山賊の頭領によって連れ出されたわたしは今現在、海の上にいた。
そう、海の上である。
「はっはっはっはっは!!まんまと逃げてやったぜ!!まさか山賊が海へ逃げたとは思うまい!!」
本当にこの人、なんてことしてくれたんだ。ゴムゴムの実を食べる前のわたしならそれなりに泳げたし、別に問題はなかった。しかし今はカナヅチなのである。目の前にいるこの人は、悪魔の実のことは恐らく知らないのだろう。だが知られたら最後、海に放り出されるのは間違いない。
「ねぇ、離してよ。どうせここにわたしの逃げ場なんてないでしょ」
「チッ…最初から最後まで取り乱しもしねェ、かわいげのねェガキだぜ。まァいい。お前はどうせ今から死ぬんだ。何せこのおれを怒らせたんだからなァ!!あばよ!!」
そう言って山賊の頭領はわたしを海へと放り投げた。
まさかこんなすぐに放り出されるとは思わなかった。
悪魔の実を食べてから海に入るのは初めてだ。本当に力が入らない。それどころかどんどん抜けていく。
そんなわたしを見て高笑いしていた山賊の頭領の背後に、何やら大きな生き物が現れた。前世には存在しなかった生物。確かこの世界で本を読んだときに書いてあった、あれは確か…海王類と呼ばれる海の生物ではなかったか。その生き物はあっという間に頭領を丸のみしてしまった。彼よりも体の小さいわたしなんて、もっと簡単に丸のみされてしまうだろう。溺れ死ぬのは嫌だが、食われて死ぬのはもっと嫌だ。でも、どうにもならない。泳ぐことの出来なくなった身体では逃げることすらままならない。ああ、これも運命か…
そう思った時、わたしの身体を引き寄せる何かがいた。それは…
「シャンクスくん…?」
シャンクスくんだった。シャンクスくんは片手でわたしを引き寄せると、再びこちらへ向かって来ようとした海王類に睨みを効かせる。
「失せろ」
それはまるで身体の内側から、
ああ、それよりも…
「シャンクス、くん…そ、れ…その、腕…!」
そう口にしたわたしの声は震えていた。だってそうだ。
わたしを引き寄せるシャンクスくんには、わたしが連れ去られる前まではちゃんとあったはずの立派な左腕が失くなっていたのだから。
きっと、さっきわたしを海王類から助けた時に食い千切られてしまったのだ。
「安いもんだ、腕の1本くらい。無事でよかった」
この人は本当にいい人だ。わたしが山賊を睨んだりさえしなければこうはならなかったのに。
わたしは声を押し殺して泣いた。前世の記憶を思い出してからこんなに泣いたのは初めてじゃないだろうか。
泣いている顔が見えないようにシャンクスくんの胸に顔を埋めてしゃくりあげるわたしの頭を、彼はそっと撫でてくれた。
*
*
*
「もう、行っちゃうんだね」
ついにシャンクスくんがこのフーシャ村を去る日がやって来た。
わたしも、村の人たちも、彼らを見送るために皆港へ集まっている。
「ああ。長い拠点だったが、とうとうお別れだ。寂しいだろ」
「うん、寂しいよ。でも、それがシャンクスくんたちの生きる道でしょ。だからわたし、邪魔はしたくない」
「ははは!こういう時まで大人ぶって、本当にお前は!」
「うにゅ、ひゃんくひゅひゅんひっはふほひゃへへ~!」
「ははッ!!何言ってんのかわかんねー!」
それはそうだろう、シャンクスくんがほっぺた引っ張ってるんだから。
それはそれとして、わたしには決めたことがあった。どうしてもそれを、彼らに伝えたい。
「ねぇシャンクスくん、わたし、夢が出来たの」
「ほう、夢か」
「そう、夢」
シャンクスくんたちは本当に生き生きしている。わたしはそんな彼らを見て、わたしもそんな風になりたいと思った。彼らはきっと、この世界の色んなものを見てきた。ならば、わたしもこの世界の色んなものを見たい。この世界にはわからないものだらけだ。わたしは純粋に、それらに興味がある。だから。
「わたし…海賊になる」
「へぇ、ルフィが海賊か!意外だな!」
「シャンクスくんたちはいつも楽しそうで生き生きしてた。だからわたしも、そうなりたいなって。それだけじゃないよ。わたし、この世界の色んなものを見てみたいから。それを、シャンクスくんの仲間みたいな、楽しくて優しい仲間と一緒に見られたら、そんなに楽しいことはないだろうなって思ったの。だからわたし、海賊になる。シャンクスくんたちにも負けないような…シャンクスくんたち以上の凄い海賊になるよ、わたし」
シャンクスくんたちとはまた違う、わたしなりの海賊に、だけど。
「ほう…おれたちを超えるか」
シャンクスくんはわたしの言葉を聞いて目を見開く。そして、その頭を飾るトレードマークの麦わら帽子を手に取ると、
「じゃあ、この帽子をお前に預ける」
と言った。
「おれの大切な帽子だ。大事にしろよ」
「え…いいの?これ…」
「ああ。お前が持っててくれ。いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな。約束だぞ、ルフィ」
「…うん、わかった。いつか、必ず返す。わたし、立派な海賊になるよ」
わたしはそう言って彼からもらった麦わら帽子を、その胸にぎゅっと握りしめた。
シャンクスくん。わたし、この帽子、死んでも失くさないよ。
いつか、また、あなたに会う日まで。
次はコルボ山・盃兄妹編だ…
ちなみに主人公はそれなり泳げる、と自分では言っておりますが、前世では運動神経抜群だったので大分得意だったという設定があります。