ファイナルファンタジー3 リブートエディション 作:北村 貴之
クリスタルに選ばれた光の戦士である、ウルの村の出身である少年のソールと、3人の少女、マイム、ヴェント、ティエラはカナーンの町に住む凄腕の技師・シドに旅で使っていた船・エンタープライズを空を飛ぶ飛空艇に改造してもらっている間、近辺にある故郷の村へと帰ることにした。
エンタープライズは旅の道中で出会ったバイキングたちから譲り受けたものだ。
海を暴れていたネプト竜を鎮めてくれたお礼に、バイキングのボスがくれると言ったのだ。
エンタープライズはソールたちの旅の大きな助けとなった。
しかし、まだ見ぬ世界に行くためには、浮遊大陸を抜け出して新たな大陸へと向かわなければならなかった。
そのための手段として、アーガス王から「時の歯車」をもらい、かつてアーガス王のもとで飛空艇の製造に携わったというシドに飛空艇への改造を依頼していた。
「久々のウルだけど、あいつらは元気にしているだろうか」
ウルの村へと続く森林の中で、ソールが呟いた。
ソールは、黒いハイネックのシャツと青いベストを着た、茶色い髪と瞳をした長身の瘦せ型をしている少年だ。
両親はおらず、村の孤児院で育った。
孤児院の子供の中では一番年上のほうで、同年代の子供にサーシャという女の子がいた。
サーシャに思いを寄せているというわけではないが、幼馴染のような関係だ。
彼女とともに、年下の子供たちを引っ張ってきた。
「あたしたちも久しぶりに家に戻れるとはね」
ウルの村でお嬢様として育っていたマイムが言葉を漏らす。
マイムは灰色と銀色の中間点の色のセミロングの髪を持ち、青い瞳をした美少女だ。
袖に赤いギザギザの模様が入った白いローブと青いミニスカートを着用している。
この服は旅の道中でカナーンの町で購入したものだ。
マイムは実はウルの村の両親とは血がつながっておらず、養子である。
幼少期には孤児院にいたのだが、今の両親に引き取られて育てられた。
ヴェントとティエラも同様、孤児でそれぞれの商人の家に引き取られていた身だった。
家は違えど、彼女たちは勉学を学びながら仲良く育った。
お互い、強い絆で結ばれた親友同士でもあり、勉学の知識や腕前を競い合うライバルでもあった。
「あれからしばらく経つからね」
緑色の瞳に長いブロンドの髪をポニーテールにした少女、ティエラが神妙な顔つきで言った。
白いノースリーブの上着に、ピンク色のズボンと、どこか中華風のデザインのある服装を着ている。
年齢にしては割と大きめな胸が白いノースリーブを着ていることで形がくっきりとわかる。
「まぁ、私は久々に家に帰れるのは嬉しいけどね。今までの事を両親に報告できるし」
最後に発言したのは、ウェーブがかった桃色の髪に、アメジスト色の瞳を持つ少女のヴェントだった。
彼女が今着ているのは、オリーブ色のポンチョに、紺色のホットパンツ、白のロングブーツと、どことなく狩人のような出で立ちの衣服だった。
ホットパンツを履いているため、健康的に肉付きのいい太ももが目を引く。
ソールたちはそれぞれ、いろんな思いを胸に村までの道を歩いていた。
ウルの村を出てから、様々な出会いをしてきた。
海そのものが仕事場のバイキング、洞窟内に住むドワーフ、目が見えないが未来が見えるというグルガン族など、あらゆる種族との出会いを経験してきた。
一方で、自分たちを守るために身体を張ってくれた仲間との別れもあった。
「帰ったらみんなにどう説明しようかな…」
ソールはぽつりと呟く。
(きっとみんな驚くだろうな)
ソールはそう思っていた。連絡もなしに突然帰ってきたら、どんな反応をするのか気になっていた。
マイムたちも同様だった。
いきなり帰宅してきたら、両親はどんな顔をするだろう。
そして、村人たちは自分たちをどう出迎えるだろうか。
そんな思いを抱きながら、ソールたちは森林を抜けて村の出入口へたどり着いた。
「いやあ、変わってないなあ。僕たちのふるさと」
「うん。村を出たときそのままですね」
ソールとティエラが、ウルの村を前に、懐かしそうに言う。
「村の人も、村のみんなも変わっていないわね」
ヴェントが、外で仕事をしている人たちを見てそう言った。
「ここを出てからそんなに日数は経っていないけど…。やっぱり懐かしいね」
マイムがそう答えた。
村を出発して1か月も経っていなかったが、いざ村へ戻ってみてみると長く離れたように感じてしまっていた。
そして、光の戦士たちはウルの村の中へと足を踏み入れる。
村は以前のままで、まるで時間が止まったかのような感覚をソールたちは感じた。
そんな中で、ソールの目の前に孤児院が見えてきた。
孤児院の畑で、面倒を見てきた子供たちが畑仕事をしている。
旅に出る前はソールがいろいろと仕切っていたが、今ではサーシャが代わりを務めてくれているのだろうか。
ソールは気になって畑の方へと駆けていった。
「あら。やっぱり気になっちゃうよね」
マイムがそんな彼を見てほほ笑んでいた。
「なんでも実の弟や妹みたいにかわいがってたみたいよ」
ヴェントがマイムにそう言った。
孤児院の畑は、運営している大人たちも畑仕事をすることがあるが、基本的には子供たちが野菜を管理している。
孤児院で育てられた野菜はどれも新鮮でおいしく、村に売り出されることもあるほどのものだ。
村の商人が他の町に持っていき売り出すこともあるそうである。
野菜の売上金は孤児院の運営のお金になるため、子供たちは精を尽くして仕事をしていた。
「あ…、あれは!?」
「ソール兄ちゃんだ!帰って来たんだ」
畑仕事をしていた子供たちがソールたちの方を見た。
トマトやナスといった野菜の鮮度を管理している最中、ふと振り向くと、兄同然の彼が近くにいたため、驚いた顔をしていた。
男の子3人、女の子2人の5人組で、年齢はそれぞれ10歳前後といったところだろうか。
「ただいま」
ソールたちは彼らに笑顔を向けて言った。
「ソール兄ちゃん!」
「帰ってきてたんだね!」
嬉しそうな顔をして、子供たちはソールに駆け寄る。
「ああ。元気にしてた?」
ソールたちが帰ってくると、子供たちが一斉に駆け寄ってきた。
ソールがいない間の孤児院での生活は寂しいものがあったが、ソールたちが世界を救うための旅をしていると聞き、彼がいないときでも頑張ろうとしている様子がうかがえた。
そんな彼らが今こうして元気に育っているのを見るのは、ソールたちにとって嬉しいことであった。
ソールは畑の野菜に目を向ける。
「おお!相変わらず畑の野菜は新鮮に育ってるなあ。俺がいない間に頑張ってくれたみたいでよかったよ」
「へへっ」
ソールに褒められた子供たちは照れた表情を浮かべた。
「あ、そうそう。サーシャは?」
「サーシャ姉ちゃん?ああ、商店街で買い物に行っているけど」
「ふーん、買い物かあ。俺がいない間、サーシャにいろいろ面倒を見てもらったんだろ?」
「うん、でもソール兄ちゃんに教えてもらったことを守りながら僕たちも頑張って来たんだ」
ソールと子供たちは近況報告をしあう。
そして、サーシャが帰ってくるまでしばらく待つことにした。
その間、子供たちは畑に水をやり、手入れを行っていく。
「みんなえらいなあ。この短い間に俺がいないのにここまで立派になるなんて」
ソールたちはその光景を見ながら言った。
すると、後ろから足音が聞こえてきた。
振り向くと、そこには買い物から戻ってきたサーシャの姿があった。
「ただいまー!」
サーシャの声が聞こえてきた。
ソールは声の方へと向かって行った。
「あ、え!?そ、ソール!?」
突如現れたソールを目に、サーシャが思わず驚いた。
「ははは…。久しぶりだな」
ソールが笑いながら頭を掻いていた。
「あれ、旅はどうしたの!?まさかボイコット!?」
「違う違う!飛空艇をカナーンの町のシドのおっさんに作ってもらってる間に里帰りさ」
「そう。ならいいけど…」
ソールの回答にサーシャは安堵していた。
「それにしても、あんたもずいぶん変わったね」
彼女はソールの今の姿を見ながら言った。
「ん?どこが変わったんだ?」
「それは言えないなあ」
サー̪シャがからかうようにして言った。
(なんかソール、旅に出てたくましくなってるけど気のせいかな?ふふふっ)
サーシャは内心、ソールの顔つきが孤児院で暮らしているときよりもよくなっているように思っていた。
それを直接口に出すのが恥ずかしかったのか、サーシャは教えようとしなかった。
「それはそうと、なんか変わったことなかった?最近」
ソールがサーシャに尋ねた。
「変わったこと?」
「例えば…、ウルの村に幽霊やら化け物が出たとか」
「幽霊?化け物?出るわけないでしょ」
ソールの突然の質問にサーシャが苦笑いしながら答えた。
「そっか…」
(それならいいんだ)
ソールはほっとしていた。もしなにかあったらという心配をしていたのだった。
すると、後ろで畑仕事をしていた子供たちが遠くで彼らを見守っていたマイムたちの方を見ていた。
「ソール兄ちゃん、あのお姉ちゃんたち誰?」
「ああ。みんなにも紹介しないとな」
ソールはそう言って、マイムたちを手招きして呼んだ。
マイムたちがやって来た。
「みんな、紹介するよ。旅の途中で一緒に戦ってきた仲間さ」
「ハーイ、マイムです。ソールくんと一緒に旅をしてきた村のお嬢様よ」
マイムが自己紹介をした。
「同じくヴェントです」
「ティエラといいます。よろしくね」
続いてヴェントもティエラも挨拶をした。
「わあ、いいなあ。ソール兄ちゃん」
「こんなかわいくてきれいなお姉ちゃんたちと一緒に旅してたんだ。いいなぁ」
子供たちが羨望のまなざしでソールたちを見ていた。
「かわいくてきれいだって」
ヴェントがマイムにほほ笑みながら肩をつついた。
マイムが少し恥ずかしそうにしている。
中には手を胸に当てている者もいた。
どうやらマイムたちの美貌に心奪われた者も多いようだった。
「何よこれ…」
突然子供たちからちやほやされて戸惑うサーシャだった。
(まさかとは思うけどソール、この子たちと恋仲になってたりとかしてないわよね…)
サーシャは内心不安を感じていた。
「ねー、ソール兄ちゃん。このお姉ちゃんたちも旅の仲間なの?」
男の子の一人がソールに尋ねた。
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、今度僕たちと一緒に遊んでもいいよね?」
別の男の子がソールに言った。
「え?そ、それは…」
「もちろん!」
ティエラが答えた。
「あ、ティエラさん…」
ソールが戸惑いながら彼女の方を見ていた。
すると子供たち全員が目を輝かせてマイムたちを見ていた。
「あははは、ありがとう」
そんな子供たちを見てマイムは嬉しそうに笑うのだった。
(ま、まあ悪そうには見えないね。今のとこ。今のとこは…)
サーシャはマイムたちと子供たちの仲のいい姿を見て少しホッとしていた。
「それで、この後はどうするの?」
サーシャがソールに尋ねた。
「そうだなあ…。せっかく戻ってきたからいろいろ見て回ろうと思ってるけど…」
ソールが言った。
「そうね。あんたもだいぶお疲れだと思うし。ゆっくりしていきなさい」
サーシャが嬉しそうに笑って答えた。
「じゃ、お言葉に甘えて」
ソールがウインクした。
「ちょっと。あの娘たちと長い間旅をしてきたから女の扱いに慣れた様子を見せないで」
「へへっ…」
サーシャが冗談っぽく言うと、ソールは苦笑した。
【マイム、自宅への帰宅】
一時的に解散したマイムは、自分が育った家の前にいた。
マイムは商人の養子として育てられてきた。
血のつながりがないのだが、引き取ってくれた夫妻はわが子同然に自分を時に厳しく、時に優しく接してくれた。
そんな自分が、ある日突然光の戦士に選ばれてしまった。そして、故郷を後にして旅の仲間と旅に出ることになったのだ。
あれから何日経っただろうか。
マイムは自宅に帰るのは久しぶりだった。
いきなり帰ってきたら、どんな反応をするのだろうか。
期待半分、不安半分の面持ちでマイムは大きな屋敷の扉を開けた。
「た、ただいま」
「あ、マイムお嬢様!?」
家に戻ると、マイムが暮らしていた時と変わらない姿のウエイトレスの女性が出迎えてくれた。
(ああ…、帰ってきたんだ)
マイムは懐かしい光景を前につい感慨深くなってしまうのだった。
「ごめんなさい、突然帰ってきて。故郷が久しくて帰ってきました。お父さんとお母さんは…?」
マイムはウエイトレスに恐る恐る尋ねた。
「それが…、旦那様と奥様はお出かけになっております」
「そう…。相変わらず忙しいのね」
ウエイトレスが言うと、マイムは少し残念そうな表情を浮かべた。
(仕方ないか…。でも、それなら好都合だわ)
「せっかくだからここでちょっと休んでもいいかな?」
「ええ、もちろん。お嬢様がいつ帰ってきてもいいように、お部屋は綺麗にしています」
マイムの頼みをウエイトレスは快く受け入れた。
「ありがとうございます」
そう言ってマイムは、自分の部屋へと向かって行った。
階段を上り、2階にある。
「さ~てと。久々のあたしの部屋はっと」
マイムは鼻歌を歌いながら、自分の部屋の扉を開けた。
そこには、旅の前日と変わらない様子のマイムの部屋があった。
机、クローゼット、本棚、ベッドなどが置かれていた。
「ふう~」
マイムはベッドに倒れ込むように横になった。
黒いショートブーツを脱ぎ捨て、黒いハイソックスに包まれた足先を出してベッドに上がった。
(帰ってきたんだなあ…)
ふと、自分の枕を抱きしめる。
そこには懐かしい匂いが残っていた。
(どうしよ…。なんだか離れたくなくなっちゃうな)
自分の部屋にいられるのは嬉しいことだった。
そうマイムは思っていた。
(さてと…)
マイムは起き上がり、ブーツを履いて立ち上がった。
「どこへ行くんですか?」
ウエイトレスが尋ねる。
「ちょっと散歩に行って来ます。しばらくしたら戻るから」
「分かりました。行ってらっしゃいませ」
(ふう~…。やっぱり育った場所が一番ね)
屋敷の外に出ると、マイムは思いっきり伸びをした。
久しぶりの故郷なので、リラックスした表情をしていた。
【ヴェント、自宅への帰宅】
同じくヴェントも自分の自宅へと戻っていた。
彼女の自宅は商人の住む屋敷だ。
ウルの村でも筋金入りの商人の家で、さまざまな商売の経験と知識を持つ。
そんなヴェントの自宅の屋敷内の談話室で、ヴェントは養母と話をしていた。
赤い長い髪を三つ編みに結った女性がヴェントの養母だ。
彼女の名はティーナという。
血のつながりはないが、実の娘同然にヴェントに接している。
「なるほどね、あなたも旅の中でいろいろと学んでいるのね」
「ええ。きついこともありますが楽しい旅でもあります」
娘の姿を見ると嬉しそうにティーナは笑った。
そんな母親の姿を見て、ヴェントは少しほっとしていた。
「それで、お父様は…。また仕事部屋?」
ヴェントがティーナに、養父のことを尋ねた。
「ええ。どうしよう。呼んできましょうか?」
「え?いま仕事中でしょ?」
「あなたの姿を見たらきっと驚くわよ。顔は変わってないけど雰囲気はここを出る前と違う気がする」
ティーナの言葉をそう聞いたヴェントは納得したように頷いていた。
「じゃあごめんなさい、呼んでくるわね」
ティーナが立ち上がり、談話室を出て行った。
ヴェントはテーブルの上の紅茶をすする。
養父は家にいるときは大体自分の仕事部屋にこもり、仕事をしていることが多い。
無論、食事の時は妻や娘と一緒ではあるが、会話のほとんどない食事が当たり前になっている。
それでも、養父はヴェントには優しく接してくれているのでその点に関してはヴェントも感謝していた。
生真面目なところはあるが優しい自分を作ってくれたのは、引き取ってくれた両親に間違いない。
ヴェントが物思いにふけっていると、談話室の扉が開き、ティーナと養父がやって来た。
「ヴェント。お父様よ」
「あっ…」
ヴェントが戸惑った顔をする。
ヴェントの養父は、茶色の髪をしており、がっしりとした体格をしていた。
白いワイシャツにオリーブ色のサスペンダー付きのズボンを履いている。
「ヴェント!?おお、戻って来ていたのか」
養父は娘の顔を見ると、驚きと喜びの表情を浮かべる。
「ええ。久しぶりに故郷の風を吸いたくなったの」
ヴェントが微笑んだ。
「そうか!たまにはここへ戻ってきて息抜きをするのも大事だ。光の戦士といえど、ガス抜きは大事だからな。商売も同じ。きりのいいところで切り上げる見極めを決めなければかえって己の首を絞める羽目になるからな」
「確かに」
養父の言葉にヴェントが頷く。
「そうだ!ちょうどお菓子を焼いたの。食べる?」
ティーナが養父に尋ねる。
「おお、食べるとも」
そう言うと、三人は談話室のテーブルでお茶を始めるのであった。
「んん~…。お母様のマフィン久々に食べたけどやっぱりバターが効いてて美味しいわ」
ヴェントが、ティーナの手作りのマフィンに舌鼓を打ちながら言う。
「でも、さすがにこれ全部は食べきれないな」
「なら、後で包んであげるわよ」
養父が言うと、ティーナが微笑む。
「いいの?」
ヴェントが申し訳なさそうに尋ねた。
「いいのよ。マイムちゃんとティエラちゃんの分で分けてあげて。あ、あの男の子。ソールくんにも」
そう言って、ティーナはバスケットにマフィンを入れてくれた。
ヴェントは、養母がソールの名前を知っていたことに驚いていた。
恐らく、孤児院の誰かから名前を聞いたのだろうか。
「す、すみません…。こんなことをしてもらって」
「何をかしこまってるのよ。こっちが申し訳なくなるわ」
ヴェントの言葉に、ティーナが微笑む。
「それでは、ありがとうございます」
ヴェントはティーナに頭を下げて、ソールたちの分のマフィンを受け取った。
【ティエラ、自宅への帰宅】
ティエラも自宅へと帰宅していた。
彼女もマイムとヴェントと同様、商人の養子として育てられた。
ティエラが住んでいるのは、大きな屋敷だった。
ウルの村の名のある商人はそれぞれ大きな屋敷を自宅にしている。
ティエラは養子として引き取られて以降、この大きな屋敷で暮らしていた。
「ただいま戻りました、ティエラです」
屋敷の玄関を開け、ティエラが言った。
すると、そこにはメイド姿の女性が立っていた。
「あら?お帰りなさい、ティエラお嬢様」
「戻ってきてしまいました…。久しぶりに帰ろうかなと思って」
ティエラが少し困った顔をすると、彼女は微笑んだ。
メイドの女性は、そんなティエラを見て、
穏やかな顔をしていた。
「いいじゃないですか。今戻ったということは、旦那様や奥様はお出かけになられていますので。今日はゆっくりお休みください」
メイドの女性がティエラにそう言うと、彼女は微笑んだ。
「ありがとうございます。ふたりとも忙しいのね」
ティエラはお辞儀をすると、屋敷の中に入った。
(はあ…、なんだかほっとするな)
屋敷の中に入ると、ティエラは安堵の表情を浮かべた。
自宅の様子がまったく変わっていなかったからだ。
ティエラは、2階にある自室へ向かった。
自室の扉を開けて、中へと入る。
出たときと何も変わらない自分の部屋が目の前にはあった。
ベッドも、本棚も、机も、クローゼットも、部屋の飾りつけもそのままだった。
(ほこり一つもないってことは掃除してくれてたのね)
ティエラはそう思った。
机や床にはほこりやゴミなどがないので、旅に出ている間も掃除してくれていたのだった。
ティエラは自分のベッドに座った。
(すぐには会えなかったけどお父さんとお母さん、元気かな)
ふと、ティエラは思った。
(私なんかが心配しても仕方ないのかな)
すると、部屋の扉がノックされる音が聞こえてきた。
「はい?」
ティエラは返事をすると、扉が開きメイドが入ってきた。
「お嬢様にお客様ですよ」
「私に?」
ティエラが驚いた顔で言った。
「はい。お嬢様に会いに来られたそうです」
メイドの言葉にティエラは首を傾げた。
(一体誰が来たのかしら…)
疑問に思いつつも、ティエラは客人を迎え入れるのであった。
ティエラは玄関にやって来た。
そこにいたのは、ソールの幼馴染のサーシャだった。
「あ、あら。あなたはソールくんの…」
ティエラは少し驚いた表情になる。
「こんにちは。ティエラさん」
「どうしたの、何か御用ですか?」
ティエラが言うと、サーシャが少し慌てた様子で答えた。
「あ、今日なんですけど、今晩、うちの孤児院で食事でもどう…、ですか?」
サーシャは微笑みながらそう言った。
ティエラはそれを聞くと、すぐに嬉しそうな表情を浮かべた。
「本当?ソールくんも当然、同席するんですよね?」
「ソールには内緒で来たんですけど…。今日はサプライズというわけでお願いに来たんです」
ティエラの反応に、サーシャが少しばつが悪そうな顔をした。
すると、ティエラはすぐにサーシャの手を取った。
「ぜひ!お願いします」
ティエラはそう言うと、無邪気な笑みを浮かべた。
「こ、こちらこそありがとうございます!」
そんなティエラを見て、サーシャは安堵した表情になっていた。
ティエラはソールが育った孤児院のことが、個人的には気になっていた。
彼がどのようにして育ったのか。
知りたいことはたくさんあったからだ。
「それでは、今晩お待ちしております」
サーシャは頭を下げると、屋敷を後にして走っていった。
(う~ん。孤児院の子供たちとお食事かあ。にぎやかに食事なんて楽しそうね)
ティエラは玄関の扉を閉めながらそう思っていた。
そして、メイドの女性に今日の夜の事を報告しに、台所へと向かって行った。
台所にはちょうど、掃除をしている先ほどのメイドがいた。
「あ、今日の晩なんですけど、孤児院の食事会に誘われたんですが、よろしいですか?」
「ええ。どうぞ行ってきてください。あなたもあの孤児院の事は詳しく知らないと思いますから、いい機会ですよ」
メイドの女性は快く承諾してくれた。
「ありがとう!」
ティエラはそう言って台所を後にするのであった。
(そうよ。ソールくんが育った場所のことを知るチャンスだわ)
ティエラはそう思い、自分の部屋へと戻っていった。