あれだけ知らないと言ったのにわたしを連れ去ったポルシェーミは、ゴミ山の中にあった小屋の中にわたしを連れ込み、柱に縛り付けていた。こうやって括り付けられるのは本日2度目である。
「わたし、知らないって言った。それなのにそんなわたしを連れて来てどうなるって言うの?」
「…クソガキ!!」
わたしの言葉が癪に障ったのか、ポルシェーミは自身の身の丈程ある大きな木槌でわたしに殴りかかる。あの、それで死なないとお思いで?いや、確かにわたしには効かないけれども、普通の子どもだったらまずぺしゃんこである。わたしは自分が能力者であると言っていないので、普通の子どもという認識でこの暴挙だ。それじゃあ聞き出したいことも聞き出せないではないか。すぐにカッとなるのはよくないよくない。
ぽよん、と木槌が弾き返されれば、その場にいたポルシェーミの子分らしき人たちは狼狽えていた。
「うるせェ!!」
ポルシェーミがそう叫べば、たちまち子分たちは大人しくなる。
「お前…悪魔の実の能力者か。フッ…これは本物だな。グローブ持って来い」
「あっ…は、はい!」
ポルシェーミに言われ、彼らが持って来たのは、棘の着いたグローブ。嘘でしょう、それで殴るつもり?流石のわたしもそれは無傷ではいられない。打撃には強いけれど、斬撃などには弱いのだ。普通に怪我をする。
わたしは、恐らく殴りやすくするために縄で空中に吊り下げられた。
「いいかクソガキ。エースが盗んだのは、うちの海賊団の大切な金だ。お前はその在り処を知っている。だから教えてくれ」
「知らないって言ってる。知らないものは言えない」
わたしがそう答えると、ポルシェーミはそのグローブを着けた手で容赦なくわたしを殴りつけて来た。
正直痛い。これまで味わったどんな痛みより痛い。
だけどここでわたしが口を割れば、間違いなくあの二人に危害が及ぶだろう。それだけは避けなければならない。未来ある子どもたちの為を思えば、わたしは自分の命なんて惜しくないのだ。わたしも今はその未来ある子どものうちの一人ではあるけど…精神は成人済み女性なので。シャンクスさんとの約束が果たせなくなるのは…正直申し訳ないけど。だからといって彼がわたしを蔑んだりするとは思わないから、いいのだ。
「海賊を怒らせるモンじゃねェ。うちのブルージャム船長はそりゃァ人でなしなんだ」
「…あなたも、十分人でなしだよ…」
口答えすれば、再び殴られた。
その後もわたしはずっと口を割らず、殴られ続けた。殴られ、殴られ続け、いつの間にか日が暮れ始めている。
長時間殴られ続けた所為で、出血が酷く、気が遠くなりそうだった。寧ろ子どもの身体なのにここまで持つなんて、流石あのおじいちゃんの血を引いているだけあって頑丈に出来ているらしい。しかし疲れているのはわたしだけではない。長時間殴り続けるポルシェーミの方も体力を消耗している。勿論、わたしなんかよりは全然だが。
「いい加減に吐きやがれ!!」
「ポルシェーミさん!!もう無駄ですよ!!ソイツ、叫ぶ気力も失ってます。多分もう何も喋らねェし…正直惨くて見てられねェ!!勘弁してやりやしょうよ!!」
こういう人たちの中にも、そういう気持ちがあるんだな…と意識を失いかけている頭でぼんやりとそう思う。そしてそれを言った人は、ポルシェーミによって容赦なく殴り飛ばされていた。
「ガキを庇う暇があったらエースとサボを探して来い!!命が危ねェのはおれたちなんだよ、分からねェのか!!もうとっくに、ブルージャム船長に金を渡す時間は過ぎてんだよォ!!」
そう叫んで、再びわたしを殴り始めた。正直殴られ過ぎた所為でもう痛いのかどうかさえも分からなくなってきている。
「答えろ!!」
「し…らない…」
「クソガキが!!一丁前に秘密を守ろうとすんじゃねェよ!!ハァ…ハァ…言えーーーッ!!!」
「しらない…って…いってる、でしょ…」
「……」
どのくらいぶりかの静寂が訪れる。
「…じゃあ、もういい」
そして、刀を引き摺る音が聞こえた。
ああ、今度こそ本当に殺されるんだなぁと考える。
「死ねよ」
まだまだ見たいものがたくさんあったのに。
シャンクスさんとの約束もあったのに。
今世は随分と短かったなぁ。
そう思った時、何か大きな音が響いた。
小屋の壁が壊される音だ。
「やめろーーッ!!」
そう叫びながら現れたのは、エースくんとサボくんだ。どうして二人がこんなところに…?ぼんやりとした頭ではこれ以上何も考えられない。
二人が大勢の大人と闘う音が聞こえる。
凄いな…自分の倍以上はありそうな大人と闘えるなんて。わたし、人間とは闘ったことないからなぁ。そう思っていたら、誰かから持ち上げられる感触がした。見れば、サボくんがわたしを抱えている。
「逃げるぞ、エース!」
「先に行け」
「バカ、お前!!早くしろ!」
「一度向き合ったら…おれは逃げない!」
「何!?このクソガキが!!」
「やめろ!!町の不良とは訳が違うぞ!!」
サボくんはわたしを連れて逃げようとするが、どうやらエースくんは逃げる気がないらしい。随分と無茶なことをする…そうは思うけれど、何故かエースくんなら大丈夫だという安心感もあった。なんだろうな、シャンクスさんにも感じたことのある安心感だ。サボくんも、逃げないエースくんを見て共に闘うことにしたらしい。わたしを置いて、ポルシェーミに立ち向かった。
二人共、まだまだ子どもだ。
身体はわたしの方が子どもだけど、精神的には私の方が一回りくらい上だ。
それでも。
エースくんもサボくんも、とてもかっこいいと思った。間違いなくかっこいい。将来有望だな…なんて、ウタちゃんにも抱いた気持ちで、彼らを見守る。
結果、彼らの勝利に終わった。
此度のわたしの生はここで終わりかと諦めていたけれど、二人が助けに来てくれてよかった。最初は二人ともわたしのこと殺そうとしてたし、わたしもそれを避けたくてその場から去ろうとしたのだけど…その所為で二人を危ない目に遭わせてしまって申し訳ない。こうやって助けてくれて、怪我の手当てをしてくれるところを見ると、やはりこの二人はわたしを殺すなんて無理だったんじゃないかな、と思う。根は悪い子たちではないのだろう。いや、盗みを働いている時点で
「エースくん…サボくん…助けてくれてありがとう…わたしのせいで危険な目に遭わせてごめんね…」
わたしがそう言って謝れば、
「なんで謝んだよ。おれたちがアイツらから盗んだからこうなったのであって、お前の所せいではないだろ。意味分かんねー」
とエースくんが、本気で訳が分からない、と言ったような顔をして言った。
「わたしが捕まらなければ、あのまま去って行ってくれたかも知れない。わたしは自分の身を守るために二人から離れようとした。それが結果的に二人を危険に晒してしまったから」
「…大体お前、何で口を割らなかったんだ!アイツらは女でも子どもでも平気で殺す奴らだ!」
「わたしが我慢すれば、エースくんとサボくんは少しでも安全な場所へ逃げられると思ったから。それにわたしは、誰かを犠牲にしてまで生きるくらいだったら、死ぬ方がいい」
「は?何言ってんだお前」
「それにわたし、エースくんと友達になりたかったんだ。死んじゃ元も子もないけどさ…友達になりたい相手を売るなんて、それこそ一生友達になれないでしょ?」
「なれなくても死ぬよりいいだろ。何でそんなにダチになりてェんだよ、おれと」
「うーん。特に深い理由はないけど…というか、友達になるのに理由がいるの?損得なんて関係なしにさ、なりたい!って思ったからなるものじゃないの?」
「…変な奴。お前、親は?」
「親?うーん、聞いたことないから、生きてるか死んでるかもわかんないかな。唯一知ってる肉親はおじいちゃんだけ」
「おれがいないと困るのか?」
「エースくんはエースくんしかいないもん。いてくれなきゃ困るよ」
「…お前はおれに、生きてて欲しいのか?」
「? 変なこと訊くんだね、エースくん。当たり前でしょ?」
凡そ子どもが訊くようなことではない。彼にも色々あるのだろう、きっと。
「…そうか」
「うんうん、そうだよ」
訊きたいことはあるけれど、それはわたしから尋ねるべきことではないだろう。いつか、エースくんが自分から話してくれるのを待とう。…一生話してくれないかも知れないけれど、それはそれでいい。エースくんと仲良くなれることが重要なのだ。
「ふふ、二人とも凄くかっこよかったよ。今日は本当にありがとう!」
エースくんはまだ駄目そうな気がするので、サボくんの方にお礼のハグを贈る。サボくんは最初会った時の若干の刺々しさのようなものがなくなっているし、見た感じ貴族の出身っぽい感じだから、元々そこまで女の子に乱暴するようなタイプでもなさそうだ。戸惑いはするかも知れないけど、乱暴に引き剝がすなんてことはしないだろうなと思ったので、サボくんの方にさせてもらった。
「えっ!?おっ、…えっ…!?な、なんッ…!?」
あれ、思ったよりもずっと初心な反応。
顔を真っ赤にしてあわあわと戸惑うサボくん。そして見ているエースくんも驚愕のあまり硬直している。
「お礼のハグ!」
「な、何でおれ!?」
「エースくんは嫌がって引き剥がすかなって。それにわたし、サボくんとも友達になりたいから。親愛の証って思って!」
にっこりと笑いかければ、更に顔を赤くした。意外と女の子慣れしてないのかな。ごめんごめん、と言いながらわたしはサボくんから離れる。
「…と、ところでよォ。おれにひとつ問題が出来た」
「問題?」
「今回を限りにおれたち三人、完全にブルージャムたちに命を狙われることになりそうだろ?」
「まぁ、そうだな」
「今までおれが住んでたこの森はアイツらのアジト、"海賊の入り江"にも近い。例えば、疲れ果てて寝入ったところを襲われちまったら、おれはどうなる?」
「…死ぬな」
「…うん、それは…絶対に死んじゃうね」
「…だろ?そこで相談だ。お前ら、耳貸せ」
サボくんにそう言われ、わたしたちは彼の言葉に耳を傾けた。
そこで提案されたのは…
にっこにこ邪気のない笑顔の女の子に抱き着かれたらそりゃあ戸惑うしかない。