クイックサンドにラハとちびノブを置いて伝言を頼んでおいた。これで巴がマスターと呼ぶ人がウルダハに来れば情報が伝わるだろう。
来なかった場合は……。まあ、こっちから探しに行くのも楽しいだろう。
「おや、私たちが一番乗りですか?」
「なんだ、こんな美人を連れているなんてお前も隅に置けないな」
落ち着いた声と、少し軽薄そうな声があなたと巴にかかる。
落ち着いた声の主はエレゼンの男性。肩から先と首回りを大きく開けた黒いローブを纏い、星や月、太陽をモチーフとした装飾を身に付けている。
もうひとりはヒューランの男性だ。白いロングコートを着て、ガンブレード──斬撃時にエーテルを内包した特殊な弾丸を撃つことで威力を高める剣──を背負う伊達男。
互いに共通するのはエレゼンの男は右の頬に、ヒューランの男は首に同じデザインの紋様が刻まれていることである。
学術都市シャーレアンの賢人、ウリエンジェとサンクレッドだ。
「巴御前と申します! 此度はよろしくお願い致します!」
「これはご丁寧に……。ウリエンジェと申します」
「サンクレッドだ。よろしくな」
巴の詳しい説明は他のメンバーが来てからでいいだろう。
「ヤ・シュトラやクルルにも声はかけたんだが、どうにも手が離せないみたいでな」
アリゼーも来ないので女性陣は全員不参加ということになる。
各々、色々と忙しい身だ。それは仕方ないだろう。むしろよくこの2人が来てくれたというべきか。
「他には誰が来るのでしょうか?」
「俺とアルフィノだ」
また新たな声──強い意思を感じるようなしっかりとした声──を聞く。
肩まで伸びた銀髪をひとつにまとめたエレゼンの男性である。紺色の鎧を身に付け、長槍を背負った竜騎士。
エスティニアン。
「みんな息災で何よりだ」
柔らかい少年の声。
賢具と呼ばれるエーテルによって宙に浮かせることが出来る武器を背負ったエレゼンの少年。
アルフィノ。
来れるメンバーはこれだけのようなのであとはラハと合流し、足りない人員を募集すればいい。
「それで、その女が依頼主か」
「はい、巴と申します。みなさん、よろしくお願いします」
エスティニアンと巴の視線が交差する。
「……なるほど。手強そうだ」
「お互いに、ですね」
少しの間、互いの顔を見つめていたエスティニアンと巴はそう言って微笑みあった。
微笑むといっても獰猛な獣が獲物を見つけたような笑みなので子供には見せられるものではない。
集まったメンバーにこれまでのことを話したが、反応は主に2つに分かれた。
「十四世界のどれにも属さない異世界からの来訪者……!
「ですが、それが真実なのでしょう。カルデア、でしたか。出来ることなら行ってみたいものです」
知的好奇心を刺激される学者肌組と──
「古今東西の英雄が集まる場所、か」
「血が
闘争心を刺激される武闘派組だ。
「みなさん興味を持っていただいたようでなによりです」
ニコニコと笑う巴は、やはりというべきか薄っすらと武闘派組の方に意識を向けているように見える。
仲良くやれそうでなによりだ。
「なかなか快適な空の旅だったな。海の方が好きなのは変わらないがね」
カルデア一行は飛空艇に乗ってウルダハまで来ていた。
藤丸も普段とは違う空飛ぶ船に途中までは甲板に出て大はしゃぎであったが、あることに気づき途中からは船室へと引っ込んでいた。
「空を飛ぶっていうのに甲板に手摺りも何もないのおかしくない?」
「本当に何もないストームボーダーの甲板に立つ人間の言葉にしては弱弱しいねえ」
「あっちは一応魔術的なセーフティがあるし、最悪の場合は空を飛べるみんなもいるから…」
などとこちらの世界の公共の乗り物に疑問を持ちつつ、飛空艇の発着場からエレベーターで降りてきた一行の目に映ったのは
「街全体を壁のように作っているのだな」
「やっぱり砂嵐とかへの対策かな?」
「それもあるだろうが、基本的には外敵への対応のためだろう」
アルトリアの解説に、なるほどなあ、と感心しきりの藤丸である。
「マスター。クイックサンドという酒場があるらしい。ひとまずそこに行こうか」
「ありがとう。ストーンさんもそれでいいですよね?」
「……問題ない」
「あの、大丈夫ですか?」
藤丸の言葉はバケツを逆さにしたかのような兜を被ったストーンを気遣ってのことである。
ストーンがなぜこのような格好をしているかと言えば、知り合いにバレるわけにはいかないから、ということだ。藤丸は、まあそういうこともあるよね、で済ませている。
リムサ・ロミンサも暑さはあったが、海風もあり快適な方であった。しかしウルダハは砂漠のような乾燥具合と暑さである。道満が懐から取り出した呪詛を
「大丈夫だ。鍛えているからな」
「なるほど……。それでもキツかったらいつでも言ってください。そっちのお札の方もなんとかさせますから」
「ふっ……。そちらも、大丈夫だ」
藤丸が身振り手振りで道満を
「いらっしゃい。初めて見る顔ね」
藤丸たちを迎えてくれたのはララフェルの女性であった。彼女の名はモモディ。クイックサンドの店主であり、冒険者ギルドのマスターでもある。
「初めまして。あの、このあたりで鳴き声がノブノブーって感じの変な生き物を見たって情報はありませんか?」
「あら、ふふふ。ちょうどよかった。グ・ラハさん、あなたの言ってた人じゃないかしら」
藤丸たちの前に現れたのは猫耳が生えた赤毛の青年だ。
「バルデシオン委員会のグ・ラハ・ティアだ。よろしく」
「カルデアの藤丸立香です」
「一応確かめさせてくれ。あんたたちが探しているのはオダノブナガ、トモエゴゼン、そしてコイツで間違いないか?」
「ノッブ!」
グラハティアが足下のモノを持ち上げて藤丸たちに見えやすいように突き出してくる。
軍服に太陽のような帽子飾り。そして変な鳴き声。間違いなくちびノブである。
「ノッブがいるのはわかってたけど巴さんも来てるんだ……」
藤丸はグ・ラハから思わぬ情報を得て唸っていた。
「ふむ? 姿形は若人そのもの。しかし時折見える警戒心は老練のそれとは。真、不思議なものですなあ?」
「姿に関してはこっちの方がよっぽど詐偽みたいなことしてるじゃないか……」
サーヴァントは基本的にその英霊の一生涯の記憶を持った状態で、全盛期の姿で呼び出される。つまりは道満が言ったように姿は若いが経験は歴戦の戦士、という人物が常である。
「まあ、こう見えて色々と経験を積んでいるのさ」
藤丸たちは知る由もないが、この猫耳お兄さんことグ・ラハ・ティアは第一世界と呼ばれる場所でいろいろやってきた苦労人である。
「ああ、俺のツレもちょうど来たみたいだ」
酒場の喧噪の中にもかかわらず、藤丸の耳にはスイングドアがギィと音を立てて開くのがはっきりと聞こえた気がした。