魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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第63話 ミズガル戦

 

 

 ミズガルに戻った俺を待っていたのは静寂だった。

 通行人の一人も居らず、風が流れる音だけが聞こえる。

 

 よく見ると、建物の窓からいくつもの顔が覗いている。それはそこに住まう民達ではあるが、どこか様子が変だ。まるで何かに取り憑かれてるかのように呆然と此方を見ている。

 

 アーサーが何かをしたのだろうか? それともグリゼルが? いずれにせよ、此処に戻ってきたのは罠に飛び込むようなものだったか。

 だが飛び込まなければララとリインを助け出せないのだと言うのなら、喜んで飛び込んでやろう。

 

 光のガントレットとレギンスを展開し、いつ襲われても対応できるようにする。

 大通りを歩いていると、何処からともなくアスガルの兵士達が現れ、俺を取り囲む。

 

 やはり罠か、そう考えていると兵士達の先頭に派手な騎士甲冑を身に纏った者が出てきた。

 背中にはナハトよりも大きな剣を背負っており、纏う雰囲気もただ者ではなかった。

 

「騎士――か」

 

 騎士、唯一アスガルに存在する嘗ての遺物。軍系統の上を担い、血統や稀な実力によって認められる存在。

 

 おそらく、目の前にいる奴がそうなのだろう。

 

 大戦時代でも騎士は前線に出てはいたらしい。一緒に戦った経験は無いが、その時戦っていた騎士の実力は確かなモノだったとは聞いている。

 目の前の奴が大戦時代を経験しているのかは知らないが、一筋縄ではいかなそうだ。

 

「有罪人――発見――死刑――執行――」

 

 覇気の無い声でそう言うと、騎士は背中の剣を抜き取り、高々と掲げた。

 すると他の兵士達も剣を抜き取り、盾を構えた。

 

「罪人――断罪せよ――」

『オオオオオオ』

 

 騎士が剣を振り下ろすと、兵士達が不気味な雄叫びを上げて迫り来る。

 

 何だ? 何か様子が変だ?

 

 迫り来る彼らに違和感を抱きつつも、彼らの攻撃に対処していく。

 ガントレットとレギンスに魔力を回し、死なない程度に攻撃を加える。

 

 俺の拳が直撃した兵士達は吹き飛んでいくが、すぐにモゾリと動き出し、再び剣を振るってくる。

 

 嘘だろ? 本気で無いにしろ、人族なら一撃で意識を刈り取れる威力だぞ? 何でまだ動ける?

 

 攻撃を喰らってもすぐに動き出してくる兵士達を見て、俺は不気味さを拭えなかった。

 その不気味さの正体を確かめるために、一人の兵士を捕まえて兜を強引に外した。

 

 するとそこに広がっていた光景は驚くべきものだった。

 

「ゥァー……」

「っ!?」

 

 人ではなかった。

 いや、人であったものだった。

 顔は青白く、黒い涙を流し、人としての意識は皆無だった。

 

「これは……!?」

 

 他の兵士の兜も外して確かめてみると、最初の兵士同様、人成らざるモノへと変貌してしまっていた。

 

 これはドラキュラが人を眷属にするものや、ゾンビが仲間を増やす方法に近い呪いだ。

 だが彼らが来ている鎧は銀だ。ドラキュラやゾンビなら銀に弱いはず。

 ならこれは何だ? 俺の知らない呪いか? 解く方法は? 彼らを救う方法はあるのか?

 

「――」

 

 違う……そうじゃない。俺の目的は何だ? ララとリインを助け出すことだろ。

 彼らを救うことじゃない。

 だけど、彼らをこのまま見捨てても良いのか? それが勇者の兄として正しいことなのか?

 ここで彼らを見捨ててしまっては、二度と勇者の兄と名乗れなくなるのではないのか?

 

「……」

 

 彼らは俺を殺しに来ている。そこに躊躇など一切無い。操られているとしても、もはや彼らは人ではなくなってしまっている。

 

 もはや人に戻すことなど――できやしない。

 

「――すまん」

 

 俺は一人の兵士の頭を拳で吹き飛ばした。鮮血が舞い、脳髄が散蒔かれる。

 

 せめてもの救いは、彼らを楽にしてやること。

 俺はその為に、再び手を血で染める。

 

 手刀から魔力を放ち、拳から衝撃波を放ち、蹴りから斬撃を放ち、兵士達を肉塊へと変えていく。

 全身に返り血が降り掛かり、黒を赤黒く染めていく。

 

 そして最後の兵士を殺し、残っている騎士と対峙する。

 あの騎士も、きっと人成らざるモノへと変えられているのだろう。

 

 ナハトを抜き取り、構える。

 ナハトには呪いを断ち切る力があるが、その為には斬る必要がある。彼を斬って呪いを解いたとしても、命を刈り取ることに変わりない。

 

「死刑――執行――」

「――来い」

 

 俺と騎士は同時に駆け出した。

 騎士は大剣を振り下ろし、俺はそれに合わせるようにしてナハトを振るった。

 大剣と大剣が打ち合い、火花を散らす。

 騎士の力は凄まじいモノだった。ガントレットを装備していなければ力負けしていたかもしれない。

 騎士は大剣を更に振るう。こちらも負けじとナハトを振るい更に打ち合う。

 

 騎士の剣技は見事なモノだ。おそらく、操られる前は立派な騎士だったのだろう。

 叶うことなら、人である時に正々堂々と戦いたかったものだ。

 

 しかし今は違う。人成らざるモノになってしまい、見事な剣技でも単調な動きになってしまっている。魔力で相手の動きを読んでしまえば、対処することは容易だ。

 

「オオオオ――」

「――すまない」

 

 上段から振るわれた大剣を、ナハトで逸らし、騎士の両腕を斬り付ける。手首から下を失い、大剣を落とした騎士の首を、ナハトで刎ねた。

 

 生前は立派な騎士であったであろう彼は、そのまま物言わぬ肉塊へとなってしまった。

 

「……アーサー……!」

 

 アーサーに怒りが湧く。

 

 あんなにも正義感が強く、真面目なアーサーが、此処まで堕ちてしまった。

 どうして? 俺が親父を殺してしまったから? アーサーの心が弱かったから?

 アーサー……アーサー……俺の義弟よ……。義兄はどうすればいいんだ……。

 

「……くっ」

 

 ナハトを背負い、俺は城へと急いだ。

 城には更に兵士達が待ち構えているだろう。

 それを突破してララとリインを救い出し、アーサーを一発ぶん殴ってやらなければならない。

 

「アーサァァァ!」

 

 

 

    ★

 

 

 

 ――アーサァァァ!

 

「――聞こえているよ、兄さん」

 

 城のテラスで、アーサーは城へと向かってくるルドガーを見下ろしていた。

 後ろには手枷を付けられたララとリインが立たされていた。

 アーサーは後ろに二人に振り向くと、淡々と口を開く。

 

「ルドガーは力を手に入れた。これで黒き魔法に耐えうる肉体になった」

「くっ……」

「……」

 

 リインは周りを見た。控えている兵士は二人だけであり、アーサーは離れた場所にいる。

 

「父を蘇らせる下拵えは完了した。此処からは憂さ晴らしだ。父を殺した兄を痛めつける」

「センセはお前に負けやしない」

「どうかな? 僕は彼に負けたことが無い」

「それは勇者の力を手にする前だろう? 今は三つも持っている」

 

 アーサーとララが会話している隙を見て、リインはゆっくりと手枷を付けられている腕を脱力させる。

 

「君は勘違いをしている。あれは勇者の力なんかじゃない」

「何?」

「あれは――」

「聖女様っ! 伏せて!」

 

 アーサーが何かを言おうとしたその時、リインは脱力させた腕を一気に広げた。

 直後、発生した力によって手枷は引き千切られ、リインの両手は自由になる。

 

 そのままリインは後ろの兵士の鞘から剣を奪い取り、兵士の首を斬り、もう一人の兵士も鎧と兜の隙間に剣を刺して殺した。

 リインはララの腕を掴み、全力でアーサーから離れると部屋のドアを蹴り破って廊下へと飛び出した。

 逃げていく二人の背中をアーサーは冷めた目で見つめ、軽く溜息を吐いた。

 

「無駄なことを……グリゼル」

「はい」

 

 霞となって現れたグリゼルが、アーサーに前に跪く。

 

「追え。エルフの女は殺して良い。人質として価値があると思ったが、好き勝手するのならいらん」

「御意」

 

 グリゼルは霞となりその場から消えた。

 

 アーサーはテラスから街を見下ろす。再び兵士と騎士に道を阻まれているルドガーを見て、アーサーは拳を握り締めるのだった。

 

 




Tips
ララは下位の魔法なら無言で放てる。
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