とまれ!ウマぴょい警察だ!   作:sannsann

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とまれ!ウマぴょい警察だ!

 

「とまれ!ウマぴょい警察だ!」

 

その軽四自動車は、まさにといった感じだった。

やけに傷だらけだし、運転手の目はギラギラしまくっていて終始落ち着きがないし。

経験的に絶対、幸せの白い粉系の薬をキメていると思った。

声をかけるまでは良かったのに、まさか逃げられるなんて。

信号無視を連発して逃げるんだから、たぶんガチのやつだろう。

こんなことならすぐに応援をよんでおけばよかった。

 

『ピョイ93!ただちに追跡を打ち切れ!細街路に入っている!打ち切れ!

 ピョイ93!打ち切れ!……おい成田(なりた)ァ!打ち切れぇ!』

 

イヤホンから、耳障りな声が聞こえるが、外れてしまって何と言っているかわからない。

私の中の天使と悪魔が打ち切ったほうがいい!ここで逃げられてたまるか!と言い合っているが、勿論逃がしてたまるか!だ。

 

「アアッーーッ!」

 

その声は私が出したのか、それとも逃げていた車の運転手か、はたまた両方だろうか。

やけに耳に残った。

目の前にいた車が、無理な速度で曲がろうとしたせいかそのまま民家へと衝突した。

 

『こちらピョイ93!不審車両が事故った!応援求む!』

 

ああやばい、また追跡事故だ。

どうしよう。

 

『ピョイ93!事故ったというのは単独か?他者を巻き込んだのか!怪我人はいるか、至急送れ!』

 

無意識に追跡ボタンを押していたのだろうか。

すぐに仲間のウマ娘ポリスたちのサイレンが聞こえてきた。

どうしよう、また怒られる。

自分の耳と尻尾が縮こまったのがわかる。

はー、めんどくさい、とりあえず犯人ぶん殴りたい。

 

 

 

「成田!何故すぐに追跡を打ち切らなかった!」

 

後刻、予想どおりと言うべきか当然と言うべきか、上司から呼び出しをくらった。

 

「見ろ!また新聞で叩かれている!」

 

上司が手を叩きつけた机の上には【ウマ娘ポリス()追跡した車両、民家に突っ込む!】とデカデカとした見出しの朝刊が置かれていた。

 

「はい、いいえ課長。私は適正な職務を行ったのみです。

 そもそもいつも思うのですがこの記事の書き方はおかしい。

 まるで我々が悪いみたいではないですか?

 普通書くなら【警察から逃走した不審車両()民家

に突っ込む】でしょう、が、の位置を変えて欲しい」

 

「そんなことを聞いているのでは無い!なぜ打ち切らなかったのかを聞いているのだ!」

 

上司はまさに怒髪天をつく、といった様だった。

まあそれも当然といえよう、なにせこの私が起こした追跡事故はもう両手では足りないほどなのだから。

普通、追跡事故はめったに起こらない、仮に起こっても、次からはそうならないように起こした本人は気を付けるものだ。

いくら逃走した犯人が悪いとはいえ、仮に全く関係の無い第三者を巻き込んだらその怒りの矛先はどうしても警察に向いてしまうからな。

 

特に警察ネットワークと防犯カメラがリアルタイムで繋がっている現代において、無理な追跡はメリットに比べてデメリットの方が大きい。

あとで捜査すれば大半の犯罪が逮捕に至るのはわかっている。

しかしそんな中でもどうしても現行で逮捕せねばならない犯罪は存在する。

逃げている間に証拠品を捨てられたりするものや、時間経過とともに体内の違法薬物反応がなくなったりするような犯罪だ。

私は、そんな犯罪に関わった悪い奴を現行犯で捕まえるべく日夜動いているんだ。

 

「貴様のせいで機ら隊は何度解散させられそうになったと思っている!」

 

そう、そのための部隊。

ウマぴょい警察本部直属の執行部隊として存在する、機動警ら隊…通称"機ら隊"だ。

また始末書だろうか・・・。

悪い奴をぶっ飛ばして捕まえられると思っていたのに・・・思っていた以上に窮屈な部隊だ。

ああ、本当、なんで悪い奴を追いかけただけなのに、こんなに怒られるんだろうか・・・。

肉食べたいな・・・。

 

 

「また事故ったらしいな」

 

「姉貴か・・・。

 ああ、またやってしまった・・・。

 わかってはいるんだ、駄目だって、ただどうしても追跡していると他のことが頭に入ってこないんだ。

 目の前の犯人というゴールに突っ走ってしまうんだ・・・」

 

鏡に映る自分の姿が見える。

艶の無い、無造作にしばっただけの、ガサガサの黒髪。

現役時代からまともに手入れをしていなかったせいか、最近そのツケが来ている気がする。

私と同じように、咥えている枝も萎びて見える。

それに対して、姉貴の白髪の美しいことよ。

きゅーてぃくる、というやつだろうか、何かキラキラつやつやしている。

 

私達は、社会復帰ウマ娘と呼ばれる者たちだ。

ウマ娘は若い頃、皆走ることを、レースを、1位になることだけを考えて生きてしまう。

若い頃はそれでいいだろう、だが学生生活を終えれば、それだけでは生きていけない。

G1と呼ばれるレースの中でもトップレベルのものにいくつも勝てば、育成者や解説者、テレビタレントなどへの道はある。

しかし、そうなれるのは極々一部だけだ。

何千何万といるウマ娘の指先でつまむ程度の人数だけがその道で生きることができるのだ。

 

また、仮に大きなレースを勝利したとしてもそれだけでは駄目であった。

人柄が極端に良いとか、トークが面白いなど何か強みがなければ、いくら強いウマ娘であってもその道には進めなかった。

特に気性難と呼ばれるウマ娘達はそのほとんどが不採用であった。

私もそこに該当するらしい。

どうにも人に媚びへつらう事が無理だった。

結局そのまま食うに困って警察に入ったのだからお笑いものだろう。

 

見目麗しいからそれで売れるのでは?と思う方もいるだろう。

しかしトレーナー経験者に限らず、誰でもわかるはずだ。

ウマ娘達は、皆見目麗しい、そう"皆"見目麗しいのだ。

ヒト耳族と違ってほぼ全員が綺麗・かわいいのだ。

自分でいっててアレだがな。

だが私だってちゃんと髪を手入れして化粧をすればそこそこかわいくなるんだ、たぶんな。

 

俗に言うモブウマ娘と呼ばれる未勝利のまま終わるようなゲームで言う雑魚キャラのようなウマ娘達も、かわいいのだ。

中にはメインよりそっちのモブにぞっこんなトレーナーもいるとかいないとか。

確かにレースに出ていた誰もが可愛かったな。

そういう訳なので、確かに輝くようにかわいい子もいるが、ぶっちゃけ好みの問題レベルというやつだ。

だから顔で売るといったことがあんまりできない。

何より私はそんなことしたくなかった。

ならば後は、キャラクターであったり、性格、コネといったものになるのだろう。

 

G1一つだと厳しいかもしれないが、例えば三冠ウマ娘クラスなら余裕じゃないか?と思う人、スポーツ界というのは現役時代こそファンはおいかけてくれるが、引退後まではそんなに追いかけてくれないものだ。

これは経験談でもある。

私自身、他のスポーツも見るが、確かに現役を引退した選手のことは興味から外れてしまう。

1年2年とたつうちに記憶からも消えると思う。

引退したプロ野球選手やサッカー選手の一体どれだけがおいかけられているだろうか。

いくらレジェンドと言われていても、年数が経てばテレビ業界からは消えてしまう。

たまに特集とかで出たり、解説で出たりする程度である。

やはり皆、現役の選手を見るのだろう。

そして次から次へと新しいスターが産まれてくるのだ、皆そっちに注目するのは当然と言えよう。

 

そういった理由もあり、私を含めた大半のウマ娘は、普通のヒト耳族と変わらない学生生活をおくり、社会に出て働いて一生を終えていく。

若い頃は部活に必死だったよね、レースに必死だったよね、と言いながら歳をとっていくのだ。

しかし、中にはいつまでたってもレースのことが、走ることが忘れられないウマ娘もいるのだ。

特にトレセン学園と呼ばれるエリート学校に進学したウマ娘ほど、なまじ走るのが速かったせいか、その傾向が強いと言われている。

 

私自身がそうだった。

しかし悲しいかな、生き物は走るだけでは生きていけないのだ。

喉は渇くし、腹は減る。

むしろ走れば走るほど喉も渇くし腹も減る。

気持ちは満足できても、身体は逆に飢えていくのだ。

狭い1部屋のみのアパートで畳を食べようか迷った時のことを思い出すと、今でも涙が出てくる。

だから、嫌がおうでも働かなければならない。

むしろ普通のヒト耳族より大飯ぐらいが多い種族である、食費だけでしゃれにならない金額が必要となるのだ。

特に私のように、肉が大好きな部類は給料=食費レベルだ。

食い放題は軒並み出禁をくらうから・・・。

 

そうして、働いて、稼いで、食べて、生きる。

知能を持った生き物として、社会に生きるものとして当然のことを、ウマ娘もしなくてはならない。

なので、元からヒト耳族と変わらない社会生活を送っていたウマ娘だけではなく、レースに人生を賭けていたほとんどのウマ娘もヒト耳族と共に社会生活をおくろうとする。

おくろうと(・・・・・)するのだ。

しかしだ、たとえ一般常識や教養を最低限中学・高校と習っていたとしても、人生の大半を走ることに、レースにつぎ込んでいたウマ娘が、社会人としてやっていけるだろうか。

悲しいかな答えは否である。

『体力・気力は素晴らしい、が、なんか色々駄目』

これが世間一般におけるレース出身ウマ娘の評価である。

現実は非常だな。

私の評価は『体力はいいが、気性難、ガサツ、何でも肉体言語で解決しようとする、礼節が中途半端、そもそも面接に枝を咥えてくる時点で舐めている』だそうだ。

面接を受けた会社に裏ルートで評価を確認したらそう書いてあった。

私は泣いた。

 

ま、まあ世間におけるウマ娘の評価は大体そんな感じである。

中には、履歴書に○○レース学園、○○トレーニングセンターとか書いているだけで書類選考から落とす会社すらあるという。

そんなわけで、私達の就職先は、気力体力が何よりも必要とされる国防隊・警察・消防に進む者が大半であった。

 

 

 

「なあ、もっと大人になれ。

 お前はその目先の餌に釣られてしまうクセさえ直せばもっと上を目指せるんだ。

 結果は、十分出せている、昇任だってすぐだ」

 

そう、何度も追跡事故を起こしている私がクビになっていないのは、それを帳消しにするレベルで数々の犯人逮捕を行っているからだった。

実際、警察組織の上層部からも、姉のように落ち着いてくれさえいればと思っているものも多いと聞く。

だが、それは何か負けた気がするのだ。

 

「わかっているさそんなこと!

 何度も何度もうるさいんだよ!ほっといてくれ!」

 

「あっ、まて!」

 

姉貴の制止を振り切り、私は休憩室を飛び出したのだった。

 

 

「うう・・・摩耶乃ぉぉ・・・また事故ってしまったああ・・・」

 

「もーまたー?

 どうせまた目の前のことしか見えなかったんでしょ」

 

「うう、お前はいつもすぐにわかってくれるなぁ・・・」

 

私は、本部を飛び出してそのまま行きつけの居酒屋に飛び込んだ。

夜勤明けで昼間っからお酒が飲める場所はここしかないのだ。

あと肉もリーズナブルな値段で出してくれるし。

必然的に同じく夜勤明けの同僚たちもたくさんいることになる。

私の、かつて、ライバルと呼ばれた摩耶乃と呼ばれるオレンジ髪のウマ娘もちょうどそこにいた。

 

「もっと上手くやればいいのにー」

 

「わかっている、わかっているんだ・・・」

 

言葉どおり、私と摩耶乃はライバルだった。だったのだ。

なんでも上手くそつなくこなし、人間関係、特に上司との関係も良好で、さらには上が望む結果を上手にあげ続ける摩耶乃はポンポンと昇任していった。

今やもう警部である。

順調に出世街道を進む摩耶乃は、年齢や経歴的にもこのままさらに昇任し、警視どころか警視正すら確実と言われている。

片や私はどうか・・・上司になんと言われようと、後輩にいい加減昇任したらどうですかと言われようと、断固として昇任試験の勉強はしないと豪語している。

つまり、未だ巡査である。

その階級差は既に3、絶望的な差だ。

頭のオカシイ自称小学生探偵にでてくる目●警部のせいで警部の地位は低く見られガチだが、ぶっちゃけかなり偉いのだ。

ウマ娘でいえば、未勝利戦クラスのウマ娘と三冠ウマ娘レベルくらいの差である。

私がいうと笑えないな。

しかも仮に私がこれから最速で階級をあげようとも、追いつくのは定年前という・・・。

そもそもの話、どうせ摩耶乃も階級をあげるから追いつけないのだが・・・。

 

しかし警察組織というのは特殊で、いくら階級差があろうとも、一時期どこかの部隊で同期になれば、その関係はずっと同期のままなのだ。

普通ならば、私は摩耶乃に対して、いくら自分より歳は下といえど、敬語で話さねばならないし○○警部と言わねばならぬところも、同期間では呼び捨てである。

私たちは警察学校で同期だったのだ。

まあ私たちの場合は、就職前から触れあいがあるし、あとお互いの父方に遠からぬ血縁があるせいもあるが。

 

「あーあ!しかし、『とまれ!ウマぴょい警察だ!』とかリアルで聞くことになるなんてねー」

 

摩耶乃がケラケラと笑いながらハイボールを飲む。

なぜ現場にいなかった摩耶乃が私の無線発報内容を知っているのか。

それは、私が追跡を開始したと同時に、追跡モードボタンを押していたからだった。

これは周辺の同僚がすぐに応援にかけつけることができるように、優先して現在位置を更新し続けると共に、無線機が周囲の音声を自動的に拾い、他者の無線機に流すモードだ。

無線機というのは本来通話をするときにボタンを押しながら発声する、しかし緊急時に悠長にそんなことはしていられない、そのために喋れば勝手に音を拾うべく緊急用として追跡ボタンが付いているのだ。

そして私の正義感(笑)溢れる発報内容はその時当直についていたウマぴょい警察全員に聞かれていた。

追跡事故の後、本部に帰ったら同僚皆が『とまれwwうまピョイ警察だww』とか『皆の者とまれとまれーいww成田様のお帰りだーww』等とおちょくりながら声をかけてきた。

今まで何度も追跡事故を起こしてきたが、こんな羞恥ははじめてだ。

穴があったら入りたかった。

 

 

「やめてくれ・・・それを仲間に聞かれていたと思うと恥ずかしくて死ねる」

 

「トレセンの時に、トレーナーちゃん達にネタで言っているウマ娘はいたけど、あくまでネタだしねー」

 

実際、トレセン学園では見目麗しいウマ娘に手を出そうと考えるトレーナーは、ごく少数ながら存在していたそうだ。

私も噂程度でしか知らない。

そもそも在学中には存在していなかった、はずだ。

ぶっちゃけ実際に手を出すトレーナーはいない、未成年でアウトだし、トレーナーという高給取りを捨ててまで一瞬の快楽のために人生を捨てるほどではないだろう。

働いて、給料をもらうようになって、改めて理解した。

高級取りの人が、わざわざ一時の快楽のために人生を捨てるなんてあり得ないと。

皆きちんと現実を見ている、そんなエロ同人みたいな展開はないと理解しているのだ。

そうでなければ、トレセン学園どころか日本中の学校で教師と生徒がピョイ(動詞)して、私たち警察のお世話になっているだろう。

無論、たまにニュースに載っている一部の例外はいるのだろうが。

 

「あったなぁ・・・そういうことも・・・。

 なつかしいなあ・・・戻りたいなあ・・・。

 うう、グスッ・・・ちくしょう・・・ちくしょう・・・

 こんな・・・ことなら・・・理事長の・・・誘いを断るんじゃなか・・・たなぁ・・・」

 

「あれ!?寝ちゃ駄目だよ!? 

 また摩耶乃が送るのー!?ちょっとー!!!!」

 

私は、楽しかった過去の日々を思い出しながら、酔い潰れ始めていた。

自分でもわかる、たぶんこのまま寝てしまうだろう。

そして毎度のごとく、親友の摩耶乃にタクシーで自宅まで送り届けられ、そのまま惰眠をむさぼり、翌日は二日酔いに呻きながらゴロゴロ寝るだけというせっかくの週休日を無駄に過ごし、そして次の日また出勤するのだ。

摩耶乃には悪いが、もう辞められないのだ。

そんな生活をもう何年も続けている。

そしてこれからも続いていくのだろう・・・私がウマぴょい警察を勇退する、その日まで・・・。

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