12年前。
ウタは、赤髪海賊団の仲間と共に、音楽の国エレジアを訪れた。煉瓦造りの建物が並ぶ美しい国は、当時、王のゴードンによって治められていた。
ウタはゴードンに謁見し、島の人々に見守れながら、歌声を披露した。こんなに大勢の人の前で歌うのは初めてだったけど、緊張しなかった。近くでシャンクス達が見守っていてくれたからだ。大切な家族のそばで、ウタはいつもの通り、自然に、歌声を紡ぐ事が出来た。
ゴードン「素晴らしい!君の歌声はまさに世界の宝だ!ここには音楽の専門家たちや、楽器、楽譜が集まっている!是非このエレジアに留まってほしい!国を挙げて歓迎する!」
エレジアは、音楽を愛する人々の国だ。そのエレジアの王であるゴードンから絶賛され、ウタは誇らしかった。でも、いくら乞われても、この国に留まることはできない。
ウタにその気がないと知り、ゴードンはとても残念そうだったが、それでもウタの意志を尊重して、せめて少しでもウタがこの国のことを知れるようにとあちこち案内してくれた。
古い楽譜が保存された資料室、大きなパイプオルガンが備え付けられた礼拝堂。音楽学校では多くの学生が、各々の楽器を練習している。エレジアは、音楽を愛する人々で溢れていた。
その夜。
ウタは城のテラスに出て涼んでいた。背伸びして手すりから身を乗り出し、月明かりにぼんやりと照らされたエレジアの街並みに目を細める。この国は、今まで訪れた国の中で1番居心地が良かった。音楽を愛する人々と、その歴史。昼間に歌声を披露して浴びた、沢山の拍手が忘れられない。
でも、明日、赤髪海賊団はエレジアを発つ。そうなればこの街に戻ってくることは二度とないだろう。
シャンクス「ずいぶん楽しそうだったな。ここで歌っていた時」
声をかけられ、振り返るとシャンクスが立っていた。
ウタ「ん?うん・・・」
シャンクス「俺達の前で歌うより、大勢の人達に聞いてもらった方が、楽しかったりしないのか?」
ウタ「そんなことないって・・・・」
シャンクス「なあウタ。この世界に平和や平等なんてものは存在しない」
ウタは首をかしげシャンクスを見上げた。
シャンクス「だけど、お前の歌声だけは、世界中の全ての人達を幸せにすることが出来る」
ウタ「何言ってるの?」
シャンクス「いいんだぞ、ここに残っても。世界一の歌い手になったら、迎えに来てやる」
ウタ「バカ!私は赤髪海賊団の音楽家だよ!歌の勉強のためでも、シャンクスたちから離れるのは・・・」
ウタは思わず泣き叫びながらシャンクスに訴えかけた。
シャンクス「わかった。そうだよな。明日にはここを離れよう」
シャンクスは泣きじゃくるウタをそっと抱きしめてくれた。
その優しい感触にウタの悲しさはすぐに吹き飛んだ。だけどもう少し抱きしめていて欲しいと思ったウタは、もうちっとも悲しくないのに、しばらく泣いてるふりをしたのだった。
その夜のことだった・・・・・・
不穏な空気にウタが目を覚ますと、エレジアの綺麗な街並みが炎に包まれていた。夜の闇をチロチロなめるように、炎が上がっている。その中で一人、ゴードンさんが立ち尽くしていた。
ウタ「ゴードンさん?」
ゴードン「目を覚ましたのかい?」
ウタ「何が起きたの?シャンクスたちは!?」
ゴードンはグッと噛み締めてから答えた。
ゴードン「全て奪われた。みんな……みんな殺された!」
ウタ「シャンクスは!?」
ゴードン「あいつらは君の歌声を利用してこよエレジアに近づき、財宝を奪う計画だったんだ!」
ウタ「あいつらって?」
ゴードン「赤髪海賊団だ。君もずっと騙されていたんだ!赤髪海賊団とシャンクスに!」
海岸に向けてウタは駆け出していた。ゴードンの最後の言葉はほとんど聞いていない。ボロボロのエレジアの街並みを、転んでは立ち上がりながら、ウタは走った。膝から血が流れていたが、少しも痛くない。ウタは必死に港をめざした。
ウタ「シャンクス!置いて行かないで!」
海に飛び込もうとするウタを、追いついたゴードンが引き留めた。
ウタ「ああああああ!!!!」
レッドフォース号はどんどん遠ざかっていく。甲板に、赤髪海賊団の皆がいるのが見えた。
それぞれの手にグラスを持ち、積み上げた宝箱の上に座って乾杯している。
ウタ「・・・・なんで・・・・なんでだよ・・・・・シャンクス〜〜〜!!!」
ウタの声は、海軍の砲撃に掻き消された。レッドフォース号は海軍の追撃を避けながら、水平線の彼方へと消えていった。