黎明なるヴィランアカデミア 作:洛陽
由縁は我に有り。故、我に光有り。
段々と僕の計画は進み始めている。先日、移動手段になる僕にとってのジョンちゃん、『ピュライ』を生み出すことに成功した。ピュライを訓練して、ラボとオールフォーワンの根城、博士の病院を行き来することに成功。これにより、あの人に頼らずに移動できるようになった。
これを以て、私のラボを移動又は別に建設することを検討し始めた。先ずはドローンを幾つか放ち、適した場所を探させている。恐らくは海底になるだろうが……取らぬ狸の何とやらになる前に、ある程度は候補を絞るべきだ。建設の為の資材も"個性"で解決できるのだろうが、強度計算や電力供給の問題もある。
ここで気晴らしのナノテクノロジー開発を行っていたが、その過程で面白い結果が得られた。僕の"個性"を再現できる可能性があるのだ。放電器官を再現し、その出力と耐久性を調べてみる。その成果は文句無し。"個性"のナノテクノロジーによる分子構造からの再現。それもまた面白い。だが、今はまだ途上で置いておこう。
ああ、そうだ!最初から潜水艦として建造すれば良い!しかし、潜水艦となると一から勉強し直しになる……ちょっと厄介だな。構造、耐圧殻、吸気系、船体設計……ええい面倒な。だったら最初から有るものを改造すれば良くないか?
「……ゼフィでは駄目だ。新しい物を造らなければ」
先ずは海洋生物の頂点たる鯨から始めるか。それを元にして……。
アラームの鳴る音で現実に戻る。気が付くと、今日のタイムリミットだった。
「ああっ、クソっ!一日24時間は短すぎる!せめてあと120時間は欲しい!」
仕方ないので、今の僕の記憶を電脳に共有し、そこからバックアップの素体を起動して電脳から記憶を復元する。暫くしてパチリと僕が目を覚ます。
「お目覚めかな」
「大変みたいだね」
「自業自得だがね」
「なら、任せたまえ。君も頑張ってくれよ」
「無論さ」
さて、帰るとするか。
◆◇◆
「昨日ぶりだね、どうだい?」
「良好だ。僕は眠るよ……交代してから一睡もなしで思案は負荷が高いみたいだ……」
「そうするといいよ、おやすみ僕」
「おはふひ〜……」
電脳経由で記憶を補完し、殴られたかのような衝撃と共に暫くグワングワンとする頭を抑えながら耐える。少しして、ようやく立ち上がる。
「僕……どれだけ頭を働かせたんだい?補完しただけで死にかけたよ」
ブドウ糖タブレットを手の平いっぱいに出して口に放り込んで噛み砕く。ちょっとフラフラするが、それでもこの計画は止められない。
「僕の"個性"と……鯨の"個性"……それと探知用のエコーロケーション強化用のバックパック……なるほど」
潜水艦乗りには悪いが、まぁ多少の犠牲も止む終えまい。いや、転送で帰すか。彼らにも家族がいるのだ、無闇に処理するのも手間が掛かるし……。
「まぁいい。さぁ、始めるか」
僕の"個性"を持った素体と趣味で集めていた鯨の"個性"を用意。それを合体させ、ちょっと拒否反応と反発で肉体が凄い事になったが、肥大化した筋肉を整形して縫い止めていく。このお陰で大分人間に近い形に持ってこれた。これに『アクア』と名付けてポッドに突っ込み、身体の適応を待つ。
その間に電脳を組んでいく。目的は潜水艦の捜索と座標の特定、出来るだけ大きい潜水艦を探すように仕向け、回路を組む。アクアの電脳が完成したものの、肉体は未だ適応待ち。予測では後2、3日を要しそこから電脳を移し変えて制御と訓練でまた一週間は掛かるだろう。その間にナノテクノロジーと潜水艦管理用の電脳を仕上げるとしよう。
◆◇◆
アクアを海に放ってから一週間が過ぎた。上がってきた報告は80m程度の潜水艦を発見、であった。それの拿捕を命じ座標を送らせてピュライによって艦内へ移動する。無論、顔が割れては敵わないので覆面をする。
「やぁ。いい船じゃないか」
「何者だ!」
「見てわからないかい?ただのマッドサイエンティストさ」
さして驚いた様子もないが、外でアクアが潜水艦を止めようとしているのだろう。船体が大きく揺れる。
「何だ!?」
「艦が強制的に止まりました!」
「エンジンは!」
「正常に作動中です!」
「水深を確認しろ!」
「安心したまえ、僕の仲間さ。抵抗せずにいれば、無事に帰すことを約束しよう」
一番近い陸地への転送口を開けて、艦長に向けて手を差し伸べる。
「僕は、僕の目的の為なら君達程度はやむを得ない犠牲だと割り切ることが出来る。その証拠に……それ」
「がっ!?ぁあ!?」
艦長の隣にいた男が首を抑えて暴れだす。
「どうした!」
「何をした貴様!」
「おっと、僕は拒否権は与えていないんだ。出ていくか死ぬかだ」
ナノレベルのロープによる絞首は効いているらしく、狭い艦内でジタバタとしている。艦長は遂に決断したようだ。
「やめろ!この船はくれてやる」
「しかし、艦長!」
「船より命だ。この事は報告させてもらうぞ」
「お好きにどうぞ。僕は船が欲しいだけだからね」
総員退艦命令が下され、船員が一人残らず陸地へと転送される。そうだった。
「艦長、僕の名を伝え忘れていた。僕はゴールデン・ドーン。新しき黎明を齎す者だ」
「……ご丁寧にどうも。警察とヒーローには伝えておく」
「そうしてもらえると助かるよ」
転送ゲートを閉じて、アクアにより海底に着底させ、艦内をナノテクノロジーにより改造していく。
「サブマリン、改造は?」
「現在80%完了です」
「よろしい。システムの方は順調かい?」
「艦全体のシステムを掌握、航行は可能です」
「航行はまだ良い。アクア、外部給電システムは?」
「取り付けが完了、現在接続中です」
「完了次第報告」
「了解」
散策しながら待っていると、サブマリンから連絡が入る。
「改造、システム最適化、共に完了しました」
「よろしい」
「こちらも接続完了、いつでもいけます」
その報告を受け、元艦長席に座る。
「ピュライ、ゲートオープン」
ゲートの向こう側にはゼフィが待機している。それを確認し、僕はたった一言。
「やれ」
ものの数分で引っ越しが完了し、念願の移動式研究所が手に入った。幾つかの素体と素材を搬入し、バックアップを用意する。その上で、ピュライの座標を登録してアクアにこの船の護衛を任せる。サブマリンは艦内の統制と艦全体の制御をしてもらい、特定されないように回遊してもらい、必要な物資はこちらで用意して定期的に送ることにした。この潜水艦にノーチラスと名付けて全ての作業を終える。
さて、と。
これにて全ては揃ったと言っても過言ではない。日本一のヴィランという後ろ盾、早々に特定は出来ない隠れ家。後は気ままに研究するだけだ。
「アクア、サブマリン、定期報告はよろしく頼むよ」
「「了解」」
ノーチラスからラボへ帰還し、伸びを一つ。
「ゼフィ、寝て良いよ」
「承知しました」
世界に、光が零れる。
「……僕は、この46億年という地球の歴史の最先端を征く霊長の一人だ」
光はやがて、世界を照らす
「光を齎す為には、暗闇に生きて暗闇と戦う必要がある。それは既にわかり切っている事だ」
その光は、幸か不幸か影をも生み出した。
「影の無い光は狂気を孕む。しかし、正義は常に悪より生まれるものだ。影なき光は無く、光なき影もない」
黎明は何時しか、その角度を上げて旭日となった。
「僕には僕のやるべき事と進むべき道がある」
故にこそ、この手法は選ばれるべきであるし、還元されるソレは善悪問わずに必要とする者へ届けられるべきなのだ。科学とはそういうものだ。
「彼には悪いが、僕はそういう人間だ。申し訳無いが、理解してもらえるとも思っていない。計画は進まねばならない」
ゴールデン・ドーンはたった今から動き出す。