シャンクスさんたちは現在、このフーシャ村を拠点に航海している。だけどそれも一時的なものだ。いつかはここも離れることになるのだろう。そう思うと、ウタちゃんがいなくなってしまったのも相まって寂しさを感じる。だが、それが彼らの生きる道なのだ。そうも言っていられない。それにシャンクスさんたちには自由であって欲しいし、「行かないで」なんて縛るようなことは言わない。
シャンクスさんたちはいつも、土産話をくれる。この島は疎か、村を出たことすらないわたしにとっては新鮮な話がたくさん聞けてとても楽しい。彼らは話すのが上手いので、より楽しく、面白く聞こえるのだ。わたしには出来ない芸当である。本当に彼らは凄い。
彼らはたまに、手に入れた財宝の一部を見せてくれることがある。正直宝の値打ちとかはあまり興味がないのだけど、前の世界で実際に見たことのないものがたくさんあるのでそれがなんかこう、凄いのだ。語彙力の乏しさが恨めしい。そして今回も手に入れたのであろう、小さな箱らしきものがカウンターの方にポツンと置いてある。宝をこんなところに不用意に置いてていいのかな?と思い彼らの方を見れば、楽しそうにどんちゃん騒ぎしている。…いいのだろうか、本当に。
わたしは再び目線を箱の方へ戻す。
その時、ふと頭に浮かんだのは、「この箱を開けたい」という思考だった。他人のものを勝手に漁って中身を見る、というのは、前世の記憶のあるわたしからしたらとても後ろめたく、あまりやりたいことではなかった。それなのに身体はわたしの意思を無視するように…いや、まるで身体だけわたしとは別の意思を持っているかのように動く。気が付けばわたしはその箱を開けて中身を手に取っていた。ぐるぐると渦を巻いた、果物…だろうか。不思議な果物だ。そしてそれを、吸い寄せられるように齧る。
…何これ、食べたことない味だ。
簡潔に言うと、非常に不味い。本当に不味い。何とも筆舌に尽くし難い食感に味。これは酷い。そして何故わたしはこれを勝手に食べているのだろう。色んな意味で不味い。
わたしがぐるぐると思考を巡らせていると、突然入り口から大きな音が聞こえて、先程まであんなに騒がしかった店内が一瞬で静まり返った。何事かと音のした方を向けば、何やら人相の悪い人たちがいた。いや、人は見た目ではないけれど、でも、入り口を破壊している時点でいい人たちではないことは確かである。
「邪魔するぜェ。ほほう…これが海賊って輩かい。初めて見たぜ。間抜けた面してやがる」
開口一番にこんな失礼なことを言い出す人は、絶対に碌な人間ではないのだ。わたしはちゃんと知っている。
「……いらっしゃいませ」
マキノちゃんは眉をひそめながらもしっかりと接客対応している。こういう人が大人だと思う。
「おれたちは山賊だ。が、別に店を荒らしに来たわけじゃねェ。酒を売ってくれ、樽で10個程」
荒らしに来たのでないのなら、まず入り口を破壊するのはやめた方がいいとわたしは思いますが皆さんどう思われますでしょうか。
「ごめんなさい。お酒は今丁度切らしてるんです」
「んん?おかしな話だな。海賊共が何か飲んでいる様だが、ありゃ水か?」
どう考えても今出ている分で最後だからもうないと言っているに決まっている、この人はそれがわかっているのだろうか、それとも本気でわかっていないのだろうか。
「ですから今出ているお酒で全部なので…」
マキノちゃんが困ったようにそう言えば、シャンクスさんが、
「これは悪いことをしたなァ。おれたちが店の酒、飲み尽くしちまったみたいで。すまん」
と言った。シャンクスさんも中々大人の対応だ。
「これでよかったらやるよ。まだ栓も開けてない」
そう言ってシャンクスさんは山賊に酒の入った瓶を差し出した。しかし山賊はそれを受け取らず、あろうことか中身をシャンクスさんに中身をぶちまけたのである。お酒が欲しいのに欲しいお酒を無駄にして何がしたいんだろうこの人。
「おい貴様、このおれを誰だと思ってる。瓶1本じゃ寝酒にもなりゃしねェ」
「あーあー、床がびしょびしょだ」
山賊の怒りなど他所に、シャンクスさんは濡れた床を気にしていた。
「見ろ。おれの首には800万ベリーがかかってる。第一級のお尋ね者ってわけだ。56人殺したのさ。てめェのような生意気な奴をな」
そう言って彼がちらつかせている紙には、彼の顔写真と共に800万ベリーの懸賞額が記載されている。しかしシャンクスさんはそんなことなど気にも留めず、割れた破片を拾い上げ、
「悪かったなァ、マキノさん。雑巾あるか?」
と言っている。何だろう、強者の強みを感じる。
「あ…いえ、私がやりますから」
マキノちゃんが雑巾を持って来ようとした時、山賊は腰の鞘から剣を抜いてカウンターを切り裂いた。
シャンクスさんたちは銃や剣を帯刀してはいたが、こんな風にわたしたちの目の前で振るったことは一度もない。だから、目の前で本当に抜刀して剣を振るう山賊を見て、日本と言う平和な島国で過ごしていたわたしは少し恐怖を覚えた。
カウンターにあった皿は割れ、水が滴り、めちゃくちゃだ。
「掃除が好きらしいな。これくらいの方がやりがいがあるだろう…!」
そして何も言わないシャンクスさんに興冷めしたのか、
「酒がねェんじゃ話にならねェ。じゃあな、腰抜け共」
と吐き捨て、彼らは店を去って云った。
暫くシーンと静まり返っていた店内だったが、「船長さん、怪我は…!?」「ああ、大丈夫。問題ない」というマキノちゃんとシャンクスさんのやり取りから、やがて彼らが大笑いする声が響き始める。
「だーっはっはっは!!派手にやられたなァ、お頭!!」
「なんてザマだ!!」
そう言って彼らは豪快に笑う。
やっぱり彼らは凄い人たちである。
「シャンクスさん、大丈夫だった?」
大笑いしているシャンクスさんにわたしは声をかける。
「おールフィ。おれは大丈夫だ。お前こそ、大丈夫か?怖い思いしたろ」
「大丈夫、怖くなかった…って言ったら嘘になるかなぁ。ああいう風に抜刀するところ初めて見たからちょっと怖かった」
「素直な奴だなァ。破片とかは飛んでねェか?」
「大丈夫」
「そうかそうか、お前に怪我がなくてよかったよ」
「シャンクスさんこそ、大事なくてよかった」
「ったくお前は~。変に大人ぶるんじゃねェ、よ!」
「ふにゃっ!?」
突然シャンクスさんに頬を摘ままれて、みょ~んと伸ばされる。でも不思議と痛くはなかった。何だか、どこまでも伸びるような…
伸びる、ような…?
「……ちょっと待て」
「んんっ、にゃに?」
「流石にここまで伸びるのはおかしいだろ!!おいルフィ、お前まさか…」
「?」
わたしの頬を引っ張ていたシャンクスさんの顔が段々焦りの色に染まっていく。
「ああーーッ!!無いッ!!」
シャンクスさんの叫び声に、皆が
「何ィ!!?」
と一斉に叫ぶ。
「敵船から奪ったゴムゴムの実が……!!ルフィ、お前まさかこんな実食ったんじゃ……!!」
そう言って見せられた絵は、確かにわたしが先程食べた不思議な実で。
「う、うん…なんか…いけないってわかってたんだけど…身体が勝手に…動いちゃ、って…その…」
やはり他人のものを勝手に食べるのは不味かったよな…いやでも、あれはわたしの意思ではない…気がする。
「ゴムゴムの実はな!!悪魔の実とも呼ばれる海の秘宝なんだ!!」
悪魔の実って…ウタちゃんも食べたっていう、あの悪魔の実??わたし、やっぱり悪いことしたな…いや、そうじゃなくても盗み食いはよくない。
「食えば全身ゴム人間!!!そして
………何ですと??それは初耳なんですが。
身体が本能的に悪魔の実を食べてしまう、というのが一番無難だと思ったけどどうなんだろうか…