黎明なるヴィランアカデミア 作:洛陽
「やぁ、オールマイト。今日の検診次第で普通の食事を解禁しよう。ジンの報告は良好、君のカルテも健康に近いモノだ。流石にもうここの食事は飽きただろう?安心したまえ、ジンの生活支援改良型のリリスの作る食事はとても良いものだ。さ、そこに入り給え」
ポッドに入ったオールマイトをスキャンしていく。結果は異常なしで、抜糸も済んでいる。肺活量の測定や身体機能の評価を終えて、晴れてオールマイトは完治したと言って過言ではないだろう。
「まさか、本当に治るとは」
「僕の再生医療を頼ったのは君だろう?信じ給えよ、僕の技術力を」
「今は信じているさ。何せ、内蔵が帰ってきたんだから」
「なら、昼食にしよう。君の胃に余り大きな負担を掛けてしまってはいけないからね。消化に良いものにしよう」
リリスの作る食事を待つ間に先日からの経過を見せる。
「これが移植前の君、そしてこれが今の君だ」
「やっぱり、君の技術は凄いなぁ……」
「だろう?分かりきっている事だが、治ったからとドカ食いしては残っていた君の内蔵に凄まじい負荷がかかる。まずは抑え気味にしたまえ。目安は一週間だ。一週間後に、僕の所に来てくれ。君の内蔵機能を測定し、結果が良ければまた1ヶ月後、そこで何もなければ晴れて自由の身だ」
「なるほど、後一ヶ月は君のお世話か」
「そうなる。今回の事は秘密裏だが、僕も慈善活動家じゃない」
「わかっているとも」
「全てが終わったときに請求書を出す。震えて待つといい」
「お手柔らかに頼むよ」
「善処するよ。お、来たね」
リリスの配膳する料理をオールマイトと囲む。お粥に近い米、鶏の煮物と白菜の漬物、大根と豆腐とわかめの味噌汁。漬物は市販品だが、それ以外はリリスの手料理だ、美味いぞ。彼は暫く振りのマトモな食事に、目を輝かせてこちらに聞こえるほどに腹を鳴らしている。
「は、はは、いつぶりだろう。こんなにお腹が空いたのは」
「リリスの料理の腕前は保証する。さ、食べよう」
「「いただきます」」
オールマイトが恐る恐ると言った具合にお粥を口に含む。そこからは手が止まらなかった。醤油で整えられ、柔らかくなるまで煮込まれた根菜と味の染みた椎茸、それらと共にむね肉を使った一口サイズの煮物を一口、出汁から作られた味噌汁を飲んで、ほっと一息ついた時に彼は涙を流した。
「どうだい、久し振りの食事は」
「……ああ、とてもおいしいよ」
ハンカチを渡し、泣きながら食事をするオールマイトの対面で、箸を進める。暫くして、食事が終わる。
「「ごちそうさまでした」」
リリスが片付ける最中、涙を拭き終えたオールマイトが恥ずかしげに口を開いた。
「ごめんね、何か、みっともない所を見せちゃって」
「構わないさ。君にも人間性が残っているのが見えてとてもよろしい事だ」
「はは、そう言ってくれて嬉しいよ。リリス、と言ったかな、ありがとう」
「彼女にはまだ対話機能は積んでいない。だが、作り主として私が受け取っておくよ」
「そうか……君にも、感謝を」
「うむ」
オールマイトと共に外へ出て、もしもの時の為の鎮痛剤と連絡先の確認をして、対面する。
「ありがとう。いや、本当に」
「いいのさ。また何かあったら連絡してくれ。僕のできる範囲でなら、陰陽問わず協力しよう。さて、最後になるが、今回の事は他言無用でな。耳タコだろうが」
「ああ、分かっている。請求書は事務所に頼むよ」
「了承した」
暫く歩いて、門を潜れば外へと続く。その前で彼は普段のオールマイトの姿へと変貌する。先程までの痩せ細り、異常と言う他ない姿から、平和の象徴または日本のNo.1ヒーローの姿へと相成った。
「僕は雄英に行く、君の母校へ。何か縁があるといいな」
「実はね、私も雄英に教師として戻ることにしたんだ」
「へぇ……それは"個性"に関係していることかい?」
「まぁ、ね。後継者を探そうと思って」
「いいヒトが見つかるといいな。ではな、オールマイト」
「ああ。水核少女、お世話になったね」
門を潜ったオールマイトの背中を見送り、後ろに倒れるようにしてピュライのゲートを通過する。
「素体はどうかな」
「彼の肉体は……はっきり言って、"個性"抜きにすれば、人類の最高到達点と言って差し支えない程に頑丈だ」
「それはそれは。嬉しい事じゃないか」
「そうだとも」
オールマイトは古傷を癒やし、同時にオールフォーワンもそれを知った。それならば、僕は拠点防衛と自己防衛の為にボディーガードを完成させねばならない。
「ステイメン、オーキスの進捗は?」
「ステイメンは電脳の構成が完了、しかし今の所"個性"の選定が難航している。オーキスは既にフレームが完成している」
「進捗4割と言った具合か……遅々として進まないとはこのことかな」
暫く"個性"の選定に参加し、時間を見て別の作業に移る。ゼフィランサスの改良と試作4号機の計画立案であり、ゼフィランサスは主に空間戦闘を念頭に置いて僕の護衛役を担う事になる。ガーベラも同様に、単独で機動戦が出来るだけの出力が求められる。両者の目指すところは似ているが、両者の使い方は護衛と先鋒で分けられている。
暫く頭を悩ませていたが、唐突に気付いた。少なくとも、デンドロビウムはギガントマキアを迎撃できるようにしなければならない、と。さしものギガントマキアとて、サイサリスの攻撃を受ければ、無事ではないだろう。しかし、それでも奴は進んでくるだろう。故に、対峙して対等に戦えるだけの戦力が求められる。
「新たな技術開発をしよう。"個性"応用科学だ」
そこから、僕はようやく踏ん切りがついた。
「では、これより僕の"個性"実証実験の第二幕を開始する」
「よろしく頼むよ、僕」
意識を共有した僕が、実験室に入る。今の彼女には僕の"個性"だけがある。それを発現させて、僕の身体がどうなるのかをこの目で見届けるのが今回の実験の目的だ。幼い頃の身体では、第1段階と思われる背部放電器官の発現だけで大量出血により死亡していた。何度やってもその結末に至り、幼い僕はそれに恐怖して止めてしまった。
「では一人目、開始する」
目を閉じ、胸に手を当て彼女が集中するように深呼吸する。僅かながらの恐怖心。しかし、それは好奇心に勝る事無し。
「あっ、がああぁぁ!!」
背部に激痛。思わず膝を折り、その場に蹲る。こちらから見ているだけでも、その背中は鮮血が滴り、1リットル近い出血が確認される。だが、僕は生きている。
「は、ハハ、ハハハ!まだだ、まだ生きている!このまま続行する!」
続く第2段階。身体の中央、鳩尾から胸骨の間が急激に赤熱化して炎が吹き出る。絶叫と共にその身を焦がし、死へと向かう。だが、それでも。
「まだ、まだだ!まだ足りない!」
背部放電器官から電撃が散り、赤熱化していた胸部は融解したかのように開いている。
「見ているか、これが、僕の……"個性"だ!」
刹那、収束した電撃と熱線が放たれて実験室を破壊する。僕は死んだのか、意識の共有が途切れたようだ。汗と涙、ありとあらゆる体液と未だにある痛みに、蹲ったまま動けずにいた。
「ぜ、ゼフィ、いるか」
「はい。マスター」
「中から、はぁ、僕を……回収してくれ」
「承知しました」
鎮痛剤を投与し、ゼフィが瓦礫を退かしながら実験室の奥へと進んでいくのを見送る。僕の身体でこれなら、戦闘用の義体ならば耐えられるだろう。
「マスター、見つけました。回収します」
「息はあるか?」
「いえ、焼き切れています」
「残念だ。ポッドへ」
「承知しました」
「サイサリス、手を貸してくれ」
「はい、マスター」
サイサリスの手を借り、というかお姫様抱っこでポッドに入れられた僕の状態を確認する。焼け焦げた臭いと、胸部は燃え尽きたかのように抉れ、背部の放電器官は背鰭の如く整列している。よく見てみれば、喉元にも火傷の跡がある。気管か食道から熱気が逆流したのだろうか。
「これが僕の"個性"……その狂気的な出力か」
ステイメンに載せるには丁度よい出力じゃないか。これにしよう。ステイメンに制御と最適化を行わせ、オーキスはそれを武装として振り回せるだけの規模と機能が必要だな。
こうして、オールマイトの細胞から作られた強靭な肉体に薬学的、工学的手法により手を加えて無"個性"ながらにオールマイトを力だけなら正面から打ち破れる肉体に僕の"個性"と超再生を移植していく。その体重は既に400kgを記録しており、過去最重量だ。続いてステイメンの同期と接続を行っていく。気付けば、あの実験から7日と4時間が経過していて、またやってしまったと溜息をついてステイメンを一瞥する。ポッドに横たわるその長い金髪はオールマイト譲りであり、僕とは似ていなかった。
「ステイメン、起動できるかい?」
「ステイメン、起動。システムチェック。……システムオールグリーン。問題なく運用できます」
「よろしい」
その目を開き、起き上がり、立ち上がる。2mを優に超えるその巨躯に、首が痛くなる。彼女の為に暁に至る天蓋は特製であり、今までのそれとは主にサイズが異なっている他、オーキスとの接続の為に各部に接続コネクタが設けられ、背部は解放できるようになっている。それを装着させ、ホログラムのオーキス想像図を展開する。
「オーキスは君の背部放電器官から得られる電力を以て動く。しかし、独立した戦闘支援システムとしても動く為に6人の素体を組み込んでいる。2人は同じく主と予備電力担当、2人は推進力の担当、2人は武装だ」
ステイメンの天蓋が変形し、オーキスとの仮想的な接続を行う。
「右側の武装は僕の熱線放出を光学的手法で増幅、収束させたレーザービーム。これならギガントマキアでも貫通できるだろうな。背面の武装は致死性戦闘装備と、左側には電磁バリアの"個性"を持った素体がある。君の巨体とはいえ、あると無いとじゃ違うだろうからね」
ホログラムを消し、ステイメンと対面する。
「ステイメン、オーキスが完成次第、君にはデンドロビウムとして拠点防衛の為に最適化してもらう」
「了解」
「さて……ステイメンの実用化の目処が立ったことでオールマイトの耐久性を以てロータスの完成へと一歩近づいた訳だが……そこはどうだい?オリジナルの僕」
振り返れば、怪訝そうな表情と真っ白の髪を持つ僕がステイメンを見上げていた。
「……ロータスは、計算上では、4年はかかる」
久し振りに聞いたオリジナルの声は異様に低く、また発音がやや不自然であった。独り言以外の発話は何ヶ月の期間が空いたのだろうか。
「しかし、それは私だけでやると考えた場合だ。……早ければ半年、遅くとも一年だ」
本来であれば忌むべき圧縮言語。しかし、僕らは同一人物だ。この嫌になるほど人と会話に慣れていないオリジナルの思考は読める。故に、ただその言葉を待つ。
「ロータスは完成する」
ロータスの完成図がホログラムとして僕に送信される。
「ゼロ、お前はそのまま他のナンバーと共に試作機を作れ。私がロータスを完成させる」
「もちろんだ。その為に僕は死なない様に気をつけているんだ」
「ゴールデン・ドーンは私が引き継ごう。君は、暫くは水核灰理を続けてくれ」
「今度は何をやらかすんだい?」
「……さぁな」
だが、一つだけ確実な事がある。
僕が黎明である。その実証実験と征こう。