「よろしかったんですか?」
駿川たづなが少女に問いかける。
意味がわからない様子の少女は首をかしげる。
「藍トレーナーのことです!勝手にあなたの担当と紹介してしまいましたが・・・」
「理解!そのことか」
少し焦るたづなに対してなんともないような様子の少女。
はっはっは、と笑顔を浮かべている。
何を考えているんだと抗議しようとしたたづなに扇子を突きつけ静止する。
「無用!彼・・・否。彼女なら引き受ける」
どこからそんな自信が湧くのだろう?
いつも根拠のない論理で突き抜け、結果成功に向かう。
不思議でならない。
むむむ・・・と難しい顔をしていると扉がノックされる。
「許諾!入ってきたまえ!」
ドカッっと椅子に半ば飛び込むように腰掛ける。
その様子にたづなも姿勢を正す。
「失礼します」
ガチャリ。
声の後、扉が開かれる。
ガタイのいい男性がドアをくぐり入室してくる。
男性は手に持っていた書類を差し出す。
「アカソアイシアのことですが」
トレーナー藍は少女をまっすぐ見る。
ふむ。少女は組んだ手の甲に顎を乗せて少し前のめりの姿勢を変え返事をする。
「・・・それで?」
少女が先に切り出す。
手にしていた書類を机に置き、藍は答える。
「何ができるかわかりませんが、この話お受けします」
「うむ、承認!よろしく頼んだぞ!」
ダン!
藍が差し出した書類に少女は押印する。
専属契約申請証。
ウマ娘の担当になる際に記入し提出する契約書。
「理事長は人が悪いですね」
呆れ顔をしつつ軽い嫌味を投げる藍。
一瞬キョトン顔になった少女、理事長やよいが扇子を手にし斜め上を向く。
「疑問。なんのことかわからないな?」
シラを切ろうとする理事長やよいをジト目で見つめる藍。
ふふっ。互いに声をもらしたのをきっかけに理事長室を出て行く藍。
やよいとたづな。
部屋が2人きりになった。
少しの沈黙が流れる。
「わかっていらしたんですか、こうなると」
沈黙を割いたのはたづなの質問だった。
扇子で隠しているがにやけ顔のやよいがさあ?と答えた。
なぜこうもうまくいくのだろう?
たづなのやよいに対する疑問は深まるばかりだった。
アカソアイシアは悩んでいた。
どう切り出すべきかと。
すでに扉の前で数分立ち往生していた。
「貰った資料が悪いよ・・・見た目めっちゃ怖いもん・・・」
ガタイの良さに合わせて坊主頭のぱっと見マル暴のような風格。
藍の見た目の悪さが裏目に出ていた。
「オグリキャップさんを担当しているんだもん。きっとキツイ性格に違いない」
「じゃなきゃ灰色の怪物なんて呼ばれるウマ娘を育てられるはずがないし」
妄想が悪い方に加速していく。
アカソアイシアの頭の中で火を噴く鬼教官のイメージが固まっていく。
頭を抱えてしゃがみ込んでいるアカソアイシアの背後。
曲がり角から覗き込む2つの人影。
「なにあれ」
「お腹でも減ってるのではないか?」
「どっちかと言うと腹痛じゃない?」
星川ひまりとオグリキャップ。
代理監督をしたトレーニングの報告書を渡すために藍のトレーナー室に行くところであった。
が、曲がれば目的地というところで扉の前で挙動不審な行動をする人物を見てとっさに隠れてしまったのだ。
そろ〜。
物陰から頭を出す。
目の前には変わらずしゃがんだり立ったりを繰り返している少女。
「オグリ、見覚えないの?」
ひまりが質問を投げる。
いや?っと即答するオグリキャップ。
「ほら併走トレーニングとかさ。あのはげちょびんがなんか言ってたとかさ」
「トレーナーから・・・」
うーん?
首を傾げすぎて転びそうになりながらも、やっぱり覚えがないと答えるオグリキャップ。
「じゃあオグリのファンとかかも・・・!」
「そうなのか!」
「声かけてきてあげれば?どっちにしろあそこにいたら部屋入れないし」
「わかった」
まっさきに浮かびそうなことを閃いたかのように言ったかと思えば飽きたかのようの適当なことを言い始めるひまり。
それに大きくうなづくオグリキャップ。
ふんす!と気合を入れトビラ前の少女の方に向かう。
「あと3分したらノックしよう・・・そうしよう」
周りの見えてないアカソアイシア。
そんな彼女の肩が叩かれる。
急な外部からの刺激にひぃ!と転んでしまう。
「いたた・・・なに?」
腰が抜け力の入らない体をなんとか起こすと目の前の景色にようやく気づく。
「え?オグリキャップさん・・・?」