黎明なるヴィランアカデミア 作:洛陽
オールフォーワンとの喧嘩から、僕は裏社会に顔を出さなくなっていた。彼に恫喝紛いの行為をしかけて彼の最強の盾たる『ギガントマキア』の一部と複製していた"個性"を一部譲渡してもらった。そこから嫌がらせを兼ねて論文をネット上で公開して幾つかの企業と研究室からコンタクトがあり、そこを通じてナノマシン技術と人工義肢技術の社会還元を行うつもりだ。
中学生になってから、僕は親の前で偽ることを止めて、堂々とラボを行き来するようになった。流石に素体や培養したモノは見せていないが、ナノマシンと人工義肢技術の表向きのモノを見せた。それからというもの、親は元より協力的なスタンスであったが先程の通りにネット上での匿名での論文発表と水面下での知り合いの企業、研究室への連絡を取ってくれて、表向きは論文を見て話を聞きに来たという体裁を整えてくれている。
そんなある日、個人とのアポがあった。
「初めまして、私は水核 灰理だ」
「初めまして、八木 俊典と申します」
痩せ細った体躯、落ち窪んだ眼孔。しかし、大凡一般人とは言えない意志を感じる眼光。何者か、こちらから聞くには憚られる。
「今日はどういったご要件で?」
「実は……私のこの古傷を、治してほしい」
「……なるほど」
左脇腹にまるで何かがめり込んだかのような大きな傷跡。よく見てみれば、何か縫合した跡も見える。この大規模な跡から推測するに、内蔵を摘出した?それも一つじゃない。
「私は……申し訳無い、が……医師では無い。医学の心得は人体構造程度だ。しかし、貴方は私にそれを治療出来るか頼みに来た。何故です?」
「あなたの再生医療の話を聞きました。今の私は、呼吸器系を半分と胃を全摘出しています。しかも、残された時間は少ない……どうか!お願いします!」
深々と頭を下げる八木さんに、私は冷酷な宣言をしなければならない。
「……八木さん、私に出来るのは知り合いの病院を紹介するくらいだ。そこでも出来ることは無いと言われると思うが……加えて、私にはどうこうできる権限も技術も免許も無い。未だ無認可の技術である上に、安全性や信頼性を担保出来ない。それを実行すれば、私はともかく貴方自身も、無闇な危険に身を晒すことになる」
目を伏せ、八木さんから視線を外す。
「あなたが誰であろうと、私は司法と倫理の下に生きている。それを侵せと言われるのなら、私は……あなたを警察に引き渡さねばならない」
立ち上がる音がする。諦めてくれたかと思い、顔を上げて唖然とした。
「お、オール……マイト……?」
「そう!私が、来た!!」
何故オールマイトがここに?八木さんは何処へ?この一瞬で何をして現れた?幻覚を見ている?若しくは見せられている?思考が巡り、纏まらずにいると目の前のソレは口を開いた。
「驚かせてすまない。改めて、私は八木 俊典。又はオールマイトといいます」
「……驚いた。僕にも分からないことがあるみたいだ。……うわ、本物だ」
椅子に腰掛けたオールマイトと対面しつつ、僕は頬を抓って痛覚を認識する。続いて無意識にその身体に触れ、感触と鼓動から本物だとようやく気付く。思わず口をついて出た言葉に、オールマイトは照れたようにはにかんだ。
「うわって言われるとちょっと傷付くなぁ……あぁ!気にしないでもらいたい!それで、水核さん」
「……日本のNo.1ヒーローが、僕に何を?」
「先程も申し上げた通り、この古傷を治してもらえないかと」
オールマイトが、この規模の負傷を負わせられると考えられる者は少ない。その筆頭がオールフォーワンだ。
「なるほど、なるほど……ああ、いや、待てよ……」
そもそも、脳無は何故彼と同等の性能を求めていた?アレは、仮想敵がオールマイト等という理由ではなく、本当に彼と戦わせる為に作り出そうとしている?だとしたら、この傷は……確実にあの男の仕業。
「ハハッ、ああ、分かった。分かったとも。ついてきたまえ」
ラボに向かい、その道中で八木さんから何処までの治療を望むかを聞き取る。その回答は出来るところまで、だった。全く具体性も無い要望だったが、叶えてみせよう。
「ここが僕のラボさ。まずは精密検査をしよう」
「あ、ああ」
先ずはスキャンを始める為にポッドに八木さんを詰める。そのままスキャンを開始する。確かに呼吸器系は半分が無く、胃は影すら見えない。これが先程言っていた古傷なのだろう。
「……オールマイト、これは何年前のモノだ?」
「確か……4年前だ」
「ふぅん……へぇ……ちょっと長くなる上に難しい事になるだろう。出たまえ。これからの話をしよう」
オールマイトと対面して座る。スキャンによって得られたデータをホログラムでお互いの真ん中に投影する。
「凄いな……これ……」
「さて、今の君のデータはこれだ」
彼の眼前にデータを投げる。身長、体重、血圧、etc.が記載されたそれは彼の個人情報そのものだ。
「さて、まずは内蔵の話をするとしよう。この4年間で、君の体は今の状態に適応してしまっている。それを治すのは、長ければ年単位の適応を待たねばならない」
「年単位……それ、ちょっと短くなったりしないですか……?」
「その敬語、止めてくれないかい?僕はね、そういう堅苦しいのが苦手なんだ。それはそれとして、一つだけ……そう……一つだけ、1ヶ月程度で治める方法がある」
「本当か!?」
「……安全性は保証出来ないし、君が死ぬかも分からないのだけれどね」
計画を詰める。オールマイトの顔がホログラム越しに青冷めていくのが分かったが、マッドサイエンティストを頼った時点でそれもリスクヘッジをしなかった貴方の責任だ。
「ここで見たことは門外不出。僕の生涯と君の命を掛けて約束は守ってくれたまえよ」
ホログラムを投影する。
「これは……なんだ……」
「オールマイト、貴方の細胞を培養し、呼吸器系と胃を形成させて、それを手術により移植する。その後に訪れる適応に対して身体が拒否反応を起こさないようにナノマシンにより、君の身体を誤解させる」
「それは、つまり……えーと」
「君の身体に、ナノマシンを打ち込んで無理矢理に元に戻す。というわけだ」
投影されている画面には、詳細が書かれている。それを噛み砕いて説明し、どうにか理解してもらう。
「さて、さてさて。ご理解頂けた所でやらねばならない事がある。君の細胞を採らねば話は始まらない。口を開けたまえ」
「え?な、何を」
「……いや、君にやらせた方が後々の言い訳ができる。これで頬の内側を擦ってくれ、細胞を採る」
「あ、ああ、そう……」
綿棒を渡し、オールマイトの作業の後に渡されたソレを試験管に入れて呼ぶ。
「メタ、培養」
『はい』
「い、今のは?」
「僕が作った電脳……AIの『メタ』だよ。ナノマシンの一部を制御下において、こうして雑多な事を任せている。さて、培養にはどうしても時間がかかる。また出直してくれ、これが僕の直通電話だ。君のを教えてくれ」
連絡先の交換の後に、必要な事項の確認へと移る。
「君からは不用意に連絡はしないでくれよ。こちらにも事情がある。終わったらこちらから連絡するから、それと今回の事は本当に他言無用でお願いするよ。お互いの為にはならないからね」
「それは分かってるとも」
「私自身、No.1ヒーローの頼みだから受けてしまったが、司法と倫理に生きる私の道を邪魔しないでくれよ」
八木さんを見送り、自室に戻る。
「……オールマイト、か」
劇物を手に入れてしまった。
不味い、僕は今、No.1ヒーローの細胞を持っている。彼の"個性"が複製出来るのなら、僕は何をしでかしてしまうだろうか。ああ、堪らない。
余りにも抑えきれない欲に、抗うことなく従う。
「メタ、培養の予定は?」
『62時間32分29秒です』
「……ああ、分かった」
どうしようか。培養し、何に使う?何にでも使える。新たなNo.1ヒーローを作り出すことも可能だ。僕には何だって出来る。それを証明するのは簡単な事だ。ギガントマキアを複製し、ギガントマキアを複数体運用する事だって可能だ。ああ……いや。
僕が黎明になればいい