ファイナルファンタジー3 リブートエディション 作:北村 貴之
クリスタルに選ばれ、世界を救う旅をすることとなった、ウルの村出身の少年、ソール。
そんな彼は、村の出発を明日に控え、眠りについていた。
相変わらず、いつも寝床として使っているこのベッドの感触は気に入っており、今日も気持ちよく眠ることができそうだ……そう思っていた時だった。
「うっ……」
急に息苦しさを感じて、目を開くと――。
目の前には、少女の顔があった。
少女がこちらを見つめている。その顔は見覚えがある。
そう。一緒にクリスタルの光に選ばれて、ともに旅をすることとなった少女、マイムだった。
白銀色の美しいセミロングの髪で、少し童顔気味の少女だ。
彼女はソールと同じ孤児院で育ったのではなく、ウルの村の商人の貴族の養子として育てられた。
なぜマイムがここにいるのか、ソールにはわからなかった。
しかし、そんなマイムの姿を、ソールは確認することができた。
最初は寝ぼけていて視界がぼやけていたが、だんだん視界がよくなっていった。
肝心のマイムの姿はというと…。
白いフードのついたローブを身に纏っていた。袖部分には赤いギザギザ模様がある。
フードを被っていたので、童顔の彼女が被るとほっかむり感があり、かわいらしく感じる。
先ほどまで行動していたマイムはというと、白いワンピースに青い上着を羽織っており、清楚なお嬢様といった感じの出で立ちだった。
今の彼女の格好とはまるで違う。
ソールは、自分が夢でも見ているのではないかと思った。
だが、夢にしてはリアルすぎるし、呼吸が苦しいことも事実である。
(一体何なんだ?これは)
そう思って混乱していると、突然マイムが口を開いた。
「おはようございます、ソールくん」
優し気な口調で彼女はソールにこう言った。
「う、うぅ…」
うまく言葉が喋れなかった。というのも、ソールの寝ているベッドの上に、マイムがソールに乗っかっていた。
彼女の体重のせいか、うまく話すことができない。というのも、マイムの体重はかなり軽めなのだが…。
ソールは視界がはっきりとした。彼女の着ているその白いローブは、腰までの長さはあった。下半身はというと、青いミニスカートを履いており、足には黒いハイソックスを履いていた。
寝起きのソールにとっては色んな意味でそのマイムの姿は毒であった。
そんなソールだったが、いまだ状況を飲み込めずにいる。
「えっと……どうして僕の部屋に?」
なんとか言葉を発せられるようになったソールは彼女に尋ねた。
「出発の時間ですよ…。早く準備なさってくださいね」
初対面の時とはまるで態度が違っていた。
以前、マイムの家の所有物であろう、村のはずれにある蔵の扉を勝手に開けようとして、彼女に見つかり怒られたことがあった。
その時の彼女は素っ気ない印象を受けたのだが……。
今目の前にいる彼女は、優しげな笑みを浮かべていた。
しかしどういうわけか、そんな様子は微塵も感じられない。
「ところで君はいつからそこに居たんだ?」
「ずっと前より」
ソールの上に乗っかっているマイムは、姿勢は変えていなかった。
彼女の生の太ももが、寝起きのソールの体に触れており、彼の体温を上げていく。
「そろそろどいてくれるとありがたいんだけど……」
そう言ってソールは自分の体の上からどくように促す。
すると彼女はソールの言う通りに従ってくれた。
ようやく自由の身となったソールだったが、まだ心臓の鼓動が収まらないようだった。
ずっとマイムが上に乗っかっていたのか、ソールは身体が痛かった。
出発の日というはずなのに、こんな様子では、足を引っ張りかねない。
そう思ったソールだったが、彼の顔に、マイムがいきなり顔を近づけてきた。
整ったかわいい顔つきが、すぐ目の前にある。
「っ!?」
ソールは悲鳴も上げることができずに、驚いた。そのままマイムの顔がどんどん近づいてきて――。
「…ル」
何やら声が聞こえる。マイムの声ではない。これは間違いなかった。
そうソールは確信していた。
「ール…」
この声はもしや…。
「ソール?ソールっ!!」
聞き覚えのある声が、ソールの耳のすぐ近くで聞こえてくる。
「ねえソール!ソールったら!いつまで寝ているつもり!?」
彼と同じ孤児院の育ちである少女、サーシャが、寝ているソールを起こしに来ていた。
ソールは布団の心地よさと、クリスタルの祠の探索からの疲れで、ぐっすりと眠りについていた。
そのため、爆睡してしまっていた。
「今日は旅立ちの日でしょ!早く起きなさい!」
サーシャは、ソールのベッドのかけ布団を引きはがす。
かけ布団をとられてしまったソールは目覚めた。
「ちょっとー。もう朝だよ。ほら、起きて」
「うぅ~ん……」
ソールはうなだれていた。
「まったく、クリスタルに選ばれた勇者がこんな体たらくでいいの?」
「うるせえな…」
目をゴシゴシさせながら、ソールは体をゆっくりと起こした。
「もうこんな時間か…」
「わかったのなら、早く支度して」
サーシャはソールの部屋から出て行った。
彼女の言葉に従い、ソールは寝間着からいつもの服装に着替える。
彼の部屋には、護身用のブロードソードと、昨日に用意した旅の荷物が置かれている。旅に必要なもの一式は、孤児院の入り口に置かれている。
孤児院で育てている鶏が、コケコッコーと鳴き声を上げる。どうやら朝食の準備ができたようだ。
ソールは急いで部屋の外に出た。
「遅いわよ、ソール」
「悪いな」
「さあ、あんたのここでの最後の朝食よ」
食堂にやってきたソールを、サーシャが出迎える。
「最後っていっても、死ぬわけじゃないんだし」
「わかってます」
ソールは席に着いた。
テーブルの上には、パンとスープが置かれていた。
「最後の食事なんだし、ゆっくり味わって食べなさい」
「ああ……」
サーシャの言葉にうなずきつつ、ソールは朝食を食べ始めた。
「ところで、マイムちゃんたちはまだ来てないのか」
ソールはサーシャに質問をした。
「さあ。まだ早そうだし、朝ごはんでも食べているんじゃない」
サーシャも隣に座って食事を摂り始めた。
食べているパンは焼き立てで、村の小麦から作られたパンだった。
こんがりときつね色に焼きあがっており、香ばしい匂いがする。
スープの方には、新鮮な野菜と、肉が入っていた。
孤児院の料理長を務めている女性のニーナは、ソールたちの健康面を気遣ってくれており、野菜と果物を多く入れてくれていた。
「おいしい」
「うん。うまいな」
二人は笑顔を浮かべていた。
「しっかし寂しいな。ここの飯をしばらく食べれないなんて」
ソールが少し残念そうな顔をする。
「たまには帰ってきて。あんたの弟分たちも喜ぶと思うわよ」
「そうだな」
「ところで、これからどこに行くの?」
サーシャが尋ねた。
「とりあえずだな…。まずはあのカナーンへ向かう道をふさいでいる土砂をなんとかしないとな」
そう言ってソールはため息をつく。
そこで、何か思い出したかのような顔をして、サーシャがこう言った。
「ええっと…。この村ではあの土砂をどかす機械とか未だに開発されてないみたいだし…。そうだなぁ…。南の方にあるカズズの村か、ずっと西の方のサスーン城に向かってみるのはどう?」
カズズの村という名を聞いて、ソールは唖然とした。
「カズズの町だって?あそこ、大地震が起きた次の日に、村人全員が神隠しにあったって…」
カズズの町は、青く輝く金属「ミスリル」が採れることで知られる、鉱山業が盛んな村である。
ウルの村とも親交が古くからあり、お互いに助け合って生活してきた歴史がある。
その村には腕のいい鍛冶師や職人が多く住んでおり、この村の者たちよりもずっと技術力が優れている者がたくさんいるという。
しかし、地震が起こった翌日に、カズズの村の住民たちの姿が見えなくなったというのだ。
サーシャの話によると、彼らは突如として姿を消したのだという。
村の孤児たちが怖いもの見たさでその村にいったところ、幽霊を見たとの報告が多数あったといわれている。
しかし、あくまで子供たちが目撃したとの情報なので、信ぴょう性は低いのだが…。
「そうだけど……。たぶんきっと誰かがいてるんじゃないかしら」
ヴェントがそう言った。
「だとしたら、行ってみようかな……。俺もその村は気になっていたし」
「じゃあ決まりね」
ティエラはにっこりと笑った。
「そうと決まれば、出発しようか」
「ちょっと待って」
マイムが慌てて出発しようとするソールたちを引き止めた。
「どうしたんだよ」
「その前に…。村で役に立ちそうなものはとっておこうよ。あ、私の家の蔵、結構便利そうなものが置いてあったと思うの」
マイムのその言葉に、ソールはあることを思い出していた。
マイムの家の蔵というのは、以前、ソールがサーシャとのお出かけでたまたま見つけた、村のはずれにある小さめの古びた家のことだ。
その家をマイムの家の所有物とは知らずにソールは蔵の扉を開けようとしたときに、蔵の管理にたまたま来ていたマイムと出会ったのだった。
そして、マイムはソールの顔を見る。
ソールは夢に出てきたマイムのことを思い出し、目をそらしてしまった。
夢とはいえど、あんなことをされてしまえば、気恥ずかしくてまともに顔を合わせられない。
「ち、ちょっと……。なんで顔をそらすのよ」
マイムは不思議そうな顔をして首をかしげている。
そんなソールだが、顔を赤くしてマイムの顔が視界に入らないようにしていた。
「別に今回はいいのよ。あの時は仲間ですらなかったから、不審に思って…」
「そ、そうなんだ。行こう。その蔵の中に何が入っているのか見てみたいしな」
ソールはそう言いながら、村の中を仲間たちと探索することにした。マイムの顔は見ないようにしていた。
「う、うん……」
マイムは少し気難しい顔をしながら、ソールの後について行った。
【探索イベントその1 井戸の中】
マイムの家の所有する蔵へと向かうソールたちは、青果店を経営しているおばさんに出会った。
その青果店には、新鮮な野菜や果物が陳列されている。
「あ、いつも世話になってます」
ティエラがお辞儀をした。
「いやいや、こちらこそだよ。そんなことよりも、あんたたち旅に出るんだって?大変だね」
おばさんは笑顔を浮かべている。
白い前掛けをしている。
「ところで、まずはどこにいくんだい?」
「ええっと……、とりあえずはカズズの村かサスーンの城の方へと向かおうと思いまして……」
ティエラが少し気難しい顔で答えた。
「ああ、カナーンへの道が塞がれているからまずはそっちの方へ向かおうってのかい。いざというときのためのポーションがそっちの井戸にあるから持って行っておいで」
おばさんが近くに会った井戸を指差した。
「ありがとうございます」
「いいよいいよ。旅は道連れ世は情けっていうだろ?」
「はい、お言葉に甘えて」
ソールが笑みを浮かべる。
そして、井戸の中にあるという、ポーションをとりに行くことにした。
ソールがとりにいくことにしたらしく、彼は地下へと降りて行った。
「ケガしないでよー?」
ヴェントが心配そうに、ロープを持って降りていくソールに声をかける。
「ありがとう、気を付けるよ」
ソールが返事をする。
「それにしても、この村って本当に平和よね」
ティエラがしみじみと言う。
「そうだね。争いごともないし、今はここでは困っている人がいるわけでもない。でも、こういう平和な村だからこそ、私たちが守らないといけないんじゃないかないかな」
マイムがそう返した。その言葉には、世界を救うという、彼女の強い意志が感じられた。
「うん、そうね」
井戸の地下の中にたどり着いたソール。
井戸の中はひんやりとしていた。
その奥底の方まで行くと、そこには、箱があった。
「これかな?」
ソールはその箱を開封した。その箱の中には、緑色の液体が入ったビンが数本あった。
これが、おそらくおばさんが言っていたポーションだろう。
ポーションというのは、旅人にとってはもはや必需品といっても過言ではない、傷を癒すための薬のことである。
色はさわやかな緑色をしており、その液体を飲むことによって、敵から受けた傷を癒すことができるのだ。
一般的には町や村にある道具屋や雑貨屋に販売されており、値段もかなり安値だ。この村にある道具屋にも当然取り扱われている。
ソールは安堵した顔で、箱に入っていたポーションをすべて回収した。
青果店のおばさんがもしものために隠しおいていたのだろうか。
目当てのポーションを回収し終えたソールはロープを持って、地上へと戻っていった。
地上から差し込む光がまぶしい。
「お待たせ!」
ソールはみんなにポーションを見せる。
緑色の液体の入った小瓶が、太陽の光で照らされて光っている。
「それじゃ、次は蔵だな」
「ええ。私についてきてください」
マイムがそう言って、先頭を歩いて行った。
【探索イベントその2 商人の蔵】
ソールたちが向かっていたのは、商いを生業としているマイムの実家の所有物である蔵である。
先ほども言ったとおり、村のはずれにある。
その道中にはたまに魔物や野生の動物が出没するといわれており、子供だけでこの道を進むのは危険だ。
蔵は森の中にあるが、見たところ獣道というわけではないが、かなり開けていて、歩くだけなら苦労はしなさそうな道だった。
マイムを先頭に、ソールたちは蔵へと目指す。
幸い、魔物や動物は現れなかった。そして、ソールが以前訪れた古びた家が姿を現す。
「ここが入り口です」
マイムはそう言って、蔵の扉の鍵を開けた。ソールたちは蔵の中へと入っていく。
蔵の中は薄暗く、埃っぽかった。おそらくかなりの時間、人の出入りがなかったのだろうか。
蔵の中が暗かったので、とりあえずまずはランプをつけて明かりで中をともす。
「うーん、まさに『蔵』って感じだな」
ソールは置かれている樽の上に積もっている埃を指でつまみながらそう言った。
「えっと、確かここは……」
マイムが何かを探し始める。
「どうしたんだよ?」
「いや、前に一度入ったことがあるんだけど、何があったかなって…」
「え?旅に役立つ道具をとりにきたんじゃ?」
「それはそうだけど、武器だったか道具だったか思い出せなくて」
マイムは少し気恥ずかしそうにしている。
「とりあえず、蔵の中を見てみましょう」
ヴェントのその言葉で、一同は蔵の中にあるもので、何か役に立ちそうなものはないかどうか調べてみることにした。
ソールたちがこの蔵の中で見つけたのは、武器や回復薬だった。
長い刀身を持つロングソード、短いながらも切れ味がよさそうなダガー、敵からの攻撃を食らって毒をもらってしまった際に使用するための毒消し用の薬、魔法の極意が書かれた本。
どれも長旅には欠かせないものばかりだ。
「へえ、君の家にはこんな便利なものがしこたまあったなんて」
ソールは回収した道具を見て、関心したような顔をしていた。
「これでもうちは商売してるお家なので」
マイムがウインクした。
「よし、これで準備は完了だね。あとは出発するだけだ」
「うん」
「そうね」
「そうだね」
こうして、ソールたちの世界を救うための旅が始まったのであった。