その鴉天狗は白かった   作:ドスみかん

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とある人物が亡くなる描写があります。
そのような内容が苦手な方はご注意ください。


第十五話:遥かなる夢想い、確かな幻想に散る

 

 

 日が完全に沈んだ時間の博麗神社。

 そこは幻想郷と外の世界との境界線、どちらの世界にも属さない中立地帯にして存在の曖昧な場所。その境内では稀に外の世界から流れ着いた物品が落ちている不思議な現象が目撃されている。

 そんな神社は森に囲まれ、人里から訪れるには細い獣道を通るしかない。そのため参拝に来る人間は少なく、巫女がいるために妖怪の気配もない、静かで寂しい場所だった。少なくとも昨日までは。

 

 

 

「ちょっと待ちなさいよ、あんた!」

「へへーん、ここまで来てみな!」

「このっ、私のお菓子を返しなさい!」

 

 

 幼い子供二人の賑やかな声。

 黒髪の幼巫女と金髪の幼い魔法使いが神社の境内を走り回っていた。結局人里に帰らず、「面白そうだから」という理由で半ば無理やり刑香についてきた魔理沙。そんな彼女は色鮮やかな雛あられが入った袋を持って、霊夢から逃げ回っている。もともと霊夢が食べていたものを魔理沙が強奪し、可愛らしい鬼ごっこへと発展したのだ。

 地面に這い出した木の根っこを跳び越えて、草むらを掻い潜る。右へ左へと木々の間を逃げる魔理沙に、飛んで追いかける霊夢はなかなか追いつけない。しかし、その顔はどこか楽しそうだった。

 

 

「待ちなさいって言ってるでしょ、『魔理沙』!」

「へへっ…………なら捕まえてみろよ、『霊夢』!」

 

 

 初めて自分の名前が呼ばれたことに魔理沙が嬉しそうに答える。どうやら霊夢と仲良くなりたくて、イタズラに手を染めたようだ。そして作戦は成功したようで、先ほどまで「あんた」と呼びあっていた二人は今や「魔理沙」「霊夢」とお互いの名前を遠慮もなく口にしていた。

 チロチロと柔らかな光を放つ灯籠たちが夜の境内を浮かび上がらせている。儚いロウソクの火は控えめに辺りを照らし、最低限の光を持って薄明るい空間を作り出していた。二人の幼子はギリギリ足下が見える範囲を楽しそうに駆け回っていた。

 

 

「…………橙も連れてきてやれば良かったな。新しい友人を作れたかもしれん好機を逃してしまった。今からでも遅くはないだろうか、いやもう橙は寝ている時間か」

「まあまあ、また次の機会があるわよ。子供なんて何回か一緒に遊べばすぐに仲良くなるものだろうし。………そうよね、小悪魔?」

「なんで私に同意を求めるのですか!?」

 

 

 霊夢と魔理沙を眺めながら、藍はパチュリーや小悪魔たちと酒を飲み交わしていた。異変でぶつかった同士だが、理論派な藍とパチュリーの相性は良く、主人がいる以上は小悪魔も付き添っている。

 

 

「ふう、葡萄酒を口にするのは久しぶりだ。幻想郷でもブドウは採れるのだが、ワインに加工する習慣がないんだ。…………それにしても上質な一本だな」

「ご満足いただけたなら良かったわ。レミィのコレクションから何本か貰ってきた甲斐があるし。………多分、この瓶一本で外の世界では普通の人間が一年くらいは暮らしていけるくらいの値段はするわよ?」

「パチュリー様、お嬢様に許可なんて取ってましたっけ?」

「ないわよ、そんなの。これは今回の異変に付き合わされた報酬よ」

「私は知りませんからねっ。…………でもちょっとだけ私も飲んでいいですか?」

 

 

 どうやら無断で持ってきたらしいワインに舌鼓を打つパチュリーと藍。そして小悪魔もそれに便乗していた。

 

 

「紫様は留守だし今夜は私も加減せずに飲めそうだ。パチュリー、もう一本開けないか?」

「ふふふ、話がわかるじゃない。気に入ったわ、藍」

「はわわわわ…………!」

 

 

 紅魔館から提供された葡萄酒をグラスで傾ける藍の姿は何とも妖艶だ。普段の真面目な様子からは想像できないほどに、今の藍から立ち昇る色香には魔性の力が秘められている。パチュリーは平気そうにしている一方で、たまに従者の小悪魔は胸を押さえて何やら唸っている。

 

 

 そして他の参加者たち。

 レミリアは屋敷から連れてきた新しいメイドに自分の世話をさせながら、一人でグラスを傾けている。フランドールは参加を見送り、八雲紫はどこかへ消えてしまっている。何とも小規模な宴会だった。

 

 そして、そんな境内で白と赤、二人の妖怪は盃を交わしていた。スリット部分が大きく開いた大陸風の衣装を着た美鈴と、丈の短い天狗装束に身を包んだ刑香は桜の木を背にして座り込んでいた。花は咲いていない、晩秋に咲く桜もあるらしいが残念ながらここには植えられていない。故に二人の妖怪は花ではなく、お互いに交わす話を肴に酒を飲み交わす。

 

 

「えーっ、刑香さんは恋をしたことがないんですか!?」

「うっさいわね! ないものはないし、あんたに驚かれるのも心外よ。だいたい私たちは何でこんな話をしてるのよ」

 

 

 何故か突然に始められた色恋の話。大袈裟に驚く美鈴へと心の底から刑香は面倒くさそうに答えていた。しかし、その顔が赤いのはアルコールのせいだけではないだろう。経験はなくとも興味くらいはあるらしい。

 

 

「そりゃあ、古来から同性同士が集まったら一度は口にする話題と決まってますから。………それでは条件をさらに緩めてですね。例えばいいなぁ、とか思った異性は刑香さんにはいないんですか?」

「だから、私にそんな奴はいないわよ。周りの殆ど全ての天狗たちに冷遇されてたのに何をどうやって憧れろっていうのよ。…………でも私と違って、あんたは恋したことも、されたこともありそうね。美人だし」

「どうもありがとうございます。でも残念ながら私も恋やら愛とは縁がないんです。昔の私は言葉よりも拳で語るタイプでしたから」

 

 

 拳を握って腕を突き出す美鈴。

 軽い突きのはずが、刑香の耳には空気の切れる音がした。そこらの人間だったなら今の勢いだけで顎を割られているだろう。たった一人で紅魔館の門を護ってきた美鈴の実力に間違いはない。その拳で左足をへし折られたわけなので、刑香は苦笑いをせざるを得なかった。

 

 

「おまけに紅魔館に拾われてからも秘境みたいな場所で門番してましたから、友人すらこの百年の間は増えていません。…………で、話を戻しますけど刑香さんに恋愛経験がないとは正直なところ意外でした。如何にもそういった方面には隙だらけで、簡単に言い寄られそうなのに」

「性別問わずに仲間はほとんど私に近づいて来なかったからね。気軽に話ができるのは文とはたてしかいなかったし…………私が隙だらけって何のこと?」

 

 

 盃に口を付けつつ首を傾げる刑香に美鈴は曖昧に笑う。

 組織から冷遇されて育ってきた刑香は他者から向けられる敵意に対しては強いが、好意に対しては弱い。ちょっとした際にお礼を言われて照れるのはその証拠だ。だから計算高いはずの天狗としては異常なほどに絆されやすいのだ。紫の頼みで異変に参加したり、美鈴につられて自身の能力の詳細を明かすあたりに如実に表れている。つまり計算高い天狗としては致命的なまでに隙があるのだ。

 

 

「まあ、刑香さんのために紅魔館へ乗り込んでくる素敵なお友達もいることですし、そっち方面は大丈夫なんでしょうね」

「何の話?」

「いえいえ、何でもないですよ。ところで刑香さんの持ってきたソレは何というお酒なんですか?」

 

 

 あはは、と美鈴はもう一度曖昧に笑った。そして話題を変えようと刑香の脇に置かれていた酒瓶を指差す。刑香が大事そうにしていた小さな瓶、『茨木ノ枡薬酒』と書かれているソレが美鈴は気になっていたのだ。

 

 

「それはもしかして妖怪が造ったお酒ですか?」

「ご明察、これは鬼の秘宝の一つである『茨木の百薬枡』によって生まれる薬酒よ。飲めば傷の回復がたちどころに早まるの。ただし副作用が面倒だから山の霊水と混ぜて薄めているぶん、こっちは効果も半分以下なんだけど。…………まあ、一献ご賞味あれ」

 

 

 空になった美鈴の盃へと澄んだ薬酒が注がれる。

 天狗から鬼の酒をついでもらう、それは美鈴の長い生の中でも初めての経験だった。何となく得した気分で美鈴は酒を喉へと流し込んだ。そしてじんわりと胃のあたりから身体に広がっていく『力』を感じて感嘆の息を漏らす。

 

 

「こ、これは凄いですね。お酒の妖力があっという間に身体に溶け込んできます。何というか身体に染み込んで組織を妖力で活性化させて再生させている感じ、でしょうかね?」

「ん、そんなところ。便利な薬なんだけど飲みすぎると性格と身体が染められて本物の鬼になるらしいわ。これは薄めているから大丈夫だけど」

「へぇ~、面白いですねぇ」

 

 

 口をつければ万病を癒し、また一口飲めば剛力を得る神秘の薬酒。しかし、その代償として飲酒者は性格が変わり『鬼』のようになる。つまりは端的に言うならば気儘で自分勝手で、陽気な性格となるわけだ。更に飲み続ければ本物の鬼と化すと噂されている。

 過去の記憶から『茨木の百薬枡』の効果を正しく認識していた刑香は、だからこそ副作用を抑えるために霊水で薄めてから持参したのだ。この程度の純度ならば問題はない。

 そうしていると美鈴が何かを思い出したように立ち上がった。

 

 

「そうだ、刑香さんに紹介したい娘がいるんですよ。ちょっと待っててください、連れてくるので」

「それって吸血鬼………レミリアに付いてたメイド服の子供のこと? そういえば、あの娘って異変の時には見なかったわね」

「そうなんですよ。異変が終わってすぐにお嬢様が連れてきたんです、いや攫って来たのかも。…………ともかく、とてもいい娘なので屋敷の仕事が助かってます。ようやく私は悠々と昼寝ができそうなんですよ。それでは行ってきます」

 

 

 そう言い残し、美鈴はレミリアの元へと小走りで向かっていく。

 手持ち無沙汰になった刑香が、ちらりと霊夢たちの方へと視線を移す。すると魔理沙を追いかけていた霊夢が視線に気づいて手を振ってくれたので振り返す。「ふっ」と小さな笑いが込み上げてきた。木々の間を抜けてくる肌寒い風も、酔いが回り火照った身体にはちょうどいい。少しばかり帯を緩めて装束をはだけさす。

 

 

「…………ふふっ、いい風ね」

 

 

 わずかに露出させた肌を撫でる涼風が心地よい。盃を置いて、瞳を閉じた刑香はそれを全身で感じる。やはり自分は酔っているらしい。幻想郷屈指の酒豪である天狗に生まれておきながら、自分は大した酒の量も飲めない。だが、少ない量でほろ酔い状態になれるのだから悪くないと前向きに刑香は捉えている。

 

 夜の闇に浮かぶのは純白の鴉天狗。

 髪も肌も翼も白い、まるで泡沫の雪のごとくに。儚げな雰囲気と合わさって今の刑香にはどこか、誰にも悟られずに消えていく初雪のような、そんな穢れを知らない美しさがあった。

 

 

「刑香さーん、お待たせしました!」

 

 

 静寂を破った美鈴の声に、ゆっくりと刑香は瞳を開けた。レミリアの元から美鈴が帰ってきていた、その左手で小さな子供の手を引いている。近くまで来ると、その姿がはっきりと見えた。霊夢よりも少し高いくらいの背丈に西洋のメイド服を華麗に着こなした少女。

 

 

「こちらは刑香さん、私の友人みたいな方です。あなたから自己紹介してくださいね、咲夜ちゃん」

「…………ご紹介に預かりました、十六夜咲夜です」

 

 

 まず目に付いたのは、月の光を集めたかのような輝く銀髪だった。繊細な顔の造りを含めた少女の全身から感じるのはガラス細工のように透明な美、そして磨き上げられたサファイアのごとき青く鋭利な眼差しが刑香を射ぬく。それは人間としてはどこか浮世離れした容貌だった。幼いながらも、見る者に完璧な印象を与えるメイドが美鈴の隣に立っている。

 

 

「…………霊夢と魔理沙に続いて、また只者じゃなさそうな人の子が増えたわね」

 

 

 風に靡くのは理想的なプラチナブロンド、両側にある美鈴とお揃いの三つ編みが可愛らしい。その一方でこの子供から刑香は強者の気配を感じていた。

 

 どうして今日一日で自分の周りにこういった人間が二人も増えたのだろう、と刑香は本気で悩みつつあった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 博麗神社の裏手。

 静けさが宿る空間を見下ろすのは欠けた月明かり。縁側に腰かけていたのは八雲紫、そして当代巫女だった。ぼんやりと月を眺める巫女に対して、紫は天魔から失敬した『小鬼殺し』を盃に注ぐ。酒器は一組だけ、この巫女はあまり酒を飲まない。

 

 

「それにしても、せっかくの宴会なのに神社に集まったのがこれだけなんて…………貴女は少しばかり、孤高が過ぎるわね」

 

 

 異変関係者の出席は義務として、それ以外の者たちの参加も受け付けていたのだが、ついぞ飛び入り参加の者は現れなかった。それは巫女にも原因があった。寿命を燃やし尽くすまで妖怪をひたすらに滅し、人間を助け続けた当代巫女の生き様はあまりにも苛烈にして尖鋭に過ぎたのだ。その記憶は巫女に近寄りがたい印象を人里へと刻み込んでいた。

 その生き方には余白がなかった、戦いに明け暮れた彼女には他人の入り込めるスキマがなかったのだ。だから、当代巫女と親しいのはスキマを創り出せる妖怪たる八雲紫をおいて他には誰もいなかった。宴会だというのに、人影のまばらな境内がそれを証明している。

 

 

「まったく、もう少し貴女は余裕を持って生きるべきだったのよ。ほどほどに手を抜いて、気楽な巫女として長生きすれば良かった。霊夢が次代を継ぐのは、まだ何年も先だと思ってたのに」

 

 

 不機嫌そうに酒を傾ける紫。当代巫女は答えない。彼女はいつも聞き役だった、ただ八雲紫の話を聞いては頷くのだ。その時だけは修行も妖怪退治も休みにして、巫女は八雲紫とだけは穏やかな時間を過ごすのだ。当代巫女にとって八雲紫は唯一無二の友人だったから、そして八雲紫にとっても当代巫女はかけがえのない友だった。

 

 

「だいたいね、貴女は交遊関係が狭すぎるのよ。もっと人里と連携したら、容易に解決できた異変だって沢山あったでしょ。それを貴女は独りで背負い込んで………まったく信じられないわ」

 

 

 違う、自分はこんなことを巫女に伝えたいのではない。わかっていても紫は次々と湧いてくる言葉を抑えられずにいた。これが最期、刑香から紫たちへと贈られた『残り時間』なのだ。それなのに―――。

 

 

「貴女は、貴女はいつも黙っていて私には何一つ伝えずに飛び出していって、もう少し心配する私の身にも「ありがとう、紫」…………なりなさ、いな」

 

 

 ポツリと巫女の口から出てきたのは感謝だった。その言葉を最後に、巫女から『生気』が消える。刑香が施した『能力』が力を失ったのを紫も感じ取る。月が群雲の中へと紛れ、神社が暗闇に包まれる。

 

 

「…………ずるいわ。私が伝えようと思ってた言葉を先に言っちゃうなんて。でも、ありがとう。おやすみなさい」

 

 

 わずかに震える声が夜に響く。

 ああ、幾多の命を奪い続けた彼女の人生は決して善人のものではなかった。しかし見返りを求めずに、行き着く先も見据えずに、幻想郷のために歩み続けた生き様は見惚れるほどに清々しいものだった。それはきっと意味のある、人生だった。

 巫女の身体がぐらりと傾いた、その亡骸をスキマ妖怪はそっと引き寄せて抱きしめる。

 

 

「…………大好きよ、大好き」

 

 

 むずつく涙腺をぐっと耐えて、出来る限りの笑顔で巫女を胸の中で抱きしめた。この一年で痩せ細ってしまった巫女の身体、そして若くして白髪が混ざった黒髪を紫は宝物を扱うように撫でつけた。親愛の情は一筋の涙となり、頬を伝って流れ落ちる。

 

 

『いつの日か一人でも多くの人間が、妖怪が手を取り合って幸せに暮らせる、そんな幻想郷が欲しいんだ』

 

 

 いつの日だったか、巫女が紫へと語った胸の内、それは当時としては夢見がちな少女の願いだった。しかしその心は決して折れなかった、彼女のおかげで幻想郷はここまで安定した。その功績から少なくない大妖怪たちから一目置かれる唯一の人間、八雲紫の親友。そんな彼女は今、旅立った。あとは霊夢がその跡を継ぐだろう。だから心配はない、だから―――。

 

 

 

 

 

 

 

「別れの挨拶は済んだかい?」

「――――!」

 

 

 ざわりと総毛立つ感覚、夜風に燻るのは『死』の匂い。

 自分たち以外は誰もいなかった場所に、紫の『能力』で隔絶していたはずの空間へ、この場にいなかった第三者の声が響く。聞き覚えのあるソレに紫は跳ねる心臓を理性にて押さえつけて言葉を切り返す。

 

 

「あらあら、どこから沸いて出たのかしら?」

「おいおい、酷い言い草じゃないか。…………知ってるだろ、あたいの能力に『距離』は関係ない、その間に何があろうとも過程を飛ばして場所を繋げることができるんだ。まあ、今回は上司の力も借りたんだけどね」

 

 

 ゆらりと振り向いた八雲紫の瞳に映ったのは、人でも妖怪でもない異界の者。真っ赤な髪をツインテールに結び、身の丈にも及びそうな大鎌を担いだ長身の女。少しだけ着崩した青いワンピース調の着物は、あっけらかんとした彼女の性格を表しているようだった。

 

 

「やあ、しばらくだね。スキマの妖怪様」

 

 

 こちらを覗くのは彼岸の花のごとき深紅の瞳。

 『距離を操る程度の能力』、八雲紫にすら気配を読まれずにここまで接近できる方法は紫が知り得る限りはそれしかありえない。紫は頬を伝っていた一筋の涙を拭い去ってから彼女へと少しだけ刺を含ませた言葉を投げかける。

 

 

「久しいわね、あの口煩い閻魔は壮健でいるのかしら? できれば寝込んでいてくれると私も人里も静かでいいのだけれど」

「あははっ、ウチのボスは元気でやってるよ。また休みが取れたら人里にありがたい説教をしに来るんじゃないかな」

 

 

 けらけらと楽しそうに笑う姿には一切の影がなく、とても彼女が彼岸の使者だとは想像できない。しかし紫は気を引き締める。この女の後ろには『八雲紫にとっての天敵』がいるのだから。

 

 

「こういうのは本来、船頭であるあたいの役目じゃないんだけど。博麗の巫女ともなればお迎えも特別になるものらしいんだ。…………さて、表には『厄介な奴』もいるみたいだし。さっさと魂をいただいて帰ろうかな」

 

 

 ひたひたと彼女は近づいてくる。

 この一年、白い鴉天狗の少女がひたすらに遠ざてきたモノ。それは全ての命ある者たちにとっての畏怖すべき存在。

 

 

 『死神』、小野塚小町がそこにいた。

 

 

 

 

 




8月29日の活動報告にて、とある作者様からいただいた刑香の物語を載せさせてもらっております。お時間がある方は是非、お越しくださいね。

ー追記ー
『番外編』として、こちらにも掲載いたしました。

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