ファイナルファンタジー3 リブートエディション 作:北村 貴之
「それじゃあ、カズズの町に向けて行こうか」
飛空艇に乗り込んだソールたち。
彼らは、サスーンの姫であるサラと一緒に、北の共同墓地に封印されていた魔神、ジンの呪いを解き、呪いによって幽霊のような姿にされてしまった人々がいるカズズの町へと戻る道中であった。
ソールは操縦室の椅子に座り、飛空艇の起動の作業を始める。
それ以外である少女たち、マイム、ヴェント、ティエラは、飛空艇内にある控室で休憩をすることにした。
この飛空艇の中の控室には、水や食料が積まれている。
あまり多くはないのだが、空での旅なら、数日はもつ量だった。
しかし、飛空艇が置かれていた共同墓地前からカズズの町へは、飛空艇ならたった数分でたどり着ける距離なので、問題はまったくなかった。
操縦しているソールが、飛空艇を浮上させる。
そして、浮上した飛空艇は、カズズの町目指して、前進していったのであった。
それから数分後。
ソールたちが乗った飛空艇は、何事もなくカズズの町へと到着した。着陸した飛空艇から降りてきたソールと仲間たち。
そんな彼らのもとに、ひとりの老人がやってきた。
立派な白い顎髭を生やしており、黒いサングラスをかけ、頭に大きな三角形の帽子をかぶっている、低身長の男性だ。
この老人こそ、飛空艇の持ち主であるシドであった。
「シドさん!もとに戻れたんですね!」
そんなシドの姿を見てソールが歓喜の声を上げる。
「ああ。よくやった!流石はわしの見込んだだけのことはあるわい。飛空艇は、お前さんたちが役に立てるのがいいじゃろう」
シドのその言葉は、先ほど乗っていた飛空艇をソールたちの冒険に役立てようとしているものだった。
「ありがとうございます、大事に乗りますね」
マイムが頭を下げる。
「それよりも、わしを妻の待つカナーンの町まで連れて行ってくれ。な、頼む!」
シドには奥さんがいるようだ。
「わかりました。任せてください!」
そう言ってソールは、飛空艇に乗っているマイムたちに向かって手招きをする。
すると、飛空艇近くにいたマイムたちがやってきて、ソールの隣に立った。
シドが何かを思い出したかのように、こう言った。
「あ、まずはネルブの谷を防いでいる大岩を、何とかせねば」
そう。大地震の影響で、シドの住む町であるカナーンの町に通じるネルブの谷は、土砂災害の影響で大岩で塞がれてしまっているのだ。
ソールたちの住むウルの村ではカナーンの町と交易が盛んで、ソールたちはカナーンからの輸入品などを生活用品として使っていた。
しかし、その大岩のせいで、交易が途絶えてしまい、現在ウルの村では取引などが行えなくなっている状況だ。
このまま続けば、ソールたちの故郷で暮らす人たちの生活も危うくなる。
その問題をソールたちは、深刻に考えていた。
また、それぞれ家は違えど、マイム、ヴェント、ティエラは裕福な商人の養子として育っているため、商売ができなくなってしまうのは深刻なのはよくわかっていた。
「大岩か……」
「あの大岩をどうにかしないと……」
ソールとマイムが顔を見合わせる。
そして、ふたりは、考え込むように黙り込んでしまった。
しばらく沈黙の時間が流れる。
すると、そこで、シドが彼らにあることを話してきた。
「飛空艇にミスリル製の船首をつければ、体当たりで大岩を砕けるかもしれん。町の職人のタカに頼めば…」
タカというのは、カズズの町の中でも腕利きのいいミスリル加工を専門とする職人であった。
ソールたちは、タカがいるとされる工房を目指すことにした。
シドを加えた光の戦士たちは、タカがいる工房を訪ねた。
その中には、ミスリルを加工するための道具や、作業台がある部屋があり、そこには、ひとりの男性が立っていた。
年齢は50代後半くらいだろうか?背が高く、細身だが筋肉質な体格をしている男性だった。
彼は、片手にハンマーを手に持ち、もう片方の手で水の入っている水筒を持っていた。
シドはそのタカに話をしてきた。
「いきなりだが申し訳ない…。カナーンに行くために、ネルブの谷の大岩を砕こうを思っているのだが…。飛空艇にミスリルの船首を取り付ければ砕けるやもしれんが、頼めるか?」
シドは元に戻ってそうそう、タカに船首の製造の依頼をしてきたのだが、その様子は少し申し訳なさそうだった。
それもそうだろう。本来の姿である人間の姿に戻っていきなり、力仕事を任せてしまったのだから。
しかし、タカという男性は快く引き受けてくれた。
「よし!待っておれ!今作ってやる」
嫌がることなく、タカは船首の制作にとりかかったのだった。
シドが側に付き、どのような構図にすればいいかなどを相談しながら、タカは作業を進めていった。
シドの監修のもと、タカが飛空艇用のミスリルの船首を作っている最中、ソールたちは町にある食堂で腹ごしらえをしていた。
ソールたちが頼んだのは、カズズで飼われている鶏が産んだ卵で作られたプレーンオムレツ、パン、そして、野菜スープだ。
「うん!美味しい!」
「パンももちもちしていていけるわね」
「確かに……。ここでご飯食べたのは初めてかも」
マイム、ヴェント、ティエラは、初めて食べるこの世界の料理に舌鼓を打っていた。
ソールは黙々と、目の前に出されたチキンステーキを頬張っている。
食べているチキンステーキは、醤油をベースにしたソースがかかっており、肉と相性抜群で、とても美味しかった。
食事を終えたソールたち。
それからは、町で次の冒険に備えての準備を整えていた。
傷薬などの、冒険に必須の品や、ミスリルで作られた武器の購入をして、準備は整った。
ソールたちが購入したのは、剣と槍と弓矢と盾の5点セットである。
そうこうしている間に、タカによる船首の製造が終わった。
「そーれ、終わったぞ!礼はいらんよ。村を救ってくれたからな。それじゃあ気を付けていきなされ!」
船首の製造費の請求は特になく、無償で作ってくれた。
それを聞いたシドが張りきった様子で、
「よし、飛空艇で大岩に体当たりじゃ!!」
と、ソールたちに号令をかけた。
「け、結構豪快にするつもりなんですね…」
それを聞いたヴェントが軽く呟いた。
「さ、早速向かおうか」
シドはそう言って、ソールたちは彼のあとにつき、ミスリルの船首がついたとされている、シドの飛空艇へと乗り込むのだった。
タカに作られた、ミスリルの船首は、実に立派なものだった。
先端が鋭く尖っており、まさしく岩を砕くために作られていた。まるで巨大な槍の先端だ。
船首の端にはタカが刻んだと思われる、製造した日付と彼のサインがある。
青く光るこの船首は、まさしく匠の仕事でしか作れない逸品だった。
ソールたちは飛空艇に乗り込んだ後、大岩がある場所へと向かった。
大岩のある場所は、ウルの村からは遠く離れていたが、飛空艇を使えばひとっ飛びだった。
飛空艇の操縦はシドが担当していた。
飛空艇の製造をしていただけであって、彼の操縦はお手の物であった。
その様子を、側でソールが立って見ている。
「うむ、もうすぐだな」
シドがそう呟いた。
奥さんのことについて聞こうと思っていたソールだったが、予定より早く、その大岩のある場所の近くまで来ていたようだった。
「あ、見えた見えた」
ソールの目の前に、飛空艇のガラス越しにネルブの谷の大岩が見える。
土砂災害でできたとはいえ、かなりの大きさだ。
すると、シドがいきなり飛空艇の馬力を上げ始め、スピードを上げた。
「ちょ、ちょっと!シドさん!?飛ばし過ぎじゃないですか!?」
「まぁ見ておれ……。これでもくらえ!」
「ええええええっ!?」
ソールが驚く中、シドはどんどん飛空艇を加速させていく。
そして、ドガーン、と大きな音を立て、シドの飛空艇は大岩に激突した。
その音はとてつもなく大きかったようで、距離がかなり離れているであろうウルの村にも聞こえていそうな勢いだった。
タカに作ってもらったミスリルの船首のおかげで、大岩は粉砕することができた。
しかし、粉砕したのは大岩だけではなかった。
衝撃の反動が凄まじかったのか、飛空艇も粉砕してしまい、ソールたちは地上へと放り出されてしまったようだ。
空中で飛空艇が大破してしまったため、ソールたちは、そのまま地面へと真っ逆さまに落ちていった。
「わあああっ!!」
「きゃああっ!!」
「くぅ……!!」
「いやあああ!」
悲鳴をあげながら落ちていくソールたち。
そのまま地面に叩きつけられたが、5人とも特に大きなケガなどはしていなかった。
しかし、爆発の影響からか、服や顔が煤で汚れてしまっていた。
「うっ…。みんな無事か…」
地面に突っ伏したソールは、全員の安否をまず確認する。
「ええ…。なんとか…」
白いブラウスが黒い煤で汚れてしまっていたヴェントは、何とか生き延びていたようだ。
「あたしも大丈夫だよ」
マイムも、体についた砂埃を払うようにしながら起き上がる。
白いワンピースが、黒く汚れてしまっている。
「私も平気よ……」
ティエラも何事もなかったかのように立ち上がった。
「わしも大丈夫」
シドも立ち上がって、ソールに返事をする。
ソールの顔もかなり煤や砂埃で汚れていた。
「よし…。とにかく、カナーンの道が開けてよかったよ」
大きな岩の破片が、5人の周辺に、飛空艇の残骸とともに転がっている。5人は立ち上がり、飛空艇があった場所を見つめていた。
「それにしてもすごい威力だったわね。あんなに粉々になるなんて思わなかったわ」
「まあ…。多少の犠牲は仕方がないですね」
ティエラとマイムは、改めてシドの飛空艇の船首の破壊力に驚いていた。
「うむ。あの船首はいい出来じゃった」
シドは満足げに飛空艇の船首の感想を言った。
「それはそうと、まずはカナーンへと向かおう。妻に会いたいんだ」
奥さんの元に戻りたくて仕方がないシドのために、ソールたちは、汚れてしまった身体のまま、カナーンの町を目指し、歩いて行った。
一方、飛空艇が大岩を爆破した頃のウルの村ではというと…。
ドカーン!!
遠くの方で大きな衝撃音が聞こえてきたようだ。
孤児院の畑で仕事をしていた、ソールの幼馴染の少女、サーシャはそれに気づいていた。
「今の、なに!?」
サーシャは慌てて音のした方を見る。
そして、その方面を見た後、すぐに気づいたようだ。
「あっちの方って…。確かカナーンの町の方面よね?大岩が塞いでて通れなくなってて…」
大岩のせいで、道が塞がれているのを思い出した。
「まさか……」
嫌なことを考えたサーシャは、急いで作業をやめ、村の長老であるトパパの元に向かっていった。
「おじいさん!おじいさん!」
慌てた様子のサーシャが、トパパの部屋に入ってきた。
「どうしたんじゃ?」
「あっちの方で大きな音がしたの。あっちってまさか、ソールたちが…」
汗だくの顔で、サーシャが話す。
「ああ。ついにやったみたいじゃな」
「そ、そうなのね…」
「あの子たちなら大丈夫。クリスタルの光に選ばれた勇者たちなのだから」
トパパのその冷静な言葉には、説得力があった。
それを聞いたサーシャは、一安心したかのような顔をする。
「ソール…。無茶はしないでね」