「ここは……?」
男が目を覚まし、最初に認識したのは故郷では聞くこともない、波が打ち付ける音だった。
銀色の髪、尖った耳、すらりとした長身。
「私は……」
藤丸たちが部屋を訪問した時には、男はベッドに腰を掛けてうつむきながら思案に
「あの、大丈夫ですか」
「ん? ああ、すまない」
藤丸が声をかけるが、男は反射的に謝りはするがどこか上の空のままで、どうにも危なっかしく見えた。
少しの間、沈黙が続き、男はゆっくりと頭を上げ藤丸を見据えて口を開いた。
「いくつか質問をしてもいいだろうか」
「えっ、はい。その、全部ちゃんと答えられるかはわかりませんが」
そうして男はここはどこか、何日くらい寝ていたのか、様々なことを藤丸に問いかけた。が、藤丸も男を助けたわけではないため答えに窮し、バーソロミューに宿の人を呼んできてもらってなんとか乗り切った。
「いや、すまないな。まさか無関係の冒険者だとは思いもしなかった」
「いえ、こっちこそ答えられなくてすみません」
藤丸は改めて男を見る。くすんだ銀髪、切れ長の目に武骨な顔つき。耳の先が尖っており、座っているため正確にはわからないが、身長も高くすらりとしていることから、こちらの世界で言うエレゼンという人種だと当たりをつける。包帯を巻かれた肉体はしっかりと鍛えられており、矢面に立って戦う人であると思わせるものだ。
観察をしていたが、はたと気付く。
「俺、藤丸立香です」
自己紹介である。相互理解のための第一歩だ。
「リツカ殿……、でいいのかな? 私は──」
そこで男は口を開いたまま時が止まったように動かなくなってしまった。
藤丸は黙った男を見つめたまま待った。何を言うわけでもなく。促すわけでもなく。ただ、待った。
「私は……。そうだな、ストーンとでも呼んでくれ」
「はい! よろしくお願いします」
そうして、ようやく男が絞り出した言葉に手を差し出す。
男は一瞬だけ固まり、藤丸の手を強く握り返した。
*
正直な話、異世界の存在というのは知ってはいた。
「そうなのですか?」
あなたは砂の都、ウルダハのマーケット通りを歩きながら雑談をしていた。
太陽に煌めく薄青色の髪を揺らしながら隣を歩く女武者──巴御前──は首を傾げてあなたに聞き返す。
あなたは頷き、異世界からやってきた飛竜と戦ったことや、異邦人との出会いを巴に語ったところ、思いの外その話題に飛び付いてきた。
「良き出会いをされていますね」
喜色満面に笑う巴にあなたも笑顔になる。
出会い、というのであれば巴のマスターもなかなかの波乱万丈のようだが。
「はい。只人であるはずのあの方が私たちのような者を相手に大立ち回りです。ぜひとも近くで見ていただきたいですね」
話を聞く限り自分と同じような人種だろうな、とあなたは顔も知らない巴のマスターに共感を覚えた。
「それで、これからどういたしますか?」
巴の言葉にあなたは少しだけ考える。
砂漠の中に出来上がりつつあるあの城と、それを作るちびノブたちと親玉であろうノブナガ。それを守るこの巴御前である。明らかに自分だけでは手に負えない強さである彼女たちを相手にどう戦うか、などと決まりきっている。
自分だけではどうにもならないなら他人の力を借りるまでだ。
「ちなみに私が把握してる限りでは信長公の部下、というか私のような者はあと3人います」
第一のしもべと言っていたからそうだとは思っていたが、こんなのがあと3人もいるのか……。
「こんなのとはなんですか!?」
目の前にいる自分より強くて本気で戦いたいなどと言ってくる女のようなのがあと3人もいるのか……。
「わざわざ言い直さなくてもいいです!」
とはいえそういうことに目がない仲間もいることだし、繋がるかどうかは別として連絡を取ってみるべきだろう。
あなたは普段は自分からは使わない
『……どうした、相棒。珍しいじゃないか』
自分より強いであろう異世界の英雄が最低5人もいて全力で戦ってほしいなどと無茶を言うので助けてほしい、とあなたは笑い、冗談めかしながら助けを求めた。
『ほう……? わかった、すぐに行く。場所はどこだ』
ひとまずウルダハに来てほしいと伝えて通信を終える。
次は色男2人組だ。今ならオールド・シャーレアンを拠点にしているはずである。
『お前からかけてくるなんて珍しいじゃないか』
もうエスティニアンにも言われた。と、軽口を叩く。
手短に事情を話すと、通信先の声の主は快諾してくれた。
『ウリエンジェとヤ・シュトラには俺から伝えておこう。わかっているとは思うがアルフィノやアリゼーも声をかけてやれよ?』
元よりそのつもりである。ウルダハに来て欲しい旨を伝えて、また別の仲間に通信を繋ぐ。
『君か。珍しいじゃないか』
程なくして少年の声が聞こえる。
もうエスティニアンにもサンクレッドにも言われた。と、あなたは苦笑いだ。
『少し待っててくれないか。アリゼーと相談してくるよ』
もちろん待つとも。アリゼーに何も言わずにいたらバレた時に何を言われるかわかったものではない。
『私が行くことになったよ。
アリゼーはまた今度誘うことにするとしよう。ひとまずウルダハに来て欲しいと伝える。
『わかった。すぐに行くよ』
これで自分を入れて6人か。あと2人は欲しいところだが……。
「どうでしたか?」
友人たちに快い返事をもらったことを伝える。多少の数なら他の冒険者を募ってもいい。その程度の人数ならすぐ集まるはずだ。
「それはよかったです。私たちもはりきってお相手いたします!」
勝負は勝負だ。負けるつもりもない。
「はい。それでこそ、です!」
ふんす、と身を乗り出して気合い十分と言わんばかりの巴を横目に見ながら、あなたはふと気になったことを聞いてみる。
本気で戦う、とは言うがまさか命のやりとりまではしないだろう、と。
「ああ、殺すつもりでかかってきていただいて構いませんよ。私たちは魔力によって構成された使い魔のようなものですから」
それに、と続ける。
「信長公がなにをしたのかわかりませんが、致命傷を負っても問題ないようなのです」
彼女らサーヴァントは致命傷を受けた場合、身体を構成するエーテルが霧散し、カルデアと呼ばれる本拠地に退去する仕組みだという。
しかし、ここでは退去ではなく少しの時間をおいて身体が再構成されるのだとか。
「何かしらの企みがあるかもしれませんが、そこはそれ。便利でありがたいことです」
こちらもかなり限定的だが死者の蘇生の真似事が出来る。そう考えると思い切り体を動かす良い機会ではないか。
「決まりですね。何事も本気で取り組むのが人生を楽しむコツだと私の友人も言っていました」
まあ、それを言った彼女はそれで後悔することも多いようですが、と巴は続ける。
同人誌がどうとか、締め切りがどうとか言っているが深く突っ込むのはやめておこう。
「とはいえまずはマスターを探すのが先なのですが……」
もっともである。