妖精さんの、とおりみち   作:骨骨ボーン

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供養




 今日はとても忙しい一日です。

 朝から(文字通り)叩き起こされたかと思うと、いつもの覇気は無くとも威厳は無駄にある声で、蔵書の整理をしろと祖父に告げられました。

 ここ、クスノキの里の調停事務所がある建物は図体ばかりが大きく、長い年月を掛けて蓄積されたダメージは、破損した場所を直しても直しても追いつかないくらいボーロボロ。

 つい先日の騒ぎで倉庫の代わりにしていた、事務所の一つ隣の部屋の床材が大きく変化しました。これには紆余曲折、聞くも涙語るも涙の壮大な…原稿用紙にして百二十五枚ほどの物語があったのですが割愛して。結論から言うと、床材がクッキーに変わりました。

 その結果本の群れによって形成されていたメガロポリス群が土地ごと地盤沈下。保管されていた本が下の部屋に落下したので、バケツをひっくり返したように飛び散った本の救助、ならびに避難所への誘導を行うことになったのです。

 少しは抵抗したのですが、原因…結果と言うべきでしょうか? とにかくあまり使いたくない言葉ですが、責任の一分くらいはわたしにもありますゆえ、最終的には上司に言われるがまま、朝から肉体労働に精を出しているという現状です。管理される側の辛いところですね。

 

「腕はまだ大丈夫ですが、足が辛いです」

 

 御身が果敢にもダイブなされた二階の空き部屋から、三階の新しい置き場所への本を持っての往復は、うら若き乙女には辛い仕事です。農作業をするよりかは楽…いえ、自分の体力の少なさを前提として熟考に熟考を重ねた判断の元、調停官というジョブをチョイスしたわたしですが、この時ばかりは農作業のほうが………いや、ないですね。

 

「よし」

 

 悲観に暮れるのはやめにしましょう、いつまでも階段を前に立ち往生していても仕方ありません。本を詰めすぎたのか、みちみちと音を立てているような気がするリュックを背負い直し、気合を入れて一歩を踏み出します…が、いくら気合を入れ直しても現実は変わりません。蓄積された足へのダメージは無くなったりしないのです。

 その証拠にわたしの足はこれ以上酷使されてたまるかと言わんばかりに足裏から根を射出! コンクリートの床を突き破り、階をまたいで地面へと到達するもその勢いは未だ止まらず、偉大なる地球からすればほんの表面、されどわたし達人間の尺度から言うと果てしない地中奥深くまでその根を食い込ませ、必死の抵抗を試みています(比喩です)

 

「これでは動けません……そうですね。少し、休憩をしましょう」

 

 考えてみれば朝から今までずっと動きっぱなしです。これだけ頑張ったのだから、少しくらい休んでもバチは当たらないでしょう。

 先程までわたしの意思に反して、てこでもこてでも動こうとしなかった足が嘘のように地面から剥がれました。

 重たいリュックを床に置き、軽い足取りで向かうのは事務所として使っている部屋。そこにはわたしが持ち込んだティーカップやポット。それに今朝焼いて持ってきたクッキーがあります。

 一日に五回はティータイムを楽しむ我が調停事務所、ですが今日は一回も行っていません、ノーティータイムです。

 植物が成長するのに水と光が必要なのと同じように、人間は甘いものと紅茶がなければ働けないのです。

 

 湧いたお湯をティーパックを入れたポットに注ぎます。いつもなら調停事務所の職員、わたしと助手さんと祖父の三人分用意するのですが、祖父はわたしに罰則を言い渡した後、助手さんと二人で何処かへ行ってしまいました。

 わたしにバッチリぐっさり釘を刺して。

 

 ユーさぼったらアンダスタン?

 あの目はそうわたしに告げていました。野獣のような眼光でした。

 恐ろしいお爺さんです。

 

 淹れた紅茶を飲みながら、この後も続く作業に思いを馳せます。

 落ちた衝撃でぐちゃぐちゃになった本は、お二人に手伝ってもらい、昨日のうちに種類毎に仕分けが終わってます。ですが山のように積み重なっていた本の群れを運搬した数は、朝から一人で挑み続けても未だに氷山の一角にしか過ぎません。いったい後何往復すればいいのやら…。

 

「もういやーーー」

 

 クッキーを放り込むはずだった口から、弱音がこぼれ落ちていきます。

 それはもう、ポロポロと。

 

「おこまりですか?」

 

「妖精さん?」

 

 妖精さん。

 平均身長十センチ。

 三頭身。

 高い知能。

 無邪気な性格。

 失禁癖あり(排泄はほぼ真水)

 極めて敏捷。

 旧時代、大地に空に海にと世界を我が物顔で闊歩していたわたし達人間に取って変わり、今の地球で最も栄えている現人類です。

 その数は数百億とも数千億とも言われており、すでに国家崩壊、文明衰退、人口低下の憂き目に遭っているわたし達とは大違い。

 まるで魔法と見紛う程の高度な科学技術を保持しており、瞬きの間に個体数を増やし、束の間に集まり、いつの間にか都市国家を形成し、あっという間に離散してしまいます。

 妖精さんについては未だに謎が多く、そんなブラックボックス満載な彼らと我々旧人類との間をとりなすことが調停官、つまりはわたしの仕事だったりしますね。

 そんな妖精さんが開かれた窓から刺す日の光を背にして立っていました。

 

「クッキーどうぞ」

 

 とりあえず招待しました。

 

「ありがたきー」「ありがたくー」「ありがたやー」「くるしうないー」「ちこうよったるわー」

 

 増えました。

 

「それで?今日はどうしました?」

 

 クッキーを一枚ずつ渡し妖精さんに問いかけます。

 クッキー片手に狂喜乱舞、一口食べては身悶える彼らは人間なら一口で頬張れそうなクッキーを全力で楽しんでいて、見ていて微笑ましいです。

 

「にんげんさんがおこまりかと」

 

 我に帰った妖精さんが、被っていたとんがり帽子を裏返し中を漁るとその手にはブレスレットが!!

 

 

“パッパラパッパッパーパパー”

 

 

 どこからともなく聞こえたサウンドエフェクトだとか、明らかに帽子より大きなブレスレットだとか色々物申したいことがありますが、それよりわたし、今出てきたものに興味津々です。

 妖精さんはその超技術を使って不思議な道具を作ることがあります。その効果はどれも奇妙なもので、中にはとんでもない事態を引き起こすこともあるので、使用する際は注意して使いましょう。また、形や大きさは人間サイズで作られていることが多いので、自分たちで使うためではなく、人間へのおくりものであるとも言われています。

 なぜか妖精さんの道具は、どんなにげん重に管理していても紛失してしまうことがあるそうです。すごくふしぎ!(メモから一部抜粋)

 

「これはいったい、どういう物なのですか?」

 

 艶のあるエメラルドグリーンのそれは弾力があり、わたしはそうではありませんが腕の太い人でも容易に身に着けることが出来そうです。時折りブレスレットの表面を幾何学模様状の光が走っていますが、いったいぜんたいどういう原理なのかさっぱり。

 不思議とクセになる感触で、意味も無く手の中でみょんみょんしてしまいます。

 

 みょんみょん。

 

「どこでもきぃー」

「すきなとびらからでれるです」

「ふかのうはんざいのかんせいですな」

「はんにんはこのなかにいる」

「しかたなかったんです」

 

「どういうこと?」

 

 妖精さんの非常にアバウトな説明を要約すると、一つの扉をAと仮称しましょう。その扉はAの扉の表からAの扉の裏に繋がっています。普通のことですね。けれども、これを着けた腕で扉を開けると、なんとAの扉の表から離れた場所にあるBの扉の裏に繋がるらしいです。まあ不思議。

 

 それを聞いて一も二もなく装着しました。

 これで作業が楽になるなんて考えは全然、これっぽっちもありはしませんが、妖精さんが出す不思議な道具の効果を調べるのも私達、調停官のお仕事です。

 つまり私のこの行為は正当性があり、私心や後ろめたい事など一切無いという事ですね。

 

 では早速、物は試しと言いますので効果を確認してみましょう。

 扉の前に立ち、そーっと開けてみます。

 もしかしたら見ず知らずの土地に、放りだされるかも知れませんからね、慎重すぎるほどで良いのです。

 

 さて、そんな私の行動も意味はありませんでした。

 扉の外は毎日出入りする事務所前の風景と変わりがありません。

 試しに外に出てみると普通に事務所の扉の裏、つまりは廊下と壁でした。後ろを向いても先ほどと代わり映えのない部屋の風景しか見えません。

 

「効果が無いようですが」

 

「おもいうかべてー」

「りありてぃ、ひつようかと」

「しんじるこころが」

「すくわれるゆえ」

 

 どうやら思い浮かべた場所に出れるみたいですね、それもある程度の具体的なイメージも必要、と。

 リテイクです。今度こそは成功させて見せます。

 

「では…」

 

 目を瞑りドアノブに手を掛け、頭の中で本が積みに積まれた部屋を思い浮かべます。

 そのまま扉を開けるとなんとも素敵な………じゃなくて、なんとも不思議な事に目の前には廊下ではなく、本が積みに積まれた部屋の風景が広がっているではありませんか!

 これはもっと調査をする必要がありますね。

 というわけで聞き込みです。

 

「これの原理はどうなっているのでしょう?」

 

「こねこねして」

「たんしゅくーみたいな?」

 

「……何を?」

 

「「……くうかん?」」

 

「空間ってこねたり出来ましたっけ?」

 

「いがいとかんたんです」

「あかごのてをひねるように」

「おちゃのこさいさいですな」

 

「……なるほど、あまり掘り下げないほうが良さそうです」

 

 何というか、行き過ぎた技術の深淵を垣間見た気がします。

 とはいえ、今のわたしにもっとも必要な道具と言っても過言は無いので、ありがたく頂戴しましょう。

 

「ありがとうございます、妖精さん。これはご褒美です」

 

 お皿に盛ったクッキーを進呈しました。

 

 さて自身の身長よりも高い、山のようなクッキーを前にしてはしゃぎ倒している妖精さん達を横目に、わたしもティータイムの続きといこうではありませんか。

 台車が置いてある部屋を思い出しつつ、本日2杯目の紅茶を飲み始めました。

 時間はできましたので焦らずに心ゆく迄。




続く?
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