日が傾くと一気に気温も下がる。
ベースキャンプに人はいなかった。最近とても強いポケモンが周辺を荒らしており、数日前にここも撤去したのだとウォロが説明した。周辺の草が刈ってあり、周囲には大人しいポケモンしかいなさそうだ。ここならそこそこ安心して夜が越せる。
テントを張るのを手伝い、火を熾して一息つくころには、もう太陽が半分沈んでいた。ウォロがテントの中に寝袋を広げる。
「使ってください」
「ウォロさんはどうするんですか?」
「ジブンは火の番をしています。一晩くらいは慣れていますし、大丈夫ですよ」
「あたしもします。交代にしましょう」
ヒカリは慌てて提案したが、ウォロは眉を下げた。
「仮に野生のポケモンが現れたとして……アナタ、どうするんですか?」
「それはこう、あたしとポケモンでだぁぁーんと!」
ヒカリは両手を振り回して主張したが、ウォロは眉を下げたまま悲しそうに言った。
「倒されそうですね」
「……ハイ」
そうだった。今はヒコザルしかいないのだった。
しかもヒコザルはモンスターボールの中で寝ている。道中ずっとウォロを警戒していたのだが、気を張りすぎて疲れてしまったのだ。戦闘になったとして二匹以上に囲まれれば敵うまい。
ヒカリはがっくりと肩を落として座り直した。ウォロが苦笑する。
「お気持ちだけ受け取っておきます。それでも気に病むというなら、アナタへの先行投資だと思ってください」
「先行投資」
「アナタは面白い人です。これは商人の勘ですが、歴史に残る大きなことを成し遂げそうな気がします。そのとき恩を返してくれればけっこうですよ」
「まかせてください!」
ヒカリは胸を張って、ウォロの上着をマントのように翻した。寒々しいヒカリを見かねて貸してくれたのだ。宣言しつつ、寝袋を整えているウォロに返した。
「ばっちり恩返ししちゃいますから。びっくりするくらいどーんと!」
「では、よろしくお願いします」
あまり本気にしていなさそうだ。
ヒカリはムッとして「ホントーですからね」と念押しし、もぞもぞと寝袋に潜り込んだ。上着を着直したウォロが食事の準備をし始めた。
待っている間、疲れの出たヒカリはうつらうつらとしていた。
揺り起こされた頃には完全に日が暮れ、空気がしんと冷えていた。そのままでいい、と言ったウォロの言葉に甘え、寝袋に半身入れた状態でスープをもらう。味が薄い、ほとんど具のないスープだったが、朝から何も食べていないヒカリはお代わりした。温かいものを胃に入れられることが本当に心に沁みた。
ヒコザルも一緒に、とボールから出したが、彼は寝ぼけ眼で何やらもにゃむにゃしていて食事どころじゃなかった。
「明日の朝には嫌でも空腹で目を覚ますでしょう」
「ウォロさんのポケモンはご飯食べましたか?」
夢見心地のヒコザルをボールに戻して尋ねると、ウォロはスープをすすりながら答えた。
「ええ。先に頂きました」
「どんなポケモン持っているんですか? 見たい見たい」
「機会があればお見せしますよ。ヒカリさんはポケモンを戦わせるのは好きですか?」
「もちろん!」
「ほう! かなりの自信があるとお見受けしました」
「今はいないんですけどね……」
「ほう?」
ヒカリはしょぼくれ、事の経緯を説明した。話し終えるとぐーっとスープを飲み干し、ごちそうさまでした、と器を返す。ウォロは神妙に話を聞いていたが、スマホロトムの話には眉を寄せた。
すまほとろむ、とはなんですか。
そう尋ねるウォロに、相当な田舎だなここは、とヒカリは驚きながら見せた。
「非常に趣味の良い外観のカラクリですね。素晴らしい」
「そうかなぁ」
液晶の光が、白皙の商人の顔を照らした。スマホロトムが反応するごとにぴくっと指先が止まり、やがて馴染んでいく。ウォロは好奇に満ちた様子であれこれと触りまくっていた。
「ポケナビは持ってますか?」
「ぽけなび?」
「ウォロさんって電話とか持たない主義ですか?」
「すみません、ジブンは商人なので物事には詳しい方だと思っていましたが、寡聞にしてデンワを知りません。ヒカリさんのお話から察するに、離れた人とやり取りをしたり、地図を見たりできる便利なもの、でよろしいですか?」
「そうなんですけど、本当に見たことないですか? まじで?」
ぽかんとした。田舎だ田舎だとは思っていたが、電話すら知らないなんてこと、あるだろうか?
では、ここはいったい〝どこ〟なのだ?
嫌な汗が頬を伝う。
変な形状になってしまったスマホロトムを興味津々で触るウォロに、ヒカリは急かされるように質問を投げかけた。
「ヒスイ地方って、どのへんなんですか? シンオウ地方は知らないから……そだ、ジョウトとかカントー地方は分かりますか? それともアローラ……は、知らないんだっけ」
ウォロがパッと顔をあげた。スマホロトムをヒカリへ返却し、「ジョウトやカントーは分かります。ヒスイ地方はそこよりかなり北にあります」と答えた。暗闇でスマホロトムの光は目に堪えたようで、目元を抑えてぱちぱちと瞬きを繰り返す。
そういえば、スマホロトムに搭載されているロトムの声を一度も聞いていない。誰にも連絡がつかなくなったのと同じように、ただの機械のように喋らなくなってしまった。
「どの位置ですか? えっと……、何か書くものあります? そう、その木の枝ください」
焚火にくべていた木の枝を一本もらい、ヒカリは地面に地図を描いた。がりがりと何度かジョウトの位置、カントーの位置、シンオウの位置を地面に刻む。
「ヒスイはどの辺ですか?」
ヒカリが木の枝を渡すと、ウォロは思案するような難しい顔をしていた。
「ヒスイ地方は、ここです」
とん、と木の枝でウォロが示す。
描く必要はなかった。
「……そこはシンオウですよ」
「これはジブンの推測ですが、ヒカリさん」
木の枝はシンオウ地方を指している。
ウォロの真剣な目に、焚火の赤々とした色が映っていた。
「アナタ、時を遡ったのでは?」
▼
ヒカリは数分考えこみ、「そうかも」と呟いた。
常識で考えればあり得ない。
だが、ヒカリは常識外れの経験があり、友人にも常識外れの人間が多かった。
例えばジョウト地方の友達のコトネは、セレビィによって過去に行ったことがある。
アローラで知り合ったヨウという少年――歳の近いチャンピオン同士ということで、意気投合したのだが、アローラには過去、ウルトラホールから人が時空を超えて飛ばされたり、ウルトラビーストという生命体がやってきた事件があったとも聞いた。彼はリーリエという友達のお母さんのために、ウルトラビーストに寄生された人間の治療法を探していた。
そしてヒカリは、ギラティナによって反転世界に足を踏み入れたことがあった。
「つまり、あたしが帰るためには時渡りしないといけないってこと? シンオウ地方が昔はヒスイ地方って名前だったなんて知らなかった」
「いえ、ヒカリさん。時渡りは可能性のひとつです」
「それってどういうこと?」
ウォロが地面に丸を描いた。焚火が爆ぜる。夜の底で、ウォロと二人っきりで焚き火を囲んでいるような気がした。
遠くでレントラーの遠吠えがして、ウォロが片手で薪をくべた。
「いいですか。まずジブンたちがいる世界の次元の外に、シンオウ様がいらっしゃいます。それはあの場所――裂け目の向こう側に存在しています」
ウォロが仰いだ先には遥かな頂き、テンガン山が在った。
その上空、星明りの輝く夜空に切れ目が走っている。ガラス張りの空に金槌でひびを入れたようになっており、ヒカリはぽかんと口を開いた。
「なにあれ」
「あれは時空の裂け目です。数十年前、突如として天冠山の上空に現れました。シンオウ地方に時空の裂け目は……いえ、天冠山はありますか?」
「あるけど、あんなの見たことな――」
い、とは、言い切れない。
かつて開かれた、やぶれた世界〟への入り口を彷彿とさせる。しかし、数十年間、やぶれた世界への道が開いたままだなんて馬鹿なことがあってたまるか。
あれはアカギが赤い鎖のレプリカを使って無理やり開けたものだ。放置すればシンオウどころではなく、世界が崩壊する歪みが波及する代物。それが開いたままで安定しているとすれば、やぶれた世界とは全くの別物か、誰かが歪みを抑えているとしか考えられない。
――『あな××ちか×が×つよ×××です』
――あなたの力が必要なのです。
「……分からない」
「見たことがあるのですか」
「わかんないけど、放っておいちゃ駄目だよ。……ここってなんなの? ヒスイ地方ってなに? あたしの知ってるシンオウ地方の過去なの? それともぜんぜん違う場所なの?」
「それがもう一つの可能性です。よく似た別の世界。ジブンの推測では、過去にしろ別の世界にしろ、アナタは時空の裂け目の向こう側からやってきた人なのではないでしょうか」
ヒカリが急にいなくなって、向こうではどうなっているのだろう。帰りたい気持ちはもちろんあるが——ヒカリは天冠山の上空に広がる時空の裂け目を見つめた。
誰かが助けを求めている。
でも、誰が?
「あたし寝ます!」
しゅびっと片手をあげて宣言する。
ウォロは目をパチクリさせ、笑った。
「はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい!」
分からないことを考えるのは時間の無駄だ。
何をしたらいいのかも分からないときは寝てから考えよう。
ヒカリはテント出入り口の垂れ幕を下げ、大きな寝袋に頭まで潜り込んだ。
▼
『予期せぬエラーが検出されました。修正パッチを当ててください』
目が覚めた。
寝袋の中で慌てふためき、やっとのことで這い出してスマホを確認する。
暗転した画面に△のマーク。
甲高い機械音声はロトムから感情をなくしたような煩わしい音だ。ヒカリはスマホロトムをポケットに、片手にモンスターボールを掴んで外へと飛び出した。
ぐるりと周囲を見渡す。日はすっかり地平線からのぼって明るい。すがすがしいほどの朝。焚火は消えているが煙が細く上がっているし、熾火は残っている。
ウォロの姿はない。日が昇ったので水でも汲みに行ったのかもしれない。
何かが来る。
強い視線にヒカリは総毛だった。振り仰いだ崖上に四足のポケモンの姿を見とめる。
初見のイメージは、年をとったオドシシ。
たっぷりとした白い毛を首周りにまとった四足のポケモンがこちらを見下ろしている。それは上体を低くした。
ゾワッと悪寒が走る。
〝予備動作〟だ。
ヒカリはそのポケモンから目を離さずモンスターボールを開いた。ヒコザルは半分寝ぼけ眼でヒカリを見上げた。
「ヒコザル。ウォロさんを探してきて」
「き?」
あのオドシシのようなポケモンにヒコザルでは勝てない。幸か不幸か、絶望的なレベル差が経験から分かってしまった。
喉を鳴らす。
ヒコザルの視線が崖上のポケモンとヒカリの間で彷徨う。
ポケモンが崖を蹴った。お願いだから、とヒカリは祈りを込めてもう一度呼びかけた。
ポケモンが、ひとつ、ふたつと瞬きのうちに急峻な岩場をまっすぐに駆け下りてくる。
――猛烈な殺気を伴って。
「行って!」
「きぃッ!」
ヒコザルが飛び出した。
だが方向は〝オドシシのようなポケモン〟に対してであった。
「なん――ッヒコザル! そっちじゃない!」
ヒコザルは尻の炎を高く盛らせ、胸を反らせた。昨日のポケモンとの戦闘時よりも勢いよく、大きな火の粉を叩き込む。タイミングは悪くない。
だが素早さが違いすぎる!
ポケモンが跳躍し、火の粉は地面に着弾した。ヒコザルが目を見開き、後方へとそのまま飛び退いてヒカリに体当たりした。
「きゃあッ!」
さっきまでいた場所へ重たい蹄が落下した。頭部を撃ち損なった蹄が地面を抉る。
くらくらしているヒコザルを抱えてヒカリは逃げ出した。
「もー馬鹿! なんで行かなかったの!」
「きぅぐ……ききっきッ!」
ヒコザルがぶんぶんと首を横に振った。そういえば、彼はなぜかウォロを敵視している。だからウォロのところへ行かずにあのポケモンへと立ち向かう方を選んだようだ。
「喧嘩しなーい!」
「ききっ!」
全力失踪のポケモンから逃げ切れるほどヒカリの足は速くない。早々に腕から降りたヒコザルが先行し、敵へ木の実や火の粉を投げつけるがアヤシシそっくりのポケモンは見向きもしなかった。
繰り出される突進をギリギリで躱し、ヒカリはジグザグに走った。突きだされる角が腕を抉って血が飛ぶ。抑えている暇さえない。駆け抜ける道でビッパがとぼけた顔で牽かれ、ムックルがいっせいに飛び立った。
行く手に川と橋。
橋のド真ん前に気の立ったレントラー。
「わっ!?」
ヒカリの足が急ブレーキをかけ、ヒコザルの警告と火の粉に身を翻した。迫り来る大きな角を紙一重で躱した直後、衝撃に息が止まった。
吹っ飛んだヒカリは全身で地面を擦り、ゲホゲホと咳き込んだ。涙目でオドシシそっくりのポケモンを睨む。
相手の頭部の空間が揺らいでいる。
突進ばかりだから油断した――〝揺らぎ〟は不可視の壁を作り出す技で観察される、エスパーお得意の空間固定。
突進にバリアーを乗せ、衝突範囲を拡大したのか。
ポケモンの真っ白な首回りの毛が鮮血に染まっている。ヒカリは腕を抑えたが、出血が止まらない。ぐぅりぃい、と低い唸り声が加わった。
頭の痛いことに声で分かる。さっきのレントラーだ。ヒコザルが構えたが、顔色は悪い。
ヒカリも足が震えていた。
しかし不思議と、死ぬかも、とは思わなかった。
理由は分からないが、〝自分は死んでも大丈夫〟だという妙な思考が、あたかも常識の顔をして脳内に居座っていたのだ。
どうして大丈夫なのか考えようとはしない。
してはいけない。
レントラーはオドシシそっくりのポケモンを警戒して動かない。オドシシそっくりのポケモンは……ヒカリは困惑した。
追い詰められているのはこちらだというのに、オドシシそっくりのポケモンは激痛に耐えるように震えていた。何処でもない場所から聞こえた声が甦る。
――『あな××ちか×××つ××なの×す』
――『あなたの力が必要なのです』
「苦しいの?」
喉を引き裂くような甲高い、悲鳴に近い哮りが答えだった。ギラッと白い眉下で殺気と理性の混在した瞳が光る。ヒカリのポケットから甲高い機械音声が共鳴した。
『検索結果:エラーNo.1 アヤシシ 修正パッチを当ててください』
「ひぇ!? 当てる? 当てるってなにを!?」
スマホロトムを引っ張り出し、顔を動かさず視線を落とした。チカチカと△の警告マークの真ん中にオドシシそっくりのポケモンのマークが刻まれている。
シュウセイパッチ――修正パッチ?
「ええい! ヒコザル! レントラーをお願い!」
「きぃッ!」
オドシシそっくりのポケモン――アヤシシが突進を繰りだした。
なにかを振り払うような、苦しむ目は焦点があっていない。
突きだされた角に速度は乗っていない。
正気と狂気の境界線を疾駆するアヤシシをヒカリは睨んだ。血の流れる右手に画面が点滅するスマホロトムを握る。レントラーの電気ショックとヒコザルの炎が弾ける衝突音が耳を打った瞬間、ヒカリは突進を紙一重で避けた。
ぶしゅ、と耳たぶを角が掠める。左手がアヤシシの尻尾を掴んだ。迷っている暇はない。
ヒカリは思いっきり、スマホロトムを尻尾の中に突っ込んだ。
「――ッ!?」
大変な感触がした。
尻尾の奥のなにかを入れる場所ではなく出るための場所に突っ込んだような気がする。明らかになんかどっかに入ったくぐもった音で機械音声が告げる。
『No.1 アヤシシに修正パッチをインストール中です…… 残り時間:三十秒』
「いんすと――っさんじゅーびょお!?」
アヤシシが怒号をあげた。引き千切られそうなほどに首を振って暴れる。三十秒も待てるかー! ヒカリの叫び声は噛み切りそうな舌の奥へと転がり落ちた。脳内で残り時間をカウントする余裕もなく、走り出したアヤシシにしがみついた。ヒカリの足が地面を飛ぶ。スマホロトムが、適正な速さで時を刻む。
「手を離しな!」
見知らぬ女の声が叫んだ。スマホロトムを突っ込んだ手は吸いついたように離れない。
「出来ないんだってばあああああああ!」
『残り時間:20秒』
呼応する機械音声が残り時間を告げる。
「ゴンベ! アヤシシ様を止めな!」
「ごんぬ!」
声がさっきよりも近い――ドン! と何かにぶつかった暴走アヤシシに、ヒカリは目を瞑った。
「〝百万馬力〟!」
「ぉご――ごおおおおおぉぉォおンン!」
アヤシシを止めたゴンベの足が地面を擦る。全身で喰らいつくゴンベに、アヤシシの震える体が少しずつ鎮まっていく。
スマホロトムが『残り時間:十秒』と空気を読まずに告げた。
「今の間に離れな! 危ないよ!」
「駄目!」
「死にたいのかい!?」
「あと十秒待って!」
ハァ!? と女性が怒り混じりに呆れた。
予想が当たっているならば、あと少しでこのポケモンを助けられる。ヒカリは祈りながらカウントした。自身の血臭が鼻をつく。
三秒。上手くいくと信じるしかない。
二秒。あなたの力が必要なのですと誰かが呼んだ。
一秒。スマホロトム……とれなかったらどうしよう……とれますようにお願いしますごめんなさい。
――零秒。
『修正パッチの適用が終了しました』
ガクンと崩れ落ち、アヤシシの尻からスマホロトムが抜け落ちた。アヤシシも膝を折って倒れ込む。
「大丈夫かい!?」
「はは、はへぇ」
笑うしかない。
疲労困憊で今にも気絶しそうだ。
「ヒコザル、が、あっちに」
「ゴンベ、頼めるかい?」
「ごんごんごーん!」
ヘトヘトのゴンベが立ち上がり、彼なりの最高速度でのっしのっしと歩いていく。女性はヒカリの腕を縛って止血し、アヤシシを確認した。
不幸中の幸いにも、アヤシシになにをしたのかはバレなかったようだ。彼女目線だと急にアヤシシが気絶したように見えたらしい。命に別状はなさそうだと分かると、彼女はほっと胸を撫で下ろした。
「名前は言えるかい」
「ヒカリ」
「ここらじゃ見ない顔だね。連れは」
「――ヒカリさん!」
ウォロがベースキャンプの方角から走ってきた。女性に支えられているヒカリを見て、「何があったのですか?」と膝を折る。
ヒカリはへらりと片手をあげた。
「ポケモン助けをしてたら、こうなりました……?」
「ポケモン助け?」
女性がアヤシシをチラリと見た。
「あんたが何をしたのかは分からないけど、詳しい話は後だ。あんた、コトブキムラに行くんだろう? ここから一番近い手当て出来る場所はそこしかないからね」
「ええ。ヒカリさんはジブンがお連れします。ちょっと失礼しますね」
ウォロがスマホロトムを拾った。ぬちょっとした感触に一瞬止まったが、草で適当に拭くと懐から取り出した布で巻いてヒカリに渡した。かなり受け取りたくなかったが、渋々引き取る。懐に仕舞うと、ウォロはひょいとヒカリを抱えあげた。ちょうどゴンベが戻ってくる。
「ごんぬ!」
ヒカリは身を乗り出した。
「危ないですよ」
と、ウォロは言い、ヒカリを抱えたまましゃがんだ。ゴンベが気絶したヒコザルを捧げあげた。
痛みと出血でくらくらする。
「ごんごん」
ヒカリは手を伸ばし、気絶したヒコザルの頭を撫でた。
「お疲れ様、ありがとう」
アヤシシとの戦闘中、レントラーの攻撃がこちらに来ることはなかった。ヒコザルには電撃の焦げた怪我があった。相当な無理をしたに違いない。
林の向こうでは、ひっかき傷と火傷を負ったレントラーが気絶していた。