黎明なるヴィランアカデミア 作:洛陽
「君がオールマイトのお気に入り、かい」
「い、いえ、そんなのじゃ……」
「知ってるとも。全てをね」
緑谷出久。彼がオールマイトの後継者であり、ヒーロー狂信者のイカレ野郎。一年という短い期間でオールマイトの指導の元で、身体を強化し"個性"に耐えうる身体を用意したという。しかしその実、100%の"個性"に耐えきれずに身体がぶっ壊れてしまうため、このギプスにより肉体を強化しようという試みのようだ。
「私は水核灰理」
「僕は」
「ヒーロー科1年A組の緑谷出久。ヒーローオタクの元無"個性"で今はオールマイトの後継者として彼の下で特訓中」
「えっ、何で知ってるんですか!?」
「オールマイトから聞いたよ。私はオールマイトの主治医でね。彼の"個性"、そして君の"個性"も全てをね」
ホログラムを起動し、投げつける。最初こそ驚いていたようだが、次第に慣れたのか興味深げに見つめている。
「それは今回、君に付けるギプスだ。名をテクターギア。肉体に満遍なく負荷を与えて筋力と基礎体力の向上を見込む。今そのホログラムで君の身体的数値を測定しているんだが、それを基準として着用してもらう」
設定を終えると同時にオールマイトが部屋へやってくる。それを横目にギプスの装着の為に運んでいく。
「私が!!支払いを終えて来た!!」
「オールマイト!」
「緑谷少年、水核少女から話は聞いたかい?」
「はい、全てを聞きました」
「それは良かった」
「オールマイト。君も手伝いたまえ。か弱い女子高生に一人で作業しろと言うのかい君は」
「あ、ああ、分かった。……これ、どうやって着けるの?」
「説明はする。私とて、そこまで非情じゃないが、毎度手伝える程暇じゃない。マニュアルは出来ているから後で渡そう。胴体から着けるよ」
胴体、腕、脚の順に着けて接続する。
「左腕にモニターがあるだろう。そこで使用者自身が負荷の調整が出来る。外部からはこの端末を使い給え。分かっているとは思うが、常識的な使い方をしたまえよ。ヒーロー独自の余りにも無茶な根性論は緑谷、君自身の身体と未来を潰しかねない。オールマイト、君は人に教授するのは苦手だろう。彼の言うことは鵜呑みにするなよ。限界は彼自身も分からないぞ、特にこういう生まれながらのヒーローは、な」
釘を差しておくが、どうせ最低一回は無茶をするだろう。
「私はここの保険医ほどじゃないが医療の心得をオールマイトで学んだ。何かあったら連絡してくれ。最善を尽くそう」
「……優しいんですね」
「説明責任と開発者故のアフターケアとサービスさ。羽振りの良いクライアントとは良好な関係を続けていきたいからね」
チラリ、とオールマイトを見てみればちょっとばかししかめっ面だ。仕方ないだろう。未認可の医療に特許技術の集合体と何より直接僕への依頼という手数料。君が然るべき手順を取るならそうはならないが、非合法に近い内々の手順なので手数料は高く付く。恨むなら自分を恨むといい。
「さぁ、まずは試運転だ。負荷は5%でいこう。これは大体、10kgの重りがついた程度の負荷だ」
緑谷の姿勢が少し下がった。そのまま歩かせて見ると、やや足取り重く、腕を振る動作は緩慢さが見えた。
「鍛えていても、四肢と胴体に10kgの荷重は辛いだろう。こうやって負荷をかけていくといい」
オールマイトに端末を投げ渡し、椅子に座る。
「これの製作と調整で二週間は掛かりっきりだった。私の作ったものだ。壊すなよ」
「もちろんだよ。さぁ、緑谷少年、試運転を続けよう」
「はい!」
暫くペットボトルの紅茶を啜りながら緑谷のデータを集積する。少なくとも常識的な数値しか出ていないが、"個性"の発動でどう変わるかは私には予測しかできない。せめて、彼の"個性"が複製出来れば話は変わるんだがな。
とはいえ、後継者のデータは貴重そのものだ。アイツに対する情報の優位にも立てる。まぁ、僕がソレをどうするかは未だ決めかねているが。あるに越したことはないからね。
「……飽きた。何か困った事や破損があれば教えてくれ。領収書付きで返してやろう」
「もっとこう……お手柔らかに……」
「悪いねオールマイト。私のワンオペなんだ。人件費は私の総取りなんでね」
そう捨て台詞を吐いてその場を後にする。その足で工房に向かうと、珍しくヒーロー科の教師がいた。
「来たか、水核」
「おや、こちらはそちらを存じ上げないのですが……ご教授頂けると通報しなくて済むのですが」
イレイザーヘッド。このヒーローには見えない容姿は色んな意味で目立つ。
「1年A組の担任をしている、相澤だ。お前に頼み事があって来た。今、時間は取れそうか?」
「構わないよ」
連れて行かれたのは校長室。はて、と少し心当たりが過ぎったがそれを知らないフリをする。
「やぁ、よく来たね」
「あー、これまでサボっていたのは悪いと思ってるよ」
「何の事だい?僕は君にお願いがあって呼んだんだよ」
「……それで、僕に何をしろと?」
根津校長から言い渡されたのは、今現在運用されている標的型ロボットの改良。僕が緑谷に作っていたギプスと特許技術ならば出来るだろうと踏んだらしい。
「あー、少なくとも予算と日程は僕ではなく企業を通してくれないか?ここは一応、国の施設だろう。これを」
僕の取得した特許による技術を全面に押し出したサポートアイテムの製造企業……とは言いつつも、こっちもほぼワンオペの場所だ。建前上の取締役などは身内で回しているが、作るのはほぼ僕の担当。まぁ、実際はホログラムで作った設計図をホワイトベースの拡大改良型のジャブローに突っ込んで出力を待つだけだ。今現在も少数ながら受注生産を行ってはいるが、如何せん十人十色の"個性"なので完全受注生産で一品物。高く付くのはご愛嬌ということになる。
「個人と国家運営の施設が金銭的、技術的やり取りをするのはきな臭いモノを探られる。痛くない腹を探られるのは御免被るよ。それに、キミ達も下手な疑いを掛けられたくはないだろう」
「うん、そうだね。お気遣いどうも」
「制作は私の担当だから、仕様書はこちらで貰うよ」
「今の所はこういう感じでお願いしたいと思ってるよ」
軽く目を通して、ポケットからホログラムを取り出して起動する。それを校長の前に放り投げて形を取る。
「これが、今の標的」
「これが噂のホログラム……すごいね」
「君達の要望に合わせると、大体このような形に落ち着く」
どこ無く機械っぽく。しかし、何処か人の気配を感じるモノ。不気味の谷に片足を突っ込んだような、生理的嫌悪感が生まれるほどの力作。直線で構成された胴体、箱を繋ぎ合わせたような四肢、以前と変わらない単眼のメインカメラ。
「これが基本型になる。人を攻撃するときの嫌悪感と理性、引き出される攻撃性とこの標的の脆さ。基本的にはアルミ又はマグネシウム合金で構成されているが、ここに私独自のモノを加えている」
ホログラムの標的の腕が取れる。すると、そこから赤いペーストが吹き出る。標的は痛がるように取れた腕を抑えている。
「これは修復用のナノマシンペースト。これがあると無いとじゃ修理のしやすさが段違いなんだ。整備・修理方法はサポート科の方に卸しておくから、ご安心を。無論、パーツの補充は有償だけどね。割り引いておくよ」
「人体に近い耐久性に、人体のような構造、生きているとすら思える反応か」
「ヒーローの卵が、これを壊さずに捕縛できるようになれば一丁前だと思うんだがね。どうだい?」
「そうだね、予算の許す限りはそれで進めてみよう」
商談は成立し、後日正式に雄英高校からフロント企業へ申込みがあり、それに応える形でサポート科にホワイトベースを元に整備や修理を行える展開式の箱型移動式工房であるアーガマを3基も納入し、次いで入試にて損傷した標的が企業のジャブロースペースに運び込まれ、随時改造を施して返却されていく。
損傷した標的を改造して送り返す事から、月の生産量はまちまちで、量産数の変動と運ぶ手間に加えて現地改修型となる超大型標的もあることから、法外とも言える額での契約となっている。財務省が怒らないのかと心配だが、文科省が値切ってこない以上、こちらから譲歩してやる必要は無いと。
「その標的には細工でもしたのかな」
「しようと思ったが、アンタほど性格は悪くない。もとより、僕は邪魔をするのなら全て灰燼に帰するだけだ。無害なら何もしない」
「何れ後悔するとしても、かい?」
「この短い人生で僕が後悔したことは、6年前の夏に買った2Lのアイスを、少し食べたあとに冷蔵庫へ入れ忘れた事だけさ」
「それは何とも悲劇的な事で」
オール・フォー・ワン。このAFOという男、僕のフロント企業の動きを見て向こうから来やがった。目敏く、敏感で嫌にねちっこい。だから今回、こうして何か細工でもしてやろうかと来たのだろう。
「僕の仕事の邪魔をするな。また右腕を落とされたいのかい?いい歳こいた男の被虐趣味は見苦しいぞ」
「まさか。僕はただ見に来ただけさ。君の仕事ぶりをね」
「言い訳はそれだけかい?可憐なる乙女の着替えを覗いた訳だが」
それはそれとして、この男。何と私が制服から作業着に着替ええているタイミングでワープして来やがった。見られても何ら問題は無いが、交渉材料としては切れるモノが来たと思っている。何より、コイツにも多少の常識があったらしく、5分後に出直してきた。
「あれは事故だよ」
「事故で済むなら何とやら、だ」
「僕だって悪いと思ってるんだぜ?」
「僕は悪の帝王が女子高生の着替えを覗く変態だと流布出来るんだぞ」
「誰も信じないさ」
「リリスが録画しているのさ」
「……。」
視線が交差し、お互いに沈黙する。
「分かった、分かったよ。降参だ。僕の負けだよ」
「悪の帝王サマは話が早くて助かるよ」
両手を上げて大袈裟に肩を竦める。それをニヤリ、と返して強請る。今回の収穫は彼が僕を殴るために使用していた"個性"達。それを貰った。
「次はないぞ。命の保証も、君の拠点と博士の保証もね」
「着替えくらいで……」
「着替えくらい?君は着替えを覗いただけで毎年何人が有罪になっているのか知らないのか?それを君は"個性"を使ってやってのけた。悪の帝王が、だ。それは須く僕の優位性を確立する」
「ノーコメントだ。今回は手を引こう。あわよくば介入したいと思っていたが、こうも激しく抵抗されちゃどうしようもない」
「……それでいい。今回は示談だとも。お引取り願おうか」
「そうするよ」
こうして第二次ゴールデン・ドーンVSオール・フォー・ワンの戦争はOFAの敗戦という形で幕を閉じた。結果はどうあれ、今後の関係は未だに維持され、表面上は良好そのものであった。故に、この後にヒーロー・ヴィラン双方は大打撃を受けることとなる。