魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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第56話 ララの心情

 

 

 アスガル王国。その歴史は一番古いと云われる。

 

 最初に世界に降臨したのが光の神リディアスであり、最初に興した国であると云う。一番神の信仰に深く、その姿勢はエルフ族にも迫るモノがある。

 毎日同じ時間に同じ方角へ祈りを捧げるその光景は一種の絶景とも言える。祈りを捧げる方角には、リディアスの聖遺物が保管されている遺跡がある。

 

 アスガル王国の王都ミズガルは五角形の城壁に囲まれた都市であり、その周りは麦畑で囲まれている。河から水を引き、刈り入れ前の畑は正に光と揶揄しても過言では無い黄金色が広がる。

 丁度今の季節がそうであり、俺達の眼前には黄金色に染まっている麦畑が広がっている。

 

 また、アスガル王国は人族の大陸で唯一『騎士制度』を取り入れている国である。

 騎士制度――その昔存在していた騎士を階級に取り入れ、地位を与えるもの。

 騎士は王族の次に権力があり、軍の指揮系統を担う存在であり、光の神の名の下に審判を下す執行者でもある。

 騎士になるには選ばれた血族か、その血族から認められた力ある者だけである。

 特に後者は稀であり、殆どは血縁だけで選ばれている。

 

 アスガルに住まう者の特徴として、常に白いローブを纏っていることだ。女性に至ってはフード、もしくはフェイスベールを着用している。

 

「――ってのが、アスガルの掻い摘まんだ説明だ。分かったか?」

「ああ、分かった」

「綺麗な光景ねぇ……」

 

 俺達は数日を掛けてアスガル王国へと辿り着いた。

 

 ハーウィルの黒魔道士事件解決後、俺達はすぐにハーウィルを発った。

 アーゼルから齎された情報に、クレセントの本拠地がアスガルにあるというのがあった。

 

 それを聞いた俺は益々アーサーが黒き魔法に関わっている現実味を強く感じてしまった。居ても立っても居られず、アーゼルから情報を纏められた資料を受け取りアスガルへと出発した。

 

 ヘクターにはアーゼルからアスガルにアクションをしないように進言させた。俺が問題を解決するからと伝え、ゲルディアスから余計な手出しをさせないように釘を打った。

 

「これからどうするんだ?」

「……先ずはミズガルに宿を取る。アスガルの国王とは繋がりが無い。時間を掛けてアーサーを探す。チャンスがあれば王族に謁見してアーサーの話を聞く」

「分かった」

「了解よ」

 

 俺達はミズガルへとルートとフィンの足を進めた。

 

 城門を潜り、街を闊歩する。ミズガルは魔導技術が取り入れられておらず、白い石で建物と道が築かれている。太陽の光で美しく輝き、その美しさはヴァーレン王国に劣らない。

 

 馬の世話をしてくれる宿屋を探し、そこに部屋を取って一先ず休憩する。今回は二部屋取り、ララとリインは一緒の部屋にした。

 

 部屋のベッドに寝転がりながら、アーゼルから受け取った資料に目を通す。

 

 禁断の果実は七属性の魔力を帯びており、それを口にした者は皆、高い魔法力を得て魔法を使えるようになった。その代わり拒絶反応を起こし廃人となってしまう。それを防ぐために三日月型の魔法の刻印が身体の何処かに刻まれる。

 

 禁断の果実……これはおそらく自然界に存在する物じゃない。何者かが作り出した造物。それを量産してハーウィルに、いや、世界中に散蒔いている。

 

 アスガルにクレセントの本拠地があるのなら、禁断の果実は十中八九アスガルから流れ出ていることになる。

 

 問題はそれが何処にあるかだ。本拠地の正確な場所までは掴めず、アスガルの首都ミズガルにあることしか分からない。

 

 もし――もしだ。もしアーサーがクレセントに関わっているのなら、そう簡単に見つかるような場所に拠点を造る訳がない。アイツはアスガルにとって上位の立場にあり、王家と同等の扱いを受けている。いくらでも隠し場所など用意できるだろう。

 

「アーサー……今どこで何をしている?」

 

 ――コンコン。

 

「ん?」

 

 部屋の扉がノックされた。念の為、ナハトを手にしてから扉に近付く。

 

「誰だ?」

『私だ、ララだ』

「ララ?」

 

 扉を開けると、寝巻姿のララがそこにいた。中に招き入れると、ララは俺のベッドに座り込む。

 

「どうしたんだ?」

「……」

 

 ララは隣をポンポンと叩く。

 隣に座れということだろうか。言われるがまま隣に座ると、俺はララにベッドへ押し倒された。

 突然の事に目を白黒させるが、俺の胸に顔を沈めているララの肩が震えているのに気が付く。

 

「どうしたんだ?」

「……光の勇者は……味方じゃないかもしれないんだろ?」

「……あぁ、そうか」

 

 理解した。

 ララは怖がっている。エリシアの時とユーリの時は味方であると分かっていた。それでもララは勇者に会うのを怖がっていた。

 

 魔王の娘であり、魔族の聖女であるララは、世間一般的に見れば人族の敵に価する。

 勇者は人族の味方だ。ララにとって最大の敵になり得る存在だ。

 

 そして今回、光の勇者であるアーサーは味方とは限らない。もしアーサーが敵だった場合、ララがアーサーに狙われる可能性が高い。

 

 そのアーサーがいるかもしれないミズガルに、ララは勇気を振り絞って来ている。

 俺の家族の問題だからと、ララは恐怖を押し殺して付いてきてくれている。

 

 リインのことを信頼していない訳ではないのだろうが、それでも部屋違いなだけであっても、俺と離れるのが怖かったのだろう。

 

 俺はララの頭を撫で、ララを落ち着かせようとする。

 

「大丈夫だ、ララ。お前は俺が絶対に守る。どんなに危険な目に遭ったとしても、必ず最後には助け出す。お前を守り続けることが、お前との契約だ」

「……守られてばかりなのは嫌だけど、私は守られなければ生きていけない」

「それの何が悪い? お姫様は守られるのが王道だ」

「お姫様なんて……好きでなった訳じゃない」

「そうだな……お前は俺にとってただの女の子だよ。唯一の同族の、大切な教え子だ」

 

 そうだ。俺にとってララは魔王の娘でも聖女でもない。俺の同族で、俺の大切な教え子だ。最早家族だと言っても良い。

 この子が抱えているしがらみを代わりに抱えてやれるのなら、喜んで抱えてやる。

 

 だけどそれはできない。だからせめて、この子は何が何でも守り通してやる。

 

「ほら、部屋に戻れ」

「……今日はここで寝る」

「え? マジ?」

「マジ」

「……明日、リインにどやされるな」

 

 未だに少し震えるララを腕に、俺達はそのまま眠りについた。

 

 こうしてララと一緒に寝るのは初めてだ。いつも尊大な態度をとるような子だが、こうして見れば小さくて可愛い女の子じゃないか。

 

「おやすみ、ララ」

「おやすみ、センセ」

 

 翌朝――リインが鬼の形相で剣を振り回してくるのだった。

 

 

 

    ★

 

 

 

「そうか……とうとう来たか」

『はい』

 

 水晶玉に映し出されるグリゼルの姿を背後に、金髪の青年は言った。

 青年の顔は平然としたものだったが、どこか嬉しそうな雰囲気を醸し出している。

 

「今、どこに?」

『ミズガルの宿に宿泊しているようです』

「……なら、そろそろ僕も行動に出るとしよう」

『我が君、魔王の娘は如何なさいますか?』

 

 青年はピクリと反応し、少し考える素振りを見せる。

 

「……兄さんだけで充分だが、予備は必要だ。捕らえるさ」

『御意』

 

 水晶玉のグリゼルは姿を消した。

 青年はその場から歩き出し、窓からテラスに出る。

 そこはミズガルの城の一角であり、ミズガルを一望できる場所であった。

 

「兄さん……父さんを殺した報いは……受けてもらうよ」

 

 青年――アーサー・ライオットの蒼い瞳には、憎悪の炎が宿っていた。

 

 




Tips
ルドガーは童貞ではない。
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