「××××!」
なんで泣いてるの・・・?
転んだだけだよ・・・トレーナーが触れたら失格になっちゃう
私まだ走り・・・・
「トレーナーさん?・・・トレーナーさん!」
誰かが私を呼び、近寄ってくる音が聞こえる。
「トレーナーさん・・・って寝てるんですか?」
顔を覗いているようだ。
しばらく経つと
「むぅ・・・」
起きてこない私に我慢の限界だったのか寝てる私の体をゆする。
狸寝入りも続けられなさそうに感じた私は諦めて体を起こす。
「おはようスズカ」
「おはようございます、トレーナーさん。おねぼうさんですね」
ふふっと笑う彼女はサイレンススズカ。
ウマ娘と呼ばれる女の子。
そして私は星川ひまり。
この子の担当トレーナーである。
ここトレセン学園はウマ娘と呼ばれる少女たちが一流の競争ウマ娘になるため
学び、鍛え、ライバル達と切磋琢磨する場所。
夢か・・・やめよう。
さっき見た夢を思い出して胸がムカムカしてくる。
にしても今さらあんな昔のことをなんで・・・
「・・・ナさん?」
「トレーナーさん!」
「うお?!」
ぼーーっとしていたらしい。
サイレンススズカの呼び声に驚いて変な声が出た。
「あのー、走りに行っても?」
先月レースを制したばかりのスズカは気持ちが高ぶっているのか
走りたくてしかたないらしい。
レース後はケアが肝心なのを経験から理解していた星川ひまりはサイレンススズカを
なだめながら次を考えていた。
「スズカの走り方と今の回復感だと」
「やっぱりわたし走りに・・・」
「だーめ」
ええー?とスズカの声がトレーナー室に響く。
別塔、2階トレーナー室。
「トレーナー、話がある」
神妙な顔で話を切り出す銀髪のウマ娘。
そして対するは机に座るガタイのいい男性。
「まちなさい!アタシは乙女よ!」
・・・あ、ハイ。
ガタイはいいがココロは乙女。
てかなんでナレーションに突っ込んでるんですか?
「トレーナー、誰と話してるんだ?」
不思議そうな顔で覗き込んでくる彼女はオグリキャップ。
灰色の怪物との異名を持つ現役最強の一角である。
そして先ほど突っ込んできた男せ・・・乙女は彼女の担当トレーナー藍。
「それよりもオグリちゃん、何かあったんじゃないの?」
藍が問いかける。
そうだ。と話始めるオグリキャップ。
「理事長が呼んでいたぞ。なにか頼みたいことがあるらしい」
「理事長?なにかしら・・・とりあえずありがとう」
机の書類を片付けながら返事を返す。
トレーニング計画表を手に取り、外に出ようとするオグリキャップが扉の前で振り返る。
「うん?どうしたの」
「ひまりの事なんだが」
ひまりの名前に藍の眉間にシワが寄る。
「ひまりが・・・どうかしたの?」
「以前、外周トレーニングの帰りにすれ違ったんだが」
数日前のトレーニング場でのことを話し始める。
同日に練習明けでトレーナー室に戻る際にひまりの歩き方が変な癖があったと。
オグリキャップは幼少期に足に生まれつき障害があったためか人の足の動かし方に目が行きやすいらしい。
一通りの話を聞いた藍が言葉を返す。
「癖がある・・・それで?」
「トレーナーが仲いいし、私も世話になったことがあるだろう?だからマッサージでも・・・と思うんだが」
ふんす。と聞こえてきそうな真面目な顔で提案をするオグリ。
聴き終えた藍はふぅ、とため息をしてから顔を上げる。
「ひまりの事は気にしなくていいわ。その気持ちが嬉しいと思うからアタシが伝えておくわね」
「だ、だが母直伝のマッサージはよく効いて・・・」
提案を却下されたオグリがあわあわしながら聞き返す。
まったく、と言いたげにため息をつく藍。
「人には人のコンプレックスってのがあるものなのよ」
「そうなのか?」
「そうなのよ」
多少の押し問答のあと、諦めきれない様子のオグリだったがトボトボと部屋を出てトレーニングに向かう。
オグリを見送った藍は席を立ち、収納棚に足を運ぶ。
鍵がかかった棚を開き中のファイルを手に取る。
「人には人の・・・ね」
懐かしむように遠くを見つめる藍。
ファイルをしまい理事長室に向かう。
別塔、理事長室
「失礼します」
ノックをし部屋に入る。
大きな帽子をかぶり、扇子を片手に持った活発な見た目の少女がそこにはいた。
秋川やよい。
幼い見た目でまるで小学生のようだがれっきとしたトレセン学園の理事長である。
「足労!呼び出してしまい申し訳ない」
ぱちん!と扇子を閉じながらしゃべり始める。
「今回呼び出したのは君の他に適任者がいないと思ったからなのだが」
「適任?」
疑問で返す藍をよそに秘書・駿川たづなに指示を出す理事長・やよい。
はい。と手渡された書類に目を通す藍。
「アカソアイシア・・・?」
「はい」
藍のつぶやきに秘書・たづなが反応する。
少し目を伏せた後、改めて顔を向けて話始める。
「アカソアイシアさんは先々月にデビュー戦を終えたばかりの競技ウマ娘なのですが・・・」
「少し前に無理がたたって脚を怪我されまして」
説明していた秘書・たづなの口が止まる。
それを見たやよいが口をはさむ。
「薄志!走れなくなってしまったのだ」
「走れなく・・・?」
嫌な予感がしつつも返事を返してしまう藍。
席をたったやよいがたづなの手から書類を引き取り、藍に手渡す。
「君に頼みたい」
まっすぐに目を見て伝えるやよいに顔を伏して目をそらす藍。
「・・・なんでアタシなんですか」
苦虫を嚙み潰したように顔をしかめながら言葉を絞り出す。
なんで今日はこうも悪い風が吹き続けるのか。
モヤモヤしてる藍に話を続けるやよい。
「はぁ・・・」
パシン、と机に書類を叩きつけ、椅子に寄りかかり天を仰ぐ藍。
「あまりに似すぎなのよね・・・あの子に」
藍は思い出していた。
少し前に担当したウマ娘を。