カシワモチ・・・カシワモチ・・・カシワモチ・・・(マーチャンの提案でダブルデートに行くことになった真船。当日コーデを褒めない彼に拗ねるマーチャンであったがそれを乗り越え、ついにダブルデートが始まる…)
マーチャンに連れられてやって来たのは郊外の商店街。商店街、といってもよくあるドーム屋根のアーケード商店街では無いが。まあ、マーチャンらしいと言えばマーチャンらしい選択だ。
休日にも関わらず商店街は閑散としており所々にシャッターが見受けられる。建物もトタンやアメリカかぶれの白い横ストライプ、それらに付いた赤茶の汚れが年季を感じさせる。まさに昭和にやって来たような、そんな懐かしさと寂しさを感じさせる雰囲気を纏っていた(ただし僕は平成生まれである)。
商店街を眺めながら、僕は故郷の風景を幻視していた。もういつ帰ったか覚えていない故郷。だが幼き頃過ごしたという記憶は心に根強く残っているのか、目の前の風景とはっきりと重なり、夢か現か判別のつかない不思議な感覚を作り出す。いつの間にか涙が零れそうな気がして気をしっかり持つが、それでもすぐに同じ感覚がやって来る。その感覚に溺れては浮き上がりを繰り返していると、遠くからけたたましいエンジン音が聞こえてきた。250cc直列4気筒。ロマンと趣味を詰め合わせたある種時代遅れなバイクを乗りこなしながら現れたのは翼…とその後ろにくっ付いてきたウオッカだった。
ここでマーチャンが今日呼び出した名目を思い出す。ウオッカは翼とのデートが恥ずかしい、だからダブルデートというハードルが低いものから超えていこう、と。では果たして彼らは今どうやって登場した?そう、答えはタンデムだ。2人が密着するあのタンデムだ。
「何でデート恥ずかしがるの君たち…」
自然とツッコミが口から零れる。当然だろう。タンデムよりもデートの方が何倍も恥ずかしそうだが…何故なのだろうか。
「そ、そりゃあ…あれだ///デートだと変な意識しちゃって///」
翼が顔を赤くしながら、普段から語尾に付く『!』を忘れて語った。
いや、翼も恥ずかしがるんかい。まだ初心そうなウオッカなら分かるが翼もそうなるのか…。そりゃこいつらじれったいカップルと言われても仕方がないな。
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かくして始まった今回のダブルデート。まず最初に向かうは小さな個人経営の映画館。今時やっているのが珍しい所謂ミニシアターと呼ばれる物だ。100席に満たない小規模なスクリーンを4人で貸し切り状態にする(勘違いして欲しくないのは、決して貸切った訳ではなく、単に他にお客がいないだけだ)。縦3m弱、横7m弱の狭いスクリーンを映画のアスペクト比の関係からさらに小さくし余計見にくい。そんな所がまた一興はマーチャンの言だ。僕としてもそこにはすごく共感する。ただスクリーンが若干埃を被っていたのか曇っていたのは残念だったが。
さて、設備に目を向けるのも程々にしてサッと翼たちに目を向ける。彼らが座っているのは僕とマーチャンの席から3席離れた所。狭いシートで肩と肩がぶつかり合いそうな距離でポップコーンを摘み、上映前のお知らせを見ていた。横顔なのでしっかりとは見えなかったが、その瞳は少し輝いて見えた。
2人並んでこんな様子なので思わず笑いが零れる。やっぱりお似合いのカップルだ。全く同じ顔をしているのだから。
スクリーンから洋画特有の軽快なファンファーレが鳴る。どうやら映画が始まるようだ。買ったチュロスを齧りながらスクリーンに目を向ける。開始早々銃声が響く。…まさか。
「マーチャン…これスパイ映画?しかも見たことあるあつでしょ」ヒソヒソ
チケット購入をマーチャンに一任していたがまさかこれだなんて…。いや、彼女にも彼女なりの考えがあるのだろうがやはりツッコまざるを得ない。
「ざっつらい。流石は専属レンズさんなのです」ヒソヒソ
そう言われると照れるな…。じゃなくて。
「マーちゃんはトレーナーさんとここで観たいのです。ただ、それだけ…」ヒソヒソ
「……。そっか」ヒソヒソ
スクリーンの向こうにある
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映画を見終わり、その後お昼ご飯としてラーメンを頂いた後に商店街をぶらつく。朝、この場に来た時より若干賑わっている。とは言ってもいるのは午前に部活動をして汗水垂らした学生たちがほとんどなのだが。彼らが向かっているのは喫茶店や肉屋などの軽食を取れる場所。特に肉屋にはコロッケを求めて10人ほどの男子たちがわらわらといた。
今の時刻は午後1時過ぎ。マーチャン曰くこれからもいくつか周辺を回るらしいので間食にはよさそうだな、と目星をつけておく。
「トレーナーさん。こっちですよ」
そんな風景に目を奪われているとマーチャンに声を掛けられた。どうやら路地に入っていくらしい。付いていくと路地にしては珍しく明るく結構な道幅があった。店の数がぐんと減り、家が増えるのは都心のそれとは大きく違う。そんな路地を進む事数分。うねうねと曲がる道に沿って進むとやがて1軒の怪しげな建物に到着した。木造の平屋を、目一杯の電飾で飾り存在を主張する変な建物。そこの看板にはこれまた色とりどりのLEDで飾られながら、『占い』の2文字がデカデカと書かれていた。
「ここです」
どうやら目的地はここらしい。僕ら3人が唖然とする中、マーチャンはずかずかと中に入り店員の人と話し出した。
3人で顔を合わせる。どうやら全員考えている事は一致したらしい。
『えぇ…ここぉ?』
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結局その後マーチャンのゴリ押しに屈し占ってもらう事になった。
翼組から占いが始まっていく。まずは手相。手のひらを触られながら見られていた。
「ウオッカすっごい睨むな…」ヒソヒソ
占い師の若いお姉さんに触られている翼への嫉妬か、睨みつけていた。その形相はもうとても凄く、彼女のダービーを連想してしまった。片や、睨まれてるお姉さんはというとその迫力を超すような『凄み』を一瞬見せ、あっという間にウオッカを黙らせた。
ウオッカを黙らせる程の覇気を放つ彼女。一体何者なのだろうか。少し気になったので観察をしてみる。占い用の衣装であろう、中東風の顔まで覆う衣装のせいで細かくは見えないが年は25歳前後だろうか。丁度僕や翼と同世代に見えた。紫色のフードの奥には褐色の肌が見える。そういう欲がある時代だったら間違いなくナンパしていたであろう好みドストライクな女性だ。
次に奥に見える数々の道具たちに目を向ける。占い屋らしく、水晶やら星形の飾りやらそれっぽい物が並ぶ中、一際目立つものがあった。それが奥に掛けられた絨毯だった。色あせて、焦げ茶色に変色してしまっているが、端っこに残っている綺麗なワインレッドが色あせる前の美しさを懸命に伝えていた。柄は宮殿が描かれており、その建築様式からイスラム風である事がうかがえる。相当昔の物なのだろう。The☆骨董品と言わんばかりの風格を纏う絨毯がやけに気になった。
「むむ…マーチャンは…」
マーチャンの唸り声でハッとさせられる。いつの間にやらマーチャンの番になっていた様だ。目を向けると今はタロットをしているみたいだ。彼女のタロットの結果は『悪魔の正位置』。タロットの中で一番と言っていい程の最悪なカードだ。バフォメットの描かれたカードを眺めるマーチャンは複雑な表情をしていた。
「…まるであの時みたい」
今日ずっと感じ続けた違和感が再び見えてくる。マーチャンが今、微かに呟いた
「次はそこのお兄さんの番ね~」
そうこう考えていると僕の番がやってくる。あれこれ考えている時に不意に話しかけられるものだから、ひゃい、と変な声を出してしまった。
「ふふっ。緊張しなくても大丈夫ですよ~」
そう言いながら彼女は僕の手を取り、手相を視る。たかが手のしわ、と思いがちだが侮ってはいけない。これまでの経験をデータとして積み重ねて作られた統計学的占いであり、いわば風水の仲間である。
一瞬、占いのお姉さんの顔が曇る。どうしたのだろうか、そう尋ねようとしたその瞬間だった。脳内に直接言葉が聞こえる。
『あなた、生命線が無いね』
…は?
そう聞き返そうとした。だが実際に口から出たのは「そっか~僕結構長生き出来るんですね。よかった~」という言葉。告げられた結果と何一つ噛み合わない言葉に恐怖を覚える。
すると少しずつ、体と魂が乖離していく感触。ついこの前感じたあの感覚がした。自分の体に何も指揮を出すことも出来ず、ただ傍観者として自分を眺めさせられるあの感覚が。
『運命線は…こりゃまた難解だねえ…。線が途切れ途切れだ。困難続きの茨の道だね』
そんな様子もお構いなしに占い結果は告げられ続ける。
『アハハ!キミ面白いね。…ちゃんと占えないや。次、行こうか』
コロコロ感情を変えるお姉さんに気味悪さを覚えながらも…顔に出せない。ただひたすら受け身にならざるを得ないこの状況がひたすらに苦しい。そうこうしている内に次にやるタロット準備が完了していた。勿論、カードを選ぶ作業でさえ僕の体が勝手にやってしまう。
出たカードは…真っ白。何も描かれていない真っ白なカードがそこにはあった。だが僕が復唱したのは『月の逆位置』という言葉。どうやら僕の体にはこのホワイトキャンバスに月が描かれているように見えるらしい。なんとおめでたい奴だ。
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その後、占いを終えると体の自由が戻って来た。流石に僕とてこのまま謎を残したまま帰りたくはない。気になって会計の際に聞いてみる事にした。
「僕が会計するから先に外に出てて」
そう言い残しお姉さんとレジの方へ向かう。レジのある事務所は占い部屋と違いとても簡素で、殺風景な事務所、と言った感じだ。まるでミニマリスト時代の自分の部屋を見ている感じで目をそらしたくなる。
「あれ、どういう事なんですか?」
前置きなんて煩わしいだけだ。開口一番に直球質問をする。
「ん?何のこと~?」
占っている時と大差のない砕けた口調とのんびりとした態度が余計に腹立たせる。正直ぶん殴ってもいいがそれは社会的にはばかられるので抑える。
「とぼけないでください。さっき僕に言ったじゃないですか『ちゃんと占えない』って」
「あ~、あの事ね。…簡単な話よ。キミから強い
「
唐突に出てきた
「そう。キミが示しているのは
急に雰囲気を変え、暗い笑みを浮かべ何かが憑いた様な雰囲気を纏う彼女に恐怖を覚える。圧倒的威圧感が背筋を刺し、本能的な恐怖を煽る。絶対に勝てないという事を無理矢理にでも悟らされ蛇に睨まれた蛙の様に委縮する。
「…アンタは」
せめてもの抵抗をする。不戦敗は性に合わないのだ。今出来る精一杯の威圧感を持って目の前の
「私は…さぁ、何て言おうかしら。…そうね、キミたちの良く知る存在でよく知らない存在。ちょっぴり有名な、ただのウマ娘よ」
そう言いながら被っていたフードを脱ぎ、頭部の全容が露わになる。一房の赤いメッシュが入った鹿毛のウマ娘。それが占いのお姉さんの正体だった。
「…じゃあ手相タロット4人分で16000円になります」
「げっ。しっかり取るなぁ」
神秘的なオーラを纏う彼女に目を奪われていると「これで終わりよ」と言わんばかりに料金を請求された。唐突に言われた事と料金の高さの二重の意味で驚愕の声を上げる。
「当たり前じゃない。私はこれで生計立ててるんだもの」
確かに正論だ。この現代社会においてどんなに強い能力を持っていてもお金なくして生活は出来ない。ループを始めて久しく経ちすぎて忘れていたが僕もそんな世知辛い状況に悩まされる者の1人なのだ。
「…はい」
という訳で気持ち程度のチップを乗せて支払いをする。受け取った彼女は少し驚いた顔でこちらを見たが、チップだと説明するとすぐに朗らかな笑みでお礼を述べた。
「毎度ッ!またのお越しお待ちしております」
チップを貰った事が余程嬉しかったのか、とても元気よく送り出してくれる彼女に苦笑を浮かべる。どうせ月末にマーチャングッズを買って無償配布による布教に使うお金だ。多少変動するだけなのでまぁ…痛くはない。
「…まあまた気が向いたら来るか」
そう呟き、僕はマーチャンたちの方へと向かった。
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その晩、
「…不思議なものね。ただ生きていただけなのにこんな運命に巻き込まれちゃって。
うっかり、と言わんばかりに舌を出しながら自分の頭を叩く。転生を繰り返し長く生きていたはずの彼女にしては随分新しいギャグをする。
再び水晶玉を覗き、今度は真船が歩んできた軌跡を見ていく。
「にしても…これだけ多くの
マーチャンが消え、悲しみに打ちひしがれる真船を見ながら語る。彼は一体どれ程の悲しみを背負ったのだろうか。苦しみと戦ってきたのだろうか。水晶玉からでは到底分からない事に思いを馳せる。
「…頑張ってね、真船君」
ダーレーアラビアンは静かに呟いた。
投稿遅れてしまい、申し訳ありません!!!私生活の方が死ぬほど忙しくて…。
本編はこれよりしばらくお休みします。その代わりにスピンオフにしばらく力を入れるので許して…。時系列的にはこの話の後にスピンオフを読むことをお勧めします
マーチャンってデカいショッピングモールよりもこういう古き良き商店街の方が好きそう(未所持勢の偏見)
正直伏線の貼り方雑だし数多いしで難解になってしまったのは反省してます。すみません
今回もご拝読ありがとうございます
また、pirby様、高評価ありがとうございます。嬉しすぎて飛び上がりましたw
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追記(2026/02/07) 誤字修正