魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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第65話 共闘

 

 

 ルドガーと別れた二人は、目の前に佇むグリゼルと対峙する。

 グリゼルは余裕の表情で笑みを浮かべ、ローブの袖で笑い顔を隠す。

 

「ふふふ……お二方がお相手ですか。宜しいでしょう。此方を受け取りなさい」

 

 そう言ってグリゼルは魔法でリインの愛剣とララの杖を何処からともなく取り出し、それを二人に投げ渡した。

 二人はそれらを受け取ると、訝しんだ表情をグリゼルに向ける。

 

 グリゼルはクツクツと笑う。

 

「どういうつもり?」

「私は戦において堂々と立ち会う主義でして」

「魔女って陰湿なイメージだったけど、貴女はそうじゃないみたいね?」

 

 リインは奪った剣を捨て去り、愛剣を鞘から抜く。

 兵士から奪った剣は愛剣よりも大きく重く、本来の戦い方ができなかったのだ。

 ララも杖に何か仕掛けられていないか確かめた上で、問題無しと判断して構える。

 

「その余裕が、後悔に繋がらないと良いわね?」

「後悔、させてみせてくださいな?」

 

 グリゼルの周囲に氷柱が現れ、それらがリインとララに襲い掛かる。

 

 ララが杖を突き出し、魔力を練り上げた。ララとリインを覆う魔力障壁が展開され、氷柱を弾いていく。

 

 リインが障壁の脇から飛び出し、グリゼルへと接近する。魔力からグリゼルの動きを読み取り、剣を突き出す。グリゼルは剣が突き出される箇所に障壁をピンポイントで張り、リインの突きのラッシュを止めていく。

 

 ララが杖を振るうと壁が隆起してグリゼルに槍のように襲い掛かる。それをグリゼルは身体を霞にしてかわし、後ろに数歩下がった場所で再び現れる。

 

 魔法の操作と言い、攻撃を避ける速度と言い、グリゼルの反応速度は驚異的なモノだった。

 戦っている場所も階段ということもあり、リインは戦いづらくもあった。

 先ずは戦いの場所を変えた方が良いかと、リインは思案する。

 この狭くて足場の悪い場所では、魔法を素早く繰り出せるグリゼルのほうが有利である。

 

「聖女様! 場所を変えましょう!」

「何処に?」

 

 リインは周囲を見渡す。此処は巨大な階段ホールであり上下に伸びる巨大な螺旋階段だ。廊下に繋がるドアもあるが、廊下でも足場が良くなるだけで狭い。

 

 ならば何処が良いか。リインは階段の手摺りの向こう側を見た。

 

「……下です!」

「下……? ああ、分かった!」

 

 リインの意図を汲み、ララは頷く。

 

 リインは再びグリゼルに攻撃を仕掛ける。素早く動き、グリゼルが魔法を使うよりも早く動くように身体を動かす。剣を振るい、グリゼルの意識を己へと向ける。

 

 グリゼルは雷を周囲から放ち、リインを攻撃する。その雷を読んでいたのか、リインは剣で目の前に迫り来る雷を斬り払う。

 

「やりますね――!?」

 

 グリゼルの身体が傾く。何かに腕を掴まれ、身体が引っ張られた。

 見ると、光の鎖が階段から生えて腕に絡まっていた。

 

「フンッ!」

 

 ララが杖を振るうとその鎖はグリゼルを思いっ切り引っ張り、階段の手摺りの向こう側へと身体を引き摺り出した。

 

「ハァッ!」

 

 リインも手摺りから飛び出し、グリゼルへ向かって跳び蹴りを放つ。

 

「ぐふっ!?」

 

 グリゼルの顔にリインの蹴りが炸裂し、グリゼルは嗚咽を漏らしながらホールの一番下へと蹴り飛ばされる。

 

「聖女様!」

「フッ!」

 

 落ちる寸前、リインはララに手を伸ばし、ララは手摺りからリインへと飛び移る。リインはララを胸で受け止め、そのまま一緒にホールの下へと落ちていく。

 

 ホールの一番下は広い空間になっており、足場も悪くない。リインは此処を戦いの場に選び、ララにグリゼルを引き摺り出してもらったのだ。

 

 リインとララはホールに着地し、起き上がるグリゼルを睨み付ける。

 

 グリゼルは少々痛みに顔を歪めながら立ち上がり、ローブに付いた埃を払って乱れた髪を撫でて直した。

 

 まだまだ余裕はあるようで、リインとララはここからが本番だと意気込む。

 

「私を足蹴にしましたね……」

「だったらなに? 戦ってるんだから当然でしょう?」

「大丈夫だおばさん。蹴られなくても顔は醜いぞ」

 

 ピクリ、とグリゼルが反応した。

 どうやら顔についてとやかく言われるのは癪に障るらしい。

 

「我が君が褒めて下さった美貌を侮辱することは許しません。炎よ! 燃やせ!」

 

 グリゼルが手を掲げると炎が渦巻き、リインとララに炎の旋風が襲い掛かる。

 

「水の精霊よ来たれ――ウィン・ド・トーレンスズ!」

 

 ララの杖先から水の激流が掃射され、炎と相殺していく。

 その隙にリインはグリゼルへと近付き、突きの高速ラッシュを叩き込む。

 

「ハァァァ!」

 

 その剣には魔力が込められており、先に放った剣撃よりも威力が高められている。

 グリゼルは同じように障壁で対処しようとしたが、リインの剣のほうが威力が高く障壁を破壊する。

 

「なに!?」

「そんなものォ!」

 

 グリゼルは障壁ではなく氷の壁でリインの剣を防ぎ、後ろへと下がっていく。

 そして三種の魔力を同時に練り上げて魔法を発動する。

 

「三元素よ、竜となれ――トリプル・アサルト!」

 

 火、氷、雷の竜が現れ、リインとララに襲い掛かる。

 ララは落ち着いて三種の竜を見据え、対となる属性の魔法を発動する。

 

「水の精霊よ来たれ――ウィン・ド・クストスズ! 火の精霊よ来たれ――サラ・ド・クストスズ! 地の精霊よ来たれ――ノム・ド・クストスズ!」

 

 ララが三つの呪文を唱えると、それぞれの属性魔力が集結していき、三体の巨人が現れる。

 その巨人がそれぞれの属性の竜へと立ち向かい、竜の攻撃を受け止める。

 

「パワー・ゴーレムですって!? そんな高度な魔法を!?」

「もう一つおまけだ……風の精霊よ来たれ――シフ・ド・クストスズ!」

 

 ララは更に風の巨人まで生み出し、グリゼルを攻撃させた。

 グリゼルは此処で初めて表情を一変させ、唇を噛み締めながら風の巨人の攻撃を受け止める。

 

「パワー・ゴーレムは魔力の塊だけで生み出す……一体だけで激しい魔力の消費量だというのに……! 流石は魔王の娘……!」

 

 グリゼルとて魔法に精通している。ララが使用する魔法が己とは違う系統である精霊魔法だと知っていても、その高度な技術力を見抜いている。それだけでなく、彼女が保有する魔力量を肌で感じて身の毛がよだつ。

 

 一時、魔法道具で彼女の魔法を封じていたが、その気になればあんな物、純粋な魔力だけで破壊できていたのではないかと、ララの素質に背筋が冷えた。

 

 しかし、まだまだ子供。魔法を発動できてもまだまだ制御が甘いと、グリゼルはニヤリと笑う。最初の一撃は凄まじかったが、今もこうして攻撃を受け止め続けていると巨人の身体が四散していっているのが目に見えた。

 

 もう一押し力を加えてやれば打破できると、グリゼルは読んだ。

 

「――?」

 

 そう言えば、と――。

 あのエルフの女は何処に行ったのかと、グリゼルは思い出した。

 

「秘技――」

「っ!?」

 

 グリゼルの背後で声がした。

 リインが剣を引き絞り、そこにいたのだ。

 

「――パーデレ・ムンドゥス!」

 

 リインは己の魔力を乗せた高速の突き、そのラッシュでグリゼルを刺突した。

 一度突かれる剣先から魔力の衝撃波が放たれ、グリゼルの身体を容赦なく貫いていく。霞化による回避も間に合わず、全身を穴だらけにされていく。

 

「ハァァァッ!」

 

 最後に一突かれされ、グリゼルはホールの壁へと吹き飛ばされる。

 全身から夥しい量の血が流れており、何処からどう見ても即死、或いは致命傷だった。

 リインは残心を取り、魔力を収めた。ララもゴーレムを消してリインの隣に立つ。

 

 これで終わった――。

 

 二人がそう思った時、グリゼルはムクリと起き上がった。

 

『っ!?』

「おのれぇ……! よくも私の身体に傷を! 捕縛の命だったから本気を出さずにいれば、調子に乗りおってぇ!」

 

 グリゼルは穴だらけの身体のままその場で地団駄を踏む。その旅に赤い血が撒き散らされる。

 

「おい、アイツ……化けの皮剥がれてないか……?」

「聖女様、お気を付けください。まだアレには何かあります」

 

 リインは油断せず剣を構える。

 グリゼルはカッと目を開き、全身から魔力を噴き出した。

 

「おのれおのれおのれぇ! 貴様らは此処で必ず殺してやるぅ!」

 

 直後――、グリゼルから闇が発生し、ホール全体を呑み込んだ。

 




敗因は手を抜いていたこと、ララの魔法力が天才的であったこと、そしてリインには――。
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