その鴉天狗は白かった   作:ドスみかん

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第十二話:風光霽月に雨は上がる

 

 

 竜巻が舞い、炎が踊る。

 激しい空中戦を繰り広げる文とはたて、そんな親友たちの勇姿を刑香はぼんやりと見上げていた。夏空の碧眼は先程まで自分が戦っていた吸血鬼の少女と黒い鴉天狗たちを無意識に追いかけている。頭がくらくらする、ダメージと疲労で麻痺しているらしい。

 

 

「………あの娘、なかなかに痛めつけてくれたわね。身体のあちこちが軋んでいるわ、目は霞んでいるし最悪かも」

 

 

 美鈴、フランドールとの連戦のおかげで自分の身体はボロボロだ。脇腹、肺、翼、左足に負った傷は決して浅くない。しかし『あの時』はこんな程度の怪我ではすまなかった、鬼との戦いでもっと酷い怪我を負ったことがある。それでも生き残ったのだから、自分はまだこの程度の傷では死なないはずだと刑香は前向きに判断する。

 

 あれはもう、何百年前の話になるのだろう。何となく、刑香は自分の運命を変えた『あの出来事』を思い出していた。鴉天狗としての誇りを賭けて小さな鬼に戦いを挑んで敗北し、三日後に目を覚ました時に彼女から掛けられた言葉が頭によみがえる。

 

 

 

『おっ、目は覚めた? なら、お前の友に感謝しておきなよ。お前の容態が安定するまで徹夜で看病してくれてたんだからさ。まあ、今はそこでぐっすり寝てるけどね。………うん、中々に楽しめる勝負だった。並の鴉天狗ではこうならないさ、見事だったよ』

 

 

 

 ある意味で白桃橋刑香が生まれた日、『見事だった』と鬼から貰った賛辞は忘れない。彼女によって刑香は刑香らしく生きるための息吹を吹き込まれたのだから。彼女と出会ったことに感謝している。とはいえ、今から考えると『鬼』に喧嘩を売るなんて本当にどうかしていた。勝てるわけがないだろうに組織から冷遇されて自暴自棄に陥っていた自分は無謀な戦いに挑み、見事なまでに敗北したわけだ。そして今と同じように文とはたてに助けられた。そんな事実に刑香は苦笑する。

 

 

「………私は成長しないわね。また二人に助けられるなんて、萃香さまと戦った時から何も変わってない」

「ねえ、刑香。私もいるんだけど、というか一番に図書館へ乗り込んだのは私なのよ?」

「わかってる、霊夢もありがとね」

 

 

 刑香は頬を膨らませていた霊夢の頭を撫でようと手を伸ばす。疲労していた刑香は横になっているので、座っている霊夢の頭にはギリギリ届くくらいだった。真っ白な手が黒髪を優しく撫でつけた。そして何かを恐れているような霊夢の瞳へ、安心させるように刑香は笑いかける。

 

 

「霊夢、大丈夫だから安心しなさい。こんな傷で私は死なないわ。こう見えても人間よりは少しだけ頑丈にできてるんだから」

 

 

 穏やかに霊夢へと語りかけながら、綺麗な霊夢の黒髪に手櫛を通して整えていく刑香。ぎゅっと、霊夢は刑香の手を自分の両手で包み込んだ。頭を撫でられるのが嫌なわけではない、そんなことは紫や藍にも毎日されているのだから慣れている。

 

 

「刑香の手、冷たいよ?」

「大丈夫、大丈夫だから悲しまないで」

 

 不安で揺れる霊夢に刑香はもう一度微笑みかける。

 鋭すぎる直感を持つ故に、刑香の生命力が弱まっていることを霊夢は本能的に感じ取っていた。刑香の『死を遠ざける程度の能力』は正常に働いているが、身体が壊れかけているのだ。刑香は死にかけているのかもしれない、それを知ったからこそ霊夢は不安になっているのだ。しかし刑香の身体を一番正しく理解しているのは刑香自身だ。故に刑香は『能力』の余剰がある限りは自分は死なないということを、どうやって霊夢に伝えようかと悩んでいた。そんなところへ舞い降りてきた黒い翼、親友の一人が空から帰還した。

 

 

「ずいぶんと派手にやられたわね、刑香」

「見ての通りにボロボロよ、はたて。でも最初から疲労していなかったら、あの娘とだってもう少しマシな勝負ができたんだからね………勝てるかどうかは微妙だけど」

「はいはい、あんたは相変わらず負けず嫌いよね」

 

 

 妖刀を鞘に仕舞い、葉団扇を腰に下げた様子のはたて。どうやら戦闘は終了したようだ。髪と袖が焦げ付いている以外に目立った傷はなく、さすがに完全武装をしてきただけはある。

 そしてはたての手には古びた薬箱があった。どうやら戦闘前に隠していたものを回収して来たようだ。ありがたい、と刑香はソレに手を伸ばす。

 

 

「薬箱を貸して、自分でやるから」

「動くのもツラいくせに何言ってんのよ。ほらっ、傷を見せなさい」

「ちょ、あんたは手当てのやり方なんて知らないでしょ!?」

 

 

 戦闘部隊ではない上に年中引きこもりの天狗に傷の処置ができるとは思えない。だからこそ「自分でやる」と言った刑香、それを無視したはたては天狗特製の秘薬をいきなり刑香にぶっかけた。顔をひきつらせた刑香から、つーんとした生薬の匂いが漂う。もちろん、こんな使い方をする秘薬ではない。やっぱり応急処置の方法なんて知らなかったか、と頭から液体薬を掛けられた刑香が苦笑いをした。ポタポタと液体に濡れた様子を見た霊夢が笑う。

 

 

「ふふふ、ずぶ濡れだね刑香」

「はたて、あんたねぇ」

「え、薬ってとりあえず掛ければいいんじゃないの?」

「そんな大雑把な使用方法で傷が治るなら万能薬でしょうよ、あんたの持っているソレは」

 

 

 この盛大に間違った知識を吹き込んだのは文だろう。まあ、通常の鴉天狗ならいい加減な治療でも大抵の怪我は治るので問題はない。だが刑香はそんなに都合の良い身体ではないので処置はキチンとして欲しい。おまけにこの薬は目に染みる、大粒の涙が滲んできたのを隠すように刑香は顔を手で覆った。ひょっこりと霊夢が覗き込む。

 

 

「刑香、泣いているの?」

「…………ぐすっ、そうかもね。はたてに泣かされるなんて久しぶりよ」

「ちょっ、私は文に騙されただけで………だ、大丈夫なの刑香!?」

 

 

 わたわたと焦るはたてを見て刑香は霊夢と顔を見合わせて笑う。目に染みたのは事実なので、そのお返しだ。はたても自分がからかわれたことに気づいたようでちょっぴり不機嫌そうに顔を背ける。「ますます文に似てきちゃって…………」とぼやかれた言葉を刑香は聞こえないふりをした。

 

 

「さて、あとは文が勝ってくるのを待てばいいわけよね。薬箱を貸して、今度こそ自分で処置するから」

「はいはい、わかったわ。文のヤツが帰って来るまでに済ませなさいよ」

「ねぇ刑香と、はたてだっけ? ずいぶんと余裕そうだけど、もう一人の鴉天狗はそんなに強いの?」

 

 

 はたてが分身を倒したとはいえ、あの幼い吸血鬼の本体は未だに健在だ。それなのに何一つ気負った様子のない鴉天狗たちに霊夢は心配そうに声を掛けた。この中で霊夢だけが射命丸文の実力を知らないのだから無理もない。

 

 

「『幻想郷最速』の妖怪、それが射命丸文よ。幻想郷中を探してもアイツを撃ち墜とせる妖怪なんてそういない………何より私の憧れる鴉天狗なんだから、こんなところで負けてもらっちゃ困るわよ」

「刑香の憧れ、そういえば前に言ってたような…………?」

 

 

 こてん、と首をひねる霊夢。

 むむむ、と初めて刑香と出会った日のことを思い出そうとして可愛らしく頭を唸っている。その子供っぽい仕草に、刑香とはたてがこっそりと微笑んだ。

 

 

「まあ、要するに文が負けるはずがないってことだから安心しなさい。もう少ししたら紫も合流するだろうし、そろそろ藍も傷を癒して…………この状況、前にもどこかで?」

 

 

 ふと、刑香は既視感(デジャブ)を感じていた。

 つい先程にも同じ状況があったような気がする。仲間と合流して敵を制した状況で、何の問題もないと思っていた瞬間に全てをひっくり返された惨劇が刑香の脳裏をよぎる。

 

 カサリ、と乾いた音がした。

 はたてと霊夢の背後から聞こえた足音、二人と向かい合っている刑香の視界に偶然映った影。バラバラになった本のページを、白い落ち葉のように踏みしめた小さな姿。紅い瞳に金色の髪、そしてその『破壊の力』を携えた両手を此方に向けているフランドールがいた。

 

 

「―――何!?」

「…………きゅっとして」

 

 

 これも油断なのだろう。フランドールの本体は文と戦闘中で、二体の分身体ははたてが倒した。だから自分たちを襲う敵はもういないと、刑香たちは決めつけていた。

 だが、フランドールの分身の限界が二体だと誰が決めたというのだろう。刑香たちは『三体目』の出現を考えなかった。故に背後を取られている、気がついたのは刑香だけ。そして分身体の両腕は壊せない刑香ではなく、幼い巫女と黒い鴉天狗に向けられている。

 

 

「はたてっ、霊夢っ!!」

「「―――!?」」

 

 

 刑香が叫ぶ。

 しかし、はたてと霊夢の回避は間に合わない。フランドールの能力は既に霊夢とはたてを捉えているのだ。あとは、両手を握りしめて発動するだけ。八雲藍ですら重傷を負った『能力』の直撃を鴉天狗と人間の命が耐えられるはずがない。刑香の手元には惨劇を回避できる能力がある。しかしこれ以上の『死を遠ざける程度の能力』の使用は危険だった、自分の命を支えている余剰がなくなるかもしれない。それでも、だが―――。

 

 

「そんなこと、考えている場合じゃないわよ!」

「「―――刑香!?」」

 

 

 はたてと霊夢の腕を掴んで全力を持って発動させた能力。『死』を遠ざける力が『破壊』の力を退けんと二人を包み込む。放出された妖力は青い光として膜を形作った。同じ過ちは犯さない、藍の時もこうしていれば良かったのだ。

 

 

「―――ドカーン!!」

「………かはっ!?」

 

 

 効果は一度だけ、避死の光壁はフランドールの力を妨げて砕け散る。青い光が欠片となって舞う。今度こそ力を使い果たして倒れ伏せる刑香に冷めた視線を送りながら、フランドールは再び『能力』を発動しようと両手に力を込めた。何が起こったのか理解が追いつかず動きの止まった二人へ向けて、無慈悲に『破壊の力』を振るおうとする。その時だった。

 

 

 

「きゅっとして「悪いがそこまでだ」…………え?」

 

 

 倒れ伏した刑香の視界の端で九本の尻尾が揺れた。フランドールを取り囲んだのは黄金の輝きを放つ呪符たち、夜の妖怪を封じる『陽』の力を秘めた拘束術式。

 

 

「………遅いわよ、藍」

「すまないな、回復に時間を要した。…………あとは私と紫様に任せておけ、白桃橋」

「そ、う、なら任せ、たわ」

 

 

 傷を癒した八雲藍、彼女の黄金の瞳が自分を見つめる。藍がそう言うのなら大丈夫なのだろう、その言葉に安心しながら刑香はゆっくりと瞼を閉じる。目に大粒の涙を溜めて、自分の身体を揺する霊夢に「大丈夫」と掠れた声で呟きながら、刑香は意識を手放した。

 

 

 

『鬼の私に挑みかかるとは大した気迫だ、気に入ったよ。お前の名前は何て言うんだい…………なんだ、つまらない響きだね。よし、私の名から一字をやろう。これからお前は『刑香』と名乗りなよ』

 

 

 そういえば、あの戦いも最後はこうして意識を失っていたような気がする。吸血鬼異変における最後の瞬間、冷たい床の上でそんなことを刑香は思い出していた。

 

 

◇◇◇

 

 

 全力を尽くさなければ意味がない。

 もし自分の『破壊の力』を止められる運命があるのだとすれば、それはフランドールの全てを受け止めてくれる運命でなければならない。そうしないと確信できない、安心できない。悲しい吸血鬼の少女は壊れないモノを求める故に全力で彼女たちを壊すのだ。今も自分を囲む結界を破壊しようと、ぐっと掌へと力を込める。しかし―――。

 

 

「無駄だ、その結界は壊せん」

「…………うん、そうみたい」

 

 

 無機質な響きが込められた藍の言霊、硬直する自分の身体。

 フランドールの全身に降り注いだのは光、それは吸血鬼の天敵たる太陽の光線だった。あっという間に光輝く結界が自分を縛りつけていくのを分身体のフランドールは、諦めの感情を宿しながら眺めていた。幼い吸血鬼は知らなかったのだ。東方世界において、九尾の妖狐は『太陽』を司る化身とも伝えられていることを。

 

 

「あの傷からこんなに短時間で復帰しちゃうなんて、スゴいね。狐さんの方が白い鳥さんより強かったんだ?」

「私の名は藍だ。強さの話については否定しないが、私の回復が早期に完了したのは白桃橋………そこで寝ている白鳥のおかげだ。彼女の治療のおかげで自己修復で多少の無理を通すことができた」

 

 

 藍はフランドールの攻撃を受ける前の姿に戻っていた。身体の傷が消えているどころか、服に付着していたはずの血の跡さえ無くなっている。大した自己修復の力だった。チリチリと灰になっていく自分の身体を眺めながらフランドールはため息をついた。しかし内心はここ数百年、覚えのないくらいに安らかな気持ちが占めていた。

 

 

「………本物の『私』の戦いも終わっちゃったみたい。だからバイバイ、また遊んでね」

「やれやれ、子供なのか曲者なのか判断に困る吸血鬼たちだ。千年後は暗闇に溺れる愚者か、それともカンテラに光を灯す賢者なのか、実に厄介な姉妹だな」

 

 

 無邪気な表情で消えていくフランドールの分身に、藍は苦笑した。これほどの戦いを『遊び』と表現する豪胆さと無邪気さに、紫から伝わってきたレミリアと同じ気配を感じたからだ。主の見込み通り、ある意味で将来が楽しみな二人である。紫へと連絡をしようとしていると、終結したもう一つの戦場から近づいて来る羽音にピクリと帽子に隠れた狐耳が反応した。もう大図書館には燃え盛る炎も吹き荒れる風もない、全ての戦いは終結している。黒い羽音と一本歯下駄の着地音が空間に響く。

 

 

「…………さて、射命丸と言ったか?」

「はい、清く正しい射命丸と申します。以後お見知りおきを、八雲の式殿」

「は、離してよ………!」

「ダメです」

 

 

 上空から藍の前に降り立った文が抱えていたのは本物のフランドールだった、ジタバタと暴れてはいるが抵抗する力は弱々しい。どうやら魔力が尽きているようだ。フランドールが莫大な魔力を消費して発動させた炎剣、それを維持させ続けることによる魔力切れを文は狙ったからだ。それは何ということもない、単純明快な作戦。簡単なようでいて、その策を遂行するために妖刀を犠牲にし『炎剣を振るい続ければ射命丸文を倒せる』と思い込ませる等の心理的なやり取りがあったことを文は語らない。両者の間にあったのは純粋な力ではなく千年を越える年季の差だった。

 荒い呼吸の中で、フランドールは口を開く。

 

 

「誰も、壊せなかったんだ」

「そうです、あなたは刑香も式殿も、私たちのことも壊せなかった。敗北したんですよ、この幻想郷に」

「…………あはは、そっか壊せなかったんだ。なら、よかった」

「『良かった』とはどういう意味が…………なに!?」

 

 

 文が抱えていたフランドールの身体を突然現れたスキマが飲み込んだ。目玉の浮き出る不気味な空間から伸びてきた華奢な両腕が優しく抱きしめるように文から幼い吸血鬼を奪い去った。突拍子もない事態に驚いた後、「どこに消えた?」と周囲を警戒していた文の視界に映ったのは妹を大事そうに抱えるレミリアの姿だった。嫌われていると思っていた姉からの抱擁に、驚きで真っ赤な目を見開いたフランドールが問いかける。

 

 

「………お姉様、何で?」

「理解したでしょ、あなたの『能力』で世界の全てを壊せるなどという恐れが幻想であったということをね。この幻想郷は全てを受け入れてくれるらしいから、あなたの居場所だってきっと作れる。だから安心して眠りなさい。大好きよ、私のフラン」

 

 

 そっとフランの前髪を退かして、レミリアはその額に親愛のキスを落とす。くすぐったそうにしながら、フランは瞳を閉じた。先程までの狂気が嘘であったように安らかな笑顔を浮かべながら。

 

 

「どうやら終わったようね」

「紫様、何故レミリア・スカーレットが貴女のスキマから現れたのですか?」

 

 

 いつの間にか自分の隣にいた八雲紫へと藍は何でもないように話しかけた。自らの主人の神出鬼没っぷりは痛いほど経験済みだ、今さら突然現れたくらいで驚くわけもない。ゆったりとスキマに座ったまま、藍の主は胡散臭く微笑んでいる。

 

 

 「レミリア嬢が私、八雲紫との契約に従うと約束したからその見返りの一部としてスキマを使わせてあげたのよ。妹を救うために参上した姉、タイミングは最適だったでしょう?」

 「そのようですね、うんざりするほどに完璧でした」

 「どうやら霊夢と刑香も無事みたいだし、紅魔館の協力も取り付けた。なら異変の終結としては悪くないかもしれないわ。………刑香の方はしばらく療養が必要みたいだけどね」

 

 

 これは八雲紫の予想を越えた結末だ。

 もしかしたら刑香の友人である鴉天狗たちが参戦するかもしれないとは僅かながら想定していた。だが気がつけば幼い巫女までが参戦することになった。そして霊夢をここに導いた一因は間違いなく刑香だ、彼女は何事にも冷めた態度を崩さなかった霊夢を変えたのだ。その事実を加味した上で八雲紫は結論づける。やはり刑香は必要だ、といっても八雲紫にではない。刑香程度の妖怪が八雲紫に必要なわけではない、そうではなく『博麗霊夢』にとって必要な存在になると期待した。

 紫は足元に落ちていた白い羽を拾い上げる。

 

 

「そのことを考えるなら、刑香をこの異変に参加させたことは正解だったのでしょうね。これで彼女は『八雲』の保護下に入る、それなら霊夢の傍らにいても咎める者はいないでしょう」

 

 

 紫水晶のように美しい光を宿す八雲紫の瞳に移り込んでいるのは、傷つき倒れる白い鴉天狗の少女。

 鴉天狗たちや霊夢に看病されているが、折られた翼は痛々しく見ていられない。八雲紫とて心は痛む。だが、これで必要とした計画は完成した。『スペルカードルール』への移行のために紅魔館の協力を取り付け、紫と共に異変を戦った事実によって刑香が『八雲』の下に属していることを対外的に示した。おそらく刑香はうんざりとした顔をするのだろうが、それはそれである。

 

 

「さて、あとは天魔との会談をどう纏めるかを考えましょうか。追放された者への干渉をとやかく言う男ではないと思うけど、鴉天狗たちに助けられた事実もあることだし油断は禁物ねぇ」

 

 

 妖怪の賢者たる八雲紫は誰にも聞こえない程度の小声で呟いた。その双眸が怪しく輝いていたことを知る者は自身の式神だけであった。

 

 

 


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