魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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お待たせしました。
もうすぐで長い長い戦闘回も終わりそうです。


第105話 魔への至り

 

 

 カイとシオンの登場に俺は一瞬言葉を失ってしまう。カイは戦えるような身体じゃない。多少の魔法ならまだ何とかなるだろうが、戦闘、それも相手がアーサーになると話は全く違ってくる。先程の魔法だって、身体に大きな負担を掛けてしまう。

 

 それを避ける為に戦いから外したのに、どうして此処に来てしまったんだ。シオンもどうしてカイを止めず、一緒に来たんだ。

 

「僕を止める……? お前にできる訳がないだろう」

「僕一人じゃ無理でも……今度は皆がいる!」

 

 地面から大量の水が噴き出した。それは水竜のように動き回り、アーサーへと襲い掛かる。

 

 アーサーが剣を構え、迫り来る水と対峙する。斬り裂かれる水はそれでも尚勢いは止まらず、アーサーの周囲を取り囲んでいく。と、そこにシオンが魔力を水に流し込む。水は一瞬にして凍り付いていき、アーサーを閉じ込める氷牢へと化す。

 

 一瞬で出来上がった氷塊、中に閉じ込められているアーサーは動く気配を見せない。

 

 しかしそれは時間の問題だろう。今までのアーサーを見ていれば分かる。この程度でアーサーを無力化できるのならここまで苦労していない。

 

 カイが水に乗って俺達の前までやって来る。俺はカイの胸倉を掴み上げる。

 

「大兄――」

「何で此処に来た!?」

「ちょっとルドガー……!」

 

 エリシアが俺を宥めようとしてくる。だけど俺はエリシアの言葉を無視し、胸倉を掴む力を強める。

 

「言っただろうが!? お前は戦うなって! これ以上力を使えばお前は!」

「大兄上……すみません。でも視てしまったんです、最悪な運命を。その運命を僕は変えたい」

「っ……魂を視る力か? アーサーに奪われたんじゃ……」

「元々は僕の力です。奪われても、燃えカス程度には残ってます」

 

 カイの魂を視る力は、その魂の本質を視るだけじゃなく、その魂の運命まで見通すことがあるのは知っている。運命なんて俺は信じちゃいないが、ちゃちな占いよりはよく当たると思う。

 

 カイだって自分の身体の状態を理解していない訳がない。アーサーと戦えばどうなることぐらい把握しているだろうし、俺からも強く言い聞かせた。

 

 それを承知の上で此処へ来たと言うのなら、カイが視た運命とやらはどれだけ最悪なモノだったのか、想像に難くない。

 

 きっと俺達の誰かが死ぬ――もしくは全員死ぬ。それぐらいのモノなのだろう。

 

「……だがお前は戦えない。戦わせられない。俺達三人でこの様だ。ライアとガイウスは退けれたが、アーサーは別格だ。それ以上死に急がないでくれ」

「大兄上……それはできません。僕はライオット家の勇者として、今ここで死力を尽くして戦いたい。戦わなければならない。カイ・ライオットの魂がそう叫んでるんだ」

「……」

 

 胸倉を掴んでいた手から力が抜ける。手を離し、自分の頭を抱える。

 

 俺は悟ってしまった。カイはもう覚悟を決めている。俺の声なんかもう届きゃしない。俺がいくら言おうが、カイは決して退かない。

 

 どうしてここまで意志が固いんだ――そう考えてすぐに答えは出た。

 その勇者としての在り方を教え込んだのは誰でもない――俺自身だ。

 俺が勇者に求めた屈強な精神力、意志力、覚悟、その存在意義を説いたのは俺だ。

 勇者でもない俺が、勝手な理想として語った勇者像を、弟はしっかりと体現してくれている。

 それを教え込んだ俺が、カイの覚悟にこれ以上とやかく言える立場じゃない。

 

 もう、答えは一つだった。

 

「……分かった。もう戦うなとは言わない。だが、これだけは守れ――――死ぬなよ」

「――はい」

 

 その時、氷牢がピシリと音を立てた。

 

「くっ――もう持ち堪えられない!」

 

 今まで氷牢の維持をしていたシオンが苦悶の声を上げる。

 

 アーサーが氷牢の中から抜け出そうと魔力を高めていた。そして氷牢は大きな音を立てて激しく砕け散る。氷は魔力の粒子となって四散し、中心から瞳を青く光らせたアーサーが地に降り立つ。

 

 とても激しい魔力だ。今までより更に強さを肌で感じる。それにとても禍々しい気配がする。五年前まではそんな気配の欠片も無かったというのに、魔王復活という野望がアーサーを狂わせてしまった。

 

 それもこれも、俺が弱かったから……。もっと俺に力があれば、親父を殺さないで済んだかもしれない。親父を殺した後も、皆から逃げるようにして去ったのは俺だ。

 

 俺がアーサーをここまで変えてしまった。だからアーサーを止めなければならない。昔の優しいアーサーを取り戻す。

 

 俺はナハトを握り締め前に出る。エリシアとユーリ、カイも後ろについて歩く。シオンの前に出て、アーサーと対峙する。

 

「決着の時だ、アーサー」

「そうだね、兄さん。今度こそ父さんと兄さんを取り戻す」

 

 アーサーの手の蒼い剣と光の剣が輝く。

 

 合図は無く始まった。先手はエリシア、雷速でアーサーに迫り、カタナを振るう。それを受け止めたアーサーは後ろに押されるが、カタナをいなしてエリシアを蹴り飛ばす。

 

 その隙に俺が地を蹴って迫り、ナハトを振り下ろす。蒼い剣で受け止められ、光の剣で反撃をしてくる。ナハトを動かし、光の剣を受け止めて次に迫る蒼い剣を受け止める。特大の魔力を込めた一振りを見舞いすると、それは受け止められずに跳んで回転してかわされる。

 

 アーサーの双剣が同時に振り払われ、ナハトで受け止めるも力で負けて吹き飛ばされる。そのまま俺を追撃しようとしたが、ユーリの放った突風によってアーサーは吹き飛ぶ。吹き飛んだ先に氷壁が出現し、アーサーは背中から氷壁に打ち付けられる。風がアーサーを抑え付け、ほんの少し動けないようにする。

 

 そこへカイの水が襲い掛かる。水面を跳ねるように地面を移動し、それは水竜と化す。水竜が咆哮を上げながら抑え付けられているアーサーに飛び込んだ。激しい爆発が起こり水柱が立つ。その水をシオンが全て凍らせる。

 

 再び氷の中にアーサーは閉じ込められたが、今度はすぐに光と共に氷を砕いて抜け出してきた。飛び出してきたアーサーは双剣を振るい、光の斬撃を放つ。向かい来る光の斬撃をナハトに乗せた魔力で一気に薙ぎ払う。

 

 剣を振り払ったアーサーに雷の集束砲が襲い掛かる。アーサーは剣で雷を受け止めて斬り裂く。斬り裂いたその先にはエリシアがおり、一瞬で数多の斬撃を繰り出す。その斬撃をアーサーは全て見切り双剣で弾く。

 

 エリシアの一撃が落雷と一緒に放たれ、アーサーは地面に叩き落とされる。アーサーが立ち上がろうとしたその瞬間、緑の風がアーサーを踏み付けた。ユーリの風がアーサーを地面に抑え付け、アーサーの動きを封じる。

 

 今が絶好の好機。ここしかない。もう俺の魔力も限界だ。ララに貰った霊薬も無い。これ以上戦闘を引き延ばすことはできない。カイにもこれ以上力を使わせる訳にはいかない。

 

 これで終わらせる。重症を負わせることになるだろうが、アーサーを止めてみせる。

 

「アーサーァァァァァ!」

 

 俺達は一斉にアーサーへと飛び掛かった。

 

「――ッ!!」

 

 閃光が爆ぜた――。

 

 視界が白く染まり、衝撃と遅れてやって来た轟音が全身を打ち付ける。防ぐ術もなく吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。何度も何度も身体が地面を跳ね、激痛を味わう。

 

 身体中の骨が折れた。内蔵も大きく傷付いた。半魔じゃなければ即死していただろう。

 それ程のダメージを負った。正直言って、致命傷一歩手前ってところだ。

 

 なんとか動かせる首を動かし、何が起きたのか確認する為に見渡す。

 

 大きな爆発によって辺り一面が砕け散っている。エリシア達は気を失っているのか、皆倒れていて動かない。

 

 アーサーがいた場所へ視線を動かす。そこには光の柱が立っており天を貫いていた。

 

 俺は手から離れて近くに落ちていたナハトを拾い、地面に突いて立ち上がる。激痛が全身を駆け巡るが、もう慣れた。

 

 光の柱へとナハトを引き摺りながら歩いて行く。

 

 もう魔力が無い。全身の負傷の処置で残りの魔力を使ってしまった。今は意地と根性で身体を動かしている状態だ。

 心臓の鼓動が煩い。呼吸もしづらい。今本当に歩いているのかどうかも怪しく思える。

 

 光の柱の前に立った。ナハトを持ち上げて肩に担ぐ。

 

 やがて光の柱が止み、中からナニかが現れた。

 

 ナニか――いや分かっているはずだ。アレはアーサーだ。

 

 例え、白い鎧殻を身に纏い、金の鬣を生やした姿であっても、だ。

 

「ハァ……ハァ……」

『……』

 

 アーサーは怪物の形相で俺を見る。蒼い眼が俺を睨み付ける。

 

「アーサー……お前……」

『そうだ……【俺】は至ったぞ――これが闇の魔法だ』

「どうしてお前が……その姿は……まるで魔族だ」

 

 アーサーの姿は力を持っていた俺が変身した姿と似ている。俺の内側に眠る魔の部分を剥き出しにしたような姿だ。その姿と今のアーサーは酷使している。姿だけじゃない、アーサーから感じる魔力もだ。

 

『これで俺は父と同じ存在になれた……兄さんとも同じに……。感謝するぞ、カイ。お前の力のお陰だ』

「まさかお前……自分の魂に干渉して……」

 

 アーサーが肥大化した蒼い剣を掲げる。

 俺もナハトを構える。

 

『兄よ……次はそちらの番だ』

 

 ズサッ――。

 

「――?」

 

 一瞬だった。瞬きする間も無く、何が起きたのか理解する暇も無く、気付けばアーサーが目の前にいた。

 ただ目の前に立っていただけじゃない。剣を握っているはずの腕が俺の胸に伸ばされていた。

 

 その握られているはずの剣が――俺の心臓に突き刺さっていた。深々と剣が突き刺さり、背中を突き出ていた。

 

 アーサーが剣を抜こうとしたその腕を掴み、アーサーの目を見つめた。アーサーも俺を見つめ返してくる。

 

『――今度こそ父と兄を取り戻す。さようなら、偽りの兄よ』

 

 

 

 

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