魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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Tips

ルドガーの魔剣ナハトは、魔力を喰らい己の力にする、持ち主の力に還元する、呪いを打ち消す、三つの力を持つ。


第53話 黒魔道士とアサシン

 

 

 時が経ち、その日の晩――。

 ハーウィルの一角にある教会で、俺達は身を潜めていた。

 

 此処は何の事は無いただの教会ではあるが、此処に属する神父がクレセントの行いを日々緋弾しているのだ。それが原因でクレセントから脅迫状が届き、神父の身が危険に晒されている。

 クレセントのメンバーが次に襲撃を仕掛けるとすれば、この教会の可能性が高い。

 

 そう、神父は敢えてクレセントを緋弾し、囮として行動しているのだ。

 

 アーゼルから渡された資料の中に、今回の作戦計画書が挟み込まれていた。内容としては至って単純で、餌となった神父に食いついた黒魔道士達を捕縛し、拷問なり何なりして拠点の場所を聞き出す。末端であろうと、どうやって力を手にしたかを聞き出すだけでも価値のある情報源だ。

 

 神父は教会の礼拝堂で一人祈りを捧げている。祀ってあるのは当然雷神であるマスティア。双子の女神であるマスティア像を前に跪き、祈りの言葉を呟いている。

 

 俺とララとリインは礼拝堂の二階部分に隠れ、その様子を窺っていた。

 

「本当に来るの?」

「さぁな。ただ、来てもらわなきゃ、この仕事が続く。それは御免だ」

「……この教会、何か陰気臭い」

 

 ララが顔を顰める。

 

 まぁ、確かに少々古い教会のようだ。それに魔族にとって光の神を祀る教会というのは毒の領域のようなものだ。俺とララは半魔故にそこまで苦しくないが、それでも居づらさを感じる。

 

 此処はララの為にも早く仕事を終わらせたい所だ。

 

「……来たぞ」

「え? 本当?」

 

 教会の近くに不穏な魔力の気配を感じた。息を静めて待っていると、黒いローブを纏った者達が礼拝堂にゾロゾロと入ってきた。正面から堂々と入ってくるとは、それ程自分の力に過信しているのか、馬鹿なのか。

 

 黒魔道士と思われる者達は祈りを捧げていた神父を取り囲むと、一人の男が一歩前に出る。

 

「貴様か、我らクレセントを侮辱する不逞の輩は? 神父がそのような事を口にするとは……」

「貴方達……黒魔道士ですか? 貴方達は間違っている! 破滅の魔法をその身に宿そう等と! それは神を侮辱する行為です!」

「黙れ! 黒き魔法は人族を破滅から救う唯一の魔法だ! 崇高なる魔力を侮辱する者には黒き鉄槌を!」

「ひぃっ!?」

 

 黒魔道士の一人が両手に紅い炎を灯した瞬間、俺は背中のナハトをそいつの足下へと投げ付けた。ナハトが床に突き刺さり、神父と黒魔道士達の間を別つ。黒魔道士達が驚愕で怯んでいる間に二階から一階へと飛び降りた。

 

「だ、誰だ貴様!?」

「勇者の兄だ」

 

 ナハトを床から抜き取り、肩に担ぐ。

 

「神父、奥へ逃げてろ」

「た、頼みましたよ……!」

 

 神父を逃がし、黒魔道士達と対峙する。見たところ、魔力は確かに普通よりは強いが、それだけだ。他に何か特別なモノを持っているとか、如何にも肉体派とかそんなことはなさそうだ。

 

「おい、お前ら。大人しく組織の拠点を教えたら優しくしてやる」

「な、何を言ってやがる!? 貴様もクレセントに刃向かう不届き者だな!? 構わん! 神父まとめてやってしまえ!」

 

 ありきたりな台詞を吐き、黒魔道士達は魔力を高め始める。使う属性は火と、実に分かりやすい攻撃魔法だ。こんな所で火を撒き散らされたら大火災になってしまう。

 ナハトを使う訳にもいかず、ナハトを床に突き刺して素手で黒魔道士に立ち向かう。

 

「我、炎の――」

「遅い」

 

 一番近くにいた黒魔道士の鳩尾に拳を叩き込み、一撃で気を失わせる。そのまま黒魔道士の腕を掴み隣にいたもう一人に投げ付ける。

 

 対魔法使いの戦闘方法で一番有効なのは何だと思う? それは魔法を使わせる前に接近して叩くこと。

 こいつらは魔力が高いだけで戦闘に慣れていない。呪文も遅い、魔力を練り上げる練度も粗い。不相応な力を手に入れてはしゃいでいるガキと何ら変わりない。

 

 慌てている黒魔道士の腕を捻り回し、床へと叩き付ける。腕を放す前に肩の関節を外し、黒魔道士の口から悲鳴が上がる。

 

 残りは二人――。一方は何とか魔法を発動しており、火の玉を放ってくる。だがその魔法の出来映えは酷く、ただの拳で叩き落とせた。

 

 二人に接近し、それぞれの頭を掴んで叩き合わせる。それだけで気を失い、黒魔道士達を無力化した。

 

 いや、一人だけまだ動ける奴がいる。最初に気を失わせた奴をぶつけた奴だ。そいつは意識を失っている黒魔道士の下で俺を怯えるような目付きで見上げていた。

 そいつの襟元を掴み、下敷きから引き摺り出す。

 

「さーて、とっとと答えてくれ。拠点は何処だ?」

「し、知らない!」

「……なぁ、よく見ろ。アイツは肩を外され、アイツらは頭を叩き割られてる。もうあれ以上酷いことはされないだろう。だけどお前はどうだ? ん? 全くの無傷だ。軍は何としてでも組織の場所を吐き出させようと血気盛んだ。そんな奴らの前に無傷のお前を突き出してやろうか? きっと想像だにできない拷問を行うだろう。それとも、今此処で素直に吐いとくか? そうすれば拷問なんかにはかけられないぞ」

 

 俺は少し苛立っていたかもしれない。気に食わない奴らからの仕事で鬱憤が溜まっているのかも。俺の前で頑なに口を閉じている奴の指を掴み、グッと力を入れる。折れるまではいかないが、そのギリギリで止めて痛みを与える。

 

「此処で指を折っても拷問はされる。だから吐いとけ、俺もお前を拷問送りにはしたくない」

「ほ、ほんとに知らないんだ! 嘘じゃない!」

「……大人なら聞き分けを良くしておくんだったな」

 

 脅しが本気だということを教えてやろうと指を折ろうとしたその直前、真上から殺気を感じ、黒魔道士を放り投げて後ろへと跳び退いた。

 

 直後、黒装束に身を包んだアサシンが俺の立っていた場所にダガーを突き付けて上から降ってきた。

 

 ナハトを拾い、アサシンへと向ける。

 

「ほぉ? 俺の攻撃を避けたか……殺気が漏れちまったかな?」

「……何者だ?」

 

 アサシンは赤い髪の隙間から蒼い眼を覗かせ、ニタリと嗤う。ダガーをクルクルと回し、如何にもダガーの扱いに長けているとアピールする。

 

「し、執行官殿……!」

 

 倒れている黒魔道士がアサシンをそう呼んだ。

 

 執行官? 役職か何かか?

 

「久々に張り合いのある殺し合いができそうだァ……!」

「っ!」

 

 アサシンが風のような速さで接近してきた。ナハトで振るわれたダガーを受け止め、蹴りを放つ。蹴りはアサシンの蹴りによって止められ、拳が返ってくる。その拳を左手で逸らし、アサシンの首下を掴んで後ろに投げた。

 

 アサシンは猫のように宙で体勢を整え、柱に着地してバネのように帰ってくる。俺は礼拝堂の長椅子を掴み、力任せに持ち上げてアサシンへと叩き付ける。流石に長椅子で反撃してくるとは思っていなかったのか、驚いた顔をしたまま長椅子を横から喰らい、他の長椅子を壊しながら床に転がり込んだ。

 

 こいつ、身体強化系の魔法を常時展開してるな。動きも戦闘、いや殺し慣れてる動きだ。戸惑いも無く、急所を常に狙ってきている。

 

「ルドガー!」

「来るな! ララを守ってろ!」

「……センセのバカが」

「あ、ちょっ、聖女様!?」

 

 上でララが何かをやったらしい。だが其方を確かめる暇は無い。この狭い礼拝堂の中で不利なのは大剣を扱う俺だ。相手の動きは素早く、おそらく一撃でも受けたら致命傷。形からして刃先に毒を塗っていてもおかしくない。俺に大抵の毒は効かないが、それでも用心しなければならない。

 

 アサシンは長椅子の瓦礫から飛び上がり、小さなナイフを複数投げ付けてくる。そのナイフをナハトで薙ぎ払い、次いで飛んで来たアサシンの一撃を受け止める。

 動きは素早く攻撃は的確だが、力はそこまで無い。大丈夫だ、勝機は此方にある。

 アサシンは何度もダガーを突き立ててくる。喉、心臓、動脈、一撃で致命傷を与えられる場所を狙ってくるが、その攻撃を全て捌いていく。

 接近戦では勝てないと判断したのか、アサシンは距離を取る。いつの間に魔力を練り上げていたのか、ダガーを持っていない左手に雷が纏っていた。

 

「そらぁ!」

「呪文無しか!」

 

 振るわれた左手を起点に、床を跳ねるようにして雷が襲い掛かってくる。

 威力も下位以上だが、この程度の雷魔法なら俺には効かん。

 迫り来る雷に左手を翳し、アサシンの雷を雷神の力で操る。雷を左手に吸収し、逆にアサシンへと放出する。

 

 アサシンは予想外の現象に驚き、雷を真面に喰らう。そのまま壁まで吹き飛び、気を失ったようにだらりと崩れ落ちる。

 

 終わったか……。

 

「ひ、ひぃぃ……!? 執行官殿が……!?」

「おい、どうやら俺達の知らない事を知ってるようだな……。お前を軍に引き渡す」

「く、くそぉぉ!」

 

 黒魔道士が懐からナイフを抜き取り、俺に襲い掛かってくる。

 当然、そんな攻撃が当たるわけもなく、ナイフを手刀で叩き落とし、黒魔道士の首筋に打ち込んで気絶させた。

 

 その一瞬の隙が、アサシンに最大の好機を与えてしまったらしい。

 

 気付いた時にはアサシンがすぐ後ろまで迫っており、ダガーを突き立てていた。

 アサシンに対処しようとしたその瞬間、真横からララの魔力を感じた。

 

「シル・ド・インプルスズ!」

 

 風の衝撃がアサシンを横から殴り飛ばし、アサシンは礼拝堂の窓を突き破って外へと飛んでいった。

 アサシンの気配はそのまま遠くなっていき、この場から逃げ去ったみたいだ。

 

「……」

「センセ」

「ララ、助かったよ――」

「フンッ」

「アイテッ!?」

 

 ララが突然俺の脛を蹴り上げた。

 何をするんだと睨むが、ララは頬を膨らませて不貞腐れていた。

 

「センセ、私だって戦える」

「い、いやでもなぁ……」

「戦える!」

「……悪かったよ。一緒に解決しような」

「うむ」

 

 俺の言葉に満足したのか、ララは満足げに頷く。

 一緒に降りてきたリインは肩をすくめ、「私がちゃんとしなきゃ」と謎の意気込みを見せる。

 

 一先ず、無力化した黒魔道士達を拘束し、軍に引き渡す準備をするのだった。

 




Tips

今のルドガーは怪我をしても瞬時に再生するが、雷神の力を有する前は数日掛かった。
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