセン。無理を言ってしまって。」
「いや、気にする必要な無いぞい。君が表向きの職を希望しないのなら、それはそれで書類を用意しなくてよいからの。」
笑いながら学園長が言うが、この世界の住人でない俺の書類なんてどうやって用意するのだろう。あまり深く関わらない方よさそうだ。
「なら、魔法生徒、先生の皆には儂が個人的に雇った魔法使いという事で説明をつけるとしよう。」
「分かりました。それでお願いします。」
それに関しては意見を言う事もなく、すんなりと決まった。個人的な契約ならあまり縛られることなく、行動できそうだ。
「次に住まいじゃが、昨日泊まった部屋をこれからも使ってくれんかの?」
「俺としては全然問題ないですけど、いいんですか?あそこは男性職員用の寮だって昨日言ってましたけど。」
「そのことなら問題ないぞ。今あそこに暮らしているのは魔法関係の者だけじゃからの。」
問題ないと学園長は言う。まぁ、学園長が言うのなら、大丈夫なのだろう。しかし、あそこには魔法関係者しかいないのなら、気持ち的にも楽だな。
「後必要なのは、身分証明書かのぅ。辰連君は何か必要な物があるかの?」
「身分証明ですか?」
「うむ、一通りのものはこちらで用意するが、君から何か用意してほしいものがあれば、可能な範囲で用意しよう。」
……身分証明か。基本的なものが用意できているのなら、何かと言われても…………そう言えば。
「あの身分証明なんですけど。」
「ん?それがどうかしたかの?」
「これがあるので、最低限度のもので大丈夫です。」
そう言いながら、ポケットから免許証と保険証を見せる。これらがあったのは、さっき起きた時に気づいたのだが、上着のポケットに入っていた。
一緒に紙切れが入っていて、そこには「作り直しておいた。」とだけ書かれていた。名前は書かれていなかったが、恐らく『白い魔法使い』がやっておいてくれたのだろう。
「これは………承知した。後はこれに基づいて、用意しておくことにしよう。」
そう言って学園長は高畑先生いくつかの書類を渡した。
「さて、辰連君。もう一度確認したいのじゃが。」
「はい。」
「きみの目的は魔力を集めることと聞いておる。そして、その理由も聞いた。そのうえで、君は魔力集めと言って、学園の生徒を襲う事はしないと言えるかね。」
「言えます。」
学園長の問いかけに、すぐに答える。一番よく受け取られるタイミングとかがあったのかもしれないが、俺はすぐに答えた。
ここの生徒たちを襲う事なんてないと確実に言えるからだ。学園長は暫く俺を見ていたが、やがて頷き、口を開く。
「よろしい。それならば、儂等は君を歓迎しよう。それと……。」
「なんですか?」
「今日から早速、夜の見回りに参加してもらうとしよう。夜11時くらいに迎えをよこすから、まっていてくれないかの?」
「分かりました。今日も何か出るんですか?」
「それは分からんが、常に見回りはやっておるのでな。君にも早く慣れてほしい。」
そう答える学園長の顔は「そう、何度も来られたらたまったもんじゃない。」と言っているようだった。
「了解です。」
「うむ。それでは夜に。」
「はい、失礼します。」
学園長と高畑先生に挨拶をして、学園長室から退出する。後のことは二人に任せれば、問題はないだろう。それが完了すれば、俺はこの世界での行動が可能になるわけだ。
「まぁ、とりあえずは今夜11時か……………今度は寝過ごさないようにしないとなぁ。」
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