その鴉天狗は白かった   作:ドスみかん

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活動報告にて予告させていただいた通りに、今回の幕間には別の東方二次作品からちょっとしたゲストに登場していただいています。

注意事項を三点ほど。
①刑香とその人物、双方の主人公同士の接触はありません。
②ちょっとしたゲスト出演です、その少女が大きくストーリーに関わるわけではありません。
③このような企画内容及び雰囲気が苦手な方はご注意ください。

寛大な心で目を通していただけると幸いです。


幕間:佐渡の狸囃子

 

 

 幻想郷を遠く離れて幾千里。

 山を越え海を渡った先の先、四十九里の波の上に『佐渡の島』は浮かんでいる。草花に恵まれた山脈が広がり、その頂上ではお月様が腰を下ろして笑っていた。人里の灯りが少ないこともあり、美しい稲穂の色をした月光はまんべんなく地表を撫でつける。

 

 どこか寂しい雰囲気を漂わせた離れの島。しかし江戸の世では砂金の一大産地として知られ、お偉い将軍様の天下を支え続けた柱の一つであった。やがて鉱山は閉鎖されてしまったが、この島に生まれた文化は今でも細々と受け継がれている。そして、そこには『とある妖怪』の楽園としての側面も含まれていた。

 

 

 

 

 

「お、おぬし、一体何を!?」

「気にするなって、ちょっとした景気付けだ!!」

 

 

 のどかな島に轟音が鳴り響いたのは、ちょうど草木も眠る真夜中であった。

 

 天を揺るがすような衝撃は大地を駆け巡り、小さな村々を夢の世界から叩き起こす。前後左右も分からぬまま次々と目を覚まし、人々は「地震だ」「いや落雷だ」と外へ飛び出していく。大地の芯を揺るがしたような振動に、人間たちは慌てふためき大騒ぎを始めていた。

 しかし家の外に出てみれば、いつもと変わらぬ風景がそこにある。お山は変わらず、海は静かな波を起こし、電子機器からもこれといった報道はない。それ故に多くの者が一先ずの安堵を浮かべていく。だが、

 

 

『な、なんじゃアレは!?』

『お前さん、何を言って…』

『二ツ岩じゃ、大明神さまが怒っておるっ!!』

 

 

 幾人かの瞳に映っていたもの。

 辛うじて霊感を持っていた者が見つけてしまったのは、頭から二本の角を生やした化け物であった。

 月明かりを遮る雲を『腕』で貫き、佐渡の大地に両の『脚』を突き立てる。その姿たるや遥かな昔に天地を分けたという伝説の巨人のごとくに。

 そんな神威を纏った存在が、人里を離れた山の麓で暴れているのを一部の人間たちは真っ青な顔で眺めていた。わずか数分でその影は何事も無かったかのように消えていくのだが、この騒動は『二ツ岩の祟り』と語り継がれていくことになる。

 

 

 

 

 

「だぁーッ、止めじゃ止めじゃ!」

「何だい、もう変化の種は品切れかい?」

 

 

 身体を霧散させながら、主犯である伊吹萃香はつまらなさそうに呟いた。

 凝縮していた妖気を放出することで、山のように巨大な肉体を普段の大きさに戻していく。わずか数秒で大鬼の姿は消え失せて、辺りには夜の静けさが戻っていった。星熊勇儀と同格の力を誇る少女が持つのは『密と疎を操る程度の能力』というものである。

 かつて空に浮かぶ月を砕いたとされ、鬼族の中でも別格とされるチカラ。それは人間たちを震え上がらせた『伊吹百鬼夜行』の総大将に相応しいものだろう。しかし、そんな少女に対峙しているのは、これまた同族の中では別格と祀られる存在である。

 

 

「他人の縄張りじゃからと好き放題に暴れよって……後で島民から噂されるのはワシなんじゃぞ」

「あっはっは、悪い悪い。でも妖怪としての格を確かめるなら拳をぶつけ合ったほうが早いだろう?」

「まあ、迎え撃ったワシにも落ち度はあるか。やれやれ……」

 

 

 困ったように周りを見回して煙管をふかす。

 鬼の一撃で木々は根元からへし折られ、周囲の山肌は竜巻に襲われたよりも酷い状態だ。それを一瞥して溜息をつく女狸の名は二ツ岩マミゾウ、この佐渡を纏め上げる化け狸の総大将である。

 

 

「それなりに本気で殴ったんだけど、まさか無傷で防がれるとは思わなかったよ。流石は二ツ岩、大したもんだ」

「阿呆、あんな大振りの一撃が当たるわけないじゃろ。わざと避けさせておいてよく言うわい」

 

 

 もう一つ、狸の大将は溜め息をつく。

 あれだけの爆音の中心にいたというのに、その着物には埃一つ付いていない。ひび割れた地面をサラリと草履で踏みしめて、煙管(キセル)に溜まった灰を夜の大気へと流していく。その動作は自然そのもので、とても鬼の四天王を前にしているとは思えない。並みの妖怪には不可能だ。

 

 

「…伊吹童子、お主が来た理由はだいたい想像が付いとる。スキマ妖怪とやらの使いじゃろ?」

「ありゃ、紫のことを知ってたのかい?」

「幻想郷への招待状、それを発行しておるのがスキマ妖怪だと聞いた。そんな噂をここ百年は耳にしておるよ。もっとも何のためにかは知らんし、鬼が使者として来るというのも初耳じゃがな」

 

 

 あまり知られていないが、この島国で『化け狸』は由緒正しき名門妖怪の一派である。その上位にいる個体ともなれば天狗や鬼にさえ、妖怪としての格は劣らない。まして伊吹萃香の目の前にいるのは化け狸の中でも特別な存在なのだ。

 遠からん者は音に聞け,近くば寄って目にも見よ。信仰の廃れた現代においても、未だに多くの人間から祀られる佐渡の国の守り神。

 彼女こそが『二ツ岩』の大明神。妖怪の身でありながら土地神として敬われるまでになった、化け狸の最高位の一人である。

 

 

「忘れられた妖怪にとっての楽園、それは結構なことじゃがワシはまだ個として存在を保てる。ご足労は痛み入るが、お誘いは無駄足じゃったな」

「ふーん、そこそこ信仰を維持してるみたいだねぇ。残念だよ。それじゃ改めて、もうひと勝負しようじゃないか」

「喧嘩はワシの負けでいいわい……だがお主はワシら化け狸を甘く見すぎておるぞい。いくら鬼であっても、慢心というのは容易く足下を崩すもの。ほれ、あの赤鬼のように」

「へ……アイツ何してんの!?」

 

 

 思わず構えを崩してしまう小さな鬼神。

 ついっとマミゾウが煙管を向けた先には、縄で縛られた赤鬼の少女が転がっていたのだ。どうやら自分がマミゾウの相手をしている間に、手下か何かによって捕らえられてしまったたらしい。呼び掛けてもピクリと動かない。どうせ搦め手で捕まったのだろう、どこまで間抜けなのかと萃香は頭を抱えたくなった。

 

 

「さてはて、どうするかの?」

 

 

 月が満ちる刻の中で「これ以上戦うつもりはない」と、二ツ岩は言外にて語っていた。にんまりと緩められた茶色の瞳がと注がれているのが分かる。少し悩んでから隻眼の鬼は仕方ないと両手を上げた。

 

 

「分かった分かった、名残惜しいが喧嘩はここまでにするよ。そもそもお前を無理やり連れ去るつもりはないんだ。守矢の神々と会った時もそうだったからね」

「本当じゃろうな?」

「鬼に二言はないよ。ほんのちょっぴり、あるかもだけど今はない。だから赤瑛のヤツを解放してやってくれ、そいつは地底への土産でもあるんだ」

「そうかそうか、その言葉を聞いて安心したわい……しかし残念じゃが、お前さんの部下を解放することはできんのぅ」

 

 

 すると鬼の少女が疑問を挟む間もなく、赤瑛の身体が煙に包まれた。それに驚きつつも、萃香は再び拳を握りしめる。天狗たち程ではないか、鬼もそれなりに仲間への情は厚い。そんな萃香の思いとは裏腹にモウモウとした蒸気の中へと、赤鬼は溶けるように消えていく。

 

 

「二ツ岩っ、お前は私の手下に何をして…!」

「何のことやら、お前さんのお仲間は初めからここにはおらんよ。……ご苦労、アヤメ」

 

「ーーお安い御用よ、姐さん」

 

 

 煙の中から聞こえたのは見知らぬ少女の声。

 それを合図にしたかのように、立ち込める煙は収束して人影を作り出していく。唖然とする鬼の視界の中で、舞っているのは木の葉たち。しばらくして人影となった煙が地面を蹴って、クルクルと回転しながらマミゾウの隣に着地した。灰色の立派な一本尾を揺らしながら、その人物は萃香へと銀縁のメガネを向ける。

 

 

「鬼さんに化けるなんて、本当に久しぶりで緊張しちゃったわ。最近は人間か草木に変化するしかないんだから駄目ね」

 

 

 そこにいたのは鬼ではなく、狸妖怪の少女だった。

 灰色の髪と尻尾の毛並みは、雪を含んだ雲のよう。そして腰の辺りには金貸し用の帳簿をぶら下げて、右肩には酒の音が響く徳利(とっくり)を掛けている。その姿はマミゾウと同じ、古式ゆかしき狸の正装であった。恐らく二ツ岩の配下の者だろう。

 呆気に取られた萃香に対して、マミゾウは可笑しげに口元を緩めている。

 

 

「お前さんの部下、あの赤鬼は捕まっておらんよ。ちょいと山の中で迷子になってもらっただけじゃ。鬼と喧嘩するのは面倒故に、一つ芝居を打たせてもらったぞい。くくっ、鬼に二言は無いんじゃろ?」

「お前、それは卑怯じゃないか…」

 

 

 力無く言葉を紡ぐ鬼神の少女。

 これで終わりだと宣言してしまった手前、いくら不完全燃焼でも喧嘩を続けることはできない。嘘をつくことを鬼は何より嫌うのだ。鬼の中では異端とされる萃香も、この掟を進んで破りたいわけではない。「やられた」とばかりに小さな鬼神は空を見上げて座り込む。

 

 

「さて、実のところ今宵は祭りの日でな。お主らの話は後々にして、ひとまずはワシの神社で一献どうじゃ?」

「……天晴れ見事、やられたよ」

 

 

 喧嘩は制したが、まんまと化かされた。

 鬼にとっての勝利は相手を捩じ伏せることだが、狸にとっては化かし化かされることが勝敗の決め手である。つまり、この化け狸は双方を勝たせた上で勝負を丸く収めたことになる。見事な手腕だ、それを理解した故に萃香は苦笑するしかなかった。

 

 ならば狸の宴会、喜んで参加させてもらうとしよう。そう笑い飛ばしながら、鬼の大将は狸の大将が差し出してきた手を取った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「だーかーらーっ、アタシは思うのよ。アイツは一言足りないんじゃないかってさ、黙っていなくなるとか格好つけすぎでしょ!」

「はいはい、そうね。でも男には妙な意地があるものよ。あんたのことが大切だったからこそ、泣き顔も見せずにいなくなったんじゃないかしら?」

「そ、そうかな‥‥泣いたのは主にアタシの方だけど、ひっく」

 

「何やってんだい、赤瑛のヤツ…」

 

 

 場所は移り変わって神社の境内。

 親分たちから離れて酒盛りしている赤鬼と灰色狸から、呆れたように萃香は目線を外す。ちなみに周囲を見渡せばあっちも化け狸、こっちも化け狸である。これほどの妖怪が一同に介している光景は現代では珍しい。

 神社の縁側に腰掛け、庭の灯籠にもたれ掛け、思い思いに酒と料理を味わう狸たちは楽しげだ。萃香はそんな彼らを眺めつつ、マミゾウと酒を呑み交わしていた。

 

 

「随分と盛況じゃないか。料理も旨いし酒も上々、どいつもこいつも心から楽しそうと来たもんだ」

「そりゃ祭りじゃからな。誰もが冬の間に抑えていた羽目を外したくもなるじゃろて。ほれ、もう一杯」

「ん、ありがと……しかし春先だってのに食い物の祭りとはねぇ。何て名前なんだい?」

「名前なんてありゃせんよ。ただ過ぎ去る冬を惜しみ、蓄えていた冬越えの蓄えを処分してしまうだけの行事じゃからな。おかげで皆、加減知らずに楽しんどるわい」

 

 

 元々は神社への奉納品だろうか。

 湯気をあげる(たら)やニシンの大鍋、冬野菜の煮物、佐渡の清水で造られた酒はまだまだある。そして祭りは舌を楽しませるだけではない。桜透かしの柄をした行灯(あんどん)が置かれ、妖術で浮かんだ提灯が舞い踊り、地面と夜空が美しく照らされていた。荒々しい鬼の宴とは違う、木の葉と共に踊るような狸の宴会がここにある。これは良いものだと小さな鬼神が笑った。

 

 

「なかなかどうして、化け狸も気に入ったよ。コイツらは全員お前の子分なのかい?」

「…ここにいる者の多くはお山を追われたか、祀られていた社を失って流れ着いた者たちじゃよ。さっきお主を化かした、アヤメの奴も火山の噴火で自分の神社を村ごと無くしとる」

「なるほどね、そういう連中をお前が守っているってわけか。そりゃ幻想郷には来られないはずだ」

 

 

 これだけの同胞を集めて世話しているとは、マミゾウの器は大したものである。行き場を失った同族を救い、人間たちと良い関係を築いているのだ。ここにいる手下を引き連れて幻想郷に移ってきたなら、『妖怪の賢者』に名乗りをあげることもできるかもしれない。

 そこまで考えていると、萃香は自分が知らず苦笑いをしていることに気づいた。そんな鬼の様子を不審に思ったマミゾウが横顔を覗き込んでくる。

 

 

「どうしたんじゃ、伊吹童子?」

「私のことは萃香でいいよ、その呼ばれ方はどうにもムズ痒いんだ。……私は何もかも投げ出しちまったからね、少しだけお前が羨ましいと思ったのさ。同族や人の子と上手くやってるマミゾウがね」

「何を気にかけることもないお主の方がワシには羨ましいがの。おお、あまり多くのモノを背負うと肩が凝って仕方がないわい」

「おいおい、あまり茶化すもんじゃないよ」

 

 

 わざとらしく年寄りのように、肩をポンポンと叩いてみせるマミゾウ。そこに嫌味はない、それでも小さな鬼神は思わずにはいられない。

 

 騙し討ちによって人間たちから退治された『鬼』、化かし化かされ人間たちに受け入れられた『化け狸』。両者には何故ここまでの違いが生まれてしまったのか。少なくとも人間をより愛していたのは鬼族であったはずなのに皮肉なものである。今では山も天狗に任せて、鬼は人のいない地底に引きこもってしまっている。

 そういえばアイツは元気でやってるだろうか、と萃香は怪力乱神の鬼を思い出しつつ盃を傾けた。

 

 

「……そろそろ博麗の巫女が代替わりするはずだから、そっちに期待しておこうかな。いや、もう新しい巫女になってるかもしれないね」

「巫女が何なのかは知らんが、あまり人間に入れ込まぬ方が良いじゃろて。ワシらとは生きてる時間が違いすぎる、寿命を延ばす方法でもあるのなら別じゃが」

「延命のチカラか。……心当たりは一人いるんだけど、肝心の人間がいないんじゃ意味がないね」

 

 

 無くした隻眼にヒタリと指を当てる。

 治そうと思えばいつでも治せるが、せっかくなので潰れたままにしている。触ってみると未だに熱を帯びているかのように脈動している。あの戦いの記憶がそう感じさせているのだろう。思わず口元から牙が覗く。

 夏空の碧眼を持つ少女、己の全てをかけて鬼たる自分に立ち向かってきた変わり者。今はどんな風を纏っているだろうか、久しぶりに顔を見たくなってくる。新しい巫女とあの少女、二つも楽しみが出来てしまった。

 

 

「い、伊吹の大将っ。ちょっといいですか!?」

「どうしたんだい、赤瑛?」

 

 

 焦った様子で近寄ってくる手下の鬼に首を傾げながら、萃香は考えを打ち切った。目の前には現代風のショートデニムとニットの上着、どこかボーイッシュな印象を持つ赤い髪の少女。こう見えて相方の青鬼より強かったりする、そんな赤瑛は青い顔で小さな親分に詰め寄ってきていた。

 

 

「ち、地底って所には女の鬼も大勢いるんですか?」

「大勢じゃないが…まあ、男女半々ってところかな。元締めをやってる勇儀も女だし。それがどうかしたのかい?」

「うぅ、萃香様と同格の方なら超美人に違いないよ…。やっぱりヤバイよねぇ、アヤメちゃんの言う通りかもしれない……もうそうならアイツ絶対ぶっ飛ばしてやる」

 

 

 頭を抱えて大袈裟に項垂れる鬼の少女。

 その背後では灰色の狸少女、囃子方(はやしかた)アヤメがニヤニヤと笑っている。これは化け狸から赤瑛が何か吹き込まれたのだろう。悪く言えば単純で、良く言えば純粋な鬼の少女が彼女なのだ。そうでなければ絵本になどなっていなかったはずだ。本当に騙されやすいお人好しな鬼だと、萃香は面倒くさそうに目線を反らすことにした。

 

 

「……大将、提案なんですけど十年後と言わず、今すぐ幻想郷に向かいましょう!!」

「はぁ?」

 

 

 何やら言い争いに発展しそうな二人の鬼。そんな少女たちを横目にして、ひょいっとマミゾウは灰色の娘に耳打ちする。

 

 

「アヤメ、あの赤鬼に何を吹き込んだんじゃ?」

「ちょっと現実を教えてあげただけよ、姐さん。何百年も男は一人の女を待ってくれないわよって。そしたら随分焦っちゃうんだから可愛いわね」

「本当にお前はそういう方面の話が好きじゃのう」

 

 

 三味線の音色が風となり、小太鼓は波となりて夜の静寂を打ち揺らす。ひとまず腹が膨れた狸たちが演奏を始めていた。北と南の花が咲き乱れ、あまりの美しさに渡り鳥が惚れて留まるという『花の島』という別名。淡い桃色の雪割草が花開き、白い絨毯のような野花が月の光に輝いていた。そんな中を鬼の少女たちは駆けていく。

 

 

「あと十年は遊ぶって決めてるから駄目だっ!」

「そう言わずに一日だけでいいですから、アイツの顔を見るだけですから……ねぇ、大将ぅぅ!」

「うがーッ、鬱陶しいよ!!」

 

「青春じゃのぅ」

「焚き付けたのはアタシだけど、それは違うと思うわ」

 

 

 鬼ごっこを始めた鬼の少女たち。

 走って跳んで逃げて、たまに殴り合いながら萃香と赤瑛は境内を駆け巡る。そんな二人を眺めながら頬笑むのは化け狸の二人、そして気がつくと他の狸たちも笑っていた。鬼たちの足音に合わせつつ三味線は奏でられ、太鼓は叩かれる。満月の下、大地の上にて妖怪たちの宴は更けていく。

 

 そうして今宵、珍しいお客を交えて生み出された狸囃子は広々と島中に響き渡っていくことになった。翌日、多くの島民が二ツ岩の神社を訪れることになるが、そこに残っていたのは大量の木の葉と強烈な酒の匂いだけであったという。

 

 

 

 

 

 




以下、今回の幕間についての後書きとなります。
この度はほりごたつ様の執筆されている物語である『東方狸囃子』より、主人公の囃子方アヤメさんに少しだけ登場していただきました。
赤瑛との会話でも示されたように話し上手で聞き上手、時には相手を化かして楽しんだり、そんな狸の少女です。

あちらにも刑香が登場する番外編が掲載されておりますので、ご興味のある方は是非ご覧になってくださいね。

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