魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。 作:八魔刀
右頬に大きな紅葉を付けながら、俺はミズガルの街中を歩いている。
後ろにはご機嫌なララと不機嫌なリインが付いてきている。
現在、俺達は街の住民に聞き込みを行っている。光の勇者アーサーが何処に居るのか、最後に目撃されたのは何時なのか、何か変わったことはないかと聞き回った。
すると不思議なことに、三年もの間音信不通だったというのに、ミズガル内ではアーサーは日常的に目撃されていると言う。最後に街で目撃されたのは凡そ一週間前。それ以前はよく街を警邏していたらしい。
今アーサーがどこに住んでいるのかと問えば、住まいは城にあると返ってくる。
城はかなり厳重であり、関係者以外は立ち入り禁止。謁見も一定の立場の者しかできず、俺達にその権限は無い。アーサーの義兄であったとしても、この国での俺の知名度はあまり無い。
俺は確かに魔王を殺してはいるが、表向き殺したのは勇者になっているし、その真実を知っているのは大戦当時の王達と極々一部の者達。この国の王も俺のことを知ってはいるが、俺を嫌う一人でもある。特別な理由が無い限り門前払いを受けるだろう。
昼時、街の酒場で昼食を摂りながら、これからどうするかを考える。
「ねぇ、光の勇者様が御健在なら、目的は殆ど達成したものじゃないの?」
ふと、リインがそのようなことを口にした。
確かに、俺の最初の目的であるアーサーを探すという目的はほぼ達成させたようなものだ。城に住んでいると言うし、ここ一週間は違うが日常的に警邏もしているという。それだけ知れれば、別に会わなくともエリシアに報告できる。
だが事はそんな単純な話ではなくなっている。アーサーが黒き魔法に関わっている可能性がある。それに船上で襲われた件も、アーサーが何か企んでいるのは間違いない。義兄として、それを明かした上で止めなければいけない。
「アーサーの目的をはっきりさせないことには、帰れないよ」
「……ねぇ、光の勇者様ってどんな人なの?」
「それは私も気になる」
酒場のカウンターでジョッキを傾けながら、アーサーのことを思い出す。
「アイツは……そうだな。一言で言えば生真面目だ。それに頑固。一度決めたら絶対に曲げない。正義感も強くて、一番勇者らしい青年だよ」
「ふーん……。どれぐらい強いの?」
「勇者の中で一番強かったな。光の魔法と剣技、それから人族の技である盾技を駆使する」
その時、俺の隣のカウンター席に客が座った。
俺は気にせず話を続ける。
「よくエリシアに懐いていた。エリシアが俺に付いて回るから必然的にアーサーも付いて回った。だからいつも俺のことを嫌ってた。姉さんを盗るからだって」
「可愛らしいじゃない」
「あのゴリラ女に懐く? 信じられんな……」
今思い返せば、幼い頃のアーサーは可愛いもんだった。一番年下ってのもあるが、あいつは何だかんだ言って家族が大好きな奴だった。親父にも一番懐いてたし、エリシア以上に親父に付いて回っていた。
「そう言えば、親父と戦うのもアイツが最後まで反対していたな――」
「そう――そして兄さんは父さんを殺したんだ」
刹那――。
俺は顔面を強打されカウンター席から吹き飛ばされた。そのまま入り口を突き破り、外まで転がり出る。打たれた箇所から全身に渡って焼けるような激痛が走る。上手く身体に力が入らず、地面の上でのたうち回る。
「は、離せ!」
「ッ!? ララ!」
ララの声が聞こえた瞬間、魔力を練り上げて全身に走る『光の魔力』を打ち消す。立ち上がってナハトを握ると、ララの手首を掴んだ青年が突き破られた入り口から出て来る。
。
金髪に蒼い瞳、白いコートと白銀の軽装を纏った若い男だ。腰には剣を携えており、鋭く冷たい視線で此方を睨み付けている。
「……ララを離せ」
「……ララ、と言うのか。父さんの娘は」
「っ、父さん……!?」
チラリと、酒場の中へと視線をやる。どうやらリインも彼にやられたようで、潰れたカウンターに身体を沈めて痛みを堪えていた。
「いったい何の真似だ、アーサー……!?」
俺を殴り飛ばし、ララの手首を掴んでいるのは光の勇者であるアーサー・ライオットだ。
五年ぶりの再会は、どうやらかなり面倒な状況に陥ってしまっているようだ。
俺達の周りを、白銀の鎧を纏った兵士達が取り囲み、アーサーはララを兵士に引き渡した。
「さ、触るな! センセ!」
「ララ!? アーサー! ララを離せ!」
「離してほしいか? なら、そうさせてみろよ」
アーサーが剣を抜いた。周りの兵士達は手を出さないようだ。
何が何だか分からないが、やることは分かりきっている。
馬鹿な愚弟を叩きのめしてララを助け出すことだ!
「アーサー!」
「ルドガー!」
俺とアーサーの剣がぶつかり合う。
アーサーの剣技と力は俺よりも僅かに劣るが、魔法力で圧倒的大差を付けられる。盾技も相当な腕前。使われる前に――!?
「お前、盾はどうした!?」
アーサーは盾を持っていなかった。剣一振りだけで、どこにも盾らしき装備が見当たらない。
「盾など、とうに捨てたさ!」
ガキンッ、と俺の剣が大きく弾かれる。
以前よりも力が上がっている。殺す気の本気じゃなかったにしろ、俺が力負けするとは思わなかった。
「ルドガー、よく僕の前に顔を出せたな」
「なに?」
「父を殺しておいて……よく僕の前に顔を出せたな」
「っ――、お前、まだ……!?」
――何で父さんを殺すんだ!?
――僕達の父親じゃないか!
――兄さん! 駄目だ!
あの時の、アーサーの叫びが脳裏で木霊する。その声に気を取られ、動きを止めてしまった。
アーサーが懐に入ってくる。下から振り上げられた剣を辛うじてかわし、返す刃で振り下ろされた剣をナハトで受け止めると、重すぎる一撃に膝を着いてしまう。
「ぐっ!?」
「だけど来てくれて助かったよ。これで復讐を果たせる」
「復讐……!?」
「ルドガー兄さん……父さんの為に死んでくれ」
「あがっ!?」
顎を蹴られ、後ろに転がる。
その隙にアーサーが剣を上に掲げ、光を剣身に集束していく。
俺はナハトを盾にして全力で防御障壁を展開する。
「――ライト・オブ・カリバー」
アーサーが振るった剣身から、光の斬撃が集束した砲撃が放たれる。
光に呑み込まれた俺は衝撃と共に吹き飛ばされ、意識を失った――。
「センセ!? センセェ!」
光に吹き飛ばされ、空高く消えていくルドガーを見て、ララは悲鳴を上げる。
剣を鞘に収めたアーサーは乱れた髪を整え、ララへと向き直る。
その時、酒場からリインが飛び出し、アーサーへと斬りかかる。
しかしアーサーは拳一つでリインを地面に叩き落とし、リインは意識を狩られてしまう。
「牛女!?」
「衛兵、コイツらを城へ連行しろ」
「くそっ! 離せ!」
ララは兵士達に引っ張られ、連行されていく。意識を失っているリインも拘束されてしまう。
「センセェ! センセェェ!」
「……奴ならまだ生きてるさ――まだ生きててもらわなきゃ困る」
アーサーはルドガーが消えていった空を一瞥し、そう呟いた。
Tips
幼い頃、ルドガーとエリシアが弟と妹の食事を作ってやっていた。