魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。 作:八魔刀
――目覚めよ。
――誰だ……?
――目覚めよ……我が……。
――誰なんだ……?
――目覚めよ、ルドガー。
「はっ……!」
目を開けて最初に飛び込んできた光景は森だった。身体を起こそうと力を入れると、腹と背中に激痛が走った。触って見ると、大きな木の破片が胴体を貫いていた。力任せに破片を抜くと、一気に出血するがすぐに傷が塞がる。
我ながら、もう人の要素は姿形しか残っていないのかもしれないと嗤笑する。
修復魔法で装備を直し、立ち上がって周囲を見渡す。
見渡す限り森しか見えず、何処まで飛ばされたのか分からない。
そも、ミズガルの周りに森なんか無かったはずだが、いったい此処は何処だ?
ナハトも手元に無く、手を翳して呼び寄せを試みる。だがナハトは戻ってこず、呆然と立ち尽くす。
「……ララ。そうだ、ララ!」
ララがアーサーに掴まった。何の目的でララを捕まえたのか知らないが、ララが『敵』の手に落ちた。おそらくリインも掴まっているはずだ。何とかして早く助け出さなければ。
というか、何でアーサーはララに触れることができた? 不完全ではあるが、ララには守護の魔法が掛けられている。悪意ある者が触れれば魔法が跳ね返すはずだが。
「……悪意が無かった? ララを拘束した兵士にも?」
そんなこと有り得るのか? だとしたらとんだ抜け穴だぞ。
だがそうだとしたら少なくともララに何かしらの危害が加えられることは――いや、それは甘すぎる。悪意がないだけで何の目的も無いはずがない。
「くそっ、何処だよ此処は?」
一先ず周囲を散策してみよう。空を飛べば分かりやすい。
そう思い、風神の力で風を操ってみせる。
だが風は一向に操れず、飛ぶことができなかった。
「何でだ……?」
試しに雷神の力で雷を生み出そうとしてみる。
結果、何も起きなかった。
二つの勇者としての力が使えなくなった。その前例はある。
風の試練に挑む時、雷神の力は使えなかった。
今回もそれに感覚が似ている。
ならば此処は光の神殿なのか? いや、前回来た時と全く景色が違う。森なんか無かったし、そもそも光の神殿は特別な手段を用いなければ辿り着けない場所だ。アーサーに吹き飛ばされて偶然入れる場所じゃない。
兎も角、此処で立ち止まっている訳にはいかず、森を歩いてみた。ナハトが手元に無く、戦力が落ちているが仕方ない。他に武器になりそうな物をポーチから取り出す。
普通の予備の剣を持ってきていて良かった。何事も備えあれば憂い無しって奴だ。
剣を腰に差して森を歩き回る。随分と深い森で、まるで熱帯雨林のようだが、気温は常温といった所だ。野生生物の姿も無ければ怪物の姿も見えない。
いったい此処は何処なんだろうか……。
暫く開けると、少し拓けている場所に出られた。そこは丁度崖上のようで、更に下に広がる森を見下ろせる場所だった。
そこで見えた物は驚きの光景だった。
「どうなってんだ……? ここ、光の神殿じゃねぇか……!」
下に広がる森を更に進んだ場所に、どっしりと佇む城のような神殿があった。森に囲まれ、壁や屋根にも植物が生えて、まるで森に呑み込みかけられているような姿だ。
この五年の間に森が生まれた? 神殿に力が宿った影響なのか?
内に宿る雷神と風神の力が光神の力に強く反応している。
ララとリインを今すぐに助けに行きたい。
だが此処へ飛ばされたのは偶然ではないのかもしれない。今の俺ではアーサーに太刀打ちできない可能性が高い。光神の力を手に入れたらアーサーにも勝てるかもしれない。
二人を助け出せる力が欲しい――。
「……待ってろよ、二人とも」
俺は崖から飛び降り、崖下の森へと潜った。全力疾走で森を駆け抜けていき、最短距離で神殿へと向かう。
その途中、殺気を感じて飛び上がる。
すると鋭い爪と尻尾を持った四足歩行の怪物、インペトゥムの群れが襲い掛かってきた。
インペトゥムは素早い動きで鋭い爪と尻尾を使って腸を斬り裂く獰猛な怪物だ。どうやら神殿を守っているのか、俺を神殿へ近付けさせないようにしている。
俺は剣を抜き、魔力を練り上げる。剣身に魔力を這わせ、強度と斬れ味を強化する。
「悪いがゆっくり相手してる暇は無い……押し通らせてもらう!」
地を蹴った。まっすぐ駆け抜け、邪魔をするインペトゥムだけを斬り裂いていく。赤い血飛沫を浴びながらインペトゥムの群れを突破していく。
剣で斬れないタイミングで襲い掛かってきたインペトゥムの首を掴み、地面に叩き付けてそのまま引き摺る。近寄ってきたインペトゥムにそいつを叩き付け、二体同時に剣で両断する。
純粋な魔力を剣身に込め、地面に叩き付けながら魔力を解き放つ。衝撃波となって複数のインペトゥムをズタズタに引き裂き、突破口を生み出す。
「ハァァァァア!」
剣を縦横無尽に振り回し、インペトゥムを細切れにして群れを抜け出した。真っ直ぐ神殿へ駆け出し、森を走る。
気が付けば、怪物の血を全身に浴びた状態で神殿の入り口前に辿り着いていた。
魔法で水を出して被り、血を洗い流す。火の魔法で装備を乾かしてから神殿へと突入する。
光の神殿に来るのは二回目であり、一回目はアーサーが試練に挑む時だった。
あの時は既に他の勇者達の試練が終わっており、楽に試練まで到達できた。
思えば、どうして俺だけ勇者の力が使えなくなっているのだろうか。あの時はエリシア達は力を使えたのに、今の俺は使えない。
試練に挑戦する者だからか? それともエリシア達が持つ力とは違うからか?
分からないが、今の俺は力を封じられている状態だ。腹の傷がすぐに塞がったのを見る限り、再生能力は失われていないようだが、だからと言って油断は禁物だ。流石に首を落とされたら即死だろう。
入り口から入りホールを歩いていると、どこからから薄気味悪い笑い声が聞こえてきた。
『ウフフフフ……』
「誰だ?」
『私でございます』
俺の前に霞みが集まり、人型を作っていく。
そして現れたのは船上でグリゼルと名乗ったフードを被った女だった。
「再びお目に会えたこと、嬉しく思います」
「どうだか……。いったい何が目的だ? お前の言う我が君ってのは、アーサーのことか?」
グリゼルは笑うと、ゆっくりとフードを取り去る。
フードの下から現れた素顔に俺は目を疑った。
「アーゼル……!?」
その顔はハーウィルに居るはずのアーゼルだった。
彼女は薄く笑うと首を横に振る。
「いいえ、それは我が妹の名」
「妹……? ハッ、姉妹揃って何を企んでいる?」
「勘違いなさらぬよう、我が妹は私の敵……一緒にしてもらっては困ります」
「どうでもいい。何を企んでる?」
「我が君の悲願。それだけでございます。その為にルドガー様……貴方様のお力を試させていただきます!」
グリゼルが両手を大きく開くと、彼女の頭上にいくつもの魔法陣が展開され、そこから魔力が射出される。
その魔力を全て剣で斬り裂く。
「……良いだろう。こちとらララとリインを攫われて自分の不甲斐なさに憤ってんだ。八つ当たり、させてもらうぞ!」
グリゼルに剣の切っ先を向け、俺は吠えた。
Tips
ララの得意料理は薬草をスパイスに用いたビーフシチュー。