魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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これにて第四章勇者戦争は終わりです。
次回からはまた新たな物語が始まります。


第108話 エピローグ

 

 

 カイが死んでから既に一週間が経過した。

 

 カイが王に就いていたローマンダルフ王国は一時的に統治者を失った。

 だがカイは事前に自分が死んだ後のことを考えていた。

 生前、カイ自らが指名した者を王とし国を支えるようにと、予め用意していた。

 その者は民を想い、国を想う立派な志を持った青年だった。

 魂を視る力で彼の本質を見抜けたカイに間違いは無い。

 その者が完全なる王になるまでの間は、シオンが後ろ盾として動くことになっている。

 

 勇者が死んだことは人族の間に激震を走らせた。

 その死因も勇者同士の戦いによるものだと、どこからか漏れて知れ渡り、人々の間に争いの不安を植え付けることになってしまった。

 火の勇者ライア、地の勇者ガイウスは消息を絶ってしまった。ファルナディア帝国とイルマキア共和国は二人が仕出かしたことについて沈黙を貫いているが、そのため大陸中から非難の声が上がっている。

 

 そして魔王復活については、まだ知られていない。当事者同士で秘密にし、世界に混乱を齎さないようにしている。

 

 勇者同士の戦いは勇者の死と魔王復活という、最悪な結果を生み出した。

 それぞれに思惑があったとは言え、結果的に世界を災いに包み込む危険性を孕ませることになってしまった。

 

 エリシア、ユーリは国に帰って魔王の行方を捜すことにした。十中八九魔族の大陸であるだろうが、万が一の対応策も考慮しなければと、重い面持ちを見せた。

 

 二人もカイを失ったことに心を痛めており、カイを守れなかったことに憤りを感じていた。

 カイの葬儀では皆涙を流し、別れを惜しんだ。

 

「……」

「……」

 

 俺はカイの墓の前でカイのことをずっと考えていた。

 隣にはシオンがいる。

 俺達は言葉を交わすことなく、ただただ墓の前で時間が過ぎていく。

 

 やがてシオンから溜息の声が聞こえた。

 

「……はぁ、言いたいことがあるのなら言ってよ」

「……」

「……何なのよ、もう」

 

 俺はシオンに謝りたかった。

 

 シオンにカイを助けると約束した。

 だが結局は俺はアーサーを殺すという選択を取った。それは親父の研究について調べていたアーサーからカイを助ける方法を聞き出すという手段を捨てることと同じだ。

 

 つまり、俺はカイを見捨てたのだ。

 

 あのままではエリシアが殺されていた。それを言い訳にするつもりは無い。妹と弟、二人を天秤に掛けるなんて真似は、決して許される行為ではない。

 

 そして、カイは俺に命を与えた。自分の命を犠牲にしてだ。

 シオンにとって俺は、裏切り者でありカイの仇である。

 

「……ねぇ、クソ兄」

「……」

「……私が今考えている事、当ててみて」

「……」

「……今ね、アーサーと同じことを考えてる。どうやってお兄様を蘇らせようかって」

「……」

「そんな方法、無いのに……」

「……すまない」

 

 やっと出た言葉はその四文字だった。

 掠れた声で出た謝罪の言葉を聞いたシオンは息を呑み込み、白い息を吐き出す。

 辺りに薄く氷が張り、俺の左半身にも氷が張る。

 

 このまま氷漬けにされるのだろうか。シオンの怒りは尤もだ。俺を氷漬けにする権利は、シオンにはある。

 

「……お兄ちゃんが謝らないでよ……! お兄ちゃんが謝ったら、お兄様が滑稽じゃないっ」

「……」

「……覚えといて。その命はお兄様が与えたもの。もうクソ兄だけの命じゃないの。もし死のうとしたら……私が殺してやる」

 

 そう言ってシオンは立ち去って言ってしまった。

 

 氷が溶け出し、水が滴る。

 それはまるでシオンの悲しみを表しているようだった。

 

 この命はもう俺だけのではない――そんなのは、ララと契約した時点でそうだったはずじゃないか。

 どうして俺はこんなにも……こんなにも……約束を守れないんだ。

 

 鼻先に、水滴が落ちた。

 どんよりとした空から、雨が降ってきた。

 その雨にずっと打たれていると、急に雨が止んだ。

 

「センセ……」

 

 雨が止んだのではない。俺の頭上だけ、雨が弾かれている。ララが魔法で弾いてくれていた。

 

「ララ……」

「……帰ろう。風邪引いちゃう」

「……ララ、俺はお前に……謝らなくちゃ……」

「……いいよ、別に。センセが生きて帰ってきてくれた。それだけで、私は充分」

「……」

 

 己が惨めに思えてくる。

 

 救ってやりたかった弟を殺し、助けたかった弟は俺を助けて死に、妹との約束は破り、教え子との契約は破る。

 

 どうしてこんなにも俺は……どうしようもない役立たずなんだ。

 

「センセ……そう自分を責めるな。センセがそうだと……私も苦しい」

「っ……」

 

 そこで初めてララの顔を見た。

 

 ララは悲しそうにしていた。

 

 ――何をやってるんだ、俺は。

 

 ララを悲しませてどうするんだ。俺はこれからララを守らなければならない。七神からララを守らなければならない。それをどうして忘れていたんだ。

 

 いつまで己の世界に浸っている。俺にはまだ、ララを守るという約束があるだろう。

 

 手袋をはめた右手を見る。

 

 この身はまだ呪われている。勇者の力を一つ得たことによって今は抑えられてはいるが、呪いは再び命を蝕み始める。

 

 この呪いを解く方法も探さなければならない。ララを守るために、もっと力を手に入れなければならない。

 

 その為には……。

 

 ――光の予言書と闇の予言書を見つけ出しなさい。

 

「……ララ」

「ん……?」

「帰ろう、俺達の家に」

「……うん」

 

 先ずは原点に戻ろう。

 

 俺とララが出会った場所に――始まりの場所に。

 

 

 

 

 

 

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