わたしがダダンさんの元に預けられ早一週間。
わたしの作る料理は、山賊の皆さんに概ね好評である。しかしながら、この世界の料理は味付けが濃い。生粋の日本人である──とはいえ前世の話だが──わたしの舌には、素材そのものの味を生かした和食が合うのである。だからわたしの料理はこの世界の人には味が薄く、初めは「味がほとんどしない」と言われたものである。現在は自分の分は別にして、他の皆さんの分はしっかりと味をつけて調理している。それが功を奏し、好評を得たというわけである。
そしてエースくんとは、あれから必要以上に話してはいない。そもそも向こうはこちらが声をかけても無言である。こちらを見てくれるので聞こえてはいるのだろうけど…うーん、難しいな。わたしとしては是非仲良くしたいのだけど、この調子だと心を開いてくれるのにどのくらいかかるのか…
悩んでいても仕方ないので、今日も今日とてわたしは野山を駆け回っていた。前世でのわたしの趣味はパルクールとボルダリング。舗装のされていない自然豊かなこの場所は、それらに最適であるため、気分転換にうってつけである。気分転換ついでにその日の食材調達もしている。あのおじいちゃんの孫だからポテンシャルはあるのかも知れないけれど、まだまだ子どもであるわたしは腕力が足りない。殴ったり蹴ったりするのに、大きな動物を仕留められる程の力はないのだ。そこで使うのが梃子の原理などの、出来るだけ弱い力で、けれど強い力を相手に与える方法。力の弱い者ならではの戦法である。それから、薙刀。相手との間合いを長く確保しながらも攻撃に転じることができ、極めれば剣よりも強いと言われている。ぶっちゃけこのゴムの身体があれば間合いを取りながら攻撃が出来るのだが、攻撃手段は多いに越したことはない。この世界は物騒であるが故。
…と、現代日本に生きていればまず役に立つことのない知識は置いておいて。
わたしは今、来たことのない場所に辿り着いていた。見るからに物騒な場所。たくさんのゴミの山と、それらが発する独特な鼻を衝く臭い。こんな場所があったのか、と思いながらわたしは道とも言い難い道を進んでいく。すると、その先の森の入り口辺りに見慣れた人影を見つけた。エースくんだ。
あれから一週間。日々を過ごしていて顔を合わせるのは家の中でのみで、外でばったり遭遇することは疎か遠目から姿を見かけることさえもなかった。だからこうやって外で過ごしているエースくんを見るのはこれが初めてで、わたしは何となくその後を追った。そしてその先で、エースくんともう一人、ゴーグルの着いたシルクハットを被った男の子が木の上談笑しているのを見た。どことなく身なりがいいので、恐らくゴア王国の貴族の子なのだろう。ここからは見えないが、何やらたくさんの財宝やら大金やらの見せ合いっこしているようで、凄いだとか負けただとか話している。
「早く仕舞えよ。誰に見られるか分からねェ」
「海賊船なんていくらあれば買えんのかな」
「さあ?何千万か何億か…まだまださ」
へぇ、この子たちも海賊になりたいのか。というかこれ、部外者のわたしが見てはいけないものを見たのでは?この子らのためにも、ここで見たことはなかったことにして大人しく去った方がよさそうだ。そう思ってその場を立ち去ろうとしたのだが。
バキッ
あっ、しまった。
「誰だ!!」
なんでこのタイミングで落ちていた木の枝なんかを踏んでしまったんだわたしは。
こうなると出で行かざるを得ない。そう思ったわたしは、観念して彼らの前に姿を見せた。
「あ、あはは…こ、こんにちは…奇遇だね、エースくん…」
「……」
「……」
流れる沈黙。その数秒後、二人が頷き合って木の上から高速で降りてきたかと思うと、こちらへ駆け寄って来た。え、何事?と戸惑って動きが遅れたせいでわたしは、あれよあれよという間に木に括り付けれた。本当に何だろうこの状況。
「ええっと…?わたしどうして括り付けられてるの…?」
わたしの疑問を他所に、二人は話をわたしを見ながら会話を続ける。
「コイツかよ、お前が言ってたルフィって奴」
「あ…エースくんわたしの話してたんだ」
驚き桃の木山椒の木である。
「いつも笑顔ばっか貼り付けて気持ち悪い奴って文句言ってたんだ」
「あと、媚びばっか売ってる奴ともな」
めちゃめちゃ貶されてた!!まぁ、でも。
「ふふ、そっか」
「あ?何笑ってんだよお前」
「貶されてんのわかってねェのか?」
「わかってるよ」
わかっている。先程の言葉はどう聞いても、どう考えても誉め言葉ではない。
「でも、エースくんわたしに無関心なのかなって思ってたから。こうやってお友達にわたしの話をしてくれてるってことは、少なくとも関心は持ってくれてるんだなって、ちょっと嬉しいなって思ったの。それだけだよ」
そう言えば、二人は一瞬きょとんとした表情になった。しかしすぐにエースくんは怒りの表情に変わり、シルクハットの男の子は珍獣でも見るかのような表情に変わる。
「はァ!?お前なんか1ッミリも興味ねェんだよ!!ふざけんな!!」
「…なんか、すっげェ前向きな奴だなコイツ」
前向きなのは前世からの取り柄だ。
好かれていないのはわかっていたが、関心があるとなれば仲良くなれる見込みは十分ある。これからも頑張ろう、と心の中で意気込む。
「というかお前!!なんでここまで来れたんだよ、人の通るような道通ってねェぞおれは!!」
「わたしも普段人の通るような道は通ってないから…あ、ごめんね着いて来ちゃって」
「うるせェ!!お前いつもはそんなに干渉して来なかっただろ!!なんで今日に限って着いて来てやがんだ!!」
「そ、それに関しても…ごめんね。普段外で見かけることなかったから、たまたま見かけて興味が湧いて…」
わたしの言葉を聞いてシルクハットくんが、
「だからお前もここに住めってのに。毎日の往復山道修行が仇になったな」
と言った。修行だったんだ。まァ…この世界ではそのくらいしないと生きていけなさそうだもんな。というか、シルクハットくんはこの辺りに住んでいるのか。恰好からしていいところの子だと思ったのだけど…さては訳アリか。触れないでおこう。
「どうする?」
「秘密を知られた。放っといたら人に喋るぞコイツ」
おおっと、何やら不穏な気配を察知。わたし何されるんだろう。
「殺そう」
「よし、そうしよう」
えっ、わたし殺されるの?
前世よりも圧倒的に早すぎる死でビックリだよ。享年7歳なの?まぁでも…わたしにはこの縄から抜けられる程の力と技術はないので現状を受け入れるしかない。
そう言えばこの二人の声…前世で聞き覚えあるなぁ…エースくんは…誰だっけ。あ、そうだ、銀○のツッコミしてる眼鏡くんだ。シルクハットくんの方はすぐわかった。ナ○トだ。あとキュア○ージュ。ああ今考えたらシャンクスさんの声シ○アだったなぁ…
「…出来るだけサクッとやってくれると助かるなぁ…」
「なんでお前受け入れてんだよ!!死を!!」
「おいサボ、さっさとやれ!!」
「何言ってんだ、お前がやれよ!!」
「おれは人なんか殺したことねェよ!!」
「おれだってねェよ!!やり方分かんねェ!!」
あっ、これこの子たちわたしのこと殺せないパターンだ。…いやでもそう思って油断してたらサクッとやられちゃうかな?そもそもわたしを殺したらそのあとのエースくんの身が心配なんだけど。おじいちゃん黙ってないだろうからね…
そう言えばシルクハットくんはサボくんって言うんだね。
「どっちでもいいけど、やるの?やらないの?」
「だからなんでお前はそう冷静に現状受け入れてんだッ!!暢気か!!」
いいえ、現実逃避です。
──森の中から声が聞こえたぞ!
──子供の声だ!
そうこうしていると、どこかから大人の声が聞こえた。
「しまった…誰か来るぞ!」
「とりあえずコイツの縄を解け!ここから離れないと宝が見つかっちまう!」
どうやら一時的に解放されるらしい。この場をやり過ごしたあとのことはどうなるか分からないけど。
解放されたわたしは、エースくんたちと共に身を隠して草陰から向こうの様子を確かめる。先程のゴミ山の方面から、何やら見るからに堅気ではなさそうな人たちが歩いてくるのが見える。
「ここらじゃ有名なガキだ…エースとサボ。お前らから金を奪ったのは、そのエースで間違いねェんだな」
「はい…情けねェ話です。油断しました」
えっ、二人共そんなに有名人なの。一体何したの…いや、もうこの状況からお察しではあるけれども。
「呆れたガキだぜ。うちの海賊団の金に手ェつけるとは」
いや全くだよ!!どう見ても穏便に済ませてくれそうな感じの海賊団じゃない。とんでもないことしたなぁエースくん…子どもの無鉄砲さって怖いよ…
「これがブルージャム船長の耳に入ったら、おれもおめェらも命はねェぞ」
仲間すら命の危険がある海賊団…恐ろしすぎる。いや、これが前世で一般的な海賊に近いのだけど。シャンクスさんたちで慣れてしまったからなぁ。慣れって怖い。
「しまった…あのチンピラ、ブルージャムんとこの運び屋だったのか」
「チンピラって…さっきの金、アイツらから?」
「やべェ金に手ェ出しちまった」
流石のエースくんもこれはヤバいと思っているらしい。他人から物を奪うというのは、それ相応の恐ろしさと言うものがある。正規のルートで手に入れたお金を貯蓄していく方が、当たり前ではあるが安全である。あとわたしとしては他人から物を奪うのは普通に無理である。精神は日本人なので。
「本物の刀持ってんぞ…手下のポルシェーミだ。アイツ、イカれてんだ。知ってるか?戦って負けた奴は生きたまま頭の皮を剝がされるんだ」
いや怖すぎる…どこのミ○サ・アッ○ーマン…??
あ、そう言えばわたしこの二人に殺されかけたよね。別に殺そうとしたこと自体はいいんだけど、このままこの二人と一緒にいるとまたさっきみたいになりそうだし、一時撤退しようかな。そう思ってこっそり、バレないように少しずつ移動する。
よし、いいぞ、このまま…
「あ?何だこのガキ」
「…あ」
嘘でしょう!?どうしてこの人たちに見つかるの!?
「え、えっと…どうもこんにちは…?」
とりあえず挨拶しておく。挨拶は大事だ。
「嬢ちゃん。ちょいと訊くが、エースというガキを知らねェか?」
「知らない。その子、誰?」
「そうか、知らねェか」
「うん、知らない」
頼む、上手く誤魔化されてくれよ…そう思ったが、現実はそんなに甘くないようだ。
「さっきおれたちが聞いた声は男のガキの声だった。嬢ちゃん。嘘はいけねェな。少なくともさっきまでお前は、エースかサボか…どちらかと一緒にいたんだろう?」
「…仮に一緒にいたとして、それがエースくんかどうかなんてわたしは知らない」
「まァいい。そのエースの奴がおれたちの金を奪って逃げたってんだよ。どこにあるか知らねェよな?」
知らないと言っているのに、しつこい人たちだ。
「知らない。しつこい人は嫌われるよ、お兄さんたち」
他人を売るなんて真似わたしには出来ない。だから早くわたしを降ろして、立ち去ってくれ。
「…貴様、知っているな?」
「知らないって言ってるじゃん、どうしてそんなに拘るの?」
「よ~しよし、知らねェなら仕方ねェ。思い出させてやるから安心しろ」
知らないって言ってるのに!!わたし嘘下手なのかな??基本嘘は吐きたくないし得意じゃないけど、そこまで下手ってわけでもないと思ってたんだけど!!
あれやこれや考えているうちに、わたしはポルシェーミによって連れ去られたのであった。
…わたし、連れ去られ過ぎじゃないかな??
ルフィは勝手に動いて勝手に捕まりそうだけど、成り主はバカではないので難しい…ロシナンテ程ではないけどドジっ子属性あるこの子。