永久に君を刻んで   作:アテル

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アチーヴ・アワー・カルミネイション

 トリプルティアラを誓い合って以来、アストンマーチャンと真船の日常はこれまで以上の親密さと濃密さを増していった。トレーニング内容は濃くより効率的に、マーチャンの宣伝方法はもっと積極的で派手な方法を。

 

「トレーナーさん!今日はどう活動しましょうか!」

「準備万端さ!今日は…商店街に行こう!」

 

 休日はWマーチャンスタイルで街を練り歩き。

 

「マーちゃん。来週の木曜、ウマ日本放送…UNHの人から出演依頼あるけど…ウケる?」

「どーんとこいなのです」

「了解。僕はどうする?」

「トレーナーさんももはやマーちゃんの一部なのです。ですので、一緒に出演するのも当然です」

「だね。それじゃ週末に改めて洗濯しとかないとな…」

 

 レースに関するインタビューがあれば2人同席の形で受け。

 

「トレーナーさんトレーナーさん。ここのコマのマーちゃん、とってもキューティクルです!マーチャン特別賞を差し上げましょう」

「本当?そりゃ光栄だぁ。有難く頂戴致します」

「ふふーん。ちゃーちゃーちゃらーらー」

 

 時にまた、真船のアパートに入り浸って同じ時間を過ごす。仲良しコンビとしてその名は、そして栄光は世間に轟き続けていく。

 阪神ジュベナイルフィリーズ、桜花賞。かつては時に栄冠を、時に苦渋を。そんな揺れ動く勝敗に油断できぬ日々を送っていたマイル戦を完勝。そしてマーチャンの得意距離とは逸れるオークス。これも彼女のギリギリの勝利で、目標へとリーチをかけた。

 今や彼女らは今年1の注目株として、日本中で名前が唱えられる。そんな時の人になっていた。

 そして今日…。

 

「マーちゃん。緊張してないかい?」

 

 京都レース場控室。彼女の勝負服と同じ色のライトが点灯した部屋で、真船とマーチャンがレース前最後の会話を交わしていた。

 真船の問いかけにマーチャンは誇らしそうに胸をポンと叩く。

 

「おーるぐりーんです。マーちゃんは今、ウルトラスーパーマスコットへの大きな一歩を前にふんふんしています!」

 

 鼻息荒く、自信満々。強者の笑みを見せた彼女へ真船もそっと微笑む。負けることなどあろうものか。オークスより積み上げてきた努力の数。忘れるはずがない。

 知識、戦術、経験、時間、自信。人バ一体、すべてを重ね、すべてを倒す。

 

「ならよかった」

「今度こそ、見逃さないでくださいね。トレーナーさん」

「また手痛い思い出を…。大丈夫。もう見逃さないよ。君の笑顔、特等席で見るから」

 

 グータッチが最後、アストンマーチャンは地下バ道へと繰り出していった。

 

 

________

 

 

 

 吹きすさぶ空気の塊をかき分けながらターフを走る。このコーナーを曲がれば最終直線。アストンマーチャンの肺は既に悲鳴を上げつつある。ついこの前走った中山1200mは走りやすかった。あれくらいが芯から丁度いい。慣れ親しんでいる。

 だがこの京都2000m、走りにくい…走っていて…やはり長すぎる…。歯を食いしばりそんな弱音をかみ砕く。前を走るダイワスカーレットの背。余裕がありありと出ている。才の違いか。しかし…!

 

「ここでっ…諦めませんっ!」

 

 あえて譲った先頭。それをここで取り戻す!

 強く足を踏み込み、全身のエネルギーを…点火!足がせわしなく動き前へ前へと進むべく、ターフを蹴り上げ…。

 

「おせぇよ、マーチャン」

 

 瞬間、思わず怯むほどの覇気。マーチャンの瞳孔が大きく開かれる。

 しまった。そう焦った瞬間にはもう遅い。マーチャンに溜まっていたエネルギーはあっさり抜けてしまい、足が空回りを起こしたかのように上手く力が入らない。スパートがかからない。

 

『ウオッカだ!ウオッカが伸びてきた!向こう正面、ウオッカのエンジンがフルスロットだぁっ!』

 

 前に出てきたウオッカ。爆裂の末脚がマーチャンを瞬時に置き去りにする。

 

「しまっ…!」

「スカァーレット!!!」

 

 最後の直線、下り坂を重力で一気に駆け降りる。ここまでに体力の大分を消費し、何とか粘り切りたいダイワスカーレットやアストンマーチャンにとってこの強襲は、大きく刺さる。アストンマーチャンを抜かし最後の200m。前を走るダイワスカーレットにウオッカが追い付く。

 

「ウオッカ!?…くうぅぅぅ!!」

「オレが…最強になるんだぁっ!」

 

 最後の100m、デッドヒート。粘るスカーレット、並び今追い込さんと足を延ばすウオッカ。観客の声援が2人に押し寄せる。誰が女王か。初めは別の子を応援していた彼らも、そのスポットライトは2人の競技者に浴びせている。

 

「「やああああああああ!」」

 

 声を張り上げ全身の力を振り絞る。芯の芯の芯の部分からまで全力を絞り出し、120%の力を引き出させる。残り50m、30m、10m、刻々とゴール板が迫りくる。

 

「ったああああああああ!」

 

 そこで最後の最後のスパート!ウオッカが…出し抜いた。

 

『ゴーーーーール!ウオッカ!ウオッカが秋華賞を制した!アストンマーチャンのトリプルティアラを止めたのは、ウオッカだったああああ!』

「っ…!しゃあああ!見たか!オレの走り!!」

 

 大歓声を上げる観客席に向かってびしっと指を指し、女王の君臨を宣言するウオッカの姿。ダイワスカーレットは、そしてアストンマーチャンは…汗を全身から流し、膝に手を着き、呼吸を整えながらその姿を眺める他、なかった。

 勝てる自信は…あった。ダイワスカーレット、ウオッカ両名不在のオークス。だがそれを制することができた。距離適性の壁など超えられていた。そう思っていた。だが…彼女らの強さは想定を大きく上回っていた。

 

「マーちゃん…!」

 

 地下バ道へ歩いていけば、真船が必死の形相で駆け寄る。彼の顔には自責の念がありありと刻まれていた。そんなに悲しい顔をしないで。アストンマーチャンは優しく微笑む。

 

「私のライバルは…強いですね。ウオッカも、スカーレットも」

 

 地下バ道の先を行く2人へ視線を向ける。勝利を自身のトレーナーと分かち合う眩しい姿が。敗北を悔み、静かに涙しながらもその奥に熱い闘志を燃やす姿が。そのどちらもが、眩しかった。

 そんな彼女らが大切で愛おしい、誇れるライバルだから。

 

「トレーナーさん。次は、勝ちましょう」

 

 腕をぎゅっと握り、己を、真船を鼓舞するように気合を込める。競う機会がこれっきりなどではない。まだまだ、彼女らと競いたいのだから。

 夢が、マーチャンの心を燃やす。

 

「っ…うん!今度こそ勝とう!絶対に!」

 

 マーチャンに釣られるかのように、真船も強く笑う。

 世間の熱狂の渦に飲み込まれながら、深い水底へはらりはらり、堕ちていく。




ラスト2話!ラスト2話です!

なんもタイトル回収しないのは何?見てるのが周回遅れだぜ…

いつもご拝読ありがとうございます!
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