黎明なるヴィランアカデミア   作:洛陽

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第十二話 本日天気晴天なれども

 つい昨日、持ち込みの個数に制限が無いことを知り、大急ぎでナノマシンの増量と新たなアイテムを製作してやや過剰戦力出この体育祭に挑むことになった。昨日は散々リリスに寝ろと催促されたので、仕方なく予備を起動して作ってもらったがどうだろうかな。

 

「今日は負けませんよ、水核さん」

「それはどうかな、発目」

 

 ヒーロー科入試一位の宣誓を聞き流し、まずは第一種目の障害物競走。これをサポート科一位で通る事は必成目標である。そう定めて僕はここにいる。スタートと同時に白衣を翻し、ブーツのバーニアによる加速と跳躍補助を駆使して進む。襲いかかってくる、僕の改良したロボット達の攻撃をナノマシンによる壁を作り出して防ぎ、前へ前へ進んでいく。しかし、そこはやはりヒーロー科。既に先頭との距離はかなり開いていた。

 

 なるほど、発目もそこそこ前へ進んでいるようだ。ここは一つ、僕の技術力を見せつけてやろう。あの超大型が相手なら幾らでも見せつけられる。

 

「さぁ、実証と征こうか!」

 

 ナノマシンに形状を送信、巨大な腕を作り出すと、僕の動きをトレースする。拳を握り、腕を引き絞りそのままぶん殴る。超大型は正面からの打撃でゆっくりと体勢を崩していく。

 

「この程度、造作もないさ」

 

 振り返ると、沈みゆく超大型の足下を走り抜けるやや見慣れた面々が。各々が各々の持ちうる技術力と発想力で以て追い付かんとひた走り、妨害を越えていた。

 

「ふざけんじゃねぇ!アンタや発目に、サポート科の良いとこ持ってかれて、黙っていられるかよ!」

「俺達だって、まだ、喰らいつける!」

 

 ほう。来るか、サポート科。素晴らしいの一言だ。良くぞここまでの気概を。

 

「だが、まだ遠い」

 

 ナノマシンを回収してまた走る。第2関門、そこで発目に追い付く。君とは違うのだよ、君とは!

 

「先に行かせてもらおう」

「あっ!負けませんよ!」

 

 腰のサイクロンから新たに製作した支援機動空中飛翔体ファトゥムを展開し、それにぶら下がって飛ぶ事でヒーロー科の何人か抜かして、更に前へ。このファトゥム、機上に150kgまで、懸架すれば250kgまでを空輸出来る代物で、こうして僕一人がぶら下がって飛ぶ程度では何ら支障は無い。着地してまた走る。

 

 さてはて第3関門。地雷か……。ファトゥムをまた展開して頭上を行こう。するとどうだろうか。後ろから発目が飛んできた。自身の発明品、その耐久力を信じた発目は地雷による加速を、先程のトップ争いでやっていた事と同じことをやってのけた。凄まじいな。

 

「来たか、発目」

「アナタは、私のドッ可愛いベイビー達を宣伝するために、必要なんです!」

「えぇ……そんなこと言われても……」

 

 引いた。明け空けどころではない。鬼気迫る様相で、自身の宣伝の為に利用させろと言われても僕は首を横に振る他ない。何せ、僕も目標は同じなのだから。発目はそのグラップリングフックを使用し、振り子の要領でファトゥムの隣を進む。

 

「なるほど、君と僕は似ているようだ。だが、ただ一つだけ明確に違うことがある」

 

 サイクロンが唸り、更にナノマシンをバーニアと翼に振り分ける。幾ばくかの溜めの後にゴールへ向けていざ、と言うときに発目のワイヤーが右足に絡まる。

 

「利用する気か。ならば……ついて来い!」

 

 発目を引き連れ、何人かの頭上を追い抜きゴールする。ファトゥムを解除し、ブーツのバーニアでフワッと着地。上を見上げると、遅れて飛んできた発目がここに降ってきたのでキャッチする。

 

「お加減如何かな、発目」

「助かりました!いやー、流石ですね。悔しい限りですが、参考になりました。流石はナノテクノロジーですね!」

 

 発目の元気に喋る姿を見て、負傷の無いことを知る。丁度よいとばかりに体勢そのままで、先程地雷を踏んだソールの点検を始める。それを丁寧に下ろすと、不服そうにこちらを見るのを無視してその場を後にする。

 

 結果発表の際には、僕は31位、発目は32位ということで一回戦は通過した。僕と組む様な人はいないかな。発目とは組みたくないし、さてはて。

 

「そこの君、普通科の君だよ、私と組まないかい?あぁ、返事はいらないが、任せたまえよ。サポート科一位の私が味方になったんだ、退屈はさせないし、二回戦敗退もさせない。何せ、負けたくない相手がいるものでね。さ、来たまえ、君にコレらの使い方を教えなければならないからね」

 

 暇そうにしていた普通科を捕まえると、抵抗する暇を与えずに連行する。

 

「申し遅れた、私は水核 灰理だ。先程言った通りにサポート科で入試は一位だ。自慢じゃないが、"個性"にも並び得る技術力を持っていることは保証しよう。で、君は?」

「俺は心操 人使、普通科だ」

「ふぅん……ま、何でも構わないよ。コレを脚に、コレは背負って、ほら早く」

 

 彼は驚愕した様に目を見開いていたが、無視して色々とつけさせようとするが、抵抗される。

 

「ま、待て、待て待て!」

「なんだい、うるさいなぁ」

「俺の"個性"は洗脳なんだぞ!?何で、何で通じない!」

「……君も"個性"持ちか。羨ましいね」

 

 だから後ろの二人は何をするでもなくついてきていたのか。

 

「なるほど、それなら発動条件を教えてくれ。僕なら君のソレを生かせる。それと、僕が騎手でいいかな?まさか、うら若きかつか弱き無"個性"の女子高生に騎馬をやれだなんて言わないだろう?」

「話を聞け!止めてくれ!俺は君とは組まない!帰ってくれ!」

「酷いなぁ……分かった、僕が前騎馬で良いだろう」

「そういうことじゃ……」

「君も、無"個性"のサポート科を引き入れるのは嫌かい?それはそうだろうさ、誰しも勝つためにそうしている。だのに、戦力になりそうもない奴をわざわざ選ぶ理由も無いだろう。分かった、他を当たるよ」

 

 そう伝えて、その場を去る。さらばだ、普通科。

 

「待って、待ってくれ、俺が悪かった。君がそう感じたのなら、申し訳無い」

「構わないよ。君には、君の考えがあるのだろう」

「待ってくれ!」 

 

 腕を掴まれて、止められる。

 

「俺は君を差別したいわけじゃない、今の事は謝る。だから、俺と組んでくれないか」

「君……掌返しは嫌われるぞ。だが、その心意気や良しだ。僕も申し訳無いね、少し意固地だった。しかし、条件だ。僕と君二人だけで組む」

「……は?」

「僕にいい考えがある」

 

 15分という時間の後、我々は第2種目の場へと集まった。心操が騎馬、僕が騎手という駄々を捏ねた結果だが、それでも彼は今や百人力、それも文字通りだ。

 

「僕の作ったナノスーツだ。君の為には作られていないから、使えるものはパワーアシストだけになる。どうだい、花の女子高生を肩車する気分は」

「あんまり良いとは言えないな……」

「弱音を吐くモノじゃないよ。序盤はさっき説明した通りに動いてくれ。人数不利かつ、"個性"に突破力の無い僕らは作戦で戦うしかないからね」

 

 こうして始まった瞬間、心操は外周に向かって走る。

 

「さぁ、行こうか心操!」

 

 サイクロンを起動。ファトゥムを展開して心操をぶら下げ、僕を上に乗せて上空へ避難する。

 

「地上から約3mだ。並の騎馬なら届かないだろうが……君みたいな奴は来ると知っていたさ」

 

 爆発を起こしながら、鬼の形相が迫る。

 

「俺の上を飛んでんじゃ……ねぇ!!」

「全く暴力的だな君は」

 

 白衣で爆破を防ぎ、失速して回収されていく奴を見送りつつ、試験管からナノマシンを取り出して周りに盾を作る。

 

「僕と君のポイントでは、恐らくは上位には入れないたろう。だが、それを打開するのが作戦と機転だとも。しかし、彼らは無"個性"の僕にも容赦無しだ」

 

 そう言いながら、やや降下して心操が着地する。

 

「騎馬戦のルール上、君が地面に落ちなきゃやりたい放題だもんな」

「そうだとも」

 

 更に高く飛行するファトゥムに身体を固定して戦場を見下ろす。

 

「やはり、緑谷は狙われるな。流石1位通過」

「アイツの持ち点だけで1位は確定だからな。皆狙う」

「では、僕らは僕らのやり方をしよう。君から見て5時の方向、70点の二人騎馬だ」

「分かった」

 

 心操が駆け出し、ファトゥムも高度を下げる。

 

「さぁ、今!」

 

 僕がファトゥムを飛び降り、そのままハチマキを奪う。受け止めた心操が走って逃げる。

 

「このスーツ凄いな、君でも受け止めれる」

「それ、世間一般的な女性であれば怒る言い方だから気を付け給えよ。ファトゥム!」

 

 ファトゥムに掴まり、離脱。しかし、角ミサイルとでも形容すべきモノの追撃を受ける。

 

「なるほど、"個性"の扱いは流石のヒーロー科……と言った所か」

 

 四本のそれをナノマシンの盾によって迎撃する。ハチマキを首に下げ、ファトゥムの上へ登る。追撃の手は止まず、少々防戦一方。そんな時に、彼が口を開いた。

 

「流石はヒーロー科だな!カッコいい刃だよ!」

「ああ!そうだろ!俺の刃は……な……ぁ……?」

 

 途端に、騎手の彼が動かなくなる。これが洗脳の"個性"か。初見殺しとでも言うべきか。声を警戒して連携も難しくなるだろうな。やはり、使い用か。

 

「why!?起きてくだサイ!」

「流石の"個性"だ。さぁ、次だ」

「ああ」

 

 接着剤を噴出させる厄介な"個性"、と声を具現化するような"個性"、そしてモノの大小を操る"個性"の騎手。後ろから接近しようにも、接着された文字が飛んできて妨害され、前から近づこう物なら巨大化した文字の砲撃を受ける。控えめに言って要塞か?

 

「ファトゥムを畳む。正面突破だ」

 

 ファトゥムから飛び降り、心操の一号を回収して身に纏う。ファトゥムを背中に背負うようにして装備し、正面から飛び蹴りの形で突っ込む。

 

 接着剤で固められた声の壁を吹き飛ばし、この局面に来て尚表情を変えない騎手に迫りそのハチマキに手を伸ばす。そして、それらを無視していた心操が後ろからハチマキを分捕って僕に投げ渡す。

 

「取った!」

「何だ、案外出来るじゃないか!」

 

 即座に上昇し、一号を心操に渡してファトゥムの上に乗る。これで僕らのポイント140に角の子チームの60に今のチームの165で合計は365,だがこれではまだ上位には入れない。何とまぁ、上位陣同士が組んでいればこんなものか。

 

「一旦引こう、厄介なのが動く」

「ああ」

 

 緑谷を狙ったあの紅白髪、それが仕掛ける兆候が見えたので心操と共に距離を取って騎馬を組み直す。すると、大放電の後に騎馬が凍結させられて何騎かが行動不能になる。

 

「これは……凄いな……」

「心操、ポイントの散らばりを見て動こう。僕らにはそれしか道がない」

「彼らほど使える"個性"してないからなぁ……仕方ない」

「さぁ、気合入れろ心操!火事場泥棒だ!」

 

 動けない拳藤、鱗チームを狙い動き出す。狙われていることに気づいた騎手が鱗を飛ばしてくるが、心操の肩から離れてファトゥムにぶら下がる。

 

「アリかよ!?」

「引っかかったなヒーロー科!」

「何だ……と……!?」

 

 返事をしてしまえば、だ。初見殺しの"個性"はやはりこうして使うのが良い。ハチマキを奪って、これで120ポイントが加点……だが、まだ足りない。

 

「行くぞ、次はアレだ!」

「今度はどうする?」

「何時も通りだとも」

「行き当たりばったりだな、分かった!」

 

 手を巨大化させてファトゥムの接近を妨害する騎手、身体を細分化して迎撃する騎馬。成る程、厄介な連携だな。動かないのが救いか。

 

「攻めあぐねるってこういう事か?」

「そうだとも。どうしたものかな」

 

 細分化された身体が、その動きを止めていく。時間経過で使えなくなる"個性"か?だとすれば、攻め時は今か。

 

「鱗を飛ばせ!」

「うわっ!?何で!?」

「チーミングだノコー!」

 

 巨大化した手で覆うようにして、防ぐ。そこを見逃すはずもなく。

 

「貰った!」

 

 ファトゥムから飛び降りて、上空からそのハチマキを掻っ攫う。これで220ポイントがプラスされて705となった。掲示板を仰げば、これで3位に躍り出ている。1位は先程の紅白髪か。

 

「守りに入ろう。これで我々は安全圏だ」

「そうだな……って言いたい所だが」

 

 我々から奪えば3位という事に気づいた面々がこちらを見ている。先程まで我々を見てすらいなかった連中が、だ。追い詰められればここまでするか。

 

「さぁ、耐えよう」

「逃げ切りを目指そう」

 

 一号を纏う心操の背に、ファトゥムを盾とする為に乗って背後を守る。ナノマシンの盾もフル活用して何とか凌いでいく。会話による相手の制御を試みる心操だが、この土壇場にて会話する余裕は相手には無い。

 

「さぁ、時間だ!カウントダウン行くぜぇぇ!?」

 

 残りは20秒。

 

「心操!動体視力は良いか?」

「人並みだな!」

「じゃあ頑張ってくれたまえ!」

 

 ファトゥムと盾を心操の一号へ付け足していき、推進力を全て前へ向ける。

 

「何だコレ、何する気だ?」

「10秒だけ相手をするのさ」

 

 刹那、凄まじいGが全身に掛かって後ろに仰け反るのを、耐えに耐えて心操が文字通りに全身全霊で舵取りをしていく。その速さは恐らく、現状の誰にも追い付けない領域へ到達していた。

 

「ぶつかるなよ!」

「頑張ってる!」

 

 余裕無さげに答える心操だが、この速さで以て包囲網を突破して騎馬戦の会場ギリギリを攻めて行く。一号のアシストのある為か、何とか走っている体裁が整っているが、実際の所は強化された脚力で無理矢理に方向転換しているだけだ。

 

「5!」

 

 周りには誰もいない。

 

「4!」

 

 僕らのポイントを狙うものはいない。

 

「3!」

 

 やけに冷静な頭で流れていく景色を見る。

 

「2!」

 

 この速さの中で確実に見たものがある。

 

「1!」

 

 発目と目が合っていた。お互いの視線の中心には、グラップリングフックに引っ掛けられた一本のハチマキがあった。

 

「タイムアップ!!」

 

 直ぐ様数字を確認する。60ポイント、だが、それでも。

 

「さぁ、結果発表だ!上位4チーム、早速行くぜ!」

 1位は紅白髪、2位は爆発。

 

「3位は土壇場で巻き返した緑谷チーム!最後に逆転されたのは水核チーム!」

 

 あの速さ、そしてグラップリングフックというモノを取るには向いていない装備で成し遂げた発目は、称賛するしかない。それほどまでに、僕は発目にしてやられたのだ。ヒーロー科は、ヒーロー科しか見えていない。なら、サポート科の僕はサポート科を見ていたか?否だ。

 

「すまなかった、心操。まさか、最後に取られるとは」

「いいよ、俺も君と組めて楽しかった」

「これもなにかの縁だ。サポートアイテムの要件があれば、頼ってくれ。協力するよ」

「ありがとう。でも、次会うときは敵同士だな」

「ああ、そうだとも。午後のトーナメントで会えることを楽しみにしているよ」

 

 そう言って、心操と別れる。自身の発明したベイビーを気難しい顔で弄る発目を一瞥してナノマシンの構成を変えるためにサポート科の工房へ向かう。

 

 この借りはどんな形であれ、必ず返すぞ。発目。

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