黎明なるヴィランアカデミア 作:洛陽
「ゼフィ!!」
ラボへ帰還した私を迎えたのは、半狂乱のゼロだった。ダメージレベルレッドゾーンのゼフィランサスを見て、大慌てで電脳のサルベージと修復を開始した。ゼロは暫くゼフィランサスにかかりきりだろうな。
サイサリスは盾を構えていたとはいえ、損傷を受けていた。それの修復もしなければならず、マグノリアのデータはゼフィランサスか本体からサルベージ出来るだろう。これは凄まじい時間が掛かるぞ。
予備を起こしてゼロと記憶を共有させて暫くの影武者とするか。それに、私も天蓋の仮面を修理しなければならない。やることは山積みだし、資材も足りるかどうか。まぁ、やらねばならいのだから、やるとしよう。
気が付くと、ゼフィの電脳のサルベージとバックアップが終わっており、マグノリアの身体に移されたゼフィを起動していた。
「ゼフィ、聞こえるかい?」
「はい、マスター」
「良かった……本当に……」
へたり込み、ゼフィを見上げる。
「その身体は窮屈だろう。2日あれば、君に新たな身体を用意してあげられる」
「ありがとうございます、マスター。体調は如何ですか」
「それは……」
近くにあった時計を確認すると、雄英の襲撃から36時間は経っていた。ほぼ不眠不休で動いていたせいか、倦怠感と空腹感が襲ってくる。
「私には君がいなければ駄目なんだ。オリジナルには文句を言っておくよ」
「マスター、それでは本来の役目を果たせないのでは?」
「ゼフィ、君は試作機だ。存在するだけで役目を果たしている。だから、だからそれでいい」
ゼフィはゼロである僕が試作機計画に乗っ取り初めて作った物だった。オリジナルからは、試作機に入れ込むなと言われていたが、ゼフィは、ゼフィだけは僕の特別なんだ。だから、だから……。
「目は覚めたかゼロ。今は君の影武者が表で動いている。ゼフィランサスを完成させたら、今度は体育祭があると言うらしい。それに備えておけ」
「分かったよオリジナル。待っててくれ、ゼフィ」
◆◇◆
「急でごめんね」
「構わないよ、八木さん」
実家、応接室。急遽訪問した八木さんに対応するべく僕が出ている。昨日の襲撃で休校になったはずでは?
「……まず、感謝を。ありがとう、水核少女」
オールマイトが、腰を90度に折ってのお辞儀をする。顔の包帯、どころか身体の至る所を包帯やガーゼが覆っている。
「急になんだい」
「先の襲撃事件、あれで私は……手術を受けていなければ恐らくは死んでいただろう」
「ヒーロー科の諸君、教師や後継者は?」
「皆、生きている。しかし、重傷者が多い。あのゴールデン・ドーンが去り際に放ったとされる一撃。移動中であった教師陣にも爆風と熱線が直撃し、壊滅状態へ追い込まれていた。USJの中にいた我々は、ドームの天井に着弾した攻撃の衝撃波で吹き飛んだ。どころか、着弾点の近くは凄まじい熱線によって火災も起きていた」
オリジナルも無茶をするなぁ。
「結果、USJの壊滅と雄英教師陣の戦力低下、生徒達の負傷を被り、相手方の損害は不明だが、取り逃がしたことに変わりはない」
「それで、お礼を言いに、と」
「そういうわけで、こちらを」
オールマイトグッズの茶菓子を渡される。最初に渡すべきでは?
「本当はもっと、色々とあったんだけど、私の出来る範囲であげられるものがこれぐらいしか無かったんだよ」
「まぁ、貰っておくよ。これまでの契約に関する振り込みは滞りなく行われている。個人的なお礼などこれで構わないさ」
茶を啜り、八木さんを見据える。
「怪我は治るのかい」
「お陰様でね」
「それは良かった。僕の医療技術を一部雄英に供与しよう。両親と会社には話を通しておくよ。それと、君の為にナノスーツを用意しよう。必要に迫られた時、展開できるようなヒーローコスチュームをね」
「……ありがとう、水核少女」
「構わないよ。僕は、僕の技術は広く普及するべきだと考えているからね。とはいえ、力添えはしてくれると助かるのだがね」「ああ、微力ながらに添えさせてもらうよ」
暫く、こうして他愛の無い会話を挟み、休校中に失礼したと八木さんは帰っていった。僕も帰るか。ゼロはまだゼフィの修理にてんてこ舞いだからな、暫くの影武者生活だ。
◆◇◆
「……以上が、死柄木 弔についてです。続いて、ゴールデン・ドーンについてですが……」
「一切不明、だろ?」
雄英高校の教師陣が会議室に集まっていた。その中には、塚内警部もいた。
「容姿は鎧を着込んでおり、辛うじて露出した左目もUSJの記録があの一撃で吹き飛んだ事で一切追えていません。現状、死柄木と並ぶ主犯の一人であり、女性だと言うことしか分かっていません」
「今回より前の襲撃ではどうだったんだ?」
「肘から発射する光線、手首付近から発射される黒い物体については恐らく"個性"ではなく、科学的に作られたものだと考えられます」
「だとすれば、私と戦った時にゴールデン・ドーンは飛んだんだ。あれは"個性"なのか?」
「浮遊か飛行系の"個性"?」
「……これに関して、少し報告があります。こちらを」
塚内警部が、新しく報告書や資料を配る。それは、近年の"個性"犯罪とその装備について現場の声や各ヒーロー達の報告書を纏めたものだった。
「つい、数年前から黎明卿を名乗る技術者による裏社会への技術供与が問題視されていました。何度かブローカーを逮捕して探りを入れたのですが、徹底的なまでに物的証拠を残さない神経質な奴で、インターネットを通じたやり取りは全くなし、暗号化された会話や裏路地の落書き、はたまた技術者側からの接触など、多岐に渡っています」
「……つまり?」
「黎明卿を名乗る裏社会の技術者、そしてゴールデン・ドーン。両者は繋がりがあるか、同一人物だと我々は推測しています」
「なるほど。私は同一人物だと思うよ。戦闘経験の少ない技術者が自らの科学力で武装している、と」
「恐らくはそうかと。実際の所、黎明卿の下ろす武器やアイテムで
「子ども大人に、顔のない戦う技術者か。厄介極まりないな」
会議が沈黙する。
「これで、両者は繋がりが生じた。恐らく、今後の活動も協力する事が予想されます。無邪気な悪意に惹かれた者に、科学力が提供される。そうすれば、前回の様な襲撃も規模が拡大する恐れがあります」
「厄介だな……」
「今後も捜査を続け、新情報があればまた報告します」
◆◇◆
ゼフィランサス・フルバーニアン。先の襲撃にてオールマイトとの戦闘で損傷した88%をほぼそのまま修理し、更に人間に近い形を保ったままに新たに肩部、胸部、足裏にバーニアを追加。ジェットの"個性"をゼフィに投入し、そのバーニアと接続。重量比出力は3.1倍と凄まじい機動力を備える他、バイタルパートに装甲を追加し、強化外骨格方式から天蓋へ換装し、防御力を向上させた。
それを2日で終わらせ、体育祭で使用するモノの準備に取り掛かる。オリジナルから技術供与を受けつつ、現時点で公表や特許取得済みの技術のみを使うことにしている。普段から使っている白衣に細工を施し、試験管に詰めたナノマシンを仕込んでいく。市販のブーツを購入し、ナノメタルコーティングとバーニアを組み込む。天蓋は流石に使えないので、強化外骨格を元にしたアイアンマンスーツ方式を採用。
武装は身体能力の強化と空中機動力を確保する為の背部小型飛行翼。シンプルだが、こういうので良い。何せ、僕の戦闘経験は皆無に等しいのだから。複雑なモノを使うより、単純なモノで戦ったほうがまだ勝率がある。
スーツは1号と命名し、ベルトから展開されるナノスーツとなった。ベルト形態をサイクロンと呼称する。こうして出来たのが僕の戦闘スーツの系譜、その第一号となるサイクロンだった。ある程度の吹聴と僕の技術力の流布の為にサイクロンは学校の工房にて生まれた。
こうして、僕は体育祭への準備を終えた。サポート科は既に、私か発目かという位にはトップ争いが成されていた。無論、私は負けるつもりは無いし、発目には無い実績がある。この狭い争い、僕の勝ちで終わらせてやる。
そう意気込んだのも束の間。僕はまたしても校長室へ呼ばれていた。
「警備強化のドローン……か。であれば、既製品の転用は如何かな。既に何件か採用の実績もある……何より、前回の提案は予算の都合で却下になったじゃないか」
「それは申し訳無いと思ってるよ。だから現行型の改良の契約はしたじゃないか」
「新興企業は一つの販売契約が社の存亡を担う重要な命綱になりうる。それは理解してくれてるのかな。ま、僕の技術は特許取得済みだから、広まる心配もないのだがね」
根津校長は困った様に笑いつつ、話を続ける。
「君も先日の襲撃は知っているだろう?だから、今回の体育祭は例年の5倍を目指したい」
「ここの卒業生を集めるのは?」
「それは無論だとも。既に連絡は行き届いている」
「なるほど……したらば、僕の技術だと宣伝してくれるのなら、という条件だ。ここの警備を担当したとあれば、ネームバリューはある程度の担保を見込める」
いや、待てよ。
「先程の条件を呑むのなら、有償だが格安にて提供しよう。それで手打ちだ。お互いの為だ」
「我々としては嬉しい限りだが、そちらはそれで良いのかい?」
「僕は、それなり以上の発言権がある。この交渉も録音済みだ。透明性と、この交渉の推移は分かりやすいだろう。それで、どうかな」
「それでお願いするよ。こちらも会議で通るように最大限の努力をするよ」
ここでドローンの契約が取れれば、雄英の地図を元に警備計画を作るという名目で、ここの施設の情報が手に入る。それをアイツや死柄木に流せば、それなりのお土産として使えるのでは?なら、行動だ。まず、両親へこの交渉の話を通しておく。これがあると無いとじゃ大違いだ。そこから、ドローンの生産をしている企業の代表取締役へこういう交渉があった事と、もしかしたらという事を伝えておく。事前準備は大事だからね。
「ゼロ、体育祭の準備は?」
「既に終えているよ。迷惑を掛けたね」
「構わんよ、慣れっこだ。ゼフィの修理と、マグノリアのサルベージを終えた。データは共有してある。必要なら確認してくれ」
「ゼフィのデータも共有しておくよ」
「ああ」
ゼロが復帰し、私はそのまま死柄木を訪れる。
「お加減如何かな、死柄木 弔」
「お前のせいでこっちは大変だったんだぞ!」
「そう怒るな。それのお詫びを兼ねてこうして手当をしているじゃないか」
「脳無も吹き飛ばしやがって……先生!こんな奴と組めってか!?」
しかし、返事は無かった。
「だから早めに戻った方がいいと言っただろう。全く……人の忠告も聞かないで文句を言うとは」
「黙れ!そもそも、お前があそこで撤退してなければ!」
「うるさい黙れ。私はね、ただの協力者だ。君達の仲間でも無ければ同好の士でも無い。覚えておけ」
死柄木と黒霧の手当を終え、そう吐き捨てて帰る。全く……私はお前らの児戯に付き合う暇はないんだぞ。だからこうして手当はしてやってるというのに。本来であればあの一撃で諸共粉砕しても良かったのだがな。
こうして、各陣営と各人は事後の処理に当たり、これからを歩むことになった。しかし、民衆に蔓延する不安と社会の緊張は確実に闇を増長させるには十分であった。世は安定期を迎えていた。そのはずだった、誰もがそう考えていた。だが、正に今この時に、濁り水は緩やかに動き始めていた。